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R-039 敵の士官


 指揮所のテーブルに伏して寝ていたようだ。

 周囲の物音で目が覚めた。


 「どうやら、目覚めたようじゃな。先ずは顔を洗ってくるがよい。状況が少し変化しておる」

 

 急いで指揮所を飛び出し、顔を洗って戻ってくると、ディーが濃いコーヒーを入れてくれた。あまり甘くないから、角砂糖は1個というところだろう。それでも、甘味で頭がはっきりしてくるのが分かる。


 「少し、敵の動きが変わってきておるようじゃ。ミズキが早朝からサーシャとガラネスそれにユングとランドルという兵站責任者を交えて端末を使った会議をしておる。原因は、これとこれじゃ」


 大陸中央部が拡大されてスクリーンに映し出された。

 そこには敵の進軍の様子が黒い帯で示されている。

 

 「この進攻軍は航空部隊で構成されている。移動速度は1日で1000M(150km)ほどじゃ。後6日程でミーミルに到達するじゃろう。

 それとこれを見よ! 流れが変わっておる。当初、この地で東西に軍を分けて進んでおったのじゃが、東へ移動する兵力が半減しておる」


 どちらも想定の範囲内じゃないのか?

 独立航空部隊は、堤防の防衛を行っている時でも遭遇しているし、移動してくる兵力に差が出るのは、むしろ遅すぎるくらいだ。

 航空部隊が、時間差を持って複数来襲するぐらいは姉貴は想定しているだろう。それに西周りの兵力が増えたのなら、返って姉貴には都合が良いだろう。

 東周りの悪魔軍が荒地を進むのに対して、西回りの悪魔軍は山間部の谷間を行軍する。数を増やせばそれだけ行軍がもたつく事になるだろうし、狭い谷間なら爆撃で絶大な効果が得られるだろう。


 「それ程、心配する事は無いように思えますけど?」

 「まったく、姉弟は似るものじゃ。ミズキと同じ言葉を言いおる」


 そんな事を言いながら、運ばれてきた朝食に手を付ける。

 「どちらかと言うと、ガラネスが騒いでおる。どんな教育を受けたか知らぬが、ミズキとサーシャがこちらにいるのなら心配はいらぬはずなのじゃが……」


 アテーナイ様としては、手ぬるく感じるんだろうな。

 それだけ、ガラネスさんが慎重だという事だろう。姉貴も、サーシャちゃんも説明するのが下手だから、それで長引いてるのが本当の所に違いない。


 「それで、大砲は移動したんですか?」

 「全て移動しておる。105mm砲もじゃ。これが、射程範囲になるそうじゃが、かなり広範囲に撃てるようじゃな」

 

 展開したスクリーンに丸で最大射程が示されている。

 105mm砲の射程内に、既に悪魔軍の一部が入っているぞ。


 朝食を終えてお茶を飲みながらタバコに火を点けた。アテーナイ様も俺に倣ってパイプを取り出す。


 「さて、指揮官殿。今日は何処を攻めるのじゃ?」

 「そうですね。……ところで、砦の倉庫や居住区は工事を終えているのですか?」


 「もう少し残ってるにゃ。今日もミーミルから1個大隊がやってくるにゃ。資材が届き次第工事を行なえば、今夜は土の下で寝られるにゃ」


 土の下って言い方だと、なんだか死んだ事にならないか? まあ、言ってる事は理解出来るんだけどね。

 

 「となると、あまり積極的にならないほうが良いでしょう。イオンクラフトを5機こちらの専属で使わせてもらえますから、この辺りを爆撃、航空部隊の要員を機銃掃射で十分です」

 「大砲は使わぬか……。確かに砲弾の輸送は今日じゃったな」


 ミーミルの飛行船とバジュラが遠くの進軍途中の悪魔軍を襲い、イオンクラフト達が砦の南数kmに集結している敵軍を攻撃する。

 いつもの攻撃ではあるが、それによって敵軍の数を少しでも減らさねば、今度は平地の砦だからな。一番怖いのは敵の人海戦術だ。

 そんな状況でも、柵は西に伸びて行く。そして、俺達の砦も色々と施設が増えていく。


 「まったく、半日の議論の結論が現状維持とはのう……」

 「それでも、大型飛行船を全て使って資材を運航してくれるだけありがたい話です。それにギムレーとミーミルに雑貨屋を作るのは兵士達が喜びます」


 「そうじゃな。ギムレーはそのまま入植者が使えるじゃろう。ミーミルは暫定らしいが、酒場まで作るとは行き過ぎなようにも思えるのう」


 それも、兵士達のストレス緩和には役立つだろう。

 姉貴は宿屋とギルド、それに食堂まで作ろうとしているようだが、それを利用する連中が入植するのは、早くて来年になるんじゃないかな?


 何事も無く数日が過ぎる。湖から西に伸びる柵は、工事を終了したようだ。

 どこまで伸ばせば良いのか、サーシャちゃんは考えてなかったようだが、迂回する時間が1時間というのが1つの目安だろうな。柵の長さは約5kmだから、十分だと思う。その残材を使って、砦の柵を更に増やし、簡単な門を作った。もっとも、北方向には開いているから、柵を越えて最短距離で攻め込む者達には十分に機能する。


 本日の定期便では更に75mm砲が4門積まれていた。75mm砲だけで28門だ。かなり頼りになるな。

 兵士達は、1人2個渡されたタバコの袋をありがたがっている。夜にはカップ半分の蜂蜜酒も振舞われるらしい。それが知らされた時にはちょっとした騒ぎになったほどだ。

 後は、新鮮な肉なんだろうが、こればかりはなんとも出来ないな。

 少し、ハンターの来訪を早めることで対応できるかもしれないが、今は訓練中だ。アルトさんを満足させるだけの技量に達しない限り、この大陸にやってくることは無いだろう。


 その夜。

 銃声で簡易寝台から飛び起きた。急いで仕度を整え、装備ベルトを付けてAK47を背負うと半地下構造の天幕から外に出る。

 既に銃声は止んでいるが、状況確認をするために指揮所へと走った。


 「せっかく寝ていたのを起こしてしまったようじゃな」

 「敵の航空部隊ですか?」


 「まあ、そんなところじゃ。ディーが先行して落としたのじゃが1匹が砦にやってきおった。それも機関銃で落としておる。心配は無用じゃ」

 

 既に、終ったということか……。だが、ミーミルの方はだいじょうぶなんだろうか?


 「ミーミルからの電文です『メルダム』を2回受けたが、被害は軽微。死亡、重傷者無し』以上です」

 「ご苦労。『砦に被害なし』と伝えるのじゃ」


 今夜の当直は、少年の面影を残したネコ族の通信兵だ。アテーナイ様に敬礼をすると、直ぐに席に戻って電鍵を叩き始めた。


 「ところで、婿殿はこの陣をどう見る?」

 拡大された仮想スクリーンに悪魔軍の集結した様子が映し出される。だいぶ数が増したようだ。あの膨らんだ部隊が合流したのだろうか?

 それにしてもだいぶ増えたな……。ん?


 「これは?」

 「直ぐに気が付くとは、婿殿は冷静じゃな」


 30万程度の悪魔軍に数万の増援があったとして、増えるのは2割程度だ。軍の陣形を変えるほどにはならない。だが、陣が少なくとも2回りほど大きくなっている。


 「散開したということですか?」

 「そうじゃ。散開すれば爆弾や、機銃掃射による被害を削減できる。中々に考えておるよ。単純ではあるが確実に効果を期待できる」


 だが、今まではそんな動きがまったく無かった。新たな敵の増援軍についてもそれは変わらない。

 だとしたら……。今までの単純な自軍の数を頼んだ攻撃ではなく、戦術を考えられる指揮官があの中にいるって事になりそうだぞ。

 そいつを見つける事が出来れば良いのだが。


 「ディー、敵軍の中に今までと異なる、容姿をした者がいるかどうかを確認してくれ」

 「容姿による分類ですね。了解です」


 アテーナイ様自らお茶を作って俺にカップを手渡してくれる。

 「さすが、婿殿。直ぐに探し始めるか。我もそれには気付いたが、探す方法は思いつかなんだ」


 席について、パイプを取出しのんびりと俺を見つめてにこにこ笑顔向けてくれるのが、ちょっと不気味だな。

 そんなところに、エイルーさんと副官のデミトスさんが指揮所に入ってきた。

 

 「起こしてしまったにゃ。でも被害はまったくないにゃ。念のために機関銃座には兵を待機させたにゃ。大砲の砲弾も穴の中に入れといたにゃ」

 「ご苦労さまです。それだけしておけば十分でしょう」

 

 「危機は去っておるが、南の軍の様子が少しおかしい。再度の攻撃があるやもしれぬが、婿殿の判断に我も賛成じゃ」

 「この軍の何処がおかしいのでしょうか?」


 席に付いたデミトスさんが聞いて来た。

 「大きさじゃ。援軍が到着したとしても、これほど大きくはならんじゃろう。今、ディーが考えておる。お茶でも飲みながら、のんびり待つがよい」


 結構時間が掛かっている。それ程の相違がないのか、あるいはそもそもいないのか……。

 改めてお茶をエイルーさんが俺達に入れてくれたとき、ディーの解析が終ったようだ。

 俺達の前の仮想スクリーンがもう1つ増えると、そこに4種類の悪魔達の姿が現れた。


 「大きく5種類に分かれるようです。通常の悪魔とアルガーこれは一見して区別出来ます。悪魔軍の構成比率では悪魔が35%、アルガーが45%というところです。

 次に、悪魔と同じ肢体を持ってその背中に羽を持つ種類、航空部隊ですが、南に陣を張る中では5%に達しておりません。

 残り15%は少し角の大きな、アルガーを操る悪魔なのですが……。悪魔及びアルガーとはまったく肢体の異なる種族が見受けられます。小柄な悪魔に体を似せていますが、関節構造、4肢のバランスが異なります。個体差に惑わされましたが、4肢のバランスから1つの種族と推測します」

 

 最後にディーが見つけた種族の姿が画像に映し出された。

 なるほど、姿にばらつきがあるが、4肢のバランスは明らかに人間を起源としていない。これに似た生物となるとルシファー……なのか?

 

 「どれ位の数がいるんだ?」

 「南の軍勢の中では200体ほど存在しています」


 「婿殿!」

 「ええ、……たぶん、こいつ等が指揮官となるのでしょう。ルシファーに似ていますが、一見しただけでは悪魔と見間違いそうです。指揮官クラスを個別に倒すのは困難でしょうね」


 こいつ等が集団の中に遍在していたら、どうにも出来ないな.一箇所に集まっていれば対処のしようもあるのだが……。


 「悪魔軍の中の存在箇所は分かるのか?」

 「12時間前の画像で確認した結果では、その存在箇所はこのように分布していました」

 

 数kmにも及ぶ悪魔軍の中に、見事に点在している。やはり、何らかの情報伝達手段を持っているのだろう。それならばこのように拡散した状態でも、全体の指揮を取れる。

 これは、早めに姉貴達と相談した方が良さそうだ。


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