表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/157

R-024 3人娘


 突然に、3人が現れた。

 まるで狩りに出掛けるような革の上下に、腰のベルトにグルカナイフを差している。


 「待たせたようじゃな。我等もこんな世界があるとは思わなんだから送れてしもうた」

 「「お久しぶりです」」

 

 彼女達の容姿は別荘で皆で暮らしていた時のままだ。アルトさんがその中に入れば、かつての嬢ちゃんずの再来になるな。

 空いている席に無理やり座ったけど、このテーブルセットも少し大きくしないといけないようだな。

 

 「ところで戦況はどうなのじゃ?」

 「おかげで、計画がめちゃめちゃだわ」

 

 姉貴が、途方に暮れたような表情でサー者ちゃん達に答えてるけど、あれはフェイクだな。これからどうやって使おうかと内心では策を練っているはずだ。


 「手助けしようとしたのじゃが、まさか亀兵隊があんな行動を取るとは、我らにも見当がつかなんだ。じゃが、結果的には問題なかろう? 西岸の制圧は済んでおる。散じた敵兵は個別に狩ればよい。正規兵にも少しは攻撃をする機会を与えたと思えば済む事じゃ」


 そうなのか? 俺とユングは顔を見合わせて首を捻った。

 姉貴もサーシャちゃんも結果優先だからな。それを実行する俺達の苦労はあまり気にしないところがある。まあ、出来無い事は言わないんだけどね。


 「そうね。終ってしまった以上は仕方がないんだけど、これからは作戦に従って行動して欲しいわ」

 「このような場を持つのであれば、我らは同席出来るぞ。それに、そのキューブを持っておる人物の心象世界であれば我らは入る事が出来よう。……じゃが、ユング達やディーの心象世界はちと問題があるのう」

 

 どんな違いがあるんだろうか? ひょっとして心象世界を持たないという事か?

 だが、ユングは元は人間だ。心象世界があっても良いような気がするんだけどな。


 「まあ、先は長いからな。それに、俺の方から明人達の世界に入れれば特に問題はないさ。キャルミラさんとも直接話せるようだしな。それにしてもあの怪獣はすごいな。どれぐらいの性能なんだ?」

 

 「空を音速の3倍で飛ぶ事が出来ます。地上走行はガルパスの3倍程度。稼働時間は10日間の連続稼動後に20日の水中での休息が必要になります。武器は、甲羅を回転させた体当たりと口から高熱の炎を撃つ事が出来ます」


 どこかで見た映画の怪獣そっくりじゃないか!

 ユングが嬉しそうに頷いてるし……。奴の頭の中では、バジュラが立上がって悪魔軍の拠点を攻撃しながら火を噴いてる光景が映し出されてるに違いない。


 「中々のものね。それで……、私達に協力してくれるの?」

 「勿論じゃ! その為に作戦概要を教えて貰おうとやってきたのじゃからな。案の定、我等の勇姿に、亀兵隊達は期待通りの行動をしておる」

 

 あの亀兵隊達の暴走行為は、予定通りってことか? あの霊廟から変な電波を亀兵隊達に送ってた訳じゃないだろうな。

 

 「事前に教えておけば良いものを……」

 アテーナイ様が困り顔で呟いている。アルトさんもその思いのようだ。うんうんと力強く頷いている。


 「それではおもしろくなかろうが。我ら3人、既にこの世を去っておる。我等を頼りにしようなどと考えられても困るからのう」

 

 何か誤魔化されているような気もするけど、正論だよな。

 

 「貴方達の思いは分かったわ。アキトも良い妹達を持ったと思う。でもね、貴方達のバジュラは強力すぎるわ。それに、貴方達が戦の先陣を切るようでは、今後貴方達を連合王国の人達が頼り過ぎることも問題よ。稼働時間の制約があるなら作戦参加は私の計画に合わせてくれないかしら?」


 「それで良い。元より我らは我らありきの国防を望んでおらぬ。アキトの出助けで良いのじゃ」

 サーシャちゃんの言葉にミーアちゃんとリムちゃんが小さく頷いた。

 ちょっとしたお手伝いという感じかな。それなら頼みやすいけど、あの大きさだからな。姉貴も、使い所が難かしいんじゃないか?


 そんな硬い話が終ると、女性達がおしゃべりに興じる。俺とユングは昔を懐かしみながらタバコを楽しむ。

                  ・

                  ・

                  ・


 ラグナロクの作戦指揮所は、大陸西岸の海を見下ろす丘の中腹に場所を移している。

 まだ、正規軍は行程の半分を過ぎた辺りだが、その東側には1兵の悪魔軍も存在しない。掃討作戦は順調に推移しているようだな。

 アルトさんとキャルミラさんはハンター訓練の様子を見に出掛けたけど、退屈しのぎ以外の何ものでも無さそうだ。

 ユング達は、西の大陸で密かに暮らしているロスアラモスの末裔を訪ねると、資材運搬の飛行船に乗って出掛けている。戻ってくるのは一ヶ月ほど掛かるんじゃないかな。


 大きな作戦テーブルを前に座っているのは俺と姉貴、それにディーの3人だ。

 従兵が入れてくれたお茶を飲みながらのんびりと時を過ごしている。

 

 「まだ、数千はいるようね」

 姉貴が地図に刺してある赤いピンを眺めながら呟いた。

 「そうだね」と返事をしておいたが、かなり減ってきているのは確かだ。最初から比べると半分以下になってるんじゃないかな。

 

 テーブルの端に置いてある端末がメールの着信を伝えて来た。

 直ぐに、姉貴が仮想スクリーンを開いて中身を確認している。この時期にメールとは、誰だろうな?


 「ユグドラシルからよ。彼等がダリル山脈の北に進まない訳が分かったわ」

 

 急いで席を立つと、姉貴のそばに駆け寄ってメール文を覗き込んだ。

 どうやら、悪魔達の角に問題があるらしい。

 鳥等が持つ磁力線を感知する能力に近い器官が角の内部に構築されているとのことだ。その磁力線感知器官が混乱すると、角の持つ一種の洗脳システムが異常を来たすらしい。

 その原因はかつてユグドラシルの南方にあった、磁力線の乱れにあるようだが、ここにもアルマゲドンで使われた超磁力兵器が冷走していたのだろうか?

 読み進めると、磁力線の乱れは大きな歪にあったようだが、現在は俺達が破壊して小さな歪が散在しているに過ぎない。

 とは言え、それでも悪魔達の統一行動を与える機能にはダメージを与えるらしいのだ。


 「磁力線が多少変わっていても、一定しているなら問題ないということか?」

 「ディーの動きに支障が出ないような、僅かな乱れでも影響はあるみたい」


 あの破壊がこんな副次効果を生むとは思わなかったな。

 大規模な磁力制御を行えば、悪魔達を無力化できる可能性もあるけど、超磁力兵器を再びこのジェイナスで使った場合、果たしてどうなるか分かったものじゃない。あの大戦で多用されたお蔭で、大陸の形は変わってしまった。

 ようやく人口を増やし始めてはいるけど、果たしてジェイナスの総人口はどれぐらいだろう……。1千万に届かないんじゃないか?


 「ラグナロクの計画には、あまり役にたたないわね。でも、情報としては貴重だわ」

 そんな姉貴に相槌をうつ。

 統一行動を取れなくとも、闘争本能はそのままだからな。少しは戦い易くなるだろうけどね。


 「1つ気になるんだけど……。何時の間にか、サルがいなくなってるぞ。もっと早く気付くべきだったと思う」

 「私なりの考えだけど……。サルよりも人の方が使い易かったんじゃないかしら? ユングがククルカンを破壊した時は、話を聞く限りでは、サルの方が多かった筈よ。でも、ユーラシアへ侵攻してきた悪魔軍はかつては人だった者達だわ。サルは幾ら進化してもサルだったということかしら?」


 俺達と共に戦っているネコ族やトラ族の人達はネコから進化したわけじゃないんだよな。人にネコやトラの遺伝子を組み込んで作られた種族ということだ。その途中にはキャルミラさんのような人物も存在した。

 だけど、サル達についてはそのような遺伝子組み込みは行わずに、急激な遺伝子変異だけで終っている。それが姉貴の言う、サルはサルってことになるんだろう。

 となれば、少しは知能が発達したとしてもたかが知れている。長征には使えないと判断して消えて行ったのだろう。

 ある意味、可愛そうな話ではある。自然淘汰ではなく、遠征の食料にされたに違いない。

 

 「悪魔達の身体機能に関する所見もあるわ。やはりトラ族を凌ぐ力があって、ネコ族並の俊敏さを持っているわ。消化器官や心臓まで強化されているらしいわ。戦士として理想的とまで書いてあるわよ」

 「だが、洗脳された人間だ。洗脳を解除する手段がない以上、彼等を抹殺することが彼等を救う手段になってしまうな」


 洗脳前なら助けられるかも知れない。それが彼等へのせめてもの罪滅ぼしになるんだろう。


 天幕の扉が開い冷たい風が入ってくる。思わず身を縮めて、後ろを振り返えるとアルトさん達が戻ってきたようだ。

 ずかずかとテーブル席に歩いてくると、どっかと腰を落ち着ける。

 身のこなしは、まだまだだな。キャルミラさんは1つも音を立てないぞ。


 「どうだったの?」

 「どうにか、ガトルを狩れるまでになってきた。じゃが、大森林地帯は少し早いのう。春先までテーバイに預けるつもりじゃ」

 

 どんなハンターに育ったか楽しみだな。大森林地帯の中を流れる川ぐらいにまでは行けるようになって欲しいところだ。二連のショットガンを持っているならそれ程難しくないとは思うんだけど、アルトさんの評価基準がどの辺りにあるのか微妙なんだよな。

 

 「後、1年もすれば十分にハンターとして一人前じゃ。3年は懸かるかと思っておったが、来年の春には西の大陸に送れるじゃろう。とは言え、グライザムは難かしそうじゃな」

 

 従兵が運んできたお茶を飲みながら話してくれたけど、青レベルということなんだろうか? 1年足らずで良くも上げたものだ。

 徹底的にしごき上げたに違いない。夜なんて死んだように寝ていたからな。

 

 「丁度良いわ。次の作戦が始まると、かなりの物資を運ばなくちゃならないし、派遣部隊も増えるから周辺監視は十分に考える必要が出てくるわ」

 「西の大陸にはグライザムがうようよいると、ユングが言っておった。向こうで訓練しても良さそうじゃな」

 

 ということは、俺達が西の大陸に向かうのは今年の終わりぐらいになりそうだぞ。

 向こうの拠点作りも今年は大規模にやるんだろうな。ユング達はあっちに一足先に向かう事になりそうだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ