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R-005 もくろみ


 初夏になると、山間のネウサナトラムには低レベルのハンター達が集まってくる。

 アクトラス山脈には数多くの薬草が自生するからだろう。

 2つの次元の歪の影響を無くしたことで、昔程に魔気が無くなり、高位魔法を使えるものは少なくなってしまった。

 その代替を目的として新たな薬草探しが始まったのだが、有効成分を調査する為にユグドラシルとバビロンがだいぶ苦労してくれたのを覚えている。


 そんな事もあり、今のハンターは獣を狩るよりも、貴重な薬草を得る目的で働いているように思える時もある。

 一応武装はしているのだが、使うことなくハンターを廃業する者もいるらしい。

 まあ、山岳猟兵のリザル族がいてくれるから、それ程危険な事にはならないだろうけど、アルトさんにキャルミラさん、それにラミィ達がユング達の家でネウサナトラム周辺の監視をしているようだ。


 アルトさん達がユングの家に出掛けて直ぐに、ユングとフラウがやって来た。

 早速、招き入れてコーヒーをご馳走する。


 「アルトさんには頭が下がるな。ああした行動を見ると、やはり王族なんだなと思うよ」

 「危険な奴はいないんだろう?」


 「ガトルが数匹だ。たぶん出掛けるんじゃないか?」


 そう言って、美味しそうにコーヒーを飲んでいる。

 俺はそんな友人の言葉に微笑んでタバコに火を点けた。


 「それで、どんな感じなの?」


 姉貴が主語のない問いをユングにしてるんだが、俺達ならば十分それで通じるのも問題だと思うぞ。


 「設計は終了だ。材料の手配は製鉄所とバビロンにしている。組立て場所をエントラムズの郊外に建設中だ。戦闘工兵がいるから仕事は早いな」

 

 端末を立ち上げて仮想スクリーンをテーブルの端に展開すると、飛行船の完成予想図をCGで映し出した。

 飛行船らしくないな。まるで亀の甲羅に見える。


 「ツエッペリン型ではなくてレンズ状にした。長さは120m、横幅70m。高さは25mになる。最大積載量は5tだが、これでも最大飛行距離は3万kmに達するぞ。飛行高さは5千までは可能だ。時速150kmが巡航速度になる」


 説明するのも楽しそうだな。50kg爆弾が100個積めればかなりのものだ。


 「運航訓練をしながら爆撃を考えている。搭載数は50kg爆弾を60発。イオンクラフト30機分になるな。これで計画を立ててくれ。最終的には2機作ろうと思っている。ああ、それと乗員は10人だ。地上基地には50人程要員がいるな。出来ればトラ族がいい。ネコ族では体重が軽すぎる」

 「乗員は、ネコ族で地上要員はトラ族ってこと?」


 姉貴の言葉に、ユングが頷いた。

 

 「それで、何時出来るんだ?」

 「1機は来春。もう1機は暮れになるだろう」


 「搭載する爆弾は準備できるの?」

 「軍需工場を併設した。既に生産が始まっている。3年後には大型爆弾に変更できるぞ」


 何時ものラッキーストライクに火を点けてユングが話を続ける。


 「先ずは西の敵を爆撃すればいいんだろ? 既存のイオンクラフトと連携すればこんな感じになるぞ」

 

 スクリーンがもう1つ増えた。それにグラフが表示される。単位はパーセントになってるな。


 「これは、大陸の西にある奴らの拠点を爆撃した場合に、どれぐらい西の敵が削減できるかをシュミレーションしたものだ。上陸兵を100%とした場合、約2割を削減できる。

 続く2つの航空部隊による損耗で4割を切る。堤防の西5km地点での榴弾砲攻撃で3割まで落ちる。そしてこれが、飛行船を2機にした場合だ」


 スクリーンのグラフにもう1つが重なった。驚くことに2割を下回っている。

 10万が2万に減るのか?

 そうなると、大陸西岸部から追い出すことは夢ではなくなるな。


 「3機作れない? 出来れば飛び石的に西の大陸から渡ってくる敵の軍船を沈めたいわ」

 「だよな。それが悩んでいたところだ。大型飛行船の製作が遅れるが、精々半年だ。西の大陸への反攻時期は早くて4年後になるぞ!」

 

 たぶん5年後になるんじゃないか。大型化する上での課題も出てくるだろうし、反攻作戦の兵員も必要だ。軍事物資の集積と兵站もきちんとしておくべきだ。


 「5年後の大陸西岸開放が作戦の開始になるわね。総指揮官との調整や、連合王国の重鎮と了承を漕ぎ着けるのが面倒ではあるけど……。ラグナロク発動のためだから、頑張りましょう」


 姉貴がそんなことを言ってるけど、資料作りはユング達にやらせるんだろうな。ユングはそんな細かなことは嫌いだから、フラウとラミィの共同作業になる筈だ。

 となると……説明は俺って事か?


 姉貴の顔を見ると、やはり俺を見て微笑んでいた。


 「調整は、アキトにお願いするわ。今年の狩猟期にレクチャーできるように準備しておいてね」

 

 俺とユングは黙って頷いた。逆らっても碌な事にはならないからな。

 

 「ユングに相談したいんだけど、西の大陸の拠点候補を探してるのよ」

 「なら、ククルカン攻撃の時に使った基地が良いな。あそこは窒素雰囲気で密閉されているようなものだ。あれからだいぶ時が経っているけど、酸化による老朽化は提言されていると思う。ククルカンから北に約千km。部隊を整えるにも丁度いい。……ここだ!」


 フラウがスクリーンに投影した科学衛星からの画像を拡大してその場所を示した。

 見た目は荒地が広がっているだけだが、至る所に赤さびた鉄屑がある。

 元は装甲車あたりなんだろうな。かなりの数だ。

 

 「一度現場に出掛けて確認は必要だろう。中身が使えなければ単なる洞窟でしかないからな」

 

 飛行船があれば、それも可能だろう。例え1tでも先に拠点に送れば、部隊の駐屯に役立つはずだ。


 「あの時は、155mm自走砲もあったんだよな。今の俺達には105mmhが精々だ。それも移動が面倒だからな」

 「主力は75mmって事か?」


 「そうなる。短砲身105mmもいいんだが、重いからな。機動性が無いのが問題だ。ガルパスに曳かせても2頭が必要になるぞ。それに、イオンクラフトは必要だ。爆撃で代替できるだろう?」

 

 まあ、それは理解出来る。イオンクラフトを20機ほど使えば、対空戦にも使えるし砲弾よりも遠距離に爆弾を落とせるからな。


 「イオンクラフトの重量は3t程だ。今、製作している飛行船で輸送できる?」

 「大陸の北を制圧できれば、連合王国へ攻勢を仕掛けている西回りの軍団も削減できるわ。1年程あれば壊滅できるわよ」

 

 「そのあたりの作戦はミズキさんに期待するよ。かなり厄介だぞ。大陸の東西の海岸線近くを連中は移動している。片方だけでは南北から挟撃されてしまいそうだ」

 「派遣軍を2つに分けねばならないのか?」


 俺の問いに、ユングが頷くことで答えた。

 

 「師団規模で兵力が必要だぞ。最終的に作る飛行船はそれを考えて当初より大型化したいと思ってるんだ」

 

 搭載量20tではなくて、それ以上ってことか?

 当初の計画では製造する飛行船は3隻の筈だ。1隻で1個中隊を輸送できるのは凄いと思っていたが、1個師団を輸送するのであれば、往復する数だって馬鹿にはできない。それに少数なら簡単に飲み込まれてしまう恐れが出てくる。


 「最初は、全ての飛行船を総動員して荷を運ぶことになりそうだな。試験用の小型飛行船でさえイオンクラフトは運べるんだから」

 「ちょっと待て。そうすると、当初予定していた飛行船による本格的な爆撃は試験用の小型飛行船で終わりになるのか?」


 俺の言葉を聞いて、ユングはスクリーンにジェイナス全体の地図を投影した。

 

 「西は小型の飛行船で十分だ。問題は、これとこれだ」


 西の大陸の悪魔の進軍ルートと大陸の南の拠点を指差す。


 「テーバイの東は小型飛行船を使えばかなり楽になるだろう。だが、所詮は迎撃だ。元を断たねば何時までも続く。大型飛行船はその為に、北米大陸の西岸を通る侵攻ルートの遮断と南米大陸の拠点破壊に使うべきだろう」


 「少なくとも数回は爆撃する必要があるかもしれない。でないと、反攻部隊の先遣部隊が全滅してしまうわ」

 「1個大隊がか?」


 「敵の1移動部隊の数は数十万だ。俺達の部隊編成では1個大隊は約700名。簡単に飲み込まれるぞ」

 「派遣するにも準備が必要よ。それに最初の部隊は北米に渡っても隠れなければならないわ」


 そうなると、隠れるに適した場所が俺達の最初の拠点になる。ユング達が使った拠点は地下だと言っていたから、それを利用する話には、そんな裏があったんだな。

 

 「いずれにせよ1度は大陸に渡って確認する必要がある。それにあの隠匿基地だけじゃないと思うんだ。新たに無人の装甲師団が見つかる可能性は少ないが、小規模ならどこかにありそうだからな」

 「先行爆撃に合わせて行って欲しいわ。ユング達なら一月あればかなりの範囲が調査できるでしょう?」


 「一応、ラミィが怪しいところを調べてる。バビロンの科学衛星の重力変異地図を作っている。1年もあれば特定出来るだろう。10箇所調べて1つあればメッケものだからな」


 過去の遺物があると言うなら、この大陸の北東部にもあるんじゃないかな?

 もっとも、見付けてもそれが何か分からなければそれまでだ。その辺りはユングのオタク知識が頼みの綱になる。


 「それで、兵士に持たせるのは?」

 「AK47にする。昔拾ったんだが、フラウが保管していた。あれなら、そうそう壊れないし、掃除も楽だ」


 たしか、カラシニコフだよな。命中率は悪いと聞いたぞ。

 だが、あえてそれを選ぶということは、かなり利点があるんだろうな。

 

 「AK47の製造ラインを1つ作った。弾丸のラインもだ。何とか、反攻開始までには1万丁を用意したい」

 「となると、今年の神殿への寄付は少なくなるわね」


 姉貴が心配そうな顔をして呟いたけど、俺達が寄付するだけで金貨100枚は超えているはずだ。連合王国の福祉政策もだいぶ充実してきたから、教会としても使い切れなくなってきていると聞いたことがある。

 10年程は我慢してもらっても何とかなるんじゃないかな。

 それよりも、全体計画の方はどうなってるんだろう? 晩秋の狩猟期までは残り数ヶ月だぞ。

 

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