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R-004 俺を見守る2人組


 リオン湖の氷も融ける頃、どうにか数種類の爆弾ができあがった。

 種類が多くなったのは炸薬量に変化を持たせたからだ。100kgと200kgを作ってある。それに、200kg爆弾の変形としてクラスター爆弾のように10kgの子爆弾を上空で散布するものも作り上げた。

 

 「本来は気圧計を信管に取り付けるんだが、これはタイマーでいいだろう。投下高度をあらかじめ決めておけば十分だ」

 「こんな小型で威力はあるのか?」


 「75mm砲の弾丸よりも炸薬量は多いぞ。それに落下速度があるから木造船なら1発でも効果が期待できる」


 ユングはそう言ってるけど、1発で沈めることはできないんじゃないか? だが、上空から船団に10発程落とせば、総計200個の子爆弾が降り注ぐ勘定になる。数個ぐらいはあたるだろうから、それで何とかというところだろう。


 .イオンクラフトで、アトレイム州の海岸にある製鉄所の西に爆弾を運ぶと、俺達が見守る中、ディーが爆弾を持って上空に上がっていった。

 俺達は1km程離れた場所に折り畳み椅子を組み立てて、のんびりと状況を見守る。姉貴が念の為に【カチート】で障壁を作っているから爆弾の破片ぐらいは何とかなるだろう。

 フラウ達は、ラティ改を槍のように持って俺達の後ろに控えている。

 ユングが口径20mmの大型狙撃銃を改造したもので、半自動小銃並みに弾丸を撃ちだせるのだが、重量が30kgを超えているから、扱えるのはオートマタの4人以外で扱えるのはリザル族の戦士だけだ。

 万が一こっちに爆弾が流れてきたときには、ラティ改で狙撃すると言っていたが、本当にできるんだろうか?

 

 「ディーから、連絡です。『準備完了。指示を待つ』以上です」

 フラウが後ろから報告してくれた。


 「了解だ。『落とせ!』と連絡してくれ!」

 「了解しました。連絡完了。投下5秒前……4……3……2……1……投下!」

 

 フラウが秒を数える声が後ろから聞こえてくる。3000mからの投下は自由落下だから1秒ごとに9.8mずつ速度が増す筈だ。約20秒以上掛かるぞ、とユングが言っていたがだいぶ時間が掛かるな。

 

 「20秒経過しました」


 フラウが俺達に伝えてから数秒で1km程先で爆弾が炸裂した。

 かなり高くまで砂塵が舞い上がっている。


 「投下後26秒です。最終速度は秒速220m。榴弾砲の弾速よりかなり低いですから、爆弾の強度は現状で問題ないと推測します」

 「だいぶ掛かるな」


 「自由落下の公式とさほど変わりない。空気抵抗で少し遅くなってるな」

 

 落下時間が長く掛かるなら精密爆撃は難かしいだろうな。数で補わねばなるまい。

 そんなことを考えながら次々と爆弾が落とされる光景を眺めていた。

                  ・

                  ・

                  ・


 「後はユング達の飛行船だね」

 「そっちは大変らしいぞ。何と言ってもエンジンが作れないんでモーターでプロペラを回すらしい。その電源は飛行船の上部に張った太陽電池パネルと燃料電池らしい。航続距離を2万5千kmは技術的な課題が多いと言ってた」

 

 アルミ製の枠にナイロン繊維で作られた布を2重に張って、ウミウシの体液を塗布したらしい。薄膜型の太陽電池をバビロンが作ってくれたから良かったものの、そうでなければ爆弾の量が数t程度になってしまうところだった。

 とは言え、ユング達が今作っているのは搭載量数tの飛行船ということだ。先ずは飛行船の操縦を教育しなければなるまい。ついでに爆弾を落とす言っていたけど、そんなんで上手くいくのだろうか?


 「軍需工場を作らなくちゃならないね。投下する爆弾の量が半端じゃないし」

 「そうね。それに反攻の準備もする必要もあるわよ。東周りの侵攻軍の阻止はかなり早い段階で終るわ」


 だが、それが阻止されると西周りで攻めてくる連中が増えることになる。装甲列車とイオンクラフトでどれだけ間引きできるかだな。もっとも、そうなった時は大陸の西側の敵を叩く航空部隊を東に移動することも可能だろう。できればイオンクラフトの能力を上げたいものだ。

 

 姉貴は端末で北米大陸を眺めている。

 だいぶ姿が変わってしまったけど、赤道から北は北米大陸とこの際考えておこう。

 悪魔軍の拠点は南米大陸であり、北米は遠征上の通過点に過ぎない。以前にユング達が戦ってククルカンを破壊して後は、太平洋岸と大西洋岸に遠征軍の道ができているようだ。

 そんな事を勘案したのか、姉貴の眺めている場所はロッキー山脈のように南北に伸びた山麓の東側だ。


 「良い拠点候補は見つかった?」

 「中々見つからないわね。北米で戦ったユング達の意見も聞かないと……」


 反攻だからな。防衛よりは攻めやすい地形を選んだ方が良いと思うぞ。部隊は機動戦に特化した亀兵隊を使えばいいだろう。75mm無反動砲の一撃離脱は彼等の得意とするところだ。

 それに弾薬の共有化も考えねばなるまい。多種類を使えば、それだけ1種類の量が減ることになる。片道1万kmを超える物資輸送はそれだけで困難さを予想できる。

 連合王国軍の総指揮官であるガラネスと、良く相談せねばならないだろう。

 

 「反攻作戦の全体計画はガラネスを交えて相談しなくちゃならないね。彼等も作戦計画を考えている筈だ」

 「勿論だけど、私達も私案を纏めておかないと反論もできないわ」


 たぶん、ユング達だって案を作成しているだろう。3つの作戦計画を持ち寄れば会議は活発になるだろうな。俺も少し考えてみるか……。


 「ちょっと外にいるよ」

 姉貴に告げると、庭のベンチに向かう。


 このテーブルセットは何代目の品だろう? かなり更新しているけど、最初のテーブルセットと同じように荒削りの物だ。やはり使い慣れた形が一番だし、何と言っても落ち着ける感じがする。

 すぐ隣にはこの世界のユグドラシルとも言うべき樹が茂っている。今でも幹の太さは30cmにも未たないが、姉貴の両親の変化した姿だからな。とんでもない量の気を何時でも周囲に放っている。それもあってか、このテーブルセットに座りながら考えると頭が冴えるように感じるのも事実だ。

 それに、ここで考えごとをしていると……。ほら、やはりやってきた。

 尊敬する2人が、テーブル越しに俺を心配そうな顔で眺めている。


 「相変わらずよのう。世の中の不幸を全て背負い込んでいるような表情をしておるぞ」

 「分からんでもない。……じゃが、任せるということも大切じゃ。アキトのできることは別にあるはずじゃ」


 カラメル族の長老であるレビト様、元モスレム王国の王妃であるアテーナイ様、2人とも既にこの世の人間ではない。自らの魂魄をクリスタルに封印し、気の力を操って心象世界で俺と話をしているのだ。

 カラメル族なら納得するのだが、アテーナイ様がそんな存在になったことを知った時は吃驚したぞ。

 なぜに? という俺の質問には未だに答えてくれない。

 「ちょっとした手違いじゃ」と言って、苦笑いを浮かべていたのが気にはなるんだが……。


 「確かに姉貴もいますし、ユング達の能力もバカにはできません。それに、連合王国の士官達も優秀です。でも……」

 「ならば、婿殿が作戦を練る必要はさらさらないはずじゃ。そもそも婿殿は戦略よりも戦術を重んじる方であるし、その場で対応する場合が多いからのう」


 何となく、本能で生きてるような言われ方だけど、まあ、そんな感じだな。

 

 「だが、ミズキ達にも大きな抜けがある」

 「分かるか?」


 そう言って、何時の間にかテーブルに乗っていたお茶を2人で飲んでいるぞ。

 う~ん……。何だろうな?

 タバコを取出して火を点けた。紫煙が周囲に広がるのを見ながら反攻作戦の全体像を考えてみる。

 準備と第一段階の大陸西岸の敵の殲滅戦。第二段階開始前の軍の再編成と戦略爆撃。最後に反攻作戦が行われる筈だ。

 ん? ちょっと待てよ。そうすると反攻作戦が上手く運んで悪魔軍を壊滅させた後は何をするんだ?


 「ようやく、自分の役割が分かったようじゃの」

 「ミズキが作戦に加わるなら、その作戦は困難であろうとも成功はするであろう。お主はその後を考えるが良い。生憎とあの連中はそれが理解できているとは言いがたいところがある……」


 数百年続いた戦が終るときに、連合王国はどうするんだろうか?

 まだまだ、連合王国の版図は広く、そこに暮らす住民の数は限られている。

 南の大陸には幾つかの王国があるが、他国を侵略する程の力はない。

 ここで、国力を上げて、将来の西の大陸開発を待つことになるのだろうか?


 「良く考えることじゃ……」


 そう言いながら俺の前から姿を消して行った。

 ふと、気が付くと、左手にタバコを持ったままだ。一服しようとした僅かな時間に俺を自分達の世界に招いたという事だな。

 しかし、戦の後の世界か……。確かに、誰も考えたことはないだろう。

 姉貴達に作戦は任せて、俺はこっちを考えてみよう。そこから作戦の課題も見えてくるんじゃないかな。

 そう考えて、苦笑いを浮かべた。

 あの2人。今でも俺を見守ってくれている。どちらかと言うと俺の迷いに方向性を与えてくれる存在なのだが、俺って今でもそんな存在に見えるのだろうか?

 

 それはさておいて、大戦の後を考えよう。

 姉貴の言うラグナロクが作戦名になるんだろうが,それは北欧神話の話だった。エルフ族にも似た話が伝わっていたな。かつて、ジュリーさんが「それは口に出してはなりません」と言っていた。

 だけど、ラグナロクはある意味復活の予知をしてた筈だ。古い神々が倒れ、新たな神々が生まれるんじゃなかったか?

 古い秩序が新たな秩序に変わると考えるなら、正しく神々の黄昏に違いない。

 

 問題は、その範囲だな。

 この惑星、かつては地球と呼ばれたジェイナス全体に及ぶのか、それとも限定した範囲とするのか……。更に、秩序は均一なのか、地域ごとに変化させるのか……。

 それと、軍隊の将来だな。敵対する国は無くなるだろうが、ゼロには出来ないだろう。そうなると、何を目的に存在させるかが問題になりそうだ。


 リオン湖の対岸に小さな煙が上がっている。たぶんハンターが昼食の準備を始めたのだろう。現在は禁猟期だが、害獣の駆除はたまにギルドの依頼掲示板に出ているからな。

 危険であればアルトさんが対処する筈だから、野犬クラスの害獣辺りだろう。


 昔は武器といえば剣に槍や弓が主体だったが、今のハンターはショットガンにリボルバーになっている。

 その銃だって、滅多に使うことはないのが現状だ。

 俺達がハンターになった頃は、初心者が薬草採取を行い、一人前になれば獣を追いかけたものだ。だけど、今のハンターは一人前になっても薬草を採取している者が圧倒的だ。

 アニマルハンターからプラントハンターへと、ハンターの仕事が変わってきたように思える。

 それは、少しずつ【サフロナ】を使える魔道師が減っているからだろう。今では連合王国内に10人もいないんじゃないか?

 最大の回復魔法の使い手が減っている以上、薬草に頼ることになるんだろうな。

 初歩的な外科手術と合わせて思った以上に薬学は発展しているようだ。


 たまに、アニマルハンターを目指そうとする若者が訪ねて来ることがあるが、そのハンターのやる気を計ってアルトさんやフラウさんが指導をしているようだ。ネコ族の場合はキャルミラさんが指導するようだが、かなりハードな内容だ。

 そんな若者も近頃は少なくなってきている。

 それはそれで良いのかもしれないが、何となく寂しくもなるな。

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