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R-037 アテーナイ様がやってきた

 

 ミーミルの南西部には、相変わらず30万の敵軍が布陣している。イオンクラフトの昼夜を問わない攻撃で、向こうから攻撃に出る事は無いが、西の柵作りの方では小競り合いが頻発しているようだ。柵を三重にして、尚且つ、地雷を仕掛けているようだが、大軍が移動するとなると簡単に突破されてしまうだろう。それでも柵を作ると、安心出来るのは俺達のさがなんだろうな。


 早朝、簡易ベッドを抜け出すとフーターで顔を洗い、指揮所に向かう。ミーミルに来てから既に三ヶ月が過ぎようとしている。

 季節は夏の盛りになったが、ミーミルは良い海風が吹くからそれ程苦にならない。指揮所にも通風孔があるらしく、テーブルの上の紙が良く飛ばされる。それでも、涼しい方が良いのは誰も同じだ。文句を言う者は一人もいない。


 「おはよう。良い知らせがあるぞ!」

 指揮所に入るなり、サーシャちゃんが俺に告げた。


 「おはよう。……何だろう。飛行船が増強されるのかい?」

 「そうじゃ。小型が1隻増える。多目的と言っておったが、爆撃が出来ればそれで良い。それとじゃ、お祖母ちゃんがやってくる!」


 アテーナイ様が来るってことか?

 ミーアちゃん達がバビロンで実体化すれば絶対にマネをするとは思ってたけど。


 「たぶん昼ごろには着くじゃろう。連合王国から飛行船と共にやってくるはずじゃ」

 3人は嬉しそうだけど、これは色々と問題だぞ。


 「姉貴には話したのかい?」

 「ミーミルが激戦だから、そっちをお願いしてありますと言っておったぞ」

 

 確信犯だな。まあ、ワンマンアーミーな人だから、どこに置いておいても心配は無さそうだけどね。

 

 「マスター、1つ問題があります。バビロンからの情報ではアテーナイ様の身体は戦闘特化型、かつてのバビロン特殊部隊の戦闘員そのものです」

 「ディー並みって事かい?」


 「私は威力偵察が主任務として作られてますが、アテーナイ様は私が得たデータを元に敵を殲滅する任務を行なう事を主眼として作られたものです。基本計画はあったのですが完成はされなかった筈なのに……」

 

 プロトタイプという事だろうか? それとも、長い年月のなかでバビロンの電脳が暇を持て余して作ったのだろうか?

 だが、元々戦闘狂なところがあるから、他のオートマタではアテーナイ様のは不足なのかもしれないな。

 アテーナイ様の思念に合う、オートマタを探してたら偶然見付かったというのが、意外と正しいのかも知れないぞ。


 「嬢ちゃん達の押さえにも丁度良いんじゃないか。アテーナイ様の気性はあれだけど、心根は優しい人だからね」

 「それはそうなのですが……」


 「何をぶつぶつ言っておる。今日は大部隊が南西部の軍と合流を始めるぞ。ナグルファルの戦はこれからが本番じゃ!」

 

 嬢ちゃん達が地図を睨んでいる。

 西の柵は湖から西に3kmほど伸びているが、それを更に伸ばしたいらしい。だが、いままでは小競り合いで済んでいたものが、敵軍が膨らむからぶつかって来る相手の数も比例して多くなることを考えれば問題が出てきそうだ。


 「ここに砦が欲しいのう。じゃが、危険な位置じゃ」

 「敵の航空部隊が脅威です。それにアルガーの身体能力を考慮するとそれなりに防備を固めなければなりません」

 

 身を乗り出して地図を覗くと、湖の北に小さな砦を作ろうと考えているようだ。

 確かに2個中隊を常駐しておけば東西の救援には最適だろう。イオンクラフトの補給もかなり時間を短縮出来そうだ。


 「アルガーにメルダム対策が鍵じゃな」

 サーシャちゃんの言葉に2人が頷いて俺を見た。


 「やはり、アキト以外頼れる者がいない。お祖母ちゃんがやってきたら、ディーと3人でここに砦を築いてくれぬか? 使う部隊は戦闘工兵1個中隊じゃ。ザイレン。中隊長を呼べ!」


 ザイレンさんは、飲んでいたコーヒーのマグカップを置くと、レイニーさんと少し話しを始めた。大きく頷いたレイニーさんが指揮所を出て行く。


 「アキトの告げる機材は優先的に回してやるが良い。ミーミルとこの砦の完成で、ナグルファルの終了が見えてこよう」

 

 急に言われてもなあ……。

 ディーと2人で仮想スクリーンに湖の北を表示させて、眺めてみる。直径1kmほどの丸い湖がどうして出来たのか興味はあるけど、今はそれどころではない。


 「湖周辺の湿地にまで柵は伸びています。湖を泳いで北側に渡るとしても容易に発見出来ます」

 「とは言え、敵の航空部隊も考えなくちゃなるまい。半地価構造の砦を作るか。弾薬庫も同じように作れば少しは安心できる。問題は柵だな……。こんな感じに逆ハの字になるように東西に作るか。湖側は盾を並べて対空陣地を2つ作れば安心できる」


 小さく作りたいけど、イオンクラフトの発着は考えねばなるまい。それに、中隊規模で休憩が取れるようにしないとな。


 そんな事を考えていくと少しずつ規模が大きくなる。最終的には柵の長さだけで300mを越える事になった。

 湖の西にはまだ柵を伸ばしている。その部材を少し融通して貰って進めるほかに手は無さそうだ。


 「丸太とカスガイ、それに戦闘工兵の盾がたくさん必要だ」

 「ギムレーからの資材を半分回そう。カスガイと盾は戦闘工兵なら標準で持ち合わせていよう。ザイネン、至急集めて渡すが良い。資材の運搬はアキトに渡す中隊で十分じゃろう」

 

 「了解です。中隊は第2大隊の第4中隊を選びました。指揮官は代々戦闘工兵の家系であるエイルー、副官はデミトスです。もうすぐやってくるでしょう」

 

 それほど待たずに、レイニーさんが連れて来たのは、どこかミケランさんの面影があるネコ族の女性と、虎族の若者だ。


 「エイルーにゃ。いつでも攻撃に出掛けられるにゃ!」

 「エイルー。この湖の北に砦を作る。アキトと相談して素早く築き上げて欲しい」


 「了解にゃ。アキト様と一緒なら皆喜ぶにゃ!」

 「それで、どのように……」


 ネコ族の人が中隊長なら、真面目な虎族では苦労しそうだな。

 ディーが素早く配置図を書き上げて、必要な資材をリストにして手渡した。


 「出発は、午後になりそうだ。北の虎口で待機していてくれ」

 エイルーさん達は俺達に頭を下げて指揮所を出て行った。直ぐにも資材集めを始めるんだろうな。


 後は、アテーナイ様だな。

 小型飛行船でやってくるんだろうけど、どんな感じでくるんだろう?

 

 そんな事を考えながら大陸全体の状況を確認する。

 大陸北部は3個大隊が上陸したようだ。周囲に散った悪魔軍を中隊規模で殲滅している。5機のイオンクラフトを使って山間部に逃げ込んだ悪魔達をも執拗に追い掛けているようだ。残り一ヶ月ほどで壊滅出来るんじゃないかな?

 となると、いよいよここが主戦場になるってことになる。ナグルファルの終了を姉貴が宣言するのは時間の問題なのかもしれない。


 簡単な昼食を済ませてお茶を飲んでいると、突然指揮所の扉が開いた。

 1歩中に入ってきたその人は、アダルト姿のアルトさんに良く似た姿をしている。


 「婿殿。久しいのう。リムやミーア達も、元気じゃったか? それで、サーシャよ、どうなっておるのじゃ」


 俺に片手を上げると、リムちゃん達をハグしている。最後に、サーシャちゃんを見て、早速状況を確認しているぞ。


 「まったく。本来お祖母ちゃんのクリスタルはアルト姉様の分になる筈だったのじゃが……」

 「今になっては仕方あるまい。で、どうなのじゃ?」


 直ぐにサーシャちゃんがアテーナイ様に状況の説明を始めた。

 あまり口数が少ないのは。思念で交信しているのだろうか? 便利なようだが、周囲の人には理解できないのが問題だな。


 「そうであったか。我を運んだのは小型飛行船であるが、我等専用のイオンクラフトも運んできたぞ。ユグドラシルの神官は500kgと念を押していたが、それで婿殿には理解できた筈じゃ。かつて婿殿が歪に飛び込ませたイオンクラフトの簡易版らしいぞ」


 それはありがたい。移動がバジュラでは色々と不便だからな。


 「早速ですが、手伝って貰えませんか? この場所に砦を作る予定です」

 「構わぬが、我に出来るのは、敵の陽動ぐらいなものじゃ。もっとも、婿殿にしてもその程度じゃろう」


 どう見ても、アテーナイ様の20代の頃の姿だよな。迷彩色の上下に、装備ベルトをして背中に長剣を担いでいる。持っている銃は俺と同じAK47だな。

 サーシャちゃん達に見送られて、俺とディー、それにアテーナイ様は塹壕から離着陸場に向かった。


 「婿殿には必要じゃろう」

 そう言ってサングラスを渡してくれた。確かに日差しが眩しいからな。1つ持ってきてはいるのだが、生憎とバッグの中だ。直ぐには取り出せないだろうな。ありがたくサングラスを掛けて、3人でイオンクラフトに歩いて行く。


 「飛行船は爆弾を積んで出掛けたようじゃな。あれが、新しいイオンクラフトじゃ。前に2人が乗れるぞ。荷台は小さいがのう」


 前の奴はトラックのような感じだったが、これも似たようなものだな。だが荷台は確かに小さい。まるで軽トラックの荷台のようだ。

 これに、爆裂球をたくさん積んで撒き散らすのも良さそうだし、3人乗せてAK47を機関銃代わりに使うのもおもしろそうだ。


 「貰って良かったんでしょうか?」

 「アキトには礼を言っていたぞ。我らを忘れずにいてくれたとな。サーシャ達には別の話があったが伝えてあるから問題はないじゃろう。ミーア達がユグドラシルに運んだ物の調査結果じゃ。ミズキにはサーシャが伝えるじゃろうが、あのような変異を操るとは恐れ入るのう」


 イオンクラフトの助手席にアテーナイ様は乗り込みながら話を続ける。

 操縦席にはディーが坐った。俺はいつも荷台だけど、意外と眺めも良いし、色々出来るから文句はない。


 「北の虎口に向かいます」

 「ああ、エイルーさん達が待ってるはずだ」


 スイっと身長程にイオンクラフトが上昇する。ゆっくりと北に向かって進み始めた。荷台には木箱が3つ乗せられている。これはユグドラシルから持ってきたのではなく、飛行船から積み替えたものだろう。

 後で、何が入っているのか教えてもらおう。たぶん武器だと思うけど、爆裂球ってこともありそうだ。

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