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R-032 姉貴達の計画


 斜路に埋まった悪魔軍の死体は、バジュラの放つ荷粒子砲で上半分が灰になってしまった。下の方はカニが食べてるんだが……、おかげで悪魔軍が近寄らない。


 「中々良い協力者が見付かったのう。あれで結構好戦的じゃ!」

 サーシャちゃんは機嫌が良い。機嫌が良いから、次ぎの計画を俺達に指示してくれる。


 「良いか、ここにもう1つの斜路を作る。あれほど押し寄せてくると、次ぎの出撃が困難じゃ。それで、北側のこの部分に同じような斜路を作る事にする。2つあれば交互に使用できよう」

 「だけど、サーシャちゃん。これだとミーミルから降りた先が海になっちゃうんじゃないか?」


 「そうじゃ。悪魔達は泳げるかのう? まあ、泳げたとしてもこの斜路を上るのは容易くないぞ」

 「ガルパスが泳げるという話は聞いておりませんが?」

 

 ザイネンさんが恐る恐る質問している。


 「我も知らぬ。陸亀と言っていたからたぶん泳げぬであろう。じゃが、この斜路の出口はこうなっておる」


 リムちゃんが端末を操作してミーミルの北部を拡大して表示した。仮想スクリーンを2つも表示しているぞ。


 「分かるか? この2つの画像は約6時間の時間差を持っておる。おもしろい事に気付かぬか?」

 

 2つの画面を比べてみると……、ん? 海の比率が変わってるな。6時間を経過した画像だとすれば、干満の差になる。


 「そういうことか!」

 「そういうことじゃ!」


 俺の言葉に、サーシャちゃんが笑顔で答えてくれた。


 「我等にはさっぱりです。後学の為にお教えください」

 「この2つの、画像で大きく異なるのは海岸線の位置じゃ。少なくとも2M(300m)近く海の位置が変わるのじゃ。斜路の攻防で生じた悪魔軍の死体をカニが始末しておるのも、満潮時に斜路の終点位置が海岸から1M(150m)ほどの距離にあるからじゃと我は推察する。

 ならば、干潮時にのみ出入できる場所に斜路を作ればどうなるか。我等の攻撃時間は限られるが、1日2回は攻撃が可能じゃ。追ってくる悪魔軍は海に入ってこれるじゃろうか? カニ以上に凶悪な海の魚がおるやも知れぬ。連合王国の海でさえガンダルーがおるのじゃからな」

 

 「分かりました。おもしろそうな作戦ですな。早速、取り掛かります」

 「まあ、待て。ミーア、前と同様に基本となる斜路をバジュラで作ってやるがよい。工事期間をかなり短縮できる筈じゃ」


 席を立とうとしたザイネンさんにサーシャちゃんが付け加える。

 確かにそれなら早そうだな。10日も掛からないんじゃないか。


 「だけど、だいぶ溜まってきたね」

 「うむ。リムの推定では50万を越えておる。北部からの増援はさすがに無いのじゃが、南方からの増援は爆撃で2割を削減するのが精々じゃ。105mm長砲身砲の射程で捕らえられるが、あれは連続射撃が出来ぬからのう。まあ、西に向かって適当に撃てば必ず悪魔軍の中で砲弾が炸裂するのじゃが……」


 「数が足りぬ」とは言わないんだな。

 与えられた資源の中で最大限の効果を得るのが指揮官だと思っているんだろう。それに、西にある隠匿拠点に姉貴がいるから、かなり意識してるに違いない。

 

 「でも、あれだけ敵が集まっていながら、敵の航空部隊がやってこないのが一番不思議なところなんだけどね」

 「それは、エイダス派遣軍の働きじゃ。ネコ族の動体視力と夜間視力は我等を遥かに凌駕する。敵軍の中で羽を持つ者がおれば優先的に爆弾を投下して、機銃で掃射しているそうじゃ。長く続いたエイダス島の攻防で、一番の脅威は敵の航空部隊と認識したのじゃろうな。ミーア隊長の指揮は適切じゃよ」


 レムルの教えが生かされてるのだろう。中々良い治世を行なっていたからな。

 となれば、もう少し資材の輸送量を増やしても良いんじゃないかな?


 「次ぎの便は?」

 「今日にも、やってくるじゃろう。新たな105mm砲が2門と、5機のイオンクラフトじゃ。エイダスのイオンクラフトが全てこっちに来る事になる。エイダスには連合王国から3機を供出するらしい。平和な島になるかと思っておったが、少しきな臭い動きがあるようじゃのう。まあ、それもナグルファルが終れば少しずつ改善するじゃろう」


 例の移民計画って事だろうな。それを早める為にもエイダス派遣軍は頑張ってくれるんだろう。

 当番兵の入れtくれたお茶を飲みながら、タバコに火を点ける。

 まあ、とりあえずは平穏ってことだろうな。


 自分の端末を取り出して、北部の様子を観察する。

 既に悪魔軍の進軍はミーミルの周辺で止まっているから、北部に進軍している悪魔軍の最後尾は数百kmは離れていることだろう。

 ミーミルからゆっくり海岸線に沿って画像を移動させると、無人の荒野が広がっているだけだ。かなり空白地帯が出来たという事だろか?


 突然、画像に黒い蛇のように隊列を組んで北上する悪魔軍の姿が現れた。

 ここから彼らの出発港までは600km以上ありそうだ。


 「北部の残存兵力は300万を超えています。出発港は破壊しましたが、そこに流れ込む兵士は1日で約5万。爆撃で港から100km四方に拡散していますから、悪魔軍の流れが止まったとしても、殲滅にはまだしばらく掛かると推測します」

 

 俺の疑問に答えるように、ディーが教えてくれた。


 「まあ、向こうはガラネスに任せれば良い。ミズキも協力しておるはずじゃ。しかし、ミズキが静かじゃのう?」


 そういえば、何も言ってこないな。ここにサーシャちゃんがいれば、という事なんだろうけど、それにしても……。だいたい、何もしていないはずがない! とんでもない事を考えてなければ良いんだけど。

 仮想スクリーンの画像をギムレーに移動して拡大する。

 表面上は変化がないけど、戦闘工兵がガルパスに荷台を曳かせて土砂を運んでいるぞ。

 どうやら、2つの河川の東側に大きな堤防を作っているらしい。その土砂は隠匿拠点の地下部を拡張する事で出て来たものらしいが、このぐらいの工事で姉貴は満足するのだろうか?


 画像を通常視野からサーマルモードに変更する。これで山麓部や森での活動が分かる筈だ。

 周囲の森で散開して数十人の人が働いているようだ。屯田兵をかなり送っているから、隠匿した畑の世話をしているのだろう。

 画像の範囲を広げて山麓部を見ると、いくつかの集団が確認出来るが、これは哨戒部隊だな。悪魔軍の尾根越えを監視しているのだろう。

 ん? これは何だ。


 明らかに哨戒部隊ではない。

 中隊規模の人員が悪魔軍の進軍する谷を見下ろす急峻な山麓に集まっているぞ。

 

 「どうしたのじゃ? かなり驚いているようじゃが」

 「姉貴の作戦が少し分かったよ。こっちに構わずに、東の進軍を止める手立てはかなり過激な方法だ」


 俺が見ていた画像を拡大してサーシャちゃんにも見えるようにすると、サーシャちゃんが唖然とした表情で身を乗り出した。


 「さすがである。我はまだまだじゃな。じゃが、いつかはミズキを超えて見せるぞ!」

 

 越えられるのかな? そんな事を思ってもみたが、一応確認した方が良いだろうな。


 「山腹崩壊?」

 「間違いない。地形としては理想的じゃ。たぶん深い溝を掘っておるに違いない。大量の爆薬を埋めて一気に谷を埋めるつもりじゃ。我があの場所にいたとしても、そこまでは考えぬ。精々谷を火炎弾の雨で焼き尽くす程度じゃろうな」


 それも、かなり過激だぞ。だが、山腹崩壊によって南からやってくる悪魔軍を残った谷間に溢れさせて焼き尽くすぐらいはやりそうだな。

 その後の進軍数を削減する為の爆撃を大型飛行船で行なえば、かなり早い段階で東の進軍ルートは閉じられる事になりそうだ。俺達もあまりのんびり出来ないみたいだな。


 「う~む。ミズキがそのような作戦を立てるなら、こっちも少し積極的に出ねばなるまい。となると……」


 サーシャちゃんが考え込んでいる。俺がいると邪魔になりそうだから、少し散歩に出てみよう。105mm砲は散発的に射撃を続けているから、様子を見てこようかな。

                  ・

                  ・

                  ・


 15m程の距離を置いて6門の105mm砲が並んでいる。長砲身だから射程は12kmを越えるらしい。掛け声の聞こえる方を眺めると、分隊規模で新たな105mm砲が運ばれている。2門増えるんだったな。


 砲列の後方に、丸太を組んだ指揮所があった。そこに足を運ぶと、警護の兵に足を止められる。

 「誰だ! ここは重砲部隊の指揮所だぞ」

 「アキトだ。様子を見に来たんだが……」

 

 番兵が扉越しに指揮所へ連絡を入れると、扉を跳ね除けるようにして男が飛び出してきた。

 

 「こちらへどうぞ。良く来て頂けました。……おい、良く顔と名前を覚えておくんだぞ。我等がサーシャ様の兄上様だ!」

 男の声で、番兵が俺にぺこぺこと頭を下げる。

 「気にしないで良いよ。キチンと役目をこなしてるんだからね。それに俺はそんなに偉くないよ」


 そう言って、指揮所の中に入った。

 四角い穴を掘って、周囲を丸太で補強した簡単な作りだが、西側の監視窓からは砲列が全て見えるようだ。無線機が1つテーブルの端に置いてあり、通信兵が傍に着いている。指揮所にいるのは5人だが、通信兵と伝令が2人だから、実質指揮をしてるのは小隊長と副官1人になる。


 テーブルの上の地図は100km四方の範囲が示されている。悪魔軍の集結している範囲は鉛筆で表示されていた。


 「良く来てくださいました。連日、砲撃をしておりますが、ザイレン指揮官からは適当に悪魔軍に撃ち込めと言われておりまして、どこを狙って良いのか迷っておる次第です。更に2門増加しますから、やはり効果的に用いねばなるまいと副官と悩んでおりました」


 トラ族は正直だからな。物事をキチンと行なわねばならないという観念がある。そのトラ族に適当にやれという命令はちょっと問題だが、たぶんサーシャちゃんからそう言われた事を、そのままザイレンさんは伝えたんだろうな。


 「それに似た話があるんだ……」

 伝令が急いで俺達にお茶を出してくれたので、それを飲みながら、昔話をしてあげた。

 適当に撃てと言うサーシャちゃんの命令を面白く行なったのがミケランさんとセリウスさん達だったな。


 「そんなんで良いんですか? さいころで場所と時間それに発射する砲弾の数を決めるなんて!」

 「あれは、敵に何時、何処を狙うのか悟られないようにするためだったと思う。サイコロの目は投げる時に決まってないからね。この地図を使って、こんな感じにマス目を作り、縦の数字と横の数字をサイコロで決めれば、そこに全ての砲弾を撃ち込めばいい。次ぎの砲撃は同じ場所になることは無いはずだ。そんな感じで撃っていけば少なくとも命令に背かないし、8発の砲弾が集中するから被害範囲も広がるんじゃないかな?」


 直ぐに、サイコロが用意される。

 非番の時にスゴロクをする連中が多いらしいから、直ぐにサイコロが見付かったようだ。

 サイコロを転がして地図を睨んでいる。 その結果を砲撃方向と仰角に換算して、伝令が走っていく。

 数分後に一斉射撃が行われ、通信機が結果を伝えてきた。

 同一箇所に集中した理由を別途ザイレンさんが確認して来たようだが、小隊長が理由を伝えて納得させたようだ。

 

 「効果の確認が容易だと報告してきました。1度に数百との事です」

 そう言って喜んでるけど、蟷螂の斧に感じるのは俺だけなのかな?


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