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R-044 サーシャちゃんの作戦


 大歓声に送られて、アルトさん達が肉を求めて飛行船に乗り込んでいった。

 北西の空に消えていく巨大な飛行船をグングニルの皆が手を振って見送る。後は6日後に戻ってくるのが楽しみだ。

 ユングの話では、リスティンに似た一角獣がいるらしい。きっと角もお土産に持ってくるに違いないな。


 「行ってしまいましたね」

 「ああ、行ってしまった。だけど、少しは食糧事情が好転するだろうし、こんなイベントを続けるのもこの土地で戦を続ける兵士の気休めになるだろうね。俺だって行きたかったさ」


 その内、嬢ちゃんずを連れて狩りに出かけよう。近くにいるんだし、それ位の休暇は許されるんじゃないか?


 指揮所に戻ると、端末を操作して姉貴の新しく作った砦、『ウルズ』とミーミルの様子を覗う。

 互いに何かを始めるみたいだけど、少し俺達も先を考えとかないと、後々苦労しそうだからな。いつの間にかこんな性格になってしまったぞ。


 ウルズは戦闘工兵の盾を連結した簡単な作りの塀と、それを取り巻く柵で構成されている。出入り口は北西だから、敵軍とは反対側にある、防御陣地のようだ。1個大隊が南に向かって柵を延ばしているようだ。その柵はヨルウンガンドへと伸びていくのだろう。完成までには1ヶ月以上掛かりそうだ。

 更にヨルムンガンドの方向に画像を移動させると、大きな炸裂煙が数箇所から上がった。ユング達が東西にバンカーバスターモドキを投下しているのだろう。これも先の長い話だな。

 そんな戦闘工兵の後ろを守っているのはカルート兵の一団だ。ガルパスよりも移動能力は優れているから、火消しには丁度良い。残りの戦闘工兵1個大隊は……。ギムレーにもいないぞ。2個大隊の正規兵が忙しそうに木材を加工しているだけだ。

 山脈に入っているのだろうか? ウルズの後方に広がる山々にかなりの熱源が点在してる。

 姉貴の事だから、万が一の想定にも備えはしているだろうからな。


 問題は、ミーミルだ。大砲の殆どをグングニルに運んでいるから、兵力は10機のイオンクラフト1個中隊と2小隊だけなんだけど、敵の航空部隊に対しては万全な備えでいるようだ。完全に補給基地化しているな。小型飛行船による遠距離爆撃は、ミーミルで爆装して出かけているのが現状だ。小回りの利く3tクラスの飛行船を増やせば良さそうなものだが、これ以上飛行船を増やす計画は無さそうだ。

 ネコ族の兵士達が、爆弾を倉庫から運んでいるのが見える。本日の爆撃準備を行なっているのだろう。

 バジュラは断崖の上に作られた池の中に入っている。まだミーアちゃん達は出撃していないようだ。


 「バジュラの汚れが酷いですね」

 「連日の出撃だからな。血と砂埃で汚れてるんじゃないか?」


 「拡大してください。少し違うようです」

 仮想スクリーンの拡大率を上げると、ディーの言っている理由が分かってきた。戦闘で汚れたというよりは、どこかでドロ遊びをしてきたようにも見える。

 この状況で、ドロ遊びと言えばヨルムンガンドの建設予定地ぐらいしか思い浮かばない。ミーミルから南に画像を移動させるとヨルムンガンドとなる爆弾の炸裂跡が見えてきた。


 「工事が行なわれています!」

 「そうだな。爆弾の炸裂穴が連結している。それに北側の土砂が土塁のように見えるぞ」

 バジュラが汚れている原因はこれだな。

 戦闘工兵による工事を待たずにバジュラを重機代わりに使用したんだろう。そんな土塁が1km以上伸びている。

 現在は空掘り状態だが、土塁に柵を設ければそれだけで築城したような効果が得られるんじゃないか?

 サーシャちゃんの作戦は、この先行して作ったヨルムンガンドの空掘りにもう1つ砦を作って東と北東方向から悪魔軍に迫ろうということなんだろうか?

 

 「イオンクラフト部隊を置いただけでも、かなりの圧力を東から加える事になります」

 「だけど、非力すぎるんじゃないか? イオンクラフトなら20機以上は欲しい所だ。既に東の防壁からもイオンクラフトを引き抜いているんだぞ」


 狙いは俺も納得するところだけど、防衛力がイオンクラフトだけでは難しいだろう。既に連合王国の西の防壁を守っていた1個師団はこの大陸に来ている。残っているとしたら屯田兵ぐらいだが、1個大隊はギムレー付近で大規模な開拓を始めているようだ。来年にも始まる入植者の暮らしを考えると、ギムレーから屯田兵を裂く事も出来ないだろう。

 

 「これを見てください!」

 ディーが手元の仮想スクリーンを拡大して表示してくれたんだが、生憎と俺にはさっぱりだな。


 「ヨルムンガンドの東端付近の土壌図です。科学衛星の分光分析結果ですから地表から1m程の深さですが、現在整地が進んでいる付近は岩盤地帯です。マスターは仮の砦を想定しているようですが、サーシャ様達は恒久的な砦を作ろうとしているのではないでしょうか?」

 「近くに岩山は無いぞ。精々木材で作る事になると思うが?」

 「セメントがあります。ローマセメントならば強度もありますし、何と言っても耐火性が保てます」


 待てよ、セメントを使うなら、レールを敷いて列車砲という手もあるな。東の堤防ではかなり活躍しているようだ。装甲列車なら敵の【メルダム】の火炎をある程度防ぐ事も可能だろう。

 だが、そうなると戦闘工兵を更に1個大隊ぐらい欲しくなるな。

 グングニルから戦闘工兵を、回すことは難しいだろう。ある意味最前線、敵との距離は20km以下だからな。

                  ・

                  ・

                  ・


 いつものように指揮所に主だった士官が集まって朝食を頂く。

 昨日帰ってきた狩りの連中はたくさんの獲物を獲って来たから、久しぶりに新鮮な肉を食べられて士気もだいぶ上がったようだ。焚き火で肉を炙りながら狩りの様子を語る兵士達を羨ましそうに見ている者も多くいたが、次ぎの順番に当った連中はやる気を出してるし、今回クジ運が無かった連中は分隊長を励ましていたな。応援すれば良いと言うものでもないが、そこは人情だからねぇ……。

 食後のお茶を飲みながら昨夜を思い出しているのか、口元に笑顔が滲む。


 「まだ、サーシャは動かんのか? ミズキの方は派手に動いておるぞ!」

 「基本は誘いじゃが、かなりの戦果を上げているように見える」


 姉貴と会談して来たんだろう。だが、姉貴が誘いだけで終るとは思えない。たぶんサーシャちゃんとの連携を考えているに違いない。ヨルムンガンドから悪魔軍の目をそらせるのが目的なのか?


 さて、どうやってアルトさんを納得させようかと考えた時、ズン!っと地鳴りがした。直ぐに副官の何人かが指揮所を飛び出して様子を見に行った。


 「大変です。バジュラが直ぐ近くに降下しました。サーシャ様達がやってきます!」

 俺達は少し席を詰めると、当番兵達が新に俺の隣に椅子を並べてくれた。

 やがて、天幕の布が開いて、嬢ちゃんずの3人が指揮所に入って来た。


 「ご苦労。姉様も退屈であったろう。兄様は苦労したろうが、それも今日までじゃ。ミズキが時間を稼いでくれた。何とか次の作戦を始められるぞ」

 そんな挨拶をしながら俺の隣に空いてる椅子に腰を降ろした。

 リムちゃんが端末を操作して東西の大洋が見える位に仮想スクリーンの画像を大きく映し出した。

 

 「これが現状じゃ。南の大陸各所から集まった悪魔軍は、南南西1100km付近で合流し、この大陸の南北に連なる山脈の西に沿って北上している。かつてのククルカンを過ぎた辺りで東西に分裂して移動していたのじゃが、東へのルートは我等がここで阻止しておるし、西へのルートはミズキが阻止しておる。そのため、現在2箇所に悪魔軍は停滞を余儀なくされておるのじゃが、東西共に数十万の軍勢を持っておる。それに引換え、我等の軍勢はどちらも数千の規模じゃ。我等1人1人が100倍の敵を相手にせねばならぬ。まあ、それは武器の優劣で何とかしておるがのう」

 

 長く伸ばしたボールペンを机に置くと、当番兵が運んで来たお茶を飲みながら、俺達の表情を眺めている。

 

 「そこで作戦が必要じゃ。それに作戦だけではどうにもならぬこともある。やはり増援は必要じゃろう。新にエイダスから2個中隊を借り受けた。エイダス軍は航空部隊に歩兵になるが砲兵にもなれる兵種じゃ。彼らになら空を任せられる。じゃが、それでも砲兵が足りぬ。これはグングニルの正規兵を当てる事にする。砲兵が2つになるが、その部隊の運用を主に攻撃と防御に分けたからであって、攻撃部隊が迎撃のための砲撃を行なわないわけではないぞ。

 残りの戦闘工兵1個大隊、それに襲撃部隊の2個大隊がグングニルの戦力じゃ。イオンクラフト部隊は、この砦の倉庫の爆弾を全て使い切った後、ミーミルに移動じゃ」


 「それでは、グングニルは亀兵隊のみで運用すると?」

 「その通り。一番動きやすいじゃろう。補給は飛行船で行なえば良い」

 

 その場合、砦を考え無いほうが良さそうだ。だが、存在は敵軍に知らしめようということだな。砦の資材を使い切れということになる。

 

 「とりあえず、3日も暴れれば良いのかな?」

 「5日は欲しいところじゃな。その後の作戦は北東部からの圧力でよい」


 5日間で部隊の移動を行なうという事だろう。

 これはかなり暴れられるぞ。

 

 「ユングに聞いたところでは、この大陸にはかなりおもしろそうな生物も多いぞ。拠点を持たぬ軍団になるが、十分に注意すべきじゃろう。上手く使えばそれらの生物も我等の味方じゃ」

 

 そう言ってサーシャちゃんがリムちゃんにボールペンを渡すと、今度は簡単な工程図が表示された。画像をボールペンで差しながら、5日間の撤収工程をリムちゃんが説明してくれる。

 105mm砲を最初に、続いて75mm砲と移動するようだ。大型飛行船を使って正規兵達も一緒に運ぶらしい。

 最後に2回に分けてイオンクラフトを移動すれば、砦に残るのは亀兵隊と通信兵3人に俺達だけだ。


 「5日後にはこの砦の資材は全て無くなります。亀兵隊は2.5会戦分の食料それに弾薬を携行した状態で砦を離れてください。1日おきに空輸しますから事前に必要な品の連絡をお願いします」


 いよいよ本格的に暴れられると聞いて誰もが文句を言わないようだ。

 早速、105mm砲の移動を正規兵達がミーアちゃんの監督下で開始され、アルトさん達が襲撃部隊を引き連れて殴りこみに出掛けた。

 イオンクラフトも今日はたっぷりと爆弾を撒いてくるに違いない。


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