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R-019 北の住人達の将来

 

 「我等の祖先は平行する世界のどこからかやってきたようじゃ。カラメル族のようにこの世界の遠方からの来訪者とも異なる。運よく我等を迎えてくれたユグドラシルの民は我等の持つ伝承に良く似た世界観を持っておった。両者は互いに交配し、この世界に新たな種族を作り上げ、世界に散って行った。たとえそれが、地下コロニーからの追放であっても、この地をあらかじめ探していてくれたことは感謝に耐えない……」


 『だが、ユグドラシルのその後は知っておろう? かなり悲惨な結果を出しておる。環境変化を自らの体を異形に変じてまで対処しているのは驚く限りだ』

 『それでも、彼等の誇りは以前のままじゃ。最早、新たにユグドラシルで生まれる子供はいないぞ。……まあ、バビロンにしても似たところじゃな』


 「姉貴は、一緒に歩めないかと言っています。最後に移民した村の周囲は広大な森林地帯です。この里に住む5千の民を十分に養えるはずです」

 

 俺の言葉に長老は無言をたもつ。

 この地下世界で2千年は暮らしてるんだろうな。愛着もあるし、今更他種族と交流を図るのも煩わしく思っているのだろう。

 何時のまにか、俺の両脇から2人の気配が消えている。

 説得を手伝ってくれたのかな? 

 ゆっくりと時間が過ぎると、おもむろに長老が俯いていた顔を上げた。


 「確かにアキト殿の言葉の通りじゃ。災厄の前には力を合わせることも必要じゃろう。我等もアキト殿の言うルシファーと同じように次元の歪を超えてこの世界にやって来た者。同列と思い干渉はせなんだが、確かに今の我らにはこの世界の血が入っておる。我等もこの世界の住人と言えるじゃろう」

 「では、我等に力を貸してくれると?」


 長老が静かに頷いた。

 これで、俺の任務はおしまいだ。後は西の大陸に向かった飛行船でネウサナトラムに帰ればいい。

 年初の会議でエルフ族の大移動を告げれば、重鎮達が址の面倒は引き受けてくれる筈だ。5千人の中に、【サフロナ】を使えるものが10人以上いるのもありがたい。

 

 後は、ユグドラシル本体だよな。地下コロニーを移動する訳にはいかないし、何と言っても、彼等を守護する半漁人種族だっている。

 

 「ユグドラシルの神を移動する気なのか?」

 「色々とお世話にも成りましたし、できればと……」


 「話は出来るようじゃな。部屋に案内する。迎えが来るまではゆるりと暮らすがよい」

 

 長老の話が終えると、若者が部屋に入って来た。

 大木を出て、ツリーハウスのような建物に案内してくれる。部屋はベッドがあるだけの簡素なものだが、この地でベッドはありがたい。


 若者が出て行ったところで、端末を開きユグドラシルと交信を始める。

 姉貴からは、説得は無理かもと言われているから、気は楽だな。

  

 『……以上の課題が残る。解決せねばなるまい。それが叶うなら移動するにやぶさかではない』

 

 そんな返事が返ってきた。思考速度はかなり高い。俺達が半年議論するようなものでも、電脳の世界であれば数秒にも未たないだろう。

 ユグドラシルの提示した課題は2つ。動力源と半漁人の対応だ。元はユグドラシルの市民であり、無視できないということだった。

 予想通りと言えばその通りだが、この地では未来を作れないだろう。段々衰退する姿を自ら見守るということになるのだろうか?


 「そう……。予想通りということね。その課題の1つは直ぐにユグドラシルは対応を始めたに違いないわ。後は動力炉だけど、これはカラメル族を交えた相談が必要でしょうね」

 

 交渉結果を姉貴に伝えると、そんな返事が返ってきた。

 半漁人対応を始めるってどうするんだろう? まさか殲滅する訳じゃないよな。

 

 エルフの隠れ里で6日を過ごし、ネウサナトラムの別荘に帰ってくると、姉貴とラミィが俺を出迎えてくれた。


 ラミィが入れてくれた紅茶を飲みながら、簡単に状況を説明する。

 姉貴は「ご苦労様」と言ってくれたから目的は果たせたんだろうけど、ユグドラシルの方が気になるよな。


 「たぶん、クローンを作って移植するんだと思うわ。生体工学はユグドラシルがバビロンより高度に発達していたと思えるし、小型のイオンクラフトまで持っていたでしょう。バビロンはそこまでには至っていなかったみたいね。大森林地帯の山深くにあった船はたぶんイオンクラフトよ。あの大きさでしか実用化出来なかったようね」


 「問題は動力炉になるね。原子炉では後々問題になりそうだし……」

 「バビロンも共通の課題を持っているわ。直ぐに対応しなくても長期的に両者で検討すべき課題ではあるわね。カラメル族という、更に進んだ文明を持った種族もいるんだから、意外と早く結果が出るんじゃないかしら」


 ようするに、ラグナロクには係らないということだな。悪魔族の侵入を阻止出来ている以上、現段階では対応策を真剣に考える必要はないのだろう。

 とは言え、ユグドラシルの電脳も、あの地を移動したいという意思があるのが分かったことになる。

 

 「姉貴の方は?」

 「まだまだ先の話だからね。基本構想の段階よ。詳細は指揮官達の意見もあるでしょうし……」

 

 姉貴が、他者の意見を聞いて作戦立案したことがあったか?

 本人は意見を聞いたと錯覚してるんじゃないかな。かなり、問題のある作戦もあったように覚えてる。

 そうだ。一度だけ作戦を躊躇したことがあったな。あれは火攻めだったか。

 投降する手立てもない状態で焼き殺したんだよな……。


 だけど、姉貴の後継者たるサーシャちゃんは更に過激だたぞ。敵軍の残党を大森林に追いやったんだからな。

 戦いを決意した以上、情に流されるのは良く無い事だが、未だにその境地に達してはいない。

 狩りのように必要以外は殺さないということが俺の心情のようだ。そんな事だから未だにアテーナイ様が見守ってくれるのかも知れない。

 

 「アキトが強請ったグレネードランチャーはフラウが設計を終了したらしいわよ。試作品は東の部隊で試すらしいわ」

 「亀兵隊の戦法は一撃離脱だろう? そのまま悪魔軍に突っ込ませる事はやめて欲しいな」


 一応、釘を刺しておく。でないとスマトル戦のようになり兼ねないからな。

あれは、本来の機動戦には程遠いものだった。どちらかと言うと拠点守備に近いものだ。

 あの戦の仕方ではダメだろうな。トラ族並の力にネコ族並の俊敏さを持った種族だ。なるべく近付かずに倒す手段を考えるべきだろう。

                  ・

                  ・

                  ・


 西の堤防を守る指揮官達がやってきたのは、冬の初めだった。

 早ければ1年後には反抗作戦が始まるのだから、やって来た士官達も真剣な表情をしている。

 そんな彼等に姉貴が仮想スクリーンを拡大して作戦概要を説明している。

 姉貴は、この大陸西岸まで一気に駆け抜ける戦法を選んだようだ。まあ、電撃戦だとユングが喜んでたからな。こんな事だろうとは思ってたぞ。

 

 「15000M(約2300km)を駆け抜けるのですか? 兵士はともかくガルパスが持ちません!」

 「常に突撃せよ、とは言ってないわ。大陸西岸までの到達日数は50日を目標にすれば、1日の侵攻距離は約300M(約45km)ほどよ。部隊を3つに分ければ半日以上の休憩が出来るわ」

 

 ちょっとした交代勤務だな。姉貴の考えでは、6時間ごとに戦闘部隊を入替える考えのようだ。

 10時間以上の休みが取れるから、眠る事も出来るし、弾薬の補充も出来ると言うことらしい。


 「ですが、それですと戦うのは常に1個大隊となります。危険ではありませんか?」

 「亀兵隊だけでは無謀の一言だけど、貴方達の頭上には常に5機以上のイオンクラフトが付いてるわ。爆弾を2個と6丁の機関銃があるから、常に退路は確保されるし、貴方達が発砲する前には爆弾が落とされるわよ。それに、前もって飛行船がたっぷりと爆弾を降らせるわ」


 進軍の列に爆弾を落とされ、その後は機銃掃射か……。どれぐらい間引き出来るんだろう?

 姉貴の事だから、数日前から事前爆撃ぐらいはするだろう。

 大型飛行船で兵員船を沈められれば、大陸西岸の上陸地点をあらかじめ叩くだけで、進軍する悪魔軍の絶対数に限りが出る。

 爆弾で散った悪魔達が集団を作る過程で、亀兵隊が機動戦で片付けるということになりそうだな。その後ろを進む正規兵部隊は完全に落穂拾いだ。


 「イオンクラフトが足りなくなりそうですな」

 「エイダス島から10機を先行して派遣して貰います。都合40機あれば十分でしょう」


 「部隊の編成と指揮官は任せてもらえますか?」

 「お願いするわ。ブラザーフォーと接触して、ガルパス宅配便を借りられるか交渉してくれない。大型飛行船で資材を運んでも、そこから先が問題だわ」

 

 「たぶん兵站部が動いている筈です。確認してみましょう」

 「西岸に達したところで、我等の役目は終了ですか?」

 

 「亀兵隊が西岸の上陸地点を制圧して、後続の正規兵に移管したところで、亀兵隊は休養に入って貰います。その後は、戦闘工兵から順次西の大陸に渡ってもらうわ」


 第2段階の作戦に備えるってことだろうな。最終的には1個師団を送りだすことになる。それも、五月雨的に行われるのだろう。

 連動した作戦全体がラグナロクになるから後世の歴史家は迷いそうだ。形だけでも、分割された作戦の開始日と終了日は明らかにしておく必要があるだろうな。

 それに記録もきちんとしておいたほうが良いだろう。スマトルとの最終決戦はシュタインさんが前後の状況を添えて詳しく纏めていた。

 今回も、そんな人物を指揮所に置いておく必要があるんじゃないか?

 まあ、それは急ぐ話ではないだろう。たぶん重鎮達が言い出す話だろう。かつてのシュタインさんの立場なら、王族から派遣しても良さそうだ。


 姉貴達の話を渋い顔で聞いているのが、兵站士官達だ。

 ある意味一番困難な輸送を行わねばならない。

 部隊は常に前進するし、中継点もその都度前進させる必要がある。

 飛行船や、ガルパス、荷馬車も動員できるだろうが、それでも限りはあるだろう。出来れば先行して荷を運びたいのは目に見えている。

 西の大陸の拠点のように使える場所が欲しくなるだろうな。

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