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R-025 ミーミルとギムレー


 まだ、春には少し早いある日のこと。姉貴はギャルラホルン作戦の終了を宣言した。

 予定よりも20日以上早く終ったのは、サーシャちゃん達のお蔭なんだろうな。

 連合王国の作戦指揮所では、連合王国軍の総指揮官であるガラネスが驚いていたようだが、姉貴はさして気にも留めないようだ。

 この後に、3つの作戦が控えているからな。緒戦で躓くようでは後が大変だ。

 

 「それにしても驚くべき数字よね」

 「10億という数だろう。日々10万を越す悪魔軍が北米大陸から東西に移動してるんだからね。それぐらい人口が無ければどうにもできない数字じゃないかな」


 ナグルファル作戦開始は一ヶ月も先だ。4月1日を選んで良かったのかと、疑問は残るが、エイプリルフールの習慣はないようだから問題はあるまい。

 飛行船で西の大陸に資材を運搬するついでに、悪魔軍が辿ってくる島を爆撃しているから、亀兵隊がこの大陸西岸に達してからの悪魔軍の兵員船は激減している。

 たまにやって来ても、10隻程度ではイオンクラフトの良い獲物だ。

 西岸の何箇所かに砲台を作っているけど、たぶん無駄になってしまいそうだ。

 

 次の作戦が始まるまでは俺達は休養なのだが、姉貴は全体計画の見直しを図っているようだ。

 バジュラの登場は、衝撃的だったからな。

 バジュラが沈んでいる湖の畔には、献花台まで出来る始末だ。亀兵隊が常に中隊規模で護衛してるとアルトさんが教えてくれた。

 

 そんな休養の合間に、バビロンとユグドラシルに悪魔軍の人口を推定して貰ったようだが、その数字を聞いた姉貴の感想が先程の言葉になる。

 おおよそ1億と考えていたのだが、推定人口は遥かに多い。それを俺達で殲滅するのは可能な事なのだろうか?

 俺達の派遣軍は最終的には2個師団になるから、1人が5万人を相手にするって事だよな。

 殲滅戦が成功するんだろうかと思わず疑いたくなる。ガラネス達には教えたくない数字だが、姉貴はディーを通じて連絡を入れたようだ。

 

「ギャルラホルンの作戦開始は西の堤防の爆破だったようだけど、ナグルファルは何を合図にするんだい?」

 「これが、タイムスケジュールよ。作戦開始は東回りの兵員船が途中寄る4つの島の爆撃から始めるわ……」


 姉貴の教えてくれたファイルを端末を使って、目の前にスクリーンに展開する。

 確かに、タイムスケジュールだな。

 ナグルファル作戦は4月1日の早朝8時からとなっている。ここから近い島を3隻の飛行船で徹底的に叩くようだ。

 使う飛行船は大型が1隻に小型が3隻。残りの大型1隻は大西洋を渡って、西の大陸の東岸を進む悪魔軍を絨毯爆撃ってことらしい。

 5日目に西の大陸北東にある悪魔軍の港を破壊して、それ以降は小型飛行船を使って爆撃を南下させる。

 大型飛行船で資材と兵員を輸送して、作戦開始20日後に東岸に砦を構築する。

 砦の構築は10日間を考えているらしいが、この建設がナグルファル最大の山場になりそうだ。

 北の爆撃を免れた軍勢と南からの東回りの侵攻軍が殺到しかねない。

 この砦を拠点にして、正規軍が北の悪魔軍を掃討し、亀兵隊が南からの軍勢に対抗すると言うことになるだろう。

 作戦終了は、北の悪魔軍を殲滅したことで、終了を宣言するらしいが、その期間は作戦開始後6ヶ月としている。だが、これは目安とした期間だろうな。歩兵の移動を考えるとそれ程短時間で終了するとは考えられない。

 ナグルファルが流動的だというのはこの辺の事情を加味したんだろう。

 作戦が終了した時には、砦の南に数十万の悪魔軍が滞留していることになるけど、不定期に爆撃を行って散開させれば人海戦術で砦を落とされることはない筈だ。105mm長射程の砲が欲しくなるな。

 

 「それで、どこに砦を作るの?」

 「ユングが探した場所は、ここになるわ」


 姉貴の後ろに大きな仮想スクリーンが展開する。北米大陸を丸々映し出していたが、その西岸の一角がクローズアップされた。場所的にはかつてのフロリダ半島の少し北部になる。


 「これが、候補地よ。大西洋に突き出した半島なんだけど、大掛かりな地殻変動の余波で半島部分が隆起してるの。内陸部は高さ20m以上の垂直の崖になっているわ」


 かなり大きな半島だな。東の海に向かって数kmは張り出しているし、内陸部にも1kmは入っている。横幅は2kmはあるんじゃないか。

 

 「既に1個中隊の戦闘工兵を送り込んでいるわ。ガルパスは後になるけど、初期は防衛が主体だからね。山脈の拠点への資材輸送に併せて、イオンクラフトも運んでいるから作戦開始時には10機ほど運用出来るわよ」

 

 「大型がもう1隻欲しくなるね」

 「大型よりも一回り大きいのが出来るらしいわ。でないと師団規模の兵員を輸送するのに時間が掛かり過ぎるから」


 それでも、2個中隊を一度に運ぶことは出来ないだろう。資材と兵員を一緒に運ぶのが目的だろうな。

 

 仮想スクリーンを切替えて、北米大陸の西岸を眺める。

 相変わらずアリの群れのように、南米から北に向かって悪魔達の進軍は続いている。

 だが、北にある出発港が爆撃されているから、かなりの軍勢が足止めを食っているようだ。瓦礫を撤去して新たな船が数隻建造され始めているぞ。

 飛行船の爆撃は高空からの絨毯爆撃だから、運よく免れている船もあるみたいだな。


 「周辺の森を見て。だいぶ伐採が進んでいるでしょう。造船技術は、相手の科学力を量るのにも役立つわ。少なくとも鉄器を作れる文明を彼等は持ってるみたい」

 「だけど、彼等とはこの世界で協調出来ない……」

 「ある意味、どちらか1つの選択になるわ。悪魔となる人間の総数は見等が付いたけど、根源にいるルシファーの数は不明……。ルシファーだけを狙い撃ちに出来ない以上、全てを滅ぼすしかない。アキトも覚悟はして頂戴ね」


 改めて覚悟を強いてきたということは……。

 非人道的な作戦も考慮しているということだろう。

 確かに、きれいごとで終る戦ではないようだ。だけど、こればかりはなぁ……。イザとなったらアテーナイ様に背中を蹴飛ばしてもらおうか。

                  ・

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                  ・


 そんなある日。ユング達が西の大陸から戻って来た。

 ユング達3人なら、気兼ねなく大陸を飛びまわれるだろうから、色々調査をして来たという事だな。

 俺達のいる指揮所の大きなテーブルに着くと、早速姉貴に報告を始めた。


 「ロスアラモスの末裔達と会ってきたぞ。俺達の持って行ったフリントロック銃をありがたく受取ってくれた。彼等も作れるのだが、バレル長さが30cm程度のものだ。2倍以上あるからグライザムも倒せるだろう。

 人口は約6千に足りないくらいだが、岩穴暮らしを数百年はしているらしい。俺達の申しでを喜んでくれたぞ」


 「国境はOKってことね。西回りの敵軍が広がった場合は防衛は可能かしら?」

 「規模にもよるな。数百単位ならってところだ。俺達の武器を渡しても補修も出来ないし、弾丸も自作できない。フリントロックが良いところだ」


 「フリントロックならどうにか自作出来るんだったら、もう少し援助してあげて。地上で暮らすとなれば獣対策も必要よ」

 「レムルの作った散弾銃を200丁渡すつもりだ。あれならフリントロック機構に出来るし、口径が大きいからな。2連銃だから獣を狩るには都合がいい」


 たぶん地上に出るのは来年では無理だろう。それでも数年先には地上で暮らせるのなら彼等も喜ぶだろうな。


 そんな話を終えると、西の大陸の状況を説明し始めた。

 長期に渡り、大陸に行っていたのは埋設物の確認らしい。前にもそんな事をしていたが、その他にもあったようだ。


 「やはり、他の重力異常のある場所には、使える物は何もなかった。俺達でロスアラモスの地下を封印すれば問題はないだろうな」

 「1つ片付いたということね。3つの拠点の状況は?」


 姉貴の問いに、ユングが話を始める。

 ロスアラモスの岸壁に開いた地下施設を利用して弾薬を備蓄したようだ。その南に作っている隠匿拠点も、兵員を2個大隊収容出来る地下室の完成がもう直ぐらしい。


 「5会戦分の資材は運び終えた。屯田兵が林に畑を作っているから、この夏以降ならガルパスの食料が自給できそうだ。海岸の砦は弾薬庫作っている最中だ。次の作戦が始まる前には後1つを作りたいが、最悪は2個で対応してくれ」


 「問題はこの砦ね。名前がいるわよね……、ミーミルで良いかしら?」

 確か戦場の名前じゃなかったか? まあ、名前はどうでも良いけど、向こうの拠点にも名前がいるだろうと思うけどな。


 「拠点の方も、名がいるだろう? 今までの名前ならばギムレーで良いんじゃないか?」

 「俺達には言い難い名前だけど、確かに必要だ。俺はそれで良いぞ」


 俺の言葉に姉貴とユングが頷いている。


 「アキトとディーでミーミルに行ってくれないか?」

 「それは良いが、この砦の作戦始動時の戦力はどれ位になるんだ?」


 「今まで運んだ兵力は、亀兵隊が2個中隊。屯田兵1個中隊だ。75mm短砲身砲は6門だが、機関銃は20あるぞ。イオンクラフトはエイダス航空隊を作戦開始までには運べる筈だ。物資は10日分運んである。作戦開始後1週間で亀兵隊のガルパスと大砲をもう6門運ばせる」

 

 兵站部隊もがんばっているようだが、やはり距離が遠いからな。

 最初の1週間は防衛出来れば良いって事らしい。本当の戦は7日以降からになりそうだ。

 

 「もう1つ、お願いがあるの。サーシャちゃん達に南からの敵兵の蹂躙をお願いしたいんだけど……」

 「ああ、やってみるよ。だけど、ナグルファル作戦期間中はミーミルで預かっても良いのかな?」

 「南の悪魔軍を相手にしてるならば、全体計画に大きなインパクトはないわ」


 サーシャちゃんがいれば何かと相談に乗ってくれるだろう。姉貴は隠匿中継点のギムレーに向かうんじゃないかな。俺達にナグルファルを任せて、次ぎのヴィーグリーズの準備を進めるつもりらしい。

 

 作戦発動まで10日を切ってる。ユングに相談して3日後にディーと旅立つ事にする。後はサーシャちゃん達と相談だな。これは今夜にでも確認してみるか。


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