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R-023 心象世界で待ってよう


 ギャルラホルン作戦は、とんだ味方が増えたお蔭で予定を大幅に短縮しているようにも思えるが、どうもそうではないらしい。


 「後続部隊が追いつかないのよ。掃討戦が予定より時間を超過しそうだわ」

 

 姉貴がスクリーンを眺めながらぼやいている。

 数度の大規模な爆撃を受けて、バジュラが縦横無尽に破壊を繰返したから数百年前の2つの王都は無残な姿を晒している。

 世界遺産級だったのにもったいない気がするけど、長らく悪魔軍の拠点になっていた場所だ。どんな非人道的な行いが行われていたかと思うと徹底的な破壊と火災によって瓦礫に化した姿が相応しくも思える。

 

 今朝、亀兵隊3個大隊が一斉に、かつての王都に突入したから、辛うじて生きている悪魔達の殲滅は今日一杯には終了するだろう。

 沖合いに浮かんだ悪魔軍の輸送船は何時の間にか姿を消していた。たぶん、イオンクラフトの爆弾によって破壊されたに違いない。


 ここまでの所要日数は30日も掛かっていない。

 バジュラの動きに、亀兵隊達が勇気付けられて、昼夜をとわずにガルパスで駆け抜けた感じだ。サーシャちゃん達は未だに亀兵隊に慕われえるんだろうな。寝る間も惜しんで駆けて行ったぞ。

 先頭集団はそんな感じなんだが、正規兵は歩兵だから、1日で進む距離は微々たるものだ。全行程の3割にも達していない。お蔭で、爆撃等で周辺に散った悪魔軍がいたるところで再集結を始めている。

 大きな集団にならない前に、イオンクラフトで攻撃しているが、しばらくはそんな攻撃が後方で行われるに違いない。


 ラミィが科学衛星画像を解析しながら、航空部隊を集積地に誘導して個別に殲滅しているようだが、見ていると長く掛かりそうだな。


 「攻撃が雑だったのかな?」

 「雑というより、我先にって感じよね。まさか、こんなことになるとは思ってもみなかったわ。カルート中隊を後方に移動させて、新たに1個中隊のカルート兵をテーバイ州よりユングに移動して貰っている状況よ。機動は亀兵隊を凌ぐから落穂拾いをして貰うわ」

 

 ぶつぶつと言いながら、お茶を飲んでいる。朝から、機嫌が良くないな。


 「荷馬車部隊がようやく、行程の半分ってところね。残り1千kmあるんだから、その間に悪魔達が至る所で集まり始めてるわ」

 

 地図の上に沢山の赤いピンが刺してある。科学衛星の画像から位置を読み取って、ディーが次々と刺しているんだけど、既に100本は越えているぞ。

 爆撃とバジュラで蹴散らされている連中が、個別に集結しているから荒地の広い範囲に点在している。それを個別撃破しなければならないのだから、気の滅入る作業だな。

 それでも、徒歩で進む正規兵部隊の後方には1つもピンが刺されていないんだから、掃討作戦は見事と言えるんじゃないかな。


 「それで、バジュラに動きは?」

 「上陸地点の南東約200M(約30km)にある小さな湖の湖底に沈んだままです」

 姉貴の質問にディーがピンを刺しながら答えている。


 「休息してるのかしら?」

 「そんな所じゃないかな。もうすぐユング達がキューブを持ってやって来る。レビト様は、そのキューブを使えば通信が可能だと言っていたしね」

 そう簡単に通信が出来るとは思わないが、糸口ぐらいは見つかるんじゃないかな。

 

 あれから、何度かアテーナイ様と話し合う機会があったが、呆れてものも言えない状態だった。それでもアテーナイ様の方から接触を試みると言ってくれたんだが、未だに音沙汰がない状態だ。

 

 「やはり、ギャルラホルンの作戦期間は減ることは無いわ。亀兵隊を数日休ませて、東に向かわせようかしら?」

 「落穂拾いって事?」

 「そもそも、一斉にバジュラについて行こうとしたから、こうなったのよ。気持ちは分かるけど、作戦と言うものもあるんだから……」


 20日も掛けずに大陸西岸に到達したんだからな。全体計画が大幅に狂ってるようだ。

とは言え、3人が出て来た時にあまり意見しようものなら、の反感を買う恐れがあるぞ。まあ、その辺りは姉貴もわきまえてはいるだろう。


 「だけど、この状態なら早期にギャルラホルンが終結するけど、次の作戦との切れ目はあるの?」

 「ギャルラホルンの終了は、後続の正規兵が西岸の王都遺跡に到達したことをもって終了になるの。今日中に、亀兵隊が王都遺跡から悪魔を殲滅すれば、北と南に向かって貰うわ。悪魔軍の敗残兵が北に広がっているんだけど、まだ、集結しようとは思っていないみたいね」


 テーブルの地図を眺めると、南方に数十のピンが刺してある。だが、北方向にはピンが刺されていない。鉛筆で散開した悪魔達の到達範囲が描かれているだけだ。

 何で、北では集結しないんだ?

 彼等がダリル山脈の北を通らない理由が関係しているようにも思えるな。

 

 「姉さん、何でこっちの連中はまとまろうとしないんだろうね?」

 「アキトも気が付いた? そうなのよ。それに、拡散してる距離も南から比べると距離が短いわ。ギャルラホルンの終決が見えてきたら、ユングに調査をして貰おうと思っているんだけど……」


 疑問は持ってるけど、作戦に影響はしないという事だろうな。

 確かにその辺りは、ユング達に任せれば直ぐにも原因が掴めるだろう。

                  ・

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 王都の遺跡に潜む悪魔軍を一人残らず狩り出すと、亀兵隊は1個大隊の規模で南北に敗残兵達を狩りに出掛けた。

 ディーとフラウが、それぞれの大隊に同行しているから、隠れることも不可能だろう。

 10日も掛からずに終るんじゃないかな。アルトさん達も南に向かう部隊に同行して行ったけど、たぶん退屈しのぎ以外の何ものでもないと俺は思っている。


 その夜、静かな作戦指揮所で、俺と姉貴はユングからキューブの話を聞いている。

 どうやら、単純な水晶の結晶体ではないらしい。


 「……以上が、バビロンの神官が分析した結果だ。ユグドラシルの神官が、翻訳コードを作ってくれたんで、新ためてインターフェイスを周辺に組み込んだから、単なるキューブではなく、バングルのようになっている。宝石のように中心部にあるのが、貰ったキューブになる」

 

レビトさんから貰ったキューブよりだいぶ小さいな。1辺が2cmもないぞ。上手く腕輪の形にまとめられたものだ。装飾品として身に付けても違和感がまるでないだろう。

 

 「5個と聞いたが、7個あったぞ。6個作って、1個はそのままだ。明人に預けておく」

 ユングがそう言いながらバングルを皆に配って、自分でも腕に付けている。

 

 「カラメル族の言うエーテルと、明人の言う気はたぶん同じものなんだろう。物理的に存在を証明する術はないようだが、このキューブは特殊な結晶構造を多層構造に仕上げたものらしい。水素イオン励起の単一波長を中心に対して30度の確度で入射すると、出て来た波長が変調されている。その変調周波数は脳の電位波形に極めて類似している。その光を電気的に増幅して持主の神経系路をアンテナ代わりにすれば、念話が可能だ。アンテナとブースターそれに出力装置が、そのバングルに備わっているようなものだな」

 

 さっぱり分からないが、俺には必要ないらしい。

 早速、キャルミラさんが付けて『だいじょうぶじゃろうか?』と呟いてるぞ。


 「だいじょうぶだ。ちゃんと聞こえるぞ。これで、キャルミラさんの話は俺達にも理解出来る。明人の言う心象世界については……、まあ、やってみないと分からないな」


 心象世界は、その人の強い思いがある場所が心の中に築かれるようだ。

 俺の場合はリオン湖畔の別荘にある庭のテーブルが多いな。誰が最初にやって来るか、楽しみでもある。

 姉貴とアルトさんが嬉しそうに腕に着けたバングルを撫でている。もし、ダメだったとしてもユング達とキャルミラさんが会話できるんだから良いんじゃないかな。

 

 天幕の簡易寝台で毛布に包まると、何時しか眠りについたようだ。

 ふと、気が付くとリオン湖を眺めながらテーブル席についている自分に気が付いた。

 何時の間にか目の前にコーヒーのマグカップが現れる。肉球マークが付いてるから俺専用の奴だな。

 タバコに火を点けて、誰かがやって来るのを待つとしよう。


 「だいぶざわついているようじゃが、まだ見えんのう?」

 何時の間にか、俺の隣にアテーナイ様が座っている。パイプをのんびり楽しんでいるようだ。


 「来るでしょうか?」

 「来ない分けがない。どうやって婿殿の心象世界に入ってよいか試行錯誤を繰返しておるはずじゃ。かつての我もそうじゃったからのう」

 

 単純ではないという事なんだろうか? だけど、1度可能になればその後は容易く出来るようだ。今では簡単にアテーナイ様はこの世界に入ってきてるからな。

 

 スイーっと姉貴がテーブル越しに姿を現した。

 しきりに周囲を眺めていたが、アテーナイ様に気が付いて、挨拶なんかしているぞ。

 でも、『お変わりなく、お元気そうで……』はないだろうと思うな。既に亡くなった人なんだし。


 「心象世界って、これはアキトの世界なんだよね」

 そんなことを言いながら紅茶を飲んでいるようだ。あれは昔の姉貴のお気に入りじゃなかったかな? 『マイセンに似てるでしょう』なんて言ってたカップに違いない。

 

 次に現れたのはアルトさんにキャルミラさんだ。キャルミラさんがアルトさんを連れて来たに違いないな。

 久しぶりの親子の対面は……、口喧嘩を始めたぞ。

 

 いきなり、4人が姿を現した。ディーとユング達だが、ちゃんとここが分かったみたいだ。

 ユングだが驚いたことに、かつての哲也の姿だ。

 自分では気付かないようだけど、皆がジロジロ見ているぞ。

 そんな俺達を怪訝な表情で見ていたが、フラウに耳打ちされると、急いで湖面に走って行った。

 ペタペタと自分の顔を触って確認しているようだが、この世界を抜ければ元に戻るはずだ。

 

 「貧相な少年じゃが、あれが元の姿というわけか?」

 「色々とあったんだ。だが俺の悪友に違いない」

 

 戻って来たユングは嬉しそうな表情をしている。

 「かなりフラウ達が頑張ってくれたんだ。この世界では元に戻れるんだな。たまに遊びに来よう!」


 1度入れれば、後は簡単らしいからユングも頻繁にやって来るに違いない。

 これで、揃ったのかな?

 後は本命の3人を待つばかりだ。

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