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R-031 カニが出てきた


 銃眼や盾の上から銃を出して、ひたすら斜路の奥を狙ってトリガーを引き続ける。マガジンを2本使ったところで、他の連中に自分の場所を譲ってバレルを冷やす。

 2度そんな事を繰り返すた時に、増援部隊がやってきた。


 彼らに場所を譲ると、艤装用の焚き火の傍に腰を下ろして、タバコを取り出した。

 

 「正しくサーシャ様の作戦通り、見事に敵はやってきましたな」

 「ああ、それは認めるよ。でも、少しばかり多いのが問題だ」


 俺の呟きなど聞いていないだろうな。ヤーモンは感動した様子でお茶を飲んでいるぞ。

 さて、これでしばらくは戦闘工兵の出撃が困難になる。


 「アキト様! ……ここにおいででしたか」

 「ああ、増援が来てくれたんで一休みだ。小隊の連中は?」

 「一息入れさせて、弾薬を補充させています」

 

 血走ったアドネスの目とうらはらに、唇は小さく震えている。恐怖心によるものだろう。あれだけの大軍が途切れなく斜路を上ってくるんだからな。イオンクラフトの機銃掃射でかなりの損害を出している筈なんだが、それでも斜路を駆け上ってくる。

 俺が最後に離れたときにはおびただしい死骸で斜路が埋まっていたが、その死骸を踏みつけて奴らは向かってきた。

 死骸で斜路が塞がるまでやつらは攻撃してくるに違いない。


 「アドネス。坐ってお茶を飲め! 戦はこれからだぞ。奴等は角による洗脳で一切の妥協なく戦うことが出来る。ある意味被害者ではあるのだが、俺達では救う事すら出来ない。奴等を殺す事が救う事だと考えることだ」


 力なく俺の横に坐ったアドネスにヤーモンがお茶のカップを手渡した。少しずつ飲んでいるアドネスの震えが少しずつ治まっているのが分かる。ちょっとしたショックだったのかな。だが、それによって行動不能に陥るよりはマシだ。

 たとえ恐怖心からショックを受けても、立ち直れば次に繋がる。


 「お見苦しい所を見られてしまいました……」

 「何、普通の感性なら当たり前だと思うよ。それを次ぎに生かせば良い」

 

 そう言って、2本目のタバコを焚き火で点ける。1時間ほどは休憩できるだろう。先程、他の戦闘工兵達も応援に駆けつけてくれたからな。


 「状況を確認できないか?」

 俺の言葉にアドネスが通信兵を呼び出して、本部に状況の確認を指示している。

 状況が分からねば、いらぬ心配を始めかねない。


 「北西を砲撃しているようです。飛行船は本日8回目の出撃中。狙いは300M(45km)先を進軍中の悪魔軍です。ミーミルの虎口から伸びる斜路はイオンクラフト20機が2つの部隊に分かれて反復攻撃をしているようです。ミーミルの断崖の上からも、グレネードランチャーによる援護射撃が行われています」


 ひょっとして、取り囲まれてるってことか?

 一応、姉貴の目論見通りって事だろうが、次に斜路を戦闘工兵が駆け下りるのはかなり先になりそうだな。

 攻め口が1つで、そこに至るには長い直線的な斜路を登らなければならないというのは、攻め手にとっては不幸な話だ。ある意味、難攻不落な砦だからな。

 今頃はサーシャちゃんがニヤリと笑いながら、地図と仮想スクリーンを眺めているに違いない。

 

 1時間ほど休んだところで持ち場に戻ろうとした時、いつの間にか銃声が散発的になっているのに気付いた。

 相変わらず、爆弾の炸裂音と砲声は聞こえてくるのだが……。

 

 「どうした?」

 「斜路が通れなくなったようです。たまに這い出してくる連中を狙撃してるんですが、数は多くありません」


 横幅6m、高さ4.5mの斜路が悪魔軍の死体で埋まったのか?

 後始末が大変そうだな。だが、今夜は斜路を廻る戦はこれでお終いになるんだろう。


 「アドネス。増援部隊を引き上げさせて、小隊の半数を休ませろ。虎口を守るのは俺達の仕事だから、監視は俺達でやるしかない」

 「了解です。増援ですが、もう1小隊が来てもらえれば私達で何とかできます。1小隊だけで防衛するのは困難かと……」

 「そうだな。指揮官に具申してみるよ」


 斜路の大きさから言えば確かに1小隊で何とかなるのだが、AK47をシングルアクションで使うとなるとちょっと不足だな。バレルの加熱も考えなければならない。2小隊ならば交替しながら対応出来るだろう。


 交替してからは、たまに銃声が響く事もあったが、朝日が当たる頃にはまったく聞こえなくなった。

 斜路はおびただしい死体で埋まっている。この始末を考えると気が滅入ってくる。


 「サーシャ様が呼んでいます!」

 「分かった!」


 通信兵の肩を軽く叩いて、指揮所へと足を向ける。

 小さな焚き火で、朝食の準備が何箇所かで行なわれているようだ。

 給食施設を作ったほうが良いのかも知れないな。


 塹壕を進み指揮所の扉を開けると、士官連中が集まっている。当番兵の案内で着いた席はサーシャちゃんの左側だ。右側にはミーアちゃんとリムちゃんが座っていた。

 当番兵が運んで来たカップにはコーヒーが入っている。ようやく量産化が出来るようになってきたようだ。ありがたく頂いて眠気を覚ます。


 「これで、全部じゃな? ……先ずはミーミルの浮上は成功したと言って良い。これが今朝の状況じゃ」


 席を立つと、ボールペンを伸ばして、後ろの壁に展開した仮想スクリーンに映し出された画像の説明を始めた。


 「皆も知っておるように、ミーミルの内陸側に突出した部分は東西約2km、南北約3km程であるが、その周囲は断崖になっておる。その断崖から約300M(4.5km)ほど離れて悪魔軍は我等を囲んでおる。75mm短砲身砲ではちょっと足りぬな。

 この距離からミーミルまでの奴等の攻撃所要時間は約1時間じゃ。我等の迎撃は1時間の余裕持つと考えて良い。

 悪魔軍の集合は南からのみじゃ。昨夜の攻撃開始時には南から進軍する敵兵の半数以上が、北に進んでおったが、今朝からは北への流れが停止しておる。良い傾向じゃな。これで北部は単なる殲滅戦と考えて良いじゃろう。

 ということで、南からの進軍部隊が続々と我等を取り囲んでいる悪魔軍に合流しておる。現時点で敵の数はおよそ20万。本日中に25万を越えるじゃろう。そこで我等も次ぎの戦に備えねばならん。戦は準備が大事じゃからのう」


 言ってる事は、まともなんだけどな。

 問題はこれからだ。


 「現在3隻ある大型飛行船は、物資の移送に特化するそうじゃ。確かに爆弾と砲弾類の消費量は半端では無いからのう。我からの要請で、105mm砲がやってくるが、攻撃というよりは防御用じゃな。6門来る筈じゃ。それに機関銃が10丁と言っておった。そうそう、新たな増員はエイダス派遣軍が2個小隊じゃ。

 それで、今後の予定じゃが……。

 せっかく集まっておるのじゃ。イオンクラフトで爆撃をする。そうじゃのう……、2回も行なえば良いじゃろう。飛行船はこの流れに沿って爆撃じゃ! ミーアは飛行船の先を強襲するのじゃ」


 ミーア隊長達が席を立って指揮所を退室する。

 とりあえず俺達は休息出来るのかな?


 「我等戦闘工兵は?」

 「まあ、休むが良い。あの斜路を何とかしたいところじゃが、ミーアが帰りに始末してくれる筈じゃ。体を動かしたいなら、ここに池を作って欲しいのじゃ。バジュラに水浴をさせたいのじゃ」

  

 「早速、作らせます。3日は掛からぬ筈です!」

 ザイネンさんが副官を連れて飛び出していったぞ。3日も掛からないんじゃないかな?


 「それで、アキト。少し策を考えてくれぬか?」

 「俺は前線が向いてると、アテーナイ様にも散々言われたぞ。サーシャちゃんのように策を練るのは無理だ」


 俺の言葉を聞き流すように、サーシャちゃんが仮想スクリーンの画像を更に広げる。

 拡大率は下げたから画像に映る範囲は3千km四方になりそうだな。

 

 「よいか、これが問題じゃ。いくら倒しても奴等は来よる。どう数えても進軍する敵の数は1日で10万を下るまい。これを止めるのは至難の技じゃ。爆撃、砲撃で倒せる数は精々3万というところじゃろう。このままではミーミルが落ちるのは時間の問題じゃぞ」


 「その為の、飛行船だと姉貴は言ってたよ。小型飛行船3隻で北部を爆撃している筈だ。それが終ればこっちに合流するだろうし、イオンクラフトの数も増えるだろう」

 「広域制圧が必要じゃ。炸裂弾よりは火炎弾が良いじゃろう。それとも小型の炸裂弾をたくさん積むか……。斜路をもう1つ作るのも手じゃな」

 

 ぶつぶつと呟いてるのが不気味だな。

 だが、姉貴はミーミルまで敵を下げればナグルファルの作戦は完了だと言ってたぞ。

 それには、サーシャちゃんの言う、進軍する数よりも防衛戦で敵の数を減らす必要がある。

 ん? サーシャちゃんは10万って言ってたな。

 この先を見落としているんじゃないか?

 

 「サーシャちゃん。敵はこの辺りは大きな流れなんだけど、この先のジャングルで2手に別れるんだ。北部大陸の東と西に別れて進んでいる。どちらかと言うとミーミルに向かってくる敵の数のほうが少ない。1日で5万と考えれば何とかなるんじゃないか?」


 「何じゃと?」

 そう言うと早速、端末を操作して確認している。どうやら近くと先を見て、途中を見てなかったようだ。


 「本当じゃ。ならば、色々と策があるぞ!」

 そう言って、ハミングしながらミーミルの画像を眺めている。

 サーシャちゃんでもどうにもならない事ってあるんだな。確かに数の前には策は通じないと聞いたことがあるぞ。


 「やはり、斜路をもう1つじゃ!」

 嬉しそうに俺に顔を向けたとき、戦闘工兵の1人が慌てて指揮所に飛び込んできた。


 「どうした!」

 「大変です。カニが……。とにかく凄い数です!」

 「場所は?」

 「斜路の下です。海から続々とやってきます」


 直ぐにサーシャちゃんが、端末のスクリーンを斜路周辺にすると、画像を拡大した。

 確かにおびただしい数だ。倒れた悪魔軍の大きさと比べると甲羅の大きさは1m近いんじゃないか?


 「奴等、悪魔軍を食ってるぞ!」

 「そうです。ミーミルはだいじょうぶなんでしょうか?」

 「案ずる出ない。ミーミルは断崖の上じゃ。そう易々と上がれる場所は無い。強いて言えば、斜路なのじゃが……。確かに亡骸で塞がっておるのう。まあ、亡骸の始末屋と思えば良い。斜路を上がってきても悪魔軍よりは容易く倒せるじゃろう」


 掃除屋のお出ましか……。待てよ。これって、俺達に有利に使えるんじゃないか?



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