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R-029 サーシャちゃんの戦術


 「エイダス派遣軍の2個中隊は監視所に詰めて欲しい。これからは連日の戦になるから、1日交替で休息するのじゃ。じゃが、大攻勢を受けた時は休息中の中隊を投入するぞ。悪魔軍の航空部隊を阻止出来れば、ミーミルは落ちぬ。よろしく頼むぞ」


 サーシャちゃんの言葉に、ミーアと副官はうんうんと頷いている。ちょっと軽い感じがするけど、これはネコ族の特徴だから仕方が無い。


 「攻撃は、小型飛行船に最大爆装をして行なう。ついでに爆裂球をたくさん積んで置くのじゃ。イオンクラフトと違って、機関銃を持たぬから、地上から1M(150m)以上高度を取るのじゃぞ。爆撃コースは、この辺りを集中的にな。エイダス派遣軍から数名借りて奴等の上にたっぷりと爆裂球を落とせばよい。自分も落ちぬようにベルトをロープで柱に縛り付けて置くのじゃぞ」


 ボールペンを、ミーミルの真西から悪魔軍の進軍ルートを北に向けて動かす。


 「次にイオンクラフトじゃ。爆撃コースはこうなる」

 悪魔軍の進軍ルートを南から数kmに渡って爆撃し、真西で終了する感じだな。


 「終了後、コースを逆にたどり、たっぷりと機関銃の弾をばら撒くのじゃ。その後は、西に向けて飛行。機関銃の弾装を交換したら、最初のコースに戻って、悪魔軍を叩け!

 じゃが、弾丸を少し残しておくのじゃぞ。戦闘工兵の撤退を援護せねばならん」


「戦闘工兵は2個大隊を使う。残りの1個大隊はミーミルで待機じゃが、ちゃんと役割はあるぞ。

 2列縦隊で、虎口を出て、斜路を駆け下りるのじゃ。急がずとも良い。巡航で良いじゃろう。第1大隊はここ、第2大隊はここを狙う。注意すべきは悪魔軍との距離じゃ。1M半(約200m)でグレネードランチャーを撃て! 数発で良い。食いつかねば明日もあるじゃろうからのう」


 サーシャちゃんが指示した場所は、ミーミルの西北西と西南西になる。真西に湖と湿地帯があるから陸上部隊ではそうなるだろうな。


 「最後に残った戦闘工兵は24門の大砲をこのように配置せよ。内陸に突き出した崖の上に6門ずつ4箇所に配置すればミーミルの守りは容易じゃ。

 残りの3個中隊は、内陸に張り出したミーミルの断崖の上で待機じゃ。上手く誘きだされて来たら、たっぷりと爆裂球を落としてやるのじゃ」


 少し分かってきたぞ。悪魔軍を散開させて、戦闘工兵が姿を見せて逃げ帰ってくるわけだな。誘き寄せたところを砲撃するって事なんだろうが。ちゃんと戦闘工兵がミーミルまで逃げとおせるかが問題だな。


 「アキトもそんな顔をするでない。かりにも戦闘工兵を作り上げた本人ではないか。時は経ているが、その基本理念はしっかりと受け継がれている筈じゃ!」

 「その通りです。我等戦闘工兵に不可能なし! 工兵と名が付けられていますが、その実態は強襲部隊です」


 野戦築城が目的の部隊だったんだけどな。まあ、言わんとする事は分かるつもりだ。敵を強襲して拠点を作る技量が要求されるんだからな。


 「ですが、この作戦は微妙なタイミングが要求されます」

 ザイレンさんが、おずおずとサーシャちゃんに問い掛けた。


 「承知じゃ。案ずるでない。……ザイレンには済まぬが、一時期、指揮権を譲って貰えぬか? 我等3人で今日1日の指揮を取る」

 「我等一同、既に指揮権はサーシャ様と認識しております。どうか存分に御命じ下さい」


 そんなんで良いのか? と思いたくもなるけど、このミーミル砦の指揮官はザイレンさんなんだよな。だけど、亀兵隊にしてみれば、サーシャちゃんが命じた方が士気は上がるだろう。サーシャちゃんも一応指揮権が誰にあるのかは承知しているようだ。

 指揮官の依頼という事で、臨時の指揮官としてこの砦の指揮を執ることを確認したという事だろう。


 「現場指揮官をミーアとする。副官はリムじゃ。上手くタイミングを計って通信機で指示するのじゃぞ」

 「お兄ちゃんは?」


 ミーアちゃんの言葉に、サーシャちゃんがニヤリと笑った。その笑いは直らなかったんだな。

 

 「5千のスマトル軍を前に1人で立った勇者じゃ。アキトはここじゃな。とは言え、今度の場合は1万を超えるやも知れぬ。砦に残る戦闘工兵からアキトに1小隊を預けよ。小隊規模なら、アキトでも指揮出来るじゃろう」


 まあ、多いと問題だけど……、サーシャちゃんがボールペンの先で示した場所は虎口そのものだ。

 戦闘工兵を追い掛けてきた悪魔軍を殲滅するのが役目になるのかな。


 「そう、気を落とすな。上手く食いついてきたらディーを派遣する。それで十分な筈じゃ」

 長い斜路を駆けて来る敵兵なら小人数で対処出来るという事だろうな。

 現場を見ながら、防戦を考えるか……。


 「外に質問は無いか? それでは、時計を合わせる。今から、1時間後の10時20分に作戦を開始するぞ。リム、各部隊の通信周波数を確認して表を作るのじゃ。部隊長は至急準備を始めよ。副官達はリムより表を受け取ってから戻るがよい」


 相変わらずの命令口調だが、やる事は確実で抜けが無い。

 バタバタと指揮所から人が出て行き、残ったのは10名程度になった。


 「その内、お婆ちゃんもやってくるに違いない。その時は、アキトに頼む事にするぞ」

 「アテーナイ様が?」


 確かに、やりそうだな。実体化出来るのを知れば絶対に前線にやってくるぞ。

 サーシャちゃん達の実体化による、身体機能の上昇はディーには及ばないと言ってたけど、それなりに高そうだ。それをアテーナイ様が行ったら……、試合の申し込みは避けるべきだな。


 リムちゃんが数枚の小さな紙片を渡してくれた。通信周波数の一覧表だから、小隊の通信兵に渡しておけば十分だろう。自分の分を別に確保してポケットに入れて置く。


 「それじゃあ、行ってくるよ。サーシャちゃんも無理はしないでくれよ。リムちゃん

、ミーアちゃんを頼んだよ」


 俺の言葉に頷いてくれたリムちゃんの頭を撫でて、指揮所を後にする。

 

 作戦開始時刻まで残り40分だ。俺達の出番は、早くて作戦開始数時間後になるだろう。その前に状況を確認して用意するものがあれば準備しておかねばなるまい。


 迷路のような塹壕を抜けると、平らな大地が広がっている。1500人の亀兵隊が並んでいる先が虎口になる筈だ。

 六文銭の旗印は今も健在で大隊の一角に数本背中に背負った連中がいる。良くみると、もう1つ旗を背負っているが、その旗は部隊を区別するものなのだろう。


 そんな連中の前を腕を上げて通り過ぎると、一斉に片手が空に上がった。士気は極めて高そうだ。頑張り過ぎないように注意する必要があるが、その辺りは現場指揮官のミーアちゃんが心得ている筈だ。


 虎口には、木製の大型の盾を組み合わせて簡単な塀が作られている。それが無いと、どこにあるか分からないぐらいに平らな土地だ。

 虎口から降りた先は右に曲っているから、迎撃するなら虎口の斜路の左側になる。

 そちらに歩いて行くと、数十人の戦闘工兵が俺を待っていた。


 部隊から2人が足早に歩いて俺の前に立った。

 「344小隊のアドネスです。こちらは副官のフレッダー。アキト殿の指揮下に入ります」


 第3大隊第4中隊の第4小隊ってことになるな。小隊長は女性だが、副官は男性だ。ミケランさんにちょっと似ている女性だ。

 

 「アキトだ。しばらくは俺の指揮下になるけど、一時的だからあまり気にしないでくれ。先ずは状況を説明してくれないか?」


 歩きながら、アドネスの説明を受ける。

 装備は標準的な戦闘工兵の持ち物だ。とりあえず、悪魔軍の航空部隊に備える為に塹壕を掘り始めたらしい。


 小隊の通信兵にリムちゃんから貰った周波数の割り振り表を渡して、周辺を歩いてみる。


 虎口の左側は南に少し張り出した格好だ。たぶんここを虎口とした理由は、この張り出しなんだろうな。10m程だが、迎撃部隊を並べるには十分だ。張り出した先端に行って下を除くと、断崖ではあるが、垂直部は数mもない。後は急峻な斜面になっている。

 悪魔軍の身体能力が高くても、60度を越える斜面は20mもの高さを持つんだから、早々登れるものではない。だが、一応備えは必要になるな。


 「斜路に沿って、板塀を並べて塀を作るんだ。終点は断崖から50D(1.5m)程の場所にして、そこから東に盾を並べてくれ。長さは、南北それに東とも100D(30m)で良いだろう。塀の後方10D(3m)に塹壕を掘ってくれ、今掘っている場所へも塹壕で繋ぐんだ。焚き木と水、それに食料も運んでおいた方が良いな。場合によっては戦が長くなるから、弾薬も運んでおいて欲しい」


 直ぐにフレッダーが分隊長を集めて指示を出し始めた。

 作戦開始まで20分。攻撃部隊は準備は簡単だけど、迎撃部隊はそうは行かない。西に展開した大隊も、今頃は大忙しだろう。


 戦闘工兵ならば木製の盾を2枚持っている。20人程が小隊の盾を次々と並べて連結していく。どこからか盾を調達してきて更に簡単な塀が伸びる。


 ブーン……。

 低いプロペラの唸り声を上げて俺達の上空に飛行船が飛立っていく。

 いよいよ作戦が始まったようだ。

 

 「盾をしっかり固定しておくんだぞ。直ぐに2個大隊の戦闘工兵がこの下を通る!」

 

 俺の言葉に、数人の兵士が片手を上げて答えている。分かってるって事だろうが、下の斜路に塀が転落したら大事故になりかねないからな。

 

 「心配無用です。木杭を10D(3m)置きに打ち込んで盾の下部を押さえています」

 

 アドネスが俺に答えてくれた時、ウオォォォ……という声と共に振動が伝わってきた。その声の方向を見ると、一斉に戦闘工兵を乗せたガルパスが虎口に押し寄せてきている。良くみれば2列縦隊なんだけど、迫力半端じゃないな。もっと数が多いんじゃないかと錯覚を起こさせるだけの迫力だ。

 振動がなおも続いて、盾がガタガタと揺れている。もうしばらくは続くんだろうが、この斜路の両側の壁が崩れないか心配になってきたぞ。


 しばらくすると、唐突に振動が止んだ。1500の戦闘工兵の出陣が終ったのだ。

 

 「私達はちょっと残念に思います」

 「そうでもないさ。彼らの帰りを守るのが俺達の仕事何だからね。やることがたくさんある。他の部隊をうらやむ暇なんて無いぞ!」


 迎撃の準備が終れば、敵の夜間攻撃にも備えねばなるまい。敵の「メルダム」攻撃は穴を掘って、上に板を乗せれば被害を軽減出来る。何とか夕暮れまでには簡単な作りでも、そこまで終える必要があるな。

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