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R-017 ギャルラホルンは50日?


 連合王国の重鎮達との会合が終った後で、俺達は別室で再度打合せを行う。

 コーヒーのマグカップが配られ、タバコに火を点けての雑談交じりの会話だ。


 「少なくとも、来年にはギャラルホルンを始動することになります。次のナグルファル作戦の準備と合わせて資材の調達を行わねばなりません。これは兵站部局に任せれば良いでしょうが、大型飛行船は間に合うのですか?」


 「早くて来年の夏だ。だがその前に小型の飛行船は3隻出来上がるぞ」

 「ダリル山脈に逃げ込まれることを考えると、冬が一番だわ」


 そうなると、1年とちょっとの余裕が出来るのか。

 武器の調達の面では都合がいい。爆裂球の備蓄も10万個をオーバーしているから、爆弾代わりに使えるだろう。出来れば爆弾をあまり使いたくないものだ。


 「問題は進軍速度です。歩兵は荷馬車を使っても1日で30kmがやっとでしょう」

 「商船に兵員を輸送して貰います。荷馬車からあぶれた兵員は船で先に進めましょう」

 

 「だが、そうなると、亀兵隊だけの突撃が繰返されることになるぞ!」

 

 一撃離脱で望むのか? だが、接近しすぎると飲み込まれる可能性が高い。亀兵隊は歩兵を相手にした時に威力を発揮する兵種だからなあ……。

 数万に2千で突撃するのは馬鹿げている。無反動砲を放って離脱するのであれば敵との接近距離は約3km程度だろう。端から潰していく外に手はないだろうな。


 「リブラムがアキト殿を訪ねてくるはずです。西の亀兵隊3個大隊を束ねています。彼の相談に乗ってくれませんか?」

 「亀兵隊を作った本人じゃからのう。損耗を防ぐことが大事じゃろう」


 ガラネスの言葉にアルトさんが追従してるけど、そんな兵種にしたのはアルトさん達にも原因があるし、育てたのはアルトさん達じゃなかったか?

 

「大軍を相手にするから、力でねじ伏せる訳にはいかないだろうね。基本に忠実であれば良いと思うけど、相談ぐらいは乗るよ」


 「全体の指揮は私で良いのね? 当初使えるのは小型飛行船が3隻で、終盤に大型が使えるってことね。航空部隊は2個中隊に、正規兵は2個大隊だから1個連隊。都合1個師団か……」

 「増援は、カルート兵1個中隊。亀兵隊1個大隊が東から移動できます。屯田兵1個大隊の参入は、ナグルファル開始にあわせれば良いでしょう。エイダス王国からの増援もそれに合わせようと思います」

 

 「ナグルファル開始は早くて1年半じゃな。ハンター育成が終らんぞ!」

 「ハンターの仕事はヴィーグリーズ開始に間に合えば十分よ」

 

 手持ちの駒が明らかになったという事だな。となれば……。


 「ところで、ギャラルホルンの時期と期間を姉貴はどれぐらいに考えてるの?」

 「そうね……。開始は、狩猟期を終えて一ヵ月後。作戦期間は120日。たぶんこれよりも早まると思ってるけど?」


 ガラネスと副官は絶句してる。口をぽかんと開けてるな。

 ユングは俯いて肩を小刻みに揺らしている。笑いを堪えきれないようだ。


 「フフフ……確かに出来るな。航空部隊と亀兵隊がいれば可能だぞ。明人、電撃戦の再来だ!」

 

 笑いながら席を立って片手を握って頭上に上げる。そんなある種の感動したユングの姿を見たのは久しぶりだな。

 だが、電撃戦って戦車がいるんじゃなかったか?

 マケトマムとの戦で戦車モドキをサーシャちゃんが作ったけど、あれは手で押すからそんなに速度が出なかったはずだ。


「トラックじゃなくて荷馬車だからねぇ……。50日で亀兵隊は大陸西岸まで侵出。取り残した悪魔軍を正規兵で殲滅するわ。それで120日としたんだけど」

 「電撃戦とローラー作戦を同時に行うって事だな。指揮官が3人いるな。その辺りも西の指揮官が来たら調整した方が良いぞ」

 

 ユングの言葉に姉貴が頷いている。最低3人ってことだろうな。

 

 「ランドルを同行させます。会議の席上では、知っていると言いましたが、既に私の指示でラグナロク全体の兵站を指揮するように部隊編成を任せております」

 

 となると、後は準備だけだな。

 ようやく悪魔軍と雌雄を決することになる訳だが、道のりはかなり遠そうだ。だけど、始まれば終わりが来る。たとえそれが何年先になるかも分からないけどね。

                  ・

                  ・

                  ・


 俺達の家に帰って質素な夕食を取っていた時だ。

 ふと、気になることを思い出して俺の食事が止る。


 「姉さん。北はどうするの?」

 

 答えようとした姉貴が慌ててパンを飲み込んだから、急に咳き込みだした。喉につっかえたのかな?

 ディーからカップを受取ってゴクリとお茶を飲み込んで、ハアハアと息を整えてるぞ。


 「急に変なこと言わないでよ。アキトが聞きたいのはノーランドとレイガル族の事ね?」

 「そうじゃな。確かにあれから大人しいことは確かじゃ。じゃが、ラグナロクが始まれば、軍の3割が大陸を渡る。彼等の侵攻を止めるような予備兵力はないぞ」


 それが1番の気掛かりだ。リザル族の山岳猟兵がアクトラス山脈の南山麓を哨戒しているけど、いかんせん規模が小さい。ようやく2個中隊になるかどうかだ。

 リザル族の総人口は5千人近くまで回復しているとは言え、あまり兵員を出すのも彼等の暮らしを考えると難しい話になる。


 「最近のデーターでは、ノーランドの人口は約10万。レイガル族は50万と推定してるわ。未だ、両者の地下世界での戦闘は続いているみたいね。100万を超えていたレイガル族は、あの怪物でかなり数を減らしたわ。どうにか怪物は倒したようだけどね」

 「決着がつかぬとは、我ら以上に長い戦をしているのう……」


 「悪魔軍が上陸地点から北に向かわないからだと思うな。西に押し寄せている部隊が北に回れば今頃は両方とも壊滅してるはずだ」

 『何故に、北を進まぬのじゃ?』


 キャルミラさんが問いかけてきた。

 思わず、俺達は頭を捻る。それはあまり考えなかったな。人口密度の高い方向に進んでいると思っていたけど、彼等は俺達の人口など知る由もない。

 寒さには弱いんだろうが、東の防壁に来る連中は北極海を越えてくるんだよな。

 確かに理由が分からないぞ。

 

 「その辺りは、バビロンとユグドラシルに期待しましょう。私達はそこまで考える必要は無いわ。現時点での敵の動向が分かれば作戦は可能よ」


 まあ、それも一理ある。とは言え、もう1つの種族がいるぞ。姉貴も気付いてるようだから、その内行動に移るんだろうな。

 

 「でも、エルフの隠れ里は気になるところね。アキト……」

 「様子を見てくるよ。出来れば協力願いたいしね。ユング、飛行船を使えないか?」

 

 飛行船で行けば往復で10日も掛からないだろう。あの、核爆発の後に里に向かった兵士達の消息も気になるところだ。

 

 「ああ、いいぞ。少し遠回りだが、推進機関の動力源は太陽光だ。数日後に出発できるだろう」

 

 「お願いするよ」と返事をしておく。これで帰りも寄ってくれるに違いない。

 向こうでの滞在日数は5日ぐらいだろうから、その間の食料ぐらいは用意しておこう。


 「我は、ひよこのハンターが気になる。ユングのイオンクラフトを貸してもらえぬか? ディーに動かしてもらえば、テーバイの北は直ぐじゃ」

 「俺は、西の大陸をフラウと調査してみる。重力異常のある地点は他にもあるからな。少なくとも拠点の北方は全て調査しておく必要がある。拠点から南は将来でもいいだろうけどね」


 居残り組みは姉貴とラミィか。まあ、ゆっくりと作戦を練って欲しいものだ。

 だけど、亀兵隊の武装も考えておく必要があるな。

 無反動砲は戦闘工兵が持っているだけだから精々40門程度だろう。多連装砲は2種類とも爆裂球を200m程放つものだ。数百mの飛距離が必要だろうな。


 「ユング、グレネードランチャーを作れないか? 簡易版でも良いが、飛距離は数百mは欲しい」

 「理由は理解出来るが、グレネードランチャーはそれほど飛距離を要求しないんだぞ。200mも飛べば十分だ」


 「やはり無理か……」

 「そうでもない。発射薬を増やせばいいんだが、そうするとバレルを厚くする必要があるな……。300mで妥協しろ。それ位ならどうにか抱えられるけど、ネコ族では無理だろうな」


 重さよりも、反動を抑えられないって事か? なら、人間族よりも力のあるトラ族なら問題ないはずだな。

 ユングに頷くと、笑みを反してくれる。

 これで少しは損害を減らせるだろう。あいつら突撃は得意だからな。


 次の日には、フラウが運んできたイオンクラフトに3人が乗り込んで東に旅立った。たぶんたっぷりと酒や食料を積んで行ったんだろうな。

 

 「明日の朝に飛行船が来ます。帰りは私に連絡していただければ迎えにいきます。ラミィが明日からお邪魔しますのでミズキ様に伝えてください」

 「ありがとう。お願いするよ」


 フラウにそう伝えると、リオン湖の水面を歩いて行く。いくら反重力装置を内蔵しているといっても、他人が見たら不思議に思うだろうな。まあ、ネウサナトラム特区の七不思議として定着してるようだから、たまに歩いてあげないといけないかも知れないけどね。そんな観光客がいるらしいとギルドで聞いたことがあるぞ。

 

 家に戻ると、姉貴にフラウからの伝言を伝える。

 大きく広げた仮想スクリーンを眺めていた姉貴が、お茶のカップを置いて俺を見る。

 

 「ありがとう。助かるわ」

 「それで?」


 姉貴が簡単に状況説明をしてくれる。

 西の堤防付近はいつも通りだな。黒々とした塊が堤防に押し寄せては、はね返されている。機関銃の前に一斉突撃は無意味だな。彼等には用兵を考えるものはいないのだろうか?

 彼等の援軍がアリの行列のように西から続いている。

 それを遮断しない限り、いつまでも堤防の西に居座る大軍が減ることはないようだ。


 「やはり堤防の西の部隊より先に、西岸の上陸地点を叩くのが先になるかな?」

 「それなら、その先にある中継用の島も爆撃したら? 悪魔軍の東回りの侵攻は海上ルートだ。兵員船を沈めればやってこれないぞ」


 悪魔軍の兵員輸送は、かつては片道だけの輸送船だったが、100年程前から、より大型の船を往復させている。これは出発点の森林がかなり減ってきたのも原因らしい。船を沈めれば、新たな船を作らねばならないから、兵員輸送に空白が出来る筈だ。

 

 「大型飛行船でそれを実施する計画よ。でも、考えてみれば小型を使って攻撃しても構わないわね。そうなると……」

 

 どんな計画が出来るか楽しみだな。

 亀兵隊の大部隊が進撃する前に、色々とやることがありそうだ。

 でも、そんなことをやり始めると、一体いつが作戦の開始日になるんだろう?

 ちゃんと明確にしておいたほうが良いだろうな。

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