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R-020 ダリル山脈の補給所

 年が明けて、重鎮が一同にネウサナトラム特区の会議場に揃う。

 姉貴のラグナロク作戦に誰も異議を唱えない。そればかりか、協力を申し出る始末だ。


 「今年、12月1日をギャラルホルン開始とします」

 姉貴の、その言葉に会場が拍手に包まれる始末だ。これからの事を思うとユングと顔を見合わせて溜息をつく。


 「10日前から爆撃と砲撃をするんだろう?」

 「まあ、定常的な攻撃は何時ものことだ。それを少しずつ増やして明人の言う10日前からは5割増しってことだな。東の堤防から寿命の尽きかけた75mm砲を移動するらしいぞ。あれなら砲兵でなくとも使えるからな」


 西の堤防の前にいる悪魔軍はアメーバのように不定期に堤防の壁に向かって攻撃を仕掛けてくる。堤防から西に数km離れた位置にいるのだが、それを狙う大砲の数は100門を5つの部隊に分割して南北に布陣させている。彼等の突撃に備える為、普段の攻撃はイオンクラフトによる爆撃だけだ。1機当りの搭載数は50kg爆弾2発だから、数十発落としたところで、悪魔軍が散開してしまえばあまり効果はないようだ。

 

 「亀兵隊が西の堤防を越える日が12月1日という事だな?」

 「ある意味、分かり易い。だが、一番の激戦になる日でもあるぞ」


 20万を超える敵軍に、一斉突撃をするようなものだ。その突撃に使える門は2つだし、門の大きさは全開にしても、4mにはならないだろう。元々は偵察部隊を送り出す門だからな。

 まあ、その辺りを考えるのが姉貴の仕事だから、後ろで見ていよう。

 

 「東の堤防から亀兵隊を引抜いてだいじょうぶなのか?」

 「屯田兵を向かわせるそうだ。テーバイ王都の守備兵までも駆り出すらしいぞ」


 たぶん交代はぎりぎりだろう。エントラムズ王都郊外の亀兵隊の拠点で十分に休息を取ってこちらに来るつもりだろう。移動は晩秋となるはずだ。

 亀兵隊は1個大隊を常時戦闘状態にするようだから、12月1日に西の堤防に到着せずとも姉貴の作戦に支障はないだろう。


 「弾薬はだいじょうぶなのか?」

 「製造ラインが2つある。現状の維持だけなら1つで十分だ。もう1つのラインを使って昨年から備蓄をしている。ギャラルホルン開始時までには美月さんの要求する倍の量にはなるはずだ」


 そんな事を自身ありげに教えてくれたけど、姉貴の必要量ってユングは知っているのかな? 常識の斜め上をいきそうだから、その分量で十分かどうかは不安があるぞ。

 

 会議が終了したところで、ユングを誘って別荘に帰る。

 暖炉でコーヒーを作ると、2人でコーヒーを飲みながらタバコに火を点けた。


 「美月さんはまだ戻らないのか?」

 「別な会議があるそうだ。初戦のシナリオを解説してるんだと思うよ。少なくとも俺達は必要無さそうだ」


 「という事は、別働隊か。狙いは途中の島への攻撃かな?」

 「ありえるな。事前には叩くはずだけど、東周りの流れを止めない限りは、やがてやって来ることになる」


 アメリカ大陸北西部、かつてはカナダだと思うが、そんな東海岸から毎日10隻以上の兵員船が出航しているのだ。幾つかの島を経由して、俺達の住む大陸西岸に5日前後のインターバルで2万人近い兵士が上陸してくる。その兵士がそのまま東に向かって進行してくるのだ。

 流れを止めるのは大型飛行船の役目になるのだろうが、それは何時から始めるんだ? そっちの方がギャラルホルン開始の日付として正しく思えるぞ。


 「ところで、機関銃は相変わらずの円盤弾装なんだよな。ベルトドライブにして装弾数を増やせないのか?」

 「無理を言うなよ。あれでも、60発は入ってるんだぞ。確かに連続では10秒も持たないがプレス加工の金型製作が難かしいんだ。発射速度を遅くしてイオンクラフトに固定してる状況だ。船内の床から斜銃の形で、固定機銃を更新している。船内で交換できるから少しは役にたつだろう。だけど、銃弾だって無尽蔵じゃないんだけどな」


 機関銃と言ってもAK47の改造版だ。有効射程は300m程度らしいが、弾丸の種類が統一されているのは良いのだが、やはり大量消費には耐えられないということか?

 

「製作自体はそれ程、難しくはないんだが、旋盤作業になるからな。精密加工が出来る旋盤は連合王国にそれ程台数がないんだ。それでも、来春には数台仕上がるから、専用のラインを作れるだろうけど……」


 「だけど、作戦進行に伴なって、必要数が増えるぞ」

 「製造ラインを増やすさ。だが、現状ではラインが3つしかない。1日の製造数は6千発だ」

 

 3会戦分は確保してると言ってたな。

 銃弾消費量が多いのは、亀兵隊と航空部隊だからギャラルホルン作戦を乗り切れば何とかなるって事だろうか? 正規兵は未だにボルトアクションのライフルだからな。

 

 扉が開いて姉貴達が帰ってきた。

 テーブルに着くと、俺達の顔を眺める。また、無理を言ってきそうだな。


 「ダリル山脈に補給所を作って欲しいの。最低でも、西の堤防から数百km西に欲しいわ」

 「エイダス航空隊を遊撃部隊として使うのか? ならば、ここがいいぞ。何度か山脈を眺めて使えそうな場所を見つけて置いた」

 

 そう言いながら端末を操作すると、ダリル山脈の一角を表示する。


 「それほど高くない山だが、稜線の裏側に丁度いいなだらかな尾根がある。ここなら数十機のイオンクラフトを着地させても問題ない。北はなだらかに斜面が続いてるが、この付近にいる住人はいない。精々グライザムと言うところだろう。南側は急峻だから悪魔軍も攻めがたい場所だ」

 

 「良さそうな場所ね。後はアキト達にお願いするわ。ユングの方も資材輸送は手伝ってあげて」

 

 俺とユングが素早くアイコンタクトを始める。

 とんでもない場所だぞ。標高は1千mに届かないが、俺達の場所から離れすぎている。西の堤防の数百km先なら、この別荘から1千kmは離れてるんじゃないか?


 「飛行船での爆撃後に再度叩くのは分かるけど、……必要なのか?」

 「必要よ。飛行船では高空からの爆撃だから、散布界が広いのよ。イオンクラフトなら速度を生かして低空攻撃が出来るわ」

 

 亀兵隊の進撃の負荷を少しでも減らそうという事か。それなら納得だけど、距離が遠すぎるな。

 交代要員の確保だけでも大変だし、グライザムの生息地域となると……。山岳猟兵ってことになるな。今でも銃を使わずにグライザムを狩れる連中だし、力はトラ族の上を行く。厳冬期のアクトラス山脈でさえ彼等は活動してるから、南西方向に伸びるダリル山脈なら容易に活動出来るんじゃないか?


 「山岳猟兵部隊と交渉してみるよ。長期で山間部の一角を確保するなら適任だろうし、彼等としても、願った話じゃないかな?」


 俺の言葉に姉貴が首を傾げる。

 

 「そうだな。彼等の村を分ける時だろう。人口は5千を超えているはずだ。獣が多糸地なら彼等としても願ったりということになるな」

 「そう言う話ね。ならば、その土地を既成事実として来年の年初の会議に掛ければ良いわ。山間の土地であれば誰も異議は唱えない筈よ。雪解けを待って出掛ければ良いわ」

                  ・

                  ・

                  ・


 「ここだ! 着地は出来ないから、飛下りるか、ハシゴを使ってくれ!」


 地表までの高さは2mほどだ。10人のリザル族の山岳猟兵が飛び降りると、ハシゴを斜路にして木箱が10個ほど降ろされる。


 「たまに寄るから、頑張ってくれよ!」

 「ああ、だけど次の便でもう1分隊がやって来るんだぞ。そっちもよろしく頼む」


 そんな会話を飛行船の開放された船倉のハッチでユングと交わして、俺もハッチから飛び降りた。

 ハッチから顔を覗かせて俺の無事を確認すると、直ぐに飛行船が上昇していく。

 周辺、1kmに敵対生物はいないと言っていたが、暗闇の中だからな。

 整列した山岳猟兵に立て続けに指示を出して、先ずは安全を確保する。

 

 季節は夏だけど、山の上だからな。用意した焚き木で焚火を作り、今夜は交代で見張りをすることにした。

 明くる朝、簡単に朝食を済ませると、3つに分かれて作業を始める。1隊は周辺の探索を、もう1隊はこの場所に野営用の天幕を張る。最後の1隊は水の確保だ。

 ユング製作のジェリ缶は5個あるが、1缶の量は20ℓしかない。俺達で消費するなら3日分程度だからな。尾根の合間にある谷を目指して出掛けたけど、近場に水源を見付けて欲しいものだ。


 夕食を取りながら状況を確認し合い、明日の作業の段取りを決める。

 水場は1km程下がったところにあるらしい。石を積み上げて堰を作ったらしいから、水は何とかなりそうだ。生水を飲む習慣はないから、水中り(みずあたり)をすることもないだろう。


 少しずつ、集積所の体裁を整えていると、新たに10人の山岳猟兵が送られてきた。

 これで、簡単な倉庫をログハウスで作れるだろう。

 作戦開始は冬になるから、防寒対策はキチンとしておかねばなるまい。

 丸太小屋の倉庫が3つ出来たところで、弾薬や食料それにイオンクラフトの燃料カートリッジが次々と運ばれてくる。

 

 たまに、資材を運んできたユング達がお茶を楽しみにやって来るけど、ユング達も色々と仕事があるみたいだ。


 「西の大陸の拠点もだいぶ様になってきたぞ。地下施設が主体だが、既に2個中隊が生活している。亀兵隊は1個中隊だが、ガルパスの食料は自給出来るまでになった」

 「資材の運送は今後も続くんだろう?」


 「そうだな。連合王国からでは距離がありすぎる。この集積所に資材を送る一方で向こうにも運んでるんだ。大型が2機になったから少しは輸送量を増やせるんだけどな」


 「ギャラッルホルン発動まで残り一ヶ月を切っている。どうにか間に合ったな」

 「そうでもないぞ。ギャラルホルンで西岸の制圧を4ヶ月で行わねば成らないんだ。殆ど亀兵隊だけで制圧するようなものだ。奴等がいくら精鋭でも、数の戦になれば飲み込まれる。いくら爆弾を落としても足りないように思えるんだけどな」


 そんな俺の苦言を、笑みを浮かべて聞いている。

 昔は逆だったようにも思えるが、この頃俺の本音を話せる奴は、ユングだけになってしまった。こいつがいるお蔭で、どれだけ助けになるか……。


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