表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/157

R-026 ミーミル砦


 「ふ~む……。我等に砦の南を任せるというのじゃな?」

 「砦の兵力は1個大隊に未たない。この大陸西岸への悪魔軍に侵攻ルートの真ん中に砦を作って流れを遮断するのが目的だ」

 

 リオン湖に面した別荘の庭にあるテーブルセット、それが俺の心象世界の1つになるらしい。大勢の連中がやって来るけど、今日はサーシャちゃん達3人だ。

 大きな作戦地図を広げて、ナグルファル作戦の概要を説明したのだが……。

 あまり納得していないようだな。


 「ミズキの作戦では、この砦を100万の敵兵が囲むことになるぞ。確かに、攻め口は西のみになるが、100万の兵を使い捨てるなら、高さ70D(21m)の断崖であろうと障害にはならぬ」

 「その為に武器を発展させたのですね?」

 「スマトル戦の大砲よりも強力になってます」


 色々と話をしているぞ。まあ、3個中隊で守れというのは俺にも無理な話だと思うんだが、姉貴の考えでは十分な兵力らしい。


 「なるほど、装備が進化しておるのう……。じゃが、まだ不足じゃ。75mm砲を12門それに、使役用のガルパスを30運ばせることで、この砦を守ってみせようぞ」

 

 ミーアちゃんとリムちゃんもうんうんと頷いているから、それで十分な兵力になるらしい。そんなんでだいじょうぶなのか? 俺の方が不安になってきたぞ。

 

 そんな話を、次の日に姉貴にすると、俺に向かって小さな笑い声を上げた。

 姉貴にとっては予想範囲ということなのか?


 「さすがはサーシャちゃんね。要求はほぼ私の想定内よ。兵站部局には私から連絡するから、アキトはミーミルをお願い!」

 「まあ、何とかしなくちゃならないようだね。姉さんはギムレーに行くんだろう?」

 「ユングがラミィを付けてくれると言ってくれたから、安心出来るわ。イオンクラフトも何機か揃ってるしね」


 位置的には同じ緯度にあるけれど、姉貴はミーミルを餌にするみたいだな。ギムレーは反攻拠点だから守るには適さないという事なんだろう。万が一、西の侵攻ルートを進む悪魔軍が散開して襲うことになっても、2個大隊でしばらくは持ってくれるはずだ。

 

 2日後に、大型飛行船でミーミルに向かう。積荷は12門の75mm短砲身砲とガルパスだ。1隻では足りずに。小型飛行船が同行している。

 前にロスアラモスに向かった時よりも快適ではあるが、殆ど海の上だから退屈になるな。たまに現れる大型の水生生物を眺めるぐらいしか楽しみがないぞ。


 ミーミルに到着する数時間前、後部ハッチでタバコを楽しんでいた俺は、気が付くとリオン湖のテーブルに着いていた。

 テーブル越しに3人の少女が俺を見ている。


「やって来たな。早速じゃが我らは一度バビロンに向かう。その後はミーミル砦に向かうから作戦開始時には間に合う筈じゃ。頼んでおいたものが出来上がったようじゃからのう」

 

 それだけ俺に伝えると、席を立って俺に手を振りながら消えて行った。

 一応、砦に来るということだよな。それにしてもバビロンに何を頼んだんだ?

 

 「落ちますよ!」

 ディーの言葉に、ふと我にかえる。

 指に挟んだタバコの灰が落ちそうになっているのに気が付いて、携帯灰皿にタバコを押し込んでバッグにしまいこむ。


 「後、どれぐらいだ?」

 「3時間というところでしょう。まだ大陸は見えませんが……」

 

 先遣隊は亀兵隊というからには、戦闘工兵達に違いない。

 ユングの話では半地下構造で倉庫を作ってると言っていたけど、先ずは敵の航空兵力に対応する防備からだな。

 イオンクラフト部隊は10機と聞いているが、作戦が開始されれば増援も期待できるだろう。


 飛行船が減速して高度を落とし始める。まだ、夜明けには間があるし、逆光になるから悪魔軍の侵攻ルートからは見えないだろう。

 そんなことを考えながら、外していた装備品を付けてAK47を肩に引っ掛けた。ディーも俺と同じように銃を担いでいる。山岳猟兵用の帽子はお揃いだ。

 ハッチから下を覗いていると、明かりが5つ十字に見える。あれが着地場所らしい。


 「先遣部隊の隊長が迎えに出ているとのことです」

 「ありがとう。任務は大変だろうけど、俺達にはあんた等が頼りだ。頑張ってくれ!」


 操縦室の方から荷物越しに声を掛けてくれた飛行船のクルーに返事をする。

 どんどん高度が下がっていく。ディーが高度を教えてくれるんだけど、既に50mをきっているぞ。


 「そろそろ降りましょうか?」

 「そうだな。荷物卸の邪魔をするのも問題だな」


 俺が答えるよりも先に、ディーが俺を後ろから抱えると、開放されたハッチから飛び出した。

 「先に下りるぞ!」

 倉庫の奥に向かって大声で連絡しておく。途中で落ちたと思われても大変だからな。

 「飛行船の操縦席に連絡を入れておきました」


 イオン噴流を羽から噴出しながら飛行船から距離を取って俺達は地表に降り立った。

 そんな俺達に2人の兵士が駆け寄ってくる。

 壮年の男と娘さんはどちらもトラ族出身だな。ヒゲの張った具合と筋肉の付き具合ですぐに分かる。

 

 「アキト殿にディー殿ですね。私が先遣部隊指揮官のザイレン、そして副官のレイニーです」

 「アキトです。ザイレンさんの幕僚ぐらいに考えてください。それで、現在の状況を教えて貰えませんか?」

 

 「こちらです。是非、ご意見を伺いたい」

 そう言って、俺達を案内してくれる。

 意外と、平らな場所だな。これでは施設を作るのが大変だろう。悪魔軍のルートからは20km程離れているらしいが、空を飛ぶ連中ならば十分監視が出来るからな。

 少し歩くと、塹壕に入った。横幅は1mぐらいだが、深さは2m近い。所々雑草で偽装が施されているから、注意して見ないと分からないだろうな。

 少し進むと、左右に扉がある。大きめの扉をザイレンさんが開くと俺達を中に入れてくれた。

 数段の階段を降りて部屋に入ると、丁度教室位の大きさだ。

 中央に大きなテーブルがあり、周辺の詳細な地図が載せてある。

 

 「どうぞ、お座りください。ここが砦の指揮所になります。端末は1台。通信機は隣の部屋に5台あります。2台は遠距離用で連合王国の指揮所と西の隠匿拠点ギムレーと結んでいます。残り3台は内部通信用です」

 「地面を掘った土で半地下作りの施設を隠蔽してるようですね?」

 

 「分かりましたか? イオンクラフトを上に上げて、自然な丘に見えるようにしたつもりです」

 「75mm砲が合計で24門になります。その隠蔽工作もお願いします」

 

 端末を使ってスクリーンに既存の大砲やイオンクラフトの隠蔽を説明してくれた。小さな林を作った感じだな。周辺の島から植栽用の木々を運んだらしい。

 そんな林が何箇所かに点在している。ミーミルの唯一の問題は補給だ。

 部隊規模が小さいとは言え、イオンクラフトによる爆撃を考えれば、弾薬と燃料は必要になる。

 

 「イオンクラフトの燃料備蓄は十分なんですか?」

 「20機で3作戦分。それ以外に、ユング殿が太陽電池パネルなるものを設置して行きました。水を分解して燃料に加工できるようです。この岬の先端部分に設置してあります」

 

 1日1回は出撃出来そうだな。

 サーシャちゃん達ばかりに苦労させるわけにはいかないだろう。

 それに、作戦開始後直後にミーミル砦を見付けられることはないだろう。この砦が見付かるのは、悪魔軍の進軍が停滞して周囲に拡散し始めた時になるはずだ。

 ナグルファル作戦開始まで後3日。ガルパスの搬送はぎりぎりだろうけど、この断崖の半島からどうやって下ろすんだろう? 坂道だって作られていないぞ。

  

 ディーに虎口が無い事を姉貴に伝えて貰った。

 帰ってきた返事には、ユングを向かわせるということだが、ユング達だってそんなに簡単じゃないと思うんだけどね。

 

 「監視所は5箇所作ってありますが、現在は西と南北のこの3つです。この砦を発見された場合はこの南北の2つに兵を派遣します」

 

 ザイレンさんの指差した箇所は資材の集積場を囲むように3箇所になっている。敵の航空部隊を監視するためのようだ。無人監視所は内陸に張り出した半島の南北だから、地上兵力の監視用ってことだろう。


 「俺の方から特に指摘するところはありません。作戦開始までに、巨大なガルパスがやってきますから、その時に場合によっては配置を換えることになるかも知れません」

 「何と! それは早速皆に知らせましょう。あの霊廟は我等亀兵隊の守り神そのものです。士気も一段と高まるでしょう!」

 

 普段からテンションの高い連中が、一段高くなったら隠匿どころじゃなくなるな。

 崖を駆け下りるぐらいやりそうな感じだけど、ちょっと心配になってきたぞ。


 部屋に運ばれてきた朝食を頂いた後で、迷路のような塹壕を歩きながら砦の概要を確認する。

 ディーが一緒だから、砦の地図と比較した位置情報を押さえてくれるだろう。俺には迷路にしか見えないからな。

 最も西にある監視所に行って、高倍率の望遠鏡で西を眺めると、黒い筋のように来たに向かう悪魔軍が見えた。あの流れを止めて、かつ南に下げるのが今回の作戦だから難易度はかなり高そうだ。

 指揮所に戻って、テーブルの地図を眺める。

 南北、200km、西に100km程の地図だ。1cmが1kmになっている。グリッドは2万D(3km)で描かれているようだ。

 この地図を使うのは、砦が守備に回る段階だから、しばらくは端末のスクリーンということになるだろうな。

 西の小さな湖は大小4つの湖だが、複雑な形状ではなく、楕円形になっている。この湖の周りは湿原だから、かつては大きな1つの湖だったに違いない。

 大軍が押し寄せても、砦への侵攻ルートは北と南の2方向になるってことだな。

 サーシャちゃんのおかげで大砲が24門になったから、南北に12門ずつ割り振れる。機関銃も6丁ぐらいは割り振れるだろう。残りは敵の航空部隊対策としなければ……。

 だが、大軍が岸壁を一斉に上られると厄介なことになる。

 出入り口となる虎口は、やはり必要だろうな。


 「ディー、虎口を南北に作れないか?」

 「20mの断崖に虎口ですか……1kmの斜路を作っても、かなり急な坂になりますよ」

 

 1kmも必要なのか? 2箇所と思ったけど、1個作るのも大変だぞ。

 ラグナファルの次の戦に備える為にも、姉貴に相談してみるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ