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R-033 こっちのサメは歩くかも!


 10日ほどして、完成させたもう1つの虎口は斜路の傾斜が前と比べて緩やかだが、横幅は3mほどだ。岩壁に穿ったようなものではなく、天井部分がないから、途中の張り出した岩は全て撤去したようだ。2列縦隊ではなく、1列で通る形だから、攻撃部隊は1個大隊と言うところだろう。


 「これで、色々と使えそうじゃな!」

 サーシャちゃんは喜んでるけど、俺達はどうなる事かと心配ではある。

 

 そんな、ある日の事。

 朝食を終えた俺達が指揮所に集まったところで、サーシャちゃんが戦闘工兵に次ぎの作戦を命じた。


 「だいぶ集まっておる。少し減らさぬと後々が面倒じゃ。だいぶ兵力も整ったことじゃから、こちらから撃って出るぞ!」

 そんな言葉を俺達に言って、仮想スクリーンと地図を使って今回の作戦を説明してくれる。

 それによると……。


 基本は前回と同じだな。少し異なるのは、斜路に陣取る守備兵がネコ族の人達だ。南の斜路には機関銃を3丁備え、北には2丁。更に南に1丁の予備を置く。機関銃1丁で5人分の働きをするから、それは理解出来る。

 

 「今回はバジュラで掻き回すつもりじゃ。その後は南に移動して、進軍する悪魔軍を蹂躙すれば良い。ついでにこの場所を攻撃してくるのじゃ」

 「火炎攻撃ですね。了解です!」


 あまり具体的ではないが、それでミーアちゃんには理解出来るらしい。付き合いが長いからかな?


 飛行船はバジュラの攻撃が終った後にたっぷりとナパーム弾を落として、次に戦闘工兵が散開した連中を攻撃する。当然追い掛けてくるから、それを75mm砲で攻撃する手筈だ。


 「北の斜路が使えるのは2時間じゃ。それを過ぎれば帰れなくなるぞ。悪魔に取り囲まれて殲滅される。第3大隊長は各中隊長に入念にその旨を言い渡すのじゃ」


 南北とも同じタイミングで攻撃を開始するようだな。あれほどいたカニも今では一匹もいなくなってる。またやってくるのだろうか? 死体目当てなら良いのだが、襲ってくるようなら問題だ。


 「105mm砲は最大射程で外周部を狙うのじゃ。イオンクラフトの攻撃時間は発射を禁じる。こちらの連絡に注意して欲しい。

 作戦開始は今より2時間後の11時丁度じゃ。相手は60万を越えておる。勇者は要らぬ。全員逃げ帰れ! 良いな」


 「アキトは残ってくれ!」

 ぞろぞろと指揮所を出る士官達に混じって、斜路に向かおうとした俺をサーシャちゃんが呼び止めた。

 

 「ん? 今度も斜路じゃないの」

 「斜路も良いのじゃが、アキトにはこれを頼みたい」

 そう言って指差した地図には第3大隊の駒があった。


 「かなり微妙なタイミングが要求される。この浜辺にいるのはザンダルーではなく、これじゃ」

 仮想スクリーンに映し出されたのはサメじゃないか!

 良く見ると少しサメとは異なる部分もある。ヒレが太いのだ。あれだけ太ければ歩けるんじゃないか?


 「イオンクラフトが渚で撮影した物じゃ。数十の群れで泳いでいたらしい。じゃが、あのヒレを見るとな……」

 「確かにね。だけど、俺のバジュラは既にこの世を去っているぞ」


 「バジュラが戻ってくる。あの上にディーと共に乗れば良い。たっぷりと爆裂球を持って行く事じゃ」

 

 あれって、俺達にも乗れるのか?

 思わずディーと顔を見合わせてしまった。


 「だいじょうぶじゃ。操縦はミーアが行なうし、リムが全体監視を行なっておる。アキトとディーは敵を見つけて撃つだけじゃ」

 

 となると、たっぷりとマガジンを持って行った方が良さそうだな。

 

 「アキトの出番は作戦開始2時間後じゃ。それまでにバジュラは池に帰って来る。池の傍で待つが良い」

 

 バジュラは陸亀なんだけど、作ったのがカラメル族だからな。良く見るとタトルーンの海亀のようにも見える。休息させる為に、大量の水を必要とするみたいだ。最初来た頃は、戦闘工兵がバケツで水を口に投げ込んでいたけど、やはりそれぐらいでは足りないみたいだ。今では、学校のプールの2倍はありそうな池で、甲羅だけ水上に出している。その水は、夜間に飛行船が内陸にある大きな湖から運んできたものだ。2日に1回2t程、今でも運んでいるそうだ。


 そんなバジュラ専用プールに歩いて行く。

 イオンクラフトの発着場の先だから、2km程歩かなくてはならない。

 ガルパスが沢山いるから、普段は誰かに乗せてもらえるのが、今日は、攻撃を行うためだろうか、ガルパスに乗った連中に出会わないんだよな。

 

 バジュラプールにやって来たが、周囲には誰もいない。プールは綺麗に石組みが成されているから、将来は普通のプールに出来るんじゃないかな。

 そんなプールの片隅に座ると、端末を使って状況を眺める。

 攻撃開始には1時間程間がある。悪魔軍は相変わらず、ミーミルから数kmの距離を取って俺達を馬蹄形に取り囲んでいるな。

 南北の虎口には、既に3個大隊の戦闘工兵がガルパスに亀乗して、隊列を組んでいる。

 北の大隊は1個中隊少ないのは、砲兵それに岸壁に分隊ごとに待機しているからだろう。

 グレネードランチャーは300mほど炸裂弾を飛ばせるからな。更に近付けば爆裂球、断崖を登ってくるなら、AK47で狙撃出来る。


 ブーン……という音に、音を探して空を見上げると、飛行船が飛び立つところだ。南方への爆撃は日課でもある。少しでも補充される敵兵を削減しないことには、やがてミーミルでは対処出来なくなるからな。


 大きな革袋を担いだネコ族の兵士が俺を見つけて走ってくる。

 何だろう? 立上がって彼を待つ。


 「ここにおいででしたか。ミーア隊長から、これを渡すように頼まれました」

 「ありがとう。戦闘工兵の後ろを守ってくれよ」

 「勿論です。機銃の弾装を何時もの倍積んでいますから、任せてください」


 航空部隊の指揮も高いようだな。勇将の下に弱兵無しって言うけど、相手が相手だから、力攻めでは負けるのが見えている。武器の優劣で勝負を決めたいのは姉貴の考えるところだろう。


 男が去った後で、革袋を覗いてみると、一回り大きな爆裂球が10個程入っている。

 1個取出して手に持つとずっしりとした重さがある。どうやら、爆裂球を鎖でまいてその上に紙を貼ったようだな。イオンクラフトで爆弾代わりに落としてるぐらいだから威力はありそうだ。ありがたく使わせてもらおう。


 のんびり一服をしていると、西から大きな歓声が聞こえてきた。どうやら始まったらしいな。ミーアちゃん達がどこかで時間を潰してきたようだけど、ミーミルを取巻く敵兵への蹂躙は始まったようだ。

 端末のスクリーンには、回転しながら敵兵を蹴散らすバジュラの勇士が写っている。

 時速100km以上で敵兵の中に突っ込んで行くから、相手の逃げるひまさえないようだな。まるで柴刈機のように敵兵が潰されていく。

 かなりの損害を敵に与えたところで、バジュラは敵兵の進軍を逆に辿るようにして南方に去って行った。

 

 敵軍の蹂躙された後を確認していると、一段と大きな歓声が沸き起こる。

 戦闘工兵部隊が出陣するのだろう。立って西を見ると南北に土煙りが舞っている。発着場からは数機ずつイオンクラフトが編隊を組んで飛び立ち始めた。

 これから2時間は戦闘工兵と航空部隊の舞台だ。俺の出番は早くて1時間後ってところかな?


 敵軍の中に炎が連なる。イオンクラフトの半数程が引き返し、残りが機銃掃射を始めた。敵軍の奥に炸裂する砲弾は105mm砲なのだろう。30秒ほどの間隔で炸裂するのが確認できる。

 ヒューンという甲高い音と共にイオンクラフトが次々と発着場に舞い降りると、荷車を曳いたガルパスが塹壕から現れる。素早く爆弾を装荷すると、再びイオンクラフトは戦場に戻って行った。

 良く見ると、ネコ族の中に何人かのトラ族の兵士が混じっている。爆弾は重いからな。手伝って貰ってるのかもしれない。

 

 突然辺りが暗くなった。慌てて頭上を見上げるとバジュラがプールに下りようとしている。革袋を持って大急ぎで退避すると、後ろから盛大な着水音が聞こえてきた。かなり離れたとは思ったけど、しっかり濡れてしまったぞ。

 バンダナで濡れたところを拭き取りながらバジュラに近付くと、ミーアちゃん達が手招きしている。

 乗れって事だよな? そう考えて、プールの縁からバジュラの甲羅に飛び乗った。

 あれ程、敵兵を蹂躙してきたはずなのに、どこにも血が付いていないところをみると、どこかで洗ってきたのかもしれないな。


 「準備は良いですか?」

 「ああ、爆裂球をたっぷり貰ったよ。それにこれがあるからね」

 そう言って背中のAK47をポンポンと叩く。カートリッジは4個あるし、ベルトに1本挟んでいるからな。

 ミーアちゃん達はMP-8のグレネード発射機付だ。ベルトのポーチが膨らんでるからグレネード弾を数個入れてるんだろう。俺と同じようにベルトにカートリッジを挟んでいるぞ。

 リムちゃんが3m程のロープを渡してくれる。良く見ると、ロープの先端はバジュラの甲羅に金具で取り付けてある。手元にはカラビナが付いているからこれをベルトに取り付けておく。これで甲羅の上で滑っても、落ちることはないだろう。

 

 「出撃します。ロープをしっかりと握っていてくださいね!」

 

 足を肩幅に開き、左足を少し前に置く。右手でグイっとロープを引くように持った途端に、バジュラが盛大な水飛沫を上げて空中に飛び出した。

 100mほど上空に来たところで、今度は滑るように北西方向に降下を始めた。

 かなりの速度だ。ベルトのロープに身を任せて、腰のバッグから亀兵隊用のゴーグルを取出して装着する。これで帽子も飛ぶことはない。

 

 地上数十m程のところを水平移動して撤退している亀兵隊の後部に回りこむ。悪魔軍の先頭から200mも離れていないぞ。これだと、斜路でもたついたら確かに食われてしまいそうだ。

 悪魔軍の先頭を横切るようにして、俺とリムちゃんが爆裂球を落としていく。

 時速100km程の速度で滑空しているから、爆裂球を投げなくとも巻き込まれる心配はない。続けざまに炸裂音が聞こえてくる。効果の程は分からないが、時間を稼ぐのが目的だからな。

 俺達を追いかけるようにイオンクラフトがナパーム弾を落として行く。

 遥かかなたで反転すると、今度は機銃を掃射しながら俺達の横を通り過ぎた。


 「反転します!」

 バジュラが甲羅を斜めにしながら180度ターンをして、再度戦闘工兵の後ろに迫る悪魔軍に突っ込んでいく。地上高さ1m程だから、体を両断されて弾かれる悪魔が続出している。俺と、リムちゃんはひたすら東に向かう悪魔達に銃撃を浴びせた。


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