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R-049 機動戦の始まり


 引越しの陽動と今後の戦を考えて、敵を東から叩いたけど、予想を上回る悪魔軍がやって来てしまった。

 どうにか殲滅したけど、戦闘工兵に少なからぬ負傷者が出たようだ。戦死者がいなかったのが不幸中の幸いでもある。

 大火傷を負った負傷兵を駆けつけたギムレー所属の小型飛行船に載せる。

 姉貴ならまだ【サフロナ】を使えるから、10人程なら2日で完治するだろう。

 姉貴とサーシャちゃんから電文が届いたけど、どちらも俺の作戦を肯定したもので非難はしていない。サーシャちゃんは感謝していたぐらいだ。

 それに、俺も少し考えを改めることにした。

 誘いは有効だ。それを殲滅するだけの罠をきちんと仕掛けておく必要がある。

 姉貴に、ミーミルの防衛兵力と火力を上げるように要求したら、新たに1個中隊がエイダス島よりやって来ることになったようだ。但し、武装はエイダス軍の装備らしい。まあ、兵力が増強されるならば少し位武器が劣っても何とか成るんじゃないかな?


 「キャルミラさんは、エイダス軍の標準装備がどんなものか分かりますか?」

 「レバーアクションのライフル銃じゃな。銃弾を30発をベルトに付け、30発をバッグに入れておる。爆裂球は2個持つはずじゃ。簡単なグレネードランチャーを持っておるぞ。爆裂球を100m以上飛ばせる物じゃ。それを持った兵は45口径のウインチェスターじゃな」

 

 「昔のまんまじゃな。レムルの時代をそのままという事か?」

 「周辺の人間族は未だに前装式の銃じゃ。それだけでも突出しておる」


 確かにあの島は悪魔軍をそれだけで撃退している。

 大砲はあるけど、そこまでは持ってこれないだろう。レバーアクションでもミーミルでは十分に役立つはずだ。


 「今日はさすがに休みを取らせるとして、明日はどうするのじゃ?」

 期待を込めた眼差しをされてもな……。


 「明日も休みを取らせるよ。次はミーミルに増援が来てからだ。でないとミーミルが落とされてしまう」

 がっかりしてるぞ。それなら、嫌がらせに敵陣に爆裂球でも落としに出かけて貰おうかな? 散開してるから余り効果はないだろうが、ミーミルからの攻撃だと思わせるだけで良い。グングニルの残っているイオンクラフトには北から爆撃して貰えば、グングニルのアピールも出来るだろう。

早速、航空部隊の隊長と爆撃コースを話し合う。

 

 「では、出掛けてくるぞ!」

 「行って来るにゃ!」


 アルトさんがキャルミラさんとエイルーさんを連れて天幕を出て行った。その後に、航空部隊の副官が続く。

 少しでも動いてくれば納得するだろう。キャルミラさんには申し訳なかったが、イオンクラフトをアルトさんに操縦させるのはあぶなっかしいのが良くわかったからな。


 グングニルの部隊も大分減ってきた。今残っているのは、砲兵である正規兵1個中隊と75mm砲が12門だが、これは今日、明日でサーシャちゃん達が陣取る新たな、南の砦ノルズに移動する。イオンクラフトも今夜には半数の5機が移動していく筈だ。

 ヨルムンガンドの空堀は更に西に伸びて、現在は内陸に5km近く伸びているぞ。

 ユングのやつ、バンカーバスターの搭載数を増やしたんだろうか?


 姉貴の方も、順調に伸ばしているが、まだ5kmには達していないようだ。2個大隊の戦闘工兵がきちんと防壁を防壁を作りながら東に進んでいる。屈強なトラ族が作り上げはしているものの、所詮人手だからな。サーシャちゃんのところよりはかなり遅れそうだ。

 

 「ノルズの砦は石造りですね。ヨルムンガンドの掘削で出たものを加工しているようです」

 ディーが仮想スクリーンを見ながら教えてくれた。

 たぶん、ユング達が手伝っているんだろう。ブロック作りは簡単にやってのけるからな。

 そうなると、かなり堅固な砦が南に出来る事になる。将来は港としても使われるんだろう。

 

 「既に東回りの悪魔軍は何とかしたようだけど、西回りの方はそのままなのかい?」

 「進軍は遮断しましたが、反時計周りでアジアを目指す悪魔軍の最後尾は未だにこの大陸を北に進んでいます。連合王国の東の防壁に新たな悪魔軍がやって来ない日は、かなり先になるでしょうね」


 それでも、先が見えたことになる。その時が、ヨルムンガンドから南へ侵攻するバルハラ作戦開始となるんじゃないかな。

                  ・

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                  ・


 引越し作戦の最終日。3個大隊の亀兵隊を残して、人員と機材が全てノルズへと運ばれて行った。

 ミーミルには新たなエイダス派遣軍が1個中隊やってきたから、そう簡単には落とされることはないだろう。強化されたイオンクラフトの作戦範囲は約150kmだから、俺達の救援にも対応してくれるはずだ。サーシャちゃん達も正規兵2個大隊を使って、ヨルムンガンドの堤防に柵を作っている。砦としては、36門の短砲身75mm砲と105mm砲を8門備えているし、イオンクラフトが10機もある。

 笑いながら、悪魔軍を眺めてるんじゃないかな。


 亀兵隊の大隊長と副官がイオンクラフトの近くに作った焚火に集まった。今夜は満月、2つの月でかなり明るいが、直ぐに攻撃するのも考えものだな。


 「指示通りに2.5会戦分の弾薬と5日分の食料と水を各自に持たせました。どこに移動しても戦が出来ますぞ」

 「なら、俺達はかなり自由に敵と遊べることになる。基本は銃撃戦でなく、誘って無反動砲で叩く。戦闘工兵の部隊は編成を変えて1個中隊に無反動砲を持たせろ。残りの兵士はグレネードランチャーで対応させれば良い。敵が1M(150m)以内に来たら一目散に撤退だ。誘いは強襲部隊に任せる。敵にグレネードランチャーを放てば追いかけてくるのはこの間で良くわかったつもりだ。大隊で強襲して撤退。それを中隊単位で残りの大隊が間引きしながら、戦闘工兵の射点に誘き出せ。相手を殲滅させる必要はない。翻弄させれば十分だ」

 

 「敵兵の削減にあまり効果があるとは思えませんが……」

 「それは考えなくていい。姉貴とサーシャちゃんに任せよう。俺達は飛行船の爆撃を免れた悪魔軍をなるべく広範囲に拡散させればいいんだ」

 

 「我は、一箇所に集めたほうが爆撃の効果が高いとおもうのじゃが?」

 「俺達が相手を拡散しても、悪魔軍は集結するよ。問題はその集結に掛かる時間だ。集結すれば、3箇所の砦を狙うだろうが、その前に爆撃すればまた兵士を集めなくてはならない」

「時間稼ぎということか?」


 アルトさんの言葉に俺は頷いた。消極的な攻撃で最大限の時間稼ぎが出来る筈だ。

 そんな戦が長引けばそれだけヨルムンガンドの空堀が先に伸びる。

 サーシャちゃんが砦で何もしないというのも考えものだ。姉貴も同じだな。何か別の奇策を考えてるに違いない。

 

 「気になるのは、この周辺の獣ですね。東方見聞録には、かなり危険な生物も掲載されていました」

 「一番問題になるのは大型のタグだな。西の砂礫地帯に生息しているらしい。それ以外の獣類は、悪魔軍の食料になったようだ。小型の獣や、昆虫類も殆ど生息していないぞ。海の近くはカニとサメがいるからあまり近付くな」

 

 山沿いには、まだ沢山の生物が生息しているだろうが、悪魔軍の進軍ルートは殆どの生物が絶滅している。兵站という考えは悪魔軍にはあまりないんだろうな。食料は全て現地調達になるようだ。無ければ倒れた仲間をむさぼり食うぐらいだから。


 「比較的自由に動けるということですね。基本は昼間の戦でいいんでしょうか?」

 「ああ、それで良い。たまには夜戦をやりたいけど、夜戦は色々と面倒だからな。それと、大事なことが1つ。イオンクラフトを頼らないで行く。向こうが介入するには構わないが、イオンクラフトは敵の数の削減が主目的だからな。俺達単独でも戦が出来る事を知らしめよう」


 次の日。

 朝食を終えた、大隊帳達が集まってくる。

 焚火の焚き木を火の中に集めて火勢を強め、お茶を温める。次にお茶が飲めるのは夕方になるのかな?


 「さて、少し遊んでみるか。第1大隊が先行、敵をおびき出して第2大隊がこの位置で迎撃。全て1撃でいいぞ。この位置に誘き寄せたら戦闘工兵の無反動砲を使う。更に第1大隊と戦闘工兵でグレネードランチャーを使って撤退する。集結地点はミーミルの北、100M(15km)だ。小高い丘が海岸線より20M(3km)付近にある。その北の斜面に集結する」


 「分かったにゃ!」

 「了解です。私の部隊が先陣ですね。無線は?」

 「周波数は白を使う。強襲部隊、第1大隊が1、第2大隊が2、戦闘工兵大隊が3だ。0は全部隊一斉連絡専用にする」

 

 無線機は周波数帯を変えたチャンネルの番号で交信が可能だ。連合王国総指揮所やサーシャちゃん、姉貴との長距離通信は赤と呼ばれる周波数対だが、これはディーに任せればいい。大隊内は緑と呼ばれる別の周波数帯で中隊との連絡を行っている。更に数kmの近距離用の通信機があるが、これは黒と呼ばれる周波数を使いチャンネル数が3桁に及んでいる。使うのが小隊だから、そうなってしまうようだ。


 「グングニルの指揮所はこれからは後ろのイオンクラフトになる。大隊の出撃時には一度連絡してくれ」

 隊長達が俺の言葉に頭を下げると、自分達の部隊に去っていく。

 既にイオンクラフトには通信兵が乗り込んでいる。彼らを呼び寄せ、ポットに残ったお茶を振舞う。


 「無宿者になるのじゃな?」

 嬉しそうにアルトさんが俺を見詰める。

 あまり嬉しくないけど、アルトさんにとっては新鮮な生活になるんだろうな。

 

 「ディー、周辺の探索は攻撃と平行して行ってくれ。……それと、皆も聞いてくれ。あまり攻撃はするな。敵の航空部隊が出たらその範囲ではないが、それ以外は自粛だぞ。まあ、悪魔軍の真上を通ったら、爆裂球を2、3個なら投げてもいいけどね。マガジンは1日2個までだ」

 

 「それは、消極的過ぎるのじゃ……」

 アルトさんがぶつぶつと呟いてるけど無視しよう。

 焚火はこのままでいい。周囲に燃えるものは何もないからな。

 急いで、イオンクラフトに乗ると通信兵が第1大隊が悪魔軍に向かったことを教えてくれた。

 

 「第2大隊、戦闘工兵大隊も移動を開始しました」

 「了解だ。俺達はまだこの場でいい。悪魔軍が動いたら敵の航空部隊を潰しに向かうぞ」


 端末を開いて、周囲100km程の範囲にスクリーンを調整する。

 悪魔軍との距離は20km程だから、30分後には俺達の遊撃戦が始まるぞ。


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