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R-041 アルトさんがやってきた


 ギムレーの主要な施設の半分は地中にあるそうだ。

 林を抜けた荒地に数軒のログハウスが作られているが、その殆どが夜間監視用の屯所らしい。

 そんなギムレーの林の中に新に3つログハウスが作られた。

 酒場兼食堂に、ギルドと兼用の雑貨屋それに宿らしい。

 屯田兵を更に増強したようで、現在は1個大隊規模だ。既に畑ではかなりの作物を栽培しているらしいが、未だに林の中の小さな畑だ。次の作戦が始まれば、大手を振って荒地へ開拓の鍬を打つのだろう。


 姉貴の指揮する部隊は、屯田兵1個大隊と、亀兵隊の強襲部隊が1個大隊。それに戦闘工兵2個大隊に航空部隊が2個中隊、正規兵である歩兵が1個大隊ということになるらしい。

 ミーミルから戦闘工兵が2個大隊ギムレーに移動し、代わりに強襲部隊が2個大隊やって来る。正規兵は2個大隊と言っていたが彼らの使い道は防衛戦になるだろう。攻撃は亀兵隊とイオンクラフトによる機動戦になる。


 「婿殿の手勢を移動して済まんのう」

 「いえ、代わりに強襲部隊がやってきます。ギムレーは未だ隠匿した拠点ですから、攻撃に転じた時に素早く陣を作らねばなりません。やはり戦闘工兵が多い方が後の作戦が容易でしょう」


 大型飛行船4隻が連合王国から次々と兵器と兵員を輸送してくる。その上、北東の港には船団がやって来てるから、ともすれば小型飛行船まで動員して輸送が行なわれているのが現状だ。

 アルトさん達もギムレーでハンターの訓練を始めたそうだ。目途が立ち次第、こっちにやってくるだろう。

 

 南の敵軍にはミーミルとこの砦の両者が北と東から攻撃を行っているが、その戦果はあまりかんばしくないようだ。

 以前のように追撃してくる敵兵が砦にまでやって来ることが無くなっている。


 「追って来ませんね。少し作戦を変えねばならないでしょう」

 「さぞや、サーシャが悩んでおるじゃろうな。じゃが、婿殿。イオンクラフトによる攻撃は続けたほうが良さそうじゃぞ」

 「もちろんです。アルガーと悪魔の分布図を参考に爆弾を投下しているようです」


 上手く行けば士官クラスを倒す事も出来る。そんな事から、昼と夜の2回の攻撃は継続しているし、同じように増援部隊への攻撃は、東西分離前の軍隊を飛行船が行なっているようだ。こちらに進軍してくる部隊への攻撃はバジュラが担当している。

 既に、北の悪魔軍の敗残兵は5万を下回っているようだ。冬を越せる者達がどれ程いるのだろうか? いずれにせよ、来春までには掃討は終了しているだろうし、終了次第、港の守備兵以外は、ミーミルに移動してくる。


 仮想スクリーンでいつものように爆撃の成果を確認しているところに、客が入ってきた。

 「よう、頑張ってるな!」

 「ユングじゃないか? どうしたんだ。こんなところにやってきて」


 当番兵の出してくれたお茶を飲みながら、ユングが話してくれたのは、次の作戦への布石だった。

 ヴィーグリーズ作戦の終了は、南北大陸の分断だ。その為の運河がヨルムンガンドになるわけだが、この運河掘削を例のバンカーバスターモドキで行なう事を考えているようだ。


 「もちろん全部じゃないぞ。そんな事をしたら爆弾がいくらあっても足りないからな。ミズキさんから言われたことは、正確な爆撃が出来る中型の飛行船を作れという事と、それに20発のバンカーバスターを搭載できるようにするということだ」

 「それだけに飛行船を作ったのか? 汎用なら他にも使えるだろうに……」


 「十分使えるさ。山間の隘路を爆撃しても良いし、南にある奴等の拠点の出入り口を1個ずつ潰すのにも役に立つ。今までの飛行船は落とす爆弾の数で補っていたようなところがあるからな。持ってきた飛行船なら高度500mから10m以内の目標に落とせる。地下に埋没してから炸裂するから、ちょっとした池が出来るぞ」


 池はないだろうが、場所によってはそうなるんだろうな。正確さは盲点だった。相手の数が多いからどうしても数を頼りにしてしまうところがあるんだよな。

 

 「そんな訳で、先行してヨルムンガンドの予定地に投下してみるんだ。上手く行けば明人達の阻止線に使えるかも知れないぞ」

 「ああ、後で確認してみるよ。使えそうなら再度の爆撃も可能なんだろうか?」


 「余裕で対処できる。しばらくは専用の飛行船に乗っているから連絡してくれ。……そうだ。これをアルトさん達に渡してくれないか? MP-8ではアルガーの皮膚を貫通するのはかなり接近しなければ不可能だ。5mm弾芯をサボで巻いてある。これなら貫通出来るぞ」

 

 そう言って、テーブルに魔法の袋を取り出した。

 かなり入っていそうだな。出来ればジッとしていて欲しかったけどね。


 「それと、一応、ミズキさんの陣営に加わる事になった。とは言え、かなりの自由裁量権があるから、単独行動も容認されてる。大攻勢をするときは参加しなくちゃならないけどね」

 

 それ位は我慢できるだろう。だが、それ以外は自由ってことなら色々と手伝って貰えそうだぞ。 

 俺達に手を振って指揮所を後にすると、アテーナイ様がスクリーンを見ながら考え込んでいるようだ。


 「やはり、ミズキは悪魔軍を中央に追いやろうとしているようじゃな。ユングの言うヨルムンガンドの位置はこのようになる。

 先行して我等の阻止線を作るというなら、爆撃は数回行なわれるじゃろう。我等が西を攻撃しながら南へと進めば、悪魔軍がこのように迂回した場合に挟撃されそうじゃ。その為の阻止線という事じゃな」


 「簡易に空掘りを作るという事ですか? となると、次の作戦は俺達が最初に動く事になりますよ」

 「我等ミーミルに陽動を掛けさせて、悪魔軍がこちらを向いた時に西回りのルートを断ち切るつもりじゃな」


 果たして、それだけだろうか?

 姉貴のことだから、もう1つ何かあるんじゃないかな?


 ユング達が去って数時間後。600km先の荒地で大地を裂くように一列に爆弾が炸裂した。

 土煙が治まった後には横幅20m長さ300mほどの溝が出来ている。深さは数m以上ありそうだ。十分に阻止線として機能できるぞ。

 直ぐに、ユングに連絡を入れて爆撃の継続を依頼する。


 「これで挟撃は免れそうじゃな?」

 「ええ、阻止線のパトロールをカルート兵に任せれば、安心できるでしょう。大軍が相手ですからね。ちょっとした部隊の移動であろうと千単位になる筈です」


 カルートは時速50km以上で走る事が出来る。AK47とグレネードランチャーを持っているから、数百を相手には出来そうだな。更に数がいる場合は部隊を連携させれば良い。

                  ・

                  ・

                  ・


 判で押したような日々が10日程過ぎた時、アルトさん達がやってきた。アテーナイ様と簡単な挨拶をすると、アテーナイ様が席を立った。


 「無理はせぬように。婿殿の言い付けを良く聞くのじゃぞ!」

 「子供では無いぞ。だいじょうぶじゃ。母様こそ、あまり敵軍に突っ込むことが無いようにな!」


 親子だよな。直ぐに分かるぞ。キャルミラさんも首を振っている。たぶん両者とも突っ込んで行くと考えてるに違いない。

 互いにハグしてアテーナイ様が指揮所を出て行く。

 既に、北の悪魔軍は3万を下回っているようだ。新たな兵士達がこの小さな砦に集まり、弾薬も続々と運び込まれている。

 姉貴の、ナグルファル終了と次のヴィーグリーズ作戦開始は時間の問題となっている。


 「あまり、集まっておらぬのう。5個大隊はおる筈じゃが?」

 「敵軍を攻撃してるから、夕方には集まってくるよ。これをユングが置いていった。アルガーの皮膚を貫通出来ると言ってたぞ」

 

 「気になっておったのじゃ。早速装備を変更するのじゃ」

 そんな事を言って、袋からマガジンを取り出して、キャルミラさんと一緒に装備ベルトのポーチのマガジンと詰め替えている。

 

 「一応、俺がここの指揮官になる。実際の作戦はサーシャちゃんがしてくれるから、心配はいらないよ」

 「そうじゃろうな。アキトは防衛戦なら問題ないが、攻撃は苦手じゃからな」

 そんな事を言いながら、俺の隣に2人とも席を移動してきた。

 

 その夜、連合王国の総指揮所にいるガラネスからラグナロクに係わる声明が出された。

 『ナグルファルの作戦終了を連合王国標準時の1100時を持って終了し、同時刻を追って第3段階のヴィーグリーズ作戦を開始する』

 短い文面だが、連合王国の連中は喜んでいるに違いない。


 「ギムレーからの通信です。『2300時西回りの悪魔軍の進軍ルートを閉ざした』以上です」

 通信兵が扉を開けると大声で通信文を伝えてくれた。


 「始めおったか。やる事が派手じゃのう……。見てみよ。どう見ても長さ10M(1.5km)の長さで谷底が燃えておるぞ」

 「これだけ肉が焼ける匂いが山に立ち込めれば獣もタダではいまいな」


 焼肉の匂いに誘われるってことかな? ハンター達はだいじょうぶだろうか?

 まるで炎の川のように見えるが、その川の長さが更に長くなった。姉貴は爆弾を全てナパーム弾にしたようだな。

 

 「こちらは呼応しないのか?」

 「こっちは現場指揮官だからな。作戦はサーシャちゃんが考えてくれる筈だ」


 向こうの飛行船は2隻だったはずだが、これだけ広範囲の火炎地獄を作るにはちょっと不足だろう。ユングの飛行船を使ったに違いない。

 となると、残り2隻はどうなったんだろう?


 「また、炎が広がったぞ。これで長さは40M(6km)は下るまい」

 

 徹底的に焼き殺す考えのようだ。

 自分の端末を使ってギムレーの様子を見る。殆ど明かりがないからサーマルモードに画像を変更した。

 南に向かって部隊が移動しているようだ。

 移動速度が速いから戦闘工兵が先導しているのかな? 襲撃部隊を使わずに戦闘工兵を使うというのは、何らかの施設を作らせようとしているんだろうけど、そんなことは聞いてないぞ。

 こうなってくると、先行して運んだ資材が何だったか気になるな。75mm砲ぐらいは運んでいそうだが、それ以外にも何か運んでいそうだぞ。

 そんな戦を見せられたら、アルトさんがおとなしくしている筈が無い。サーシャちゃん達の作戦を教えて貰わないと、止められる自信がないんだけどな。


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