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R-042 訓練名はアルテミア


 「しばらく待てということか? それはサーシャにしてはおかしな話じゃな?」

 

 アルトさんが首を傾げているけど、俺だってそう思う。電文がミーミルから届いた時は、通信兵だって間違いで無い事を再度確認したぐらいだからな。

 だが、俺は返って不気味に感じるぞ。そんな消極的な少女ではなかった筈だからな。どちらかと言うと、ヌイグルミよりも爆裂球が好きな王女だった筈。絶対よからぬ事を考えてるに違いない。


 「いつものようにバジュラと飛行船で攻撃するそうじゃ。我等もイオンクラフトを使って爆弾を落とすぐらいはしておかぬとな」

 「ついでに襲撃部隊で悪魔の周辺部を叩いてきたらどうだい。1個大隊を指揮するなら、昔の勘を取り戻さないといけないんじゃないかな?」


 「そうじゃのう。確かにアキトの言う通りじゃ。グレネードランチャーと言う物の威力と、この銃の性能も確認せねばなるまい」

 ガルパスは無理じゃから、多目的イオンクラフトを借りるぞ。ディー、出かけるのじゃ!」


 ぞろぞろと3人が出て行ったのを見て、強襲部隊の大隊長と副官が慌てて後を追って行った。

 「イオンクラフト1小隊を待機させてくれないかな。砲兵隊にも、発射準備態勢を30分後に取るように連絡してくれ」

 「あまり無理はしないでしょうが、アルト様の逸話は本で色々と読みました。戦闘工兵を2個中隊戦闘待機を掛けておきます」

 

 デミトスの提言にエイルーさんがうんうんと頷いている。

 エイダス派遣軍の飛行部隊から10機を率いてやってきた小隊長のロデランが電文を通信兵に渡しているぞ。

 そこまでするかな?

 まあ、準備しておく分には構わないだろうけど……。


 「戦闘工兵達にも、ギムレーの話はつたわってるにゃ。何かさせておけば不平は出ないにゃ」

 そう言うわけか……。ある意味、アルトさんの行動がこの砦全体のフラストレーションの発散になるってことだな。これは俺も考えねばならないぞ。


 「ミーミルから電文です!」

 通信兵が持ってきた電文を読んでみると、この砦から部隊が出発した理由の質問だ。

 サーシャちゃんには連絡してなかったからな。それに、こっちの砦の状況を良く見てるようだ。これは本当のところを話しておくか。


 「ミーミルに連絡。『砦全体の緊急展開訓練実施中。訓練名称はアルテミア』以上だ」

 デミトスが書き取って、隣室に向かう。

 アルトさんが原因だと直ぐにサーシャちゃんなら分かるだろう。いや、たぶん想定してるんじゃないかな。あの電文はそれを確認するためだったのかもしれない。


 「この砦も名前が無いと不便にゃ! 何か考えないといけないにゃ」

 「それもそうだね」


 とは言ったものの、ラグナロク作戦は北欧神話の名前を使ってるんだよな。俺の知ってる名前でまだ使われていないのは……。グングニル?

 こういうのは、早い者勝ちだよな。


 「俺達の部隊というか、砦も一緒だが……、名前を考えたぞ! 『グングニル』でどうだ?」

 「どんな意味にゃ!」


 「ラグナロクは今回の作戦名なんだけど、これは遙か昔の、ユグドラシルのあった地方に伝わっていた神話から取ったものだ。神々の黄昏というような副題が付いていたんじゃないかな。最終戦争の予言みたいなものだったと思う。だから、今回の4段階の作戦もその中に出てくる言葉が使われてるんだ。グングニルはそんな神話に出てくる槍の名前だよ。投げると狙ったものに必ず当たるって話だけど、俺達の砦はこの後、場所を点々と移動していく事になる。その場で常に最高の働きが出来るようにという意味合いもある」


 「槍の名前にゃ! グングニル良い名前にゃ」

 そう言ってエイルーさんが頷いている。直ぐにデミトスが通信室に向かったから、グングニルで俺達の部隊と砦が確定されるのは時間の問題だろう。


 端末を操作して敵軍の西北を拡大する。東側は大砲の数が少ないから、攻撃するとすればこちらからだと思っていたけど、予感は的中したようだ。

 低い高度でガルパスの移動速度にあわせて、亀兵隊強襲部隊の先陣を切っている。操縦はディーで荷台の左右にアルトさんとキャルミラさんが乗っている。機関銃が付いているみたいだな。それに2人とも取り付いているんだろう。

 敵軍の200mほど手前で進路を90度近く変えて西に進路をとり、敵軍に対して横1列の状態でグレネード弾を放ったようだ。その後は敵軍の外周をなどるように銃を乱射して進路を北に取った。

 敵軍の一部がアメーバのように動いて強襲部隊を追い掛けている。

 そんな敵軍に数秒の時間差を開けて砦に向かいながら、爆裂球を落としているようだ。連続してたくさんの小さな炸裂が悪魔軍の中で発生している。


 「待機しているイオンクラフトは?」

 「10機です。5機は直ぐに出せます!」

 

 「この付根を100kgナパーム弾で攻撃してくれ。5機は50kg炸裂弾を装備して待機!」

 「了解です。直ぐに出撃させます!」

 ロデランが通信室に駆けていく。今度はエイルーさんが俺を見てるぞ。


 「戦闘工兵2個中隊は、アルトさんの部隊と交代してくれ。ゆっくり走るのは疲れるだろうからね。今度は戦闘工兵が誘ってやってくれ。そしてこの辺りに来たら速度を上げるんだ。75mm砲を使う」

 

 「砲兵は私が指揮するにゃ。デミトスは救援に向かうにゃ!」

 「了解!」

 デミトスが椅子を蹴飛ばすように立ち上がって指揮所を出て行った。その後からエイルーさんがゆっくりと歩いて行ったけど、連携しないとダメなんだよな。何か不安になってきたぞ。


 「サーシャ様から連絡です。『敵を撹乱する』以上です」

 通信兵がドアを開いて大声で知らせてくれた。スクリーンを広げて、画像の拡大率を縮小する。

 バジュラを投入したのか……。

 低高度を甲羅を回転させながら蹂躙している。螺旋を描くように中心に向かって行くと一気に高度を上げて飛んで行った。

 

 アルトさんのフラストレーション対策だったんだけど、だいぶ大げさになってきたな。

 当番兵が運んで来たお茶を飲みながら、タバコに火を点ける。

 スクリーンには、戦闘工兵と囮役を交代したアルトさん達が速度を上げて砦に向かってくるのが分かった。

 後を任された戦闘工兵は、爆裂球を適当にばら撒きながら、少しずつ進路を変えて行く。中々の戦術家だな。俺は良い士官達に出会ったようだ。

 

 75mm砲の射程距離に入ったところで、戦闘工兵の速度が急に速まる。

 たちまち悪魔軍との距離が開き始めたところに、砲弾が炸裂した。西に展開した24門が一斉に砲撃を始めた砲声で指揮所の天幕が揺れている。

 

 「イオンクラフト5機を出します!」

 「お願いするよ。前の5機の出撃準備もしておいてくれ」

 

 これで、少しは数を減らせたかな?

 ロデランが小型通信機を持ち出して、部隊へ連絡しているようだ。通信室へ向かうのが煩わしくなって部隊から1台持ってきたようだ。

 

 バサリと天幕の入口を跳ね上げて、アルトさん達が帰ってきた。

 ニコニコしてるから、しばらくは持ちそうだな。

 俺の隣に座ると、当番兵が持ってきたお茶を美味しそうに飲み始めた。

 

 「やはり、ガルパスが欲しくなるのう。イオンクラフトでは簡単すぎる」

 「贅沢は言わぬ。2匹を都合してくれぬか?」

 キャルミラさんも、欲しいって事だな。確か、サーシャちゃんがガルパスを30匹持ってたんだよな。あれを譲って貰おうか。


 「イオンクラフトから眺めた限りでは、敵の士官クラスを判別出来なかったぞ。大群に紛れては手の出しようがない」

 「それでも、悪魔を200は狩ってきました。爆裂球の被害、それに強襲部隊の与えた損害、イオンクラフトと75mm砲が与えた損害を推定しますと、2千は超えるものかと……」

 「ミーミルのバジュラが連動して敵軍に飛び込んだから損害は1万を超えているだろう。これからは延々とこんな戦が続くことになりそうだ」

 

 悪魔軍の陣から伸びていた追撃の触手が陣に取り込まれていく。これで一段落なんだろうけど、目立った変化がみられない。1万程度の削減では容易に補充できる数だからだろうか?


 「ミズキの方は派手じゃのう……」

 仮想スクリーンで大陸の東西を同時に写した画像でも炎の川を見る事ができる。既に10kmはあるんじゃないか?

 他の仮想スクリーンで炎の川を拡大すると、更にナパーム弾が投下されているのが分かる。


 「既に数十万を劫火で焼いたに違いない。脱出路は南のみじゃが、先を知らぬ悪魔軍が続々と北上しておる。明日の朝までには、いったいどれ程の悪魔を殲滅したことになるのであろうのう」

 「西は姉貴に任せておけば問題はない。南北に連なる山脈の隘路を進軍している以上、悪魔軍を南に追いやるのは容易いだろう。だが、ここは平原だ。緩やかな岡や小さな潅木の林はあるが、あまり隠れるところが無いし、敵の進軍路も特定出来ない。数の差がありすぎるから、常に離れて囲まれないようにすることが大事なんだが……」

 

 「サーシャの作戦が見えないということじゃな。じゃが、それ程心配することはないと思うぞ。今動かぬということは、準備に時間がかかる作戦を考えているに違いない」


 アルトさんは前向きだな。一暴れしてきたから機嫌がいいのかな?

 確かに、敵軍を森に食わせるような作戦を立案する娘だから、俺達の常識破りの作戦を考えてるのかも知れない。

 それなら、俺達が今するべき事は、サーシャちゃんの作戦実行が始まるまで、時間を稼ぐ事が使命になる。敵軍の数をこれ以上増やさないという事が敵軍の攻撃を遅延させる要因になるだろう。

 指揮所の顔ぶれを眺める。全員揃ってるようだ。

 

 「明日以降、当座の戦だが……。敵の削減を目標とする。作戦は今夜の作戦を踏襲するが、アルトさんとキャルミラさんはサーシャちゃんから大砲運搬用のガルパスを借り受けてくれ。強襲部隊はアルトさんが作ったものだ。少し鍛えてやって欲しい。大砲は全て西に移動。東は戦闘工兵に防衛を任せる。俺が作った兵種だ。防衛戦では連合王国随一の実力を持ってる筈だ。イオンクラフトは2隊に分けて常に1隊を待機させること。以上だ。質問はあるか?」


 「無反動砲を持ってるにゃ。1個中隊に装備させて構わないかにゃ!」

 「後ろに気を付けて使う分には構わない。砲兵として1個中隊が借り出されてるから、戦になりそうなら早めに連絡してくれ」


 無反動砲を持ってたんだな。爆裂球を発射薬に使ったものではないんだろうが、射程は短かいだろう。だがグレネードランチャーよりは威力がある筈だ。

 

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