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R-022 作戦がメチャメチャ


 エイダス航空部隊の指揮官であるミーアが、10機のイオンクラフトで補給所を飛立ってからしばらくすると、西から飛行船がやってきた。

 後を分隊長のレグルに託して、地上すれすれに下りてきた飛行船の後部ハッチから下ろされた梯子に飛び移る。

 後部ハッチから船倉に入ると、爆弾倉に改造された船倉後部でユング達が俺を出迎えてくれた。


 「いや~、凄かったな。昔見た怪獣映画の一場面をリアルで見らるとは思わなかったぞ!」

 俺の肩を叩きながら喜んでる。そういえばユングは怪獣映画が大好きだったな。良く彼の部屋でビデオを見たものだ。


 「どうやら、亀兵隊の駐屯地にある霊廟があの正体らしい。だが、あれは石造のはずだ」

 「中の3人は、明人の仲間だ。お前の一大事を知って動き出したんじゃないか?」


 そんな事を言って、うんうんと頷いている。

 そんなんで動き出したら、青の神殿だって動き出すぞ。ちょっと複雑な表情で未だに自分の考えに納得しているユングを眺めながら、フラウに渡されたコーヒーを床に坐って飲み始めた。

 飛行船の速度を考えると、2時間程の距離になるだろう。ハッチが開いているから、のんびりとタバコを楽しみながら時を過ごす。


 西の堤防に作られた、急造のラグナロク作戦指揮所は、大きな天幕の中だ。明日には天幕を畳んで西に移動するのだろうが、俺達が降り立った時には、天幕の人の出入が忙しく行なわれていた。


 俺達が天幕に入ると、大きな組み立て式のテーブルに地図を広げて士官達に命令を伝える姉貴の姿があった。


 「少し待ってね。バジュラ出現でかなり手順の変更が必要なの。……え~と、次ぎは砲兵隊ね。3つとも前進で良いわ。200M(30km)先で停止して、次ぎの指示を待って頂戴。正規兵の第4大隊は北西方向に侵出して! 敗残兵に注意してね。貴方達の後ろには平和以外は無いように、見つけたら必ず殲滅する事。後は……、飛行船部隊は、予定変更なし。イオンクラフトは亀兵隊との同士撃ちに注意して、亀兵隊の直前を叩いて頂戴!」


 どうやら、予定よりも戦況が進みすぎているらしい。あまり大きく予定が狂うと、色んなしわ寄せがあるようだ。

 ユング達と、当番兵が持ってきてくれたお茶を飲みながら、一段落するのを待つ事にした。


 30分ほど過ぎたところで、姉貴が大きく溜息をつきながらお茶を飲み始めた。


 「まったく、あんな事なら事前に教えて欲しかったわ。それで、バジュラは?」

 

 テーブルの上に大きく地図が映し出される。大陸の西の端まで表示されているから横に2千km以上の範囲を表示しているようだ。


 「目撃情報をまとめますと、バジュラは東からやってきた亀兵隊のエントラムズ本拠地から移動する1個大隊の式典の最中に飛立ったようです。時刻はラグナロク作戦発動時刻になります。上空1千mを音速で飛行した後、ここより3km先に急速降下。体を回転させながら地表すれすれの高度を取って悪魔軍の進軍路を逆に辿るようにして西に向かっていきました。地表の移動速度は時速300kmです。作戦発動6時間後の現在は上陸地点400km手前をばく進中です」


 飛んでもない性能だな。

 状況を聞いた姉貴もポカンと口を開けてるぞ。


 「まるで怪獣映画みたい……」

 「だろう。俺もそう思ったんだ」

 

 ユングが姉貴に同意してる。確かにそうだけど、これは現実だぞ。

 

 『我等の味方であろうが、勝手に動き回るとなれば問題じゃな。作戦がメチャメチャになりかねないぞ』

 「バジュラならサーシャ達じゃ。じゃが、あれは霊廟じゃぞ。どうして動けるのじゃ。石像が動くのであれば、もっとたくさん作っておけば良かったのじゃ」


 2人の意見はもっともだが、石像は動かない筈だ。その辺りにバジュラの秘密がありそうな気がするな。

 

 「あれを作った経緯は聞いたことがあるわ。中を確認したイゾルデさんも単なる石室だと言ってたけど、サーシャちゃんが気になる事を言ってたわね」

 「それは俺も聞いた事がある。『これがあれば安心じゃ』と言ってたぞ」

 

 「『末永く連合王国を守る』なんて言ってたわ。やはり確信犯ね」

 

 サーシャちゃん達ならではって事か? この時を1千年待ってたと言うのだろうか?

 

 「何らかの手段であの石像を動かしているのは確かだわ。バビロンもユグドラシルも今回の件には係わっていないとなれば……」

 「カラメル族なら可能だろうな。あの大きさの物体をあの噴射口で放つイオン噴流で飛ばす事は不可能だ。あれは複数の反重力装置で重力勾配を作り出して飛んでいる。イオン噴流はフェイクだな。それに、口から放っているのは荷電粒子だぞ。荷電粒子をパルス状に口から放ってるんだ。まあ、怪獣だから口から火ぐらいは出すだろうが、出してるのはかなり物騒なものだ。直径1m、数千度を越える火の玉だから、当ればその場で蒸発してしまうし、周囲10mの範囲では大火傷を負うぞ」


 確かに物騒だ。だが、カラメル族がそんな物を作るんだろうか?

                  ・

                  ・

                  ・


 「始まったのう……」

 「ええ、ですが……」


 リオン湖畔の俺達の別荘だ。

 庭の片隅のテーブルに俺とアテーナイ様が坐っている。そのアテーナイ様の隣に姿を現したのは2人のカラメル族の長老だ。ラビト様のギリナム様だな。


 「原因が分かったぞ。まったく困った連中じゃ。あの石像見て不審を覚えなかったワシにも責任はあるのじゃが……」

 

 そう言って、経緯を説明してくれた。 

 何と、石像を入れ替えたらしい。それもサーシャちゃん達の作戦だったというから驚きだ。

 

 「ワシのキューブと同じじゃ。あのバジュラには心がある。お前達の行く末を案じた3人の娘達の残留思念がキューブに納められ、あれを動かしておる。3人の話を聞いて興味本位で工房の者達が作ったらしいが、困った者達じゃ。されど、この作戦では役立つであろう。我等の強力の証として役立てるにやぶさかではない」


 作ってしまったものは仕方が無い、という事だろうか? それにしても物騒なものだぞ。

 「先程残留思念といいましたね。と言うことは、彼女達に心象世界で接触できるという事ですか?」

 「出来るとも。その内、連絡を取ってくるじゃろう。上手く御することじゃな」

 

 レビト様の言葉を最後に心象世界が薄れていく……。


 「アキト。……アキト! 聞いてるの?」

 姉貴の声が大きく聞こえる。どうやら、現実世界に帰ってきたようだ。


 「ああ、なんだい?」

 「ぼんやりしてるから、起こしたんだけど……。相手はレビト様?」


 「ああ、そうだ。何故動くか教えて貰ったよ……」

 心象世界での話を皆に聞かせる。

 やはり、という感じで聞いているな。まあ、サーシャちゃん達だからねぇ。俺達の斜め上を考えてた事は確かだ。


 「心象世界で話が出来るのは今のところ、明人とキャルミラさんだけなんだよな?」

 「それも、不思議な話じゃが、そうなのじゃ。母様がいるらしいが我にはその世界を垣間見る事も叶わん。ミズキも同じじゃ」


 それも不思議な話なのだが、そうなんだよな。レビト様は姉貴達を彼岸の存在だと言っていたけど、アテーナイ様は簡単に出入してるぞ。

 

 「たぶん、アキトに接触するでしょうから、こっちの作戦を伝えてくれない? 出来れば私達に協力して、単独行動を控えるように言って欲しいわ」


 作戦の修正でかなり頭に来てる感じだな。

 これは、早めに接触しておいた方が良いかもしれないな。


 「向こうから来なければこっちから呼びかけてみるよ。だけど、このまま西の上陸地点を破壊するまでは連絡出来ないんじゃないかな?」

 「そうね……。確かにそんな感じがするわ。でも、そうなると……」

 

 急に姉貴が地図を睨み始めた。

 確かにやりずらいだろうな。亀兵隊の速度に合わせて西に進もうとしたのが、1日で西までの道筋にいる悪魔軍を蹴散らしてしまったんだから。

 サーシャちゃん達の仕業だと思えば亀兵隊の士気は鰻登りだ。亀兵隊の先頭集団は、ハイになってバジュラを追い掛けているのが目に見えるようだ。このままでは、3日は持たないんじゃないか?

 確かに由々しき問題ではあるな。


 「明日にでも、先頭を走る亀兵隊の前方に爆弾を落としてくるよ。それで、正気に戻るだろう。それにしてもあの嬢ちゃん達は人気があったんだな」

 

 ユングがおもしろそうに、昔を懐かしんでいる。

 

 『アキト。カラメル族が絡んでいるなら、アキトの心象世界にアテーナイ様がおられる理由も分かるのではないか? そこに念話の秘密があるようにも思える』


 キャルミラさんが俺に語りかけてきた。

 確かに不自然ではある。だが、姉貴はミーアちゃん達も俺の心象世界に入れる事が分かっているみたいだ。たぶん理由を聞いても、そう思うぐらいの返事だろうが、レビト様達なら分かるかもしれないな。


 「そうですね。今夜確認してみます」


 上手く行けば、キャルミラさんとユングの交信も出来るかもしれない。キャルミラさんにタブレットを渡しているようだが、やはり直接話をしてみたいのだろう。


 その夜。

 西の堤防の一角にある兵舎で横になりながら、自分の心象世界でレビト様の訪れるのを待った。

 やってきたレビト様との話で、キューブの存在がどうやら鍵になっているらしい事が判明した。


 「昔、アキトに我のキューブを渡しておるな。アテーナイ殿からも小さなキューブを受け取ったはずじゃ。あの3人の娘達にも4つのキューブを工房の者が渡しておる。その内の1個がアテーナイ様に渡ったようじゃ。別荘の庭に5つキューブを置いておく。水素励起線の単一波長を脳波で変調してキューブに当てれば他のキューブに信号が伝送されるぞ。伝送原理は分からずとも、光の変調として再現できる筈じゃ。その伝送には距離を考えずとも良い。エーテル通信とはそういうものじゃ」


 水素励起と脳波変調だな。良く分からないけど、フラウやディー達なら分かるだろう。 

 ありがたくレビトさんに礼を言って、今度はミーアちゃん達の訪れを待つ事にした。


 「それで、結局現れなかったと?」

 「西の上陸地点の破壊に忙しいんだろうな。それで、水素励起と脳波変調でユング達は理解できたのか?」


 結局、3人はやってこなかった。次ぎの朝、ユング達に起こされたんだが、レビト様の話は忘れない内に話しておいた。


 「ある意味、疑似科学って奴だな。別荘の庭のテーブルなら、飛行船で行って来るよ。爆撃しようと思ったけど、バジュラが蹂躙してるなら、それで十分な筈だ」

 そんな、軽い言葉で3人が飛行船で東に去っていく。

 ひょってして、これも姉貴の計画外になるんだろうか?

 朝から姉貴が機嫌を悪くしなければいいのだが……。

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