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R-027 ナグルファル作戦発動


 ナグルファル作戦開始を明日に控える深夜。

 東方より、未確認飛行物体が猛スピードで接近してくるとの知らせが監視所から届いた。

 指揮所から慌てて、銃を担いで飛び出した俺達が目にしたのは、青白いイオン噴流を周囲に撒き散らしながら回転して降りて来るバジュラだった。

 

 「我等が守り神だ……」

 呟いたのは、ザイレンさんだ。周囲の戦闘工兵達も敬虔な表情で頭を下げている。

 

 ズン! 重い衝撃が足元から響くと、バジュラは俺達の前に降り立って、ゆっくりと手足と頭を伸ばす。

 俺達を見下ろすように下げていた頭の動きが止まり彫像のように生気が無くなる。

 この場で俺達を見守るつもりなのかな?

 そんなことを考え始めた時だ。バジュラの胸元がハッチのように開くと、内側に刻まれた階段を降りて来る人影が見えた。

 

 降りて来たのは3人。見間違うことなどない。ミーアちゃんにサーシャちゃん、それとリムちゃんだ。

 トコトコとミーアちゃんが俺に走ってきたので、思わず抱きとめてハグしてあげる。

 次にやってきたのはリムちゃんで、最後はサーシャちゃんだ。

  

 「さて、明日じゃな。どんな具合なのじゃ?」

 俺から離れたサーシャちゃんが悪戯が成功したような笑顔を見せる。


 「ミーミルの指揮所にご案内いたします」

 ザイレンさんがうやうやしく、3人を指揮所に案内していくのを見て、俺達も後に続いて歩き出した。ふと、バジュラに振り返ると、ゆっくりとハッチが閉じていく途中だった。


 指揮所の大きなテーブルに俺達が座る。ミーアちゃん達以外に新顔が2人いるぞ。たぶん、中隊長達だろうな。もう1人の新顔はエイダス航空隊のミーアちゃんだ。2人同じ名前だとわかりずらいな。エイダスのミーアちゃんはミーア隊長にしよう。


 サーシャちゃん達の服装は、迷彩色の野戦服だ。同じ迷彩色の帽子を被っていたが、今はくるくる丸めて肩口に差し込んでいる。

 装備ベルトには拳銃のホルスターと小さなバッグと水筒が下がっている。顔は少女時代のままだけど、体形は少しスレンダーさが無くなっているな。そんなに胸はなかったはずだけどね。


 「我々の任務は南の敵兵の間引きじゃ。ミーミルを離れてこのように大きく時計回りに敵を襲えば、この場所を見つけることはできまい。砦が襲われた時は、少しは加勢できるじゃろうが、我等の部隊を持たぬゆえ、我ら3人で数人の働きが出来るだけじゃ。あまり過信せぬように」

 

 「サーシャ様達を頼りにするなど、とんでもございません。サーシャ様達がおられるだけで我ら10倍の働きが出来まする」

 

 そんな事を中隊長の1人が言ってるけど、新興宗教じゃないんだから妄信は良くないぞ。だけど、初期の亀兵隊達も似たようなところがあったな。

 ある意味、アルトさんを含めた嬢ちゃんずのカリスマが高いせいなんだろうな。

 

 「ナグルファル開始まで、残り10時間。確か、この砦はミーミルじゃったな。……先ずはダンマリか?」

 「私らが爆弾を落としに行くにゃ。爆弾2個を抱えて出掛けるにゃ!」

 

 俺達をジロリと眺めながら言ったサーシャちゃんの言葉に、ミーア隊長が元気に返事をする。

 

 「確か、火炎弾じゃったな。それもおもしろそうじゃのう。じゃが、イオンクラフトでの爆撃では精々、80M(90km)先が良い所じゃ。この辺りじゃな」

  

 サーシャちゃんが銀貨を1つ地図の上に置いた。

 まあ、そんな所だろうな。大きく迂回して東から攻撃するから作戦範囲は100km以内に抑えなければなるまい。航続距離が400km以下なんだから無理はできないな。

 

 「我らは少し先を狙うぞ。この辺りじゃ!」

 地図に金貨が載せられた場所は殆ど地図の末端だ。200km先を狙うってことか?

 

 「バジュラの連続稼動は10日間。それが過ぎれば20日は水中で休まねばならぬ。1日1回の出撃をこの距離で行うのであれば、バジュラに水を与えれば十分じゃ」

 

水素製造装置を内在してるって事か? 10日間の連続稼動が可能と言うのであれば内在する燃料の量も多いんだろうな。

だけど、水素タービンエンジンでは水中では使えない。動力源がちょっと気になるところだ。

 だが、もっと気になるところがある。3人の体だ。おおよそのところは何となく分かってるつもりだが一応確かめねばなるまい。


 「ところで、3人とも何でその姿なの?」

 「これか? バビロンで手に入れたのじゃ。あそこならディーと同じような体を手に入れることが可能じゃ。電脳がどうとか言っておったが、我等の思念が取出せれば容易らしいのう。素体は汎用と言っておったから、ディーのように空は飛べぬ。昔の我らよりも少しは丈夫な体じゃ」

 

 少なくとも物騒な武器は持ってないって事だな。バジュラも物騒だけど、嬢ちゃんず過激なところがあるからな。レールガンなんか装備してたら俺達だって巻き添えをくいかねない。ちょっと安心した。


 「体の構造はディー姉さんと殆ど変わりません。ずっと、お兄ちゃんと一緒ですよ」

 ミーアちゃんの言葉にリムちゃんも頷いている。

 それもうれしいところだ。だけど、この時期だから姉貴に使われそうな気がするな。


 昔の話をしながら時間を過ごす。

 もうすぐ夜が明ける。残り3時間というところだな。


 作戦開始2時間前に、ギムレーから通信が届く。どうやら姉貴はギムレーにいるらしい。作戦開始時刻に変更無しとの事だから、俺達の方にも問題が無い事を伝えておく。ミーアちゃん達が実体を持った事は後でサーシャちゃん達が伝えるそうだ。


 「一応、監視所に人を配置しておけば十分でしょう。10日ぐらいはこのまま爆撃を継続します」

 「了解じゃ。30分前に搭乗して、作戦開始時刻に出発するぞ。エイダスの部隊も

それで良いな」

 「ミーアにゃ。分かったにゃ!」

 ミーア隊長の言葉に、ミーアちゃんが驚いてる。同じ名前の人物がいるとは思わなかったんだろうな。

 

 「ミーア隊長の名前はミーアちゃんからとったみたいだよ。ミーアちゃんはネコ族の人達には慕われてるんだ」

 俺の言葉に途惑ってるみたいだけど、リムちゃんの「良かったね!」の言葉に小さく頷いてる。それなりにうれしいに違いない。


 「アキトはどうするのじゃ?」

 「ここで留守番だ。これをどうするか考えてるんだけど、大工事になってしまうんだよな。姉貴に相談したら爆破しろって言われたけどね。だけど、そうしたら砦は敵軍に分かってしまう。出来るだけ隠匿しておく手を探してるんだ」


 俺の言葉に、地図に鉛筆で描いた虎口をしばらくサーシャちゃんが眺めていた。

 

 「我も、ミズキと同じ意見じゃ。それが最も早いが、色々と方法が考えられるぞ。とりあえず作戦を開始してからじゃ」

 

 残り2時間。

 従兵が簡単な朝食を運んできた。

 食事を取りながら、仮想スクリーンを展開して、要所の状況を眺める。

 大陸西岸部に6隻の飛行船が並んでいるのは壮観だな。

 画像を移動させると、数は少ないが、悪魔軍の兵員船はいまだに健在だ。新たに作ったのもあるんだろうな。

 そう言う意味では、この大陸の北東にある悪魔軍の港と造船施設の破壊は急務だろう。

 ロスアラモスは人影がない。1個小隊が警備しているようだが、今では単なる倉庫だからな。地下施設を埋設するのも今年中には行われるだろう。

 

 作戦開始30分前。ミーア隊長とサーシャちゃん達が席を立った。

 10分前になると、俺達も席を立ってバジュラやイオンクラフトが並ぶ発着場に出向く。

……残り、1分。各機が水素タービンエンジンを動かし、イオンクラフトからイオン噴流が噴出し始めた。バジュラは4肢と頭を引っ込めている。その穴の奥が赤く光っているぞ。

 

 「敬礼!」とザイレンさんが叫ぶ。俺達がそれにあわせて右手を胸に置く。

 鼓動が5つ打った時、一際高くエンジンが唸りを上げて、次々とイオンクラフトが東に向かって飛び立った。

 10機が飛び立った後にバジュラが20m程上昇して回転を始める。そして同じように東に向かって行った。

 数日は問題ないだろうが、継続すれば向こうも何らかの手を打ってくるだろう。

 悪魔軍の航空部隊は自力飛行だから、それ程航続距離がない。それでも夜間襲撃に備えて、夜目の利くネコ族の部隊が欲しくなるな。

 

 指揮所に戻って、端末を使い仮想スクリーンを広げる。

 イオンクラフトとバジュラの攻撃結果を確認せねばなるまい。

 指揮所のテーブルに着いたのは数人だ。戦闘工兵の中隊長達は、新たな資材庫を作るために現場に出掛けたようだ。

 弾薬は攻撃を受けて全てを失うことがないように分散して保管するから、工事の進捗が捗らないと言っていたな。

 その上、虎口用の斜路を作れとは、ちょっと言い難らくなってきたぞ。

 

 「約1500M(約225km)先の軍勢が散開しているようです。サーシャ様達の働きでしょう」

 「俺も前の作戦で目にしたけど、あんなのが飛んできたら手に負えないな。逃げるのが一番と思っていたが、敵も同じようだ」

 100km程滑走して戻ってくるようだ。今の状態では敵の殲滅よりも流れを止めるのが主眼だから、敵の進行速度を遅くしただけでも効果がある。 

拡大した画像の中で、バジュラが東に方向を変えて、急速に悪魔軍から遠ざかる。これで、今日のバジュラによる攻撃は終了ってことだろう。

テーブルの上に広げられたスクリーンが北に移動する。

スクリーンには、地上を進む悪魔軍の頭が、小さな点になって映し出されていた。

 

 「そろそろ、爆撃が始まりますぞ!」

 固唾を飲んで見守っていると、紅蓮の炎が大地を染め始めた。

 50kgのナパーム弾だと、あれぐらいなんだろうな。黒い川の流れにも見える、悪魔軍の進攻に小さな穴を空けた感じだ。クモの子を散らすような敵兵の動きは、機銃掃射から逃れる為に違いない。

 機銃の円盤型弾装は60発だ。1機に4丁搭載されているはずだから、弾装交換を行えば500発近い弾丸が放たれることになる。10機で5千発になるのだが、この画像に写っているだけで軽く10万は超えているはずだ。敵にとっては消耗範囲で済ませられるのかも知れないな。

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