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R-002 ガンダルー釣り


 岬の別荘は昔と変わりがないが、岬に向かって張り出したテラスからの眺めはだいぶ変わったな。

 東の漁師村は町になったし、別荘から町に続く荒地は大きな森が出来ている。森から木を切り出すたびに新たに苗木を2本植えているから更に森は広がるだろう。

 西を見れば広大な果樹園が広がっている。その中にポツンと屋根を見せているのは土の神を祀った修道院だ。果樹園の中にちらほら動く姿は修道女達だろう。

 今ではアトレイム地方の重要な産物であるブドウ酒と干した果実はこの修道院が産地になる。今でも毎年それらを届けて貰っているんだけど、そんな関係は何時まで続くのだろうか?

 

 「我が町に行って来るのじゃ」

 「なら。私が修道院に行ってくるわ」


 アルトさんと姉貴が手分けしてガンダルー釣りの話を付けに行ってくれるようだ。

 アルトさんにはフラウが一緒だし、姉貴にはディーが一緒だから、残った俺達4人はリビングで次女の持ってきたお茶を飲みながら待つことにする。

 別荘の維持管理に3人程漁師町から雇っているのだが、その代金は修道院が負担してくれている。

 「これぐらいは容易きこと」と言って俺達からは一切代金や寄付を受取らないんだよな。


 「この西500km先では今でも戦闘が続いているんだよな」

 「ああ、俺達だけでは根絶やしには出来ない。良くて間引きがいいところだ」

 

 そんな話をしながら、2人でタバコを楽しむ。

 キャルミラさんも俺から1本貰って咥えてるんだけど、頭がネコだからねぇ。かなりシュールな光景だと思うぞ。


 『距離が厄介じゃな。それに地下で暮らしておるようじゃ』

 「そうですね。何と言っても大西洋の向こうですし、南米大陸からまるで湧くように兵士が現れます」


 「キャルミラさんの話が念話だから少し面倒だな」

 「何か方法があればいいんだけどね」


 俺の独り言のような話を聞いて、キャルミラさんが離しかけていたことにユングは気が付いたようだ。

 俺達は念話を聞くことが出来るんだが、ユング達には無理なようだ。

 

 「不便なことは確かだよな。少し考えておくよ」

 

 そんなことを言っていたけど、カラメルの連中に技術供与を頼むのかな?

 ユングもそんな伝を何時の間にか持っているからな。天文台作りでカラメル族との接点を持ったようだ。


 「それで、さっきの話に戻るんだが、核ではダメだ。拠点を潰せるが後々を考えると汚染が問題になるぞ。少なくとも100発は使う勘定になりそうだからな」

 「毒ガスになるのか? そうなると別の問題が出てくるぞ。化学汚染はもっと厄介だ」

 

 『超磁力兵器は更に問題じゃ。2度と使うべきではない』

 「キャルミラさんは超磁力兵器だけは使うなと言ってるぞ」


 俺の言葉にユングが頷く。

 効果的で周辺への影響が少ない大量殺戮兵器ってあるんだろうか?

 

 「となると気化爆弾になりそうだな。最終的には部隊を投入せざるおえないだろうな」


 地上部隊を気化爆弾で対処して地下は兵士頼みになるのか。

 だが、兵力の増強は国力を低下させる。精々、連隊規模に増員できればいいところだ。ある意味、東西の戦線が縮小してからでないと師団規模の派兵は困難だな。


 『戦略爆撃を始めるべきじゃな』

 「そうですね。戦略爆撃で東西の戦線に加わる兵力を削減することが侵攻作戦の始まりになりそうです」


 「イオンクラフトは大型化できないからな。それに航続距離の問題もある」


 戦術爆撃は可能だが戦略爆撃はまだ技術力が足りないか。

 学校を作ってアカデミーで能力を伸ばす政策を取ってきたが、科学技術と同時に魔道技術も発展してしまった。

 魔石を使った色んな機械が出現してはいるのだが、科学オンリーの発展から比べると遅れているような気がするな。

 それは資源の問題でもあるのだが、石油化学はそれ程進んでいない。今でも列車はSLが引張っている。内燃機関のようなコンパクトな動力源が、未だに完成されてはいないのだ。


 それでも、かなりのイオンクラフトが運用されている事は確かだ。最初に比べれば航続距離も伸びてはいるが、大西洋を往復する能力は未だ持ち合わせていない。


 「帰ったのじゃ! サラブの漁師の元締めは、明日の朝に若者5人を送ると言っていたぞ」

 「ありがとう。獲物は修道院とサラブの漁師、それに俺達の3分割で良いだろう。5日も釣れば結構な数になると思うよ」

 

 餌にするハムも仕入れてきたらしい。

 後は姉貴達だが、少し経ってから帰ってきた。

 こちらも問題が無いらしい。シスターが何人か、ガンダルーの干物作りを手伝ってくれるとのことだ。


 「その外に、果樹園に何個か穴を掘るからそこガンダルーの内臓を入れて欲しいと言ってたわ。肥料にするんでしょうね」


 あれだけ見事な果樹園なのだが、今でも手入れはきちんとしているようだ。いつの間にか養鶏も軌道にのったようで、サマルカンドには毎日のように卵が供給されている。

 

 夕食は海鮮料理が並ぶ。キャルミルさんも嬉しそうに食べてたな。

 魚好きは相変わらずのようだ。


 ゆっくりと睡眠を取った次ぎの日。

 早めに起きて朝食を取っていたら、サラブから漁師達がやってきたと侍女が知らせてくれた。

 食事が終るまでテーブルでお茶を飲んで待ってもらう。

 俺達はさっさと朝食を終えると、部屋に戻って着替えると、漁師達と連れ立って西に下りる小道を歩いて行く。

 かなり急な下り坂だが、誰も不平は漏らさない。

 これから、始まる大物釣りに心が踊っているようだ。


 浜辺に着くと、俺が魔法の袋から道具を取り出す。鉄の竿掛けを砂に打ち込んで釣竿の手元の輪に革紐を通して竿掛けに縛っておく。これで、竿が引き込まれることはない。


 仕掛けは、単純にリールの糸の先に重りを付けて、途中からハリスを伸ばしてゴツイ釣針を付けている。ハリスはワイヤーだし、道糸は30kgの重さに耐えられる。1mクラスなら問題なく釣り上げる事が出来るだろう。


 「何本用意したんだ?」

 「4本だが、どうして?」


 「ならこれは、俺が……」と言いながらユングが1本を手に取ってアルトさんがサイコロ切りにしたハムを針に刺して、ヒョイ! と渚に投げ込んだ。

 次ぎの竿をアルトさんが持って行き、姉貴も1本手に取った。残ったのが俺のになるのかな?

 皆に続いて俺も渚から少し離れた水面にポチャンと仕掛けを投げ入れた。

 竿掛けに竿を掛けると、ディー達の準備を確認する。


 ディーはテーブルほどの分厚い板を砂浜に用意して、そこに片刃の片手剣を準備している。フラウも同じように準備しているぞ。

 漁師さんは大きな桶とバケツのような桶を数個準備している。

 シスター達が数人やって来て、近くの果樹にロープを張ると、そんな果樹の近くにシスターの監督の元、2人の漁師が穴を掘り始めた。

 姉貴は、ディーが袋から取り出した焚き木で焚き火を作っている。

 先が長いからね。お茶を沸かすようだな。


 「来たぞ! 我が一番じゃな」

 

 そんな事を言いながらアルトさんが竿を立ててリールを巻いているが、ややもするとアルトさんが釣られているようにも見える。大物らしいな。ディーが銛を両手で持って渚に歩いて行った。その後をモーニングスターを持ったフラウが歩いて行く。

 

 アルトさんがややもすると、自分が釣られそうになるのを必死で竿を操っている。

 やがて、バシャバシャと渚付近までガンダルーが引き寄せられて来た。

 すかさず、フラウとディーの攻撃が同時に起こると、ガンダルーはディーの掲げた銛の先に頭を貫かれていた。


 「中々の引きじゃったぞ。次ぎも我が釣るのじゃ!」


 アルトさんがそんな事を言って新たな餌を付けた仕掛けを投げた。

 俺とユングはタバコを咥えながら苦笑するしかない。

 後を見るとディーとラミィが片手剣でガンダルーをさばいている。

 最後には、海水を入れた桶にサッと浸して、ロープに腹を串で広げられたガンダルーがほされていた。


 「手馴れてるな」

 「ああ、前に1度やった事があるからな。沢山つれたら刺身にしよう。結構美味いんだぞ!」


 「それは楽しみだ!」


 ユングの竿が大きくしなる。

 今度はユングの番か。俺と姉貴が持っている竿にはさっぱり当たりが無いぞ。


 「来た!」


 姉貴が大声で叫ぶとディーが介錯人のように、姉貴の隣で待機している。

 ますます、俺の立場がなくなってきたな……。


 それでも昼食時までには何とか2匹を釣る事ができた。

 果樹園に張ったロープがガンダルーの重さでたるんでいる。漁師達がシスターの言い付けで次ぎのロープを張ったようだ。


 「我が7匹で一番じゃな!」

 「何の、後1匹で追いつくぞ」

 

 「アキト、どうしたの?」


 姉貴の言葉が耳に痛い。姉貴だって4匹釣っているからな。全く立場が無いぞ。だが、始まったばかりじゃないか。後4日あれば俺だって十分に挽回できる筈だ。

                  ・

                  ・

                  ・



 5日間のガンダルー釣りは総計で200匹を越えた。

 僅差で俺がどうにか1番になったが、アルトさんがビリになるとは思わなかったな。大物釣りだから体格のいい俺達が有利になったようだ。

 ちょっと、項垂れているアルトさんにはどんな慰めも効かないだろう。その内、別な競技を考えて、何とか汚名を返上する事を考えているに違いない。


 ユングはガンダルーの刺身に満足してたし、姉貴は漁師やシスターと獲物の代金を分け合っていた。

 俺達にも1人120Lが配られたから、それなりの売り上げがあったようだ。

 

 次ぎの日には製鉄所に出掛けて状況を眺める。

 今では耐火レンガも自作出来るようになっているし、水路に発電機を設置してアルミの製造までもが出来るようになっている。とは言え、その量は多くないけどね。

 今でも、この製鉄所の株を持っているから、その配当金として毎年金貨2枚を受け取っている。この配当金は他の配当と合わせて全額を神殿に寄付している。

 その寄付金は教会が行なっている学校の運営資金として使われるのだ。


 「さて、帰ろうか。そろそろ、王族達が集まってくる頃だ」

 「そうね。今年の祭りはどこで行なうんだろうね?」


 各国が始めた祭りだが、それなりの準備が必要だ。毎年2つの祭りをすることで連合王国が合意したのだが、その開催は新年の会議の席上で行なうクジによって決めるのだ。

 数年開かれていない祭りもあるし、3年も連続して開かれた祭りもある。

 今では国では無く、州という自冶体に変わっているが、この祭りだけは昔の王国の国旗が使われるのがおもしろい。

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