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R-028 ミーミル浮上


 ナグルファル作戦初日の俺達の戦果は1万を少し超えたぐらいらしい。共食いがいたるところで行われてから、午後には何事もなかったかのように、悪魔軍の新たな進行が行われている。

 脅威の程度が引くいと認識されてるのかな? やはり、小型飛行船を使った爆撃を早期に開始することが一番なようだ。

 とは言え、ユーラシア大陸に近い、大西洋北部の島を1つずつ確実に殲滅するのが姉貴の作戦になるから、俺達はこんな感じで良いのかもしれない。

 

 出撃して2時間もしない内にサーシャちゃん達やミーア隊長が帰ってきた。

 「だいぶ叩いてやったのじゃ!」何て言いながら従兵の出してくれたお茶を飲んでいる。


 「相手が強大だから、現状はこんなもんだろうな。問題は今後だ。海を渡る悪魔軍が無くなると、この砦を餌にしなければならない」

 「昼過ぎに飛行船がやって来ます。大型の上だそうですから、ミーミル守備兵の増員が図られるはずです」

 

 最終的には3個大隊と言ってたな。全て亀兵隊とはいかないだろうが、少しでも増やしておきたいものだ。

 

 「少し考えてみたのじゃが……。虎口を作るのは良いとして、場所が問題じゃな。ここはどうじゃ?」

 

 サーシャちゃんが提案してきたのは南の岸壁だ。始点となる場所は海の上になる。終点でも海から300mは離れていないぞ。

 場所的には、ちょっと考えるときがあるが、土木工事の音を聞きつけられることはある程度避けられるな。

 

 「戦闘工兵2個中隊が駐屯しておるのじゃ。イオンクラフトの爆弾投下にあわせて爆裂球を使えば良い。最初の斜路は我等が少し手伝ってやろうぞ」


 最後の言葉に、思わずディーと顔を見合わせる。ディーが小さく左右に顔を振っている。サーシャちゃんの手伝いという最後の言葉が問題だな。ディーにも理解できないか。


 「穏便に頼むよ。まだ俺達の出番じゃないからね」

 「分かっておる。明日の帰りにでも始めるぞ」

 「爆裂球の在庫の確認だ。足りなければエントラムズの総指揮所に連絡して取り寄せるんだ」

 

 副官のレイニーさんにザイレンさんが告げると、彼女は通信室に姿を消した。

 サーシャちゃんの要求だと言えば、千個単位で送られてくるに違いない。爆裂球は爆弾代わりにも仕えるから、多く集めても問題はないだろうけどね。

 

 次の日。前日と同様に出掛けて行った、サーシャちゃん達を見送って、指揮所の仮想スクリーンで様子を見る。

 攻撃方法も同じだが、悪魔軍の対応も変化がない。戦果もたぶん似たようなものなんだろうな。

 イオンクラフトの搭載できる爆弾が100kgまでだから、戦果の拡大は更にイオンクラフトを増やす以外手はないようだ。小型飛行船の運用は、海を渡る悪魔軍がなくなってからだろう。

 姉貴からの連絡では、兵員船の数は100隻を下回ったようだが、どこに隠匿されてるか分からないからな。悪魔軍の侵攻が始まってから数百年が経過している。途中経由する島だって、そんなに小さな島ではない。

 それでも、一番ユーラシア大陸に近い島は、昨日島全体が炎に包まれたようだ。

 数日過ぎてサーマル映像で確認すれば生き残った者がいるかどうかが分かるだろう。

 

 「バジュラの飛行ルートが昨日と違っています。このままでは発着場を逸れてしまいます」

 「サーシャちゃんから連絡は?」

 突然、俺に話しかけてきたディーに確認を取る。

 

 「ありません!」

 「なら、昨日の件だな。大方、虎口の斜路を作る場所を帰りに再確認してるんだろう」


 その時、ドオォン! という炸裂音と振動が伝わってきた。

 

 「振動源方向、バジュラより10度ずれています。大気中イオン濃度若干上昇!」

 「それって?」

 「荷粒子砲が使われたと推測します。出力はそれ程ではありませんから、数mの穴が空いたぐらいではないでしょうか?」

 

 そんな話をしていると、続けて次の爆発音が届いた。振動で天上から砂が降ってくるぞ。確かに穴を開けるのは楽なんだろうけど、俺達に影響がないか心配になってきた。

 荷電粒子による放射化なんて話も聞いたことがあるからな。

 

 「俺達はともかく、守備兵の健康に問題はないんだろうな?」

 「バビロンに確認済みです。この程度の威力で放射化する物質はないと言っていました」

 

 何度か続けられた爆発が終ると、急に静かになった。

 急いで、この砦の状況を科学衛星の画像で確認する。ザイレンさんも、伝令を走らせて地上から確認するみたいだな。


 砦の中程に、南に向かった亀裂が出来ていた。

 拡大すると、状況を確認しに来ている戦闘工兵の姿が見える。ガルパスの甲羅の直径は約1.5m位だから、亀裂の横幅は6mを超えているぞ。緩やかな斜路になって断崖を切裂いている。

 サーシャちゃんの案だと、次は断崖に沿って斜路を作りことになる筈だ。これはバジュラでは難しそうだから、残りが亀兵隊の工事になるんだろうな。


 指揮所に戻って来たサーシャちゃんが、残り4日だと、言う意味が分からなかった。

 その翌日。今度は断崖に対して斜めに荷粒子砲を放ったらしい。

 4日後には、深さ2m、高さ5m程の斜路が、最初に作った斜路に接続されて平地に届いた。

 

ナグルファル作戦は順調なのかどうかは直接分からないけど、姉貴達は2番目に近い島を攻撃しているようだ。大きな島だから時間が掛かりそうだな。

 戦闘工兵達は、サーシャちゃんが作った斜路を整備中だ。連合王国から届いた爆裂球は2千個を超えている。

 ミーミルに近い悪魔軍を爆撃しながら、工事しているから向こうに気付かれることはないと思う。

 

 そんなある夜。資材を満載した小型の飛行船がやってきた。

 資材といっしょに来たのはユング達だ。

 直ぐに指揮所へとやってくると、どうやらミーミルに飛行船を1隻常備させることが出来るようだ。


 「悪魔軍の輸送船は殆ど壊滅した。この大陸北東にある奴らの軍港も爆弾で壊滅している。新たな船を作っているようだが、浮かべる前に破壊しているから、ナグルファルの初期段階は過ぎたんだろうな」

 「だが、いくら攻撃しても奴らは南からやって来る」

 

 「そうだ。南アメリカは無傷だからな。そして、北米大陸に奴らがドンドン増える。ナグルファル中盤戦は北からの追い落としだ。となると、ミーミルにも頑張ってもらわないとね」

 「毎日、1tは落としているし、サーシャちゃん達も活躍してるんだが、まるで減った気がしないぞ」


 「少しずつ減らせればいいんじゃないかな? エイダス島から新たに10機のイオンクラフトがやって来る。爆弾が足りなくなるんじゃないかと思って、爆裂球も運んできたぞ」

 「周囲100km程度を爆撃するよ。まだまだミーミルを表に出したくないからな」

 

 「バジュラがおとなしいが、使えるのか?」

 「ああ、少なくともイオンクラフト10機以上の戦果を上げてる。それに、荷粒子砲で斜路まで作る始末だ。潜在的な戦力は大型飛行船を遥かに凌ぎそうだ」

 

 「そうだ。ミズキさんから、あの嬢ちゃん達が実体化したと聞いたぞ。それで、これを持って来たんだが、後で渡してくれ。お茶をご馳走様!」

 

 バッグから取出したのは、MP-5じゃないか? しかもグレネードランチャー付はヤバくないか。

 フラウが同じようにバッグから箱を取出した。ラベルを読むと、MP-5用の強装弾とグレネード弾だ。

 そんなのを持たせたら、先頭に立ちたがるに決まってるんだけどな。

                  ・

                  ・

                  ・


 小型飛行船で落とすのは100kgナパーム弾が3つに、100kg炸裂弾3つになる。最大爆装時には、20個を積めるが、まだその段階に達していないと、姉貴が言っていた。折角だからと、爆裂球を3個まとめたものを、20個程積んで落としてるようだ。

 作戦開始10日を過ぎると、イオンクラフトも新たに10機増えて、それなりに活躍している。

 監視所から眺める奴らの進軍の様子も前と比べて少しは減ったような感じに見える。

 大西洋の北に浮かぶ悪魔軍の中継基地となった島は、残り1島になった。その島でさえ仮想スクリーンでは爆撃で見る影もないし、未だにナパーム弾の炎があちこちで見受けられる。

 このミーミル砦を表に出すのは近いようだな。

 

 「新たに2個中隊がギムレーから派遣されてきます。戦力は戦闘工兵3個大隊。それにイオンクラフトに飛行船。更には我等が守護神バジュラがおられます。何時、表に出てもだいじょうぶですぞ」

 「そうだな。エイダス島からも1個中隊がやってきたから、防衛にも余裕が出てきた。心配なのは弾薬類だが……」


 「すでに3つの倉庫が満杯です。半島の奥の岩場を利用して仮設倉庫を2つ作りました。今度の定期便で運ばれた弾薬は野積みしなければなりません」

 「虎口の使い具合は?」

 

 「横2列で巡航状態で出入り出来ます!」ザイレンさんが力強く言い切った。

 どうやら、全ての準備が整ったと言うことだろう。

 

 「もう1つ、準備するものがあるぞ。……水じゃ。水素燃料製造には欠かせん。それに我等のバジュラも大量の水が必要じゃ」

 「貯水槽が2つあります。10日はだいじょうぶです」


 連合王国から緊急輸送するとしても2日あれば十分だ。

 だが、サーシャちゃんは首を振った。


 「足りぬ……。じゃが、それはバジュラを西の湖に沈めれば良いだけじゃな」

 「ミーミルの資源をあまり使うのは問題ですよ」

 

 そう言った、ミーアちゃんの言葉にリムちゃんも頷いてるぞ。あのバジュラにはまだ何らかの秘密があるんだろうか?

 ディーに小声で、バジュラの調査をお願いする。直ぐにディーが席を立って指揮所を出て行った。

 

 2日程過ぎて、ギムレーの姉貴から通信が届いた。

 「浮上せよ!」

 その文面に俺とザイレンさん、サーシャちゃん達が頷いた。


 早速、サーシャちゃんが、ポケットからボールペンを取り出すと、それをシュルリと伸ばす。アンテナみたいだな。そうだ。前の世界で先生がそんなのを持って黒板を指していたぞ。


 「日時が指示されていないという事は、勝手にして良いという事じゃ。じゃが、目的だけは明確じゃ。このミーミルに悪魔軍を引き付ければ良い。その方法じゃが……」


 サーシャちゃんが、テーブルの地図を指しながら、作戦を説明を始める。

 かなり際どいけど、サーシャちゃんを指導したのが姉貴だからだろうな。ちょっと忙しくなりそうだけど、役割分担はしっかりしてるから、各隊が作戦通りに動くならば問題は無いだろう。


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