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R-016 長い作戦になりそうだ

 ユング達のシミュレーションでは、大陸西岸までの制圧に120日と言うことだ。

 亀兵隊なら一ヶ月も掛らないんだろうけど、正規兵は歩兵だからな。かなりの数の荷車も用意するのだろうが、数が足りないみたいだ。

 

 「小型飛行船2隻は作戦半ばから物資の移動に転用する。大型が登場すれば更に物資の移送がはかどるだろう」

 「荷馬車での移動は考えないと?」

 

 「荷馬車があるなら正規兵の移動に使いたいな。それに、亀兵隊の輸送部隊が1個小隊あるはずだ。彼等に不足分は手配して貰いたい」

 

 進軍速度と兵站はやはり問題になるな。西の堤防までなら、簡易鉄道を使ったトロッコを小型の蒸気機関車が牽引しているから、その終着点が兵站基地になる。

 そこから前線までの輸送は、飛行船と亀兵隊に委ねられることになるのか……。


 「大陸西岸で南北に上陸地点が広がっているのも問題ですね。西岸に辿り着いても、北から攻撃を受けそうです」

 「その為に、西の大陸への物資輸送をしながら、奴らの進軍コースに沿って爆撃を行うつもりだ。かなり減らせるはずだ」


 大型飛行船を早期に作るのはそれが目的なのか?

 奴らの侵攻を逆に辿りながら軍船を攻撃すれば、半減以下になりそうだ。


 「大砲は小型のものを運ぶことになりそうですね。75mm短砲身なら荷車で運べそうです」

 「西岸を制圧するまでは、長砲身砲は無理だな。飛行船に積めない事はないが、使うチャンスがあまりないだろう。だけど、亀兵隊の75mm無反動砲はかなり使うぞ。弾薬の集積は早めに行ってくれ」


 やはり兵站を預かる士官と相談せねばなるまい。それと、ブラザーフォーも関係しそうだな。

 

 「ナグルファルについては不確定要素がありますね」

 「この東回りの残存部隊と西回りの部隊が北極海ルートで東に回ることですね。

 その懸念はかなり問題ですが、残存部隊については補給路が他にありませんから、島を1つずつ攻略して行くことで対処できるでしょう。北極海を迂回するルートは

……」


 「それは俺から話そう。可能性は高いが、かなり困難だ。北米大陸の北にはグライザムが群れで生息している。それに奴らの衣服で北極圏を遠距離に渡って踏破することは凍死するようなものだ。さらに、北極海の海生生物は巨大で危険な奴がいるぞ」


 「夏限定で、大陸の北を東に進むことは?」

 「グライザムだけが問題だな。犠牲を覚悟するなら半数は東に進めるだろう」


 となると、その対策も必要になりそうだ。

 大陸の西を北上する連中が無くならない限り、常に東海岸は北からの脅威に去らされることになりそうだ。

 

 「ある意味、ナグルファルは流動的になりそうですね。大陸東岸を進む悪魔軍の侵攻を阻止できた段階で作戦完了とすべきでしょう。北の脅威は無視できませんが、残存部隊の対処とあわせて砦を作ることで南下を防止できると思います」


 ガラネスの言葉に姉貴達も頷く。


 「ですが、これまでを1年で行うのですか?」

 「先に、部隊を2個大隊送り込んでおきます。ユングの方は大丈夫なの?」


 俺と一緒に我関せずとタバコを楽しんでいたユングが急に話を振られて、姉貴に顔を向けた。


 「大型の上のやつか? 作り始めれば同じだが、あくまで兵員輸送だぞ。とは言っても30tが精々だ。2個中隊がやっとだな」


 姉貴にはそれで十分な筈だ。大型飛行船3隻と更に大型の飛行船で完全装備の兵員を1個大隊運べることになる。……ん?


 「ちょっと待ってくれ! それじゃあ、亀兵隊を運べないぞ」

 「先行させます。展開の早いのが魅力的ですからね。1個大隊は必要でしょう」


 1個大隊を先に送るとなると、残りの1個大隊は歩兵である正規兵と屯田兵ということになるな。2個中隊あれば拠点の守りは十分だろうし、農業だって始められそうだ。

 拠点が出来上がれば、次に東の砦作りが待っている。戦闘工兵の仕事は終ることが無さそうだな。


 「課題は兵站です。ヴィーグリーズ始動時には隠匿拠点に2個大隊は駐留していることになります。彼等への軍需品をどのように輸送するかが最大の課題です」

 「それは、かなり前にランドル中尉が俺を訪ねてくれた。一応解決策はユングに教えて貰ったんだけど、あれからどうなったか確認していないな。ガラネスの方で状況を確認してくれないか?」


 「兵站部隊の方が先に動いてましたか……。了解です。ランドルの名は聞いたことがあります」


 総指揮官に名を知られてるということは、それなりに優秀なんだろう。ある意味、この作戦全体の兵站の一部を管理することになりそうだな。今は小隊指揮官でも、中隊指揮官ぐらいには階級が上がるんじゃないか?

 

「ヴィーグリーズの作戦期間は長引きそうですね」

「一応、5年を考えている。ククルカン以北の悪魔軍を殲滅して、敵をすべて南米に押し込んだ状態が作戦終了にはなるんだが……」


「奴等がその状態を維持してくれるかだな。人海戦術で波状攻撃を常に掛けて来ると考えたほうが良さそうだ」

「そこで、ヴィーグリーズに連動したもう1つの作戦というか、建設計画を発動する必要があるの。大西洋と太平洋を繋ぐ運河の建設よ」


 簡単に姉貴は話すけど、それだけで10年以上は掛るんじゃないか?パナマ運河だって湖を利用して作ったものだぞ。


 「別に船を走らせるわけじゃないから、運河の横幅は50D(15m)、深さは人の背丈で十分よ。それなら、爆撃で工事の半分は終るんじゃないかしら?」

 

 100kg爆弾を使って工事をするってことか?

 それでも戦闘工兵を長期間工事に従事させることになるぞ。その間の防衛だって課題がありそうだ。


 「東の堤防から戦闘工兵を移動させましょう。戦闘工兵を全て西の大陸に移動させることになります」

 「土工事だから、屯田兵も使えるわ。出来れば大隊規模で送って欲しいんだけど……」


 1個大隊は700人前後だから、総勢2千人の工事になるのか。それでも、姉貴が考える運河の総延長は1千kmを越える長さだぞ。数年は掛かりそうだな。


 「早くて3年は掛るでしょうね。でも、5年は掛らないでしょう。この運河『ヨルムンガンド』の完成を持ってヴィーグリーズ作戦は終了とします」

 

 この段階での派遣軍は一個師団に達しているはずだ。工事はその人員もあてにしているのだろうが、悪魔軍の反撃も相当なものになりそうだな。


 「最後にバルハラですが……。私にも期間を定めることが出来ません。ここまでの戦は武器の優劣で対応できますが、南米大陸は彼等の拠点です。かつて歪を消去したように核爆弾を使用しても、短期間で彼等を殲滅することは不可能です。それに、現在の私達には核爆弾を製造する技術を持ちません。少しずつ侵食するように彼等の版図を削るほかに方法がないようです」


 「単に、爆撃で人海戦術を取って来る軍団の数は減らせるはずだ。大規模な戦略爆撃が常時南米大陸に行われることになる。最悪、この最終戦は100年を超えるかも知れない。だが、ヨルムンガンドの完成があれば、彼等を南米大陸に封じ込めることは可能だ」


 ヨルムンガンドが新たな堤防の役目を負うことになるのか。それならば、北米大陸の開発は可能だろうし、連合王国への脅威は消え去ることになる。3個師団の兵員の内、1個師団だけ連合王国に残して、2個師団でヨルムンガンドを守れば良いことになるわけだ。

 兵員の貼り付けは痛い話だが、定期的に師団を入替えれば兵達の不満は減るだろう。

 それに、爆撃は継続する訳だから、悪魔軍の兵力も徐々に先細りになるだろう。

 

 「バルハラ作戦の終了は期間未定とします。推定では100年を考えてますけど……」

 「反攻作戦により現在の戦線を悪魔軍の拠点近くまで押していくと言うことになりますね。やはり、根絶やしは容易くはないようです」


 姉貴の言葉に、ガラネスが相槌をうつ。

 かなり無茶な部分もあるが、それなりに合意は出来たという事だろう。

 ヴィーグリーズが終了すれば、北米に移民団を送っても問題無さそうだな。

 エイダス島からの移民団はこの前後になるだろう。北米の東岸地帯なら、すでに悪魔軍は駆逐されている。派閥があるなら、拠点近くにも移民させれば良い。既に耕作地が広がっているはずだ。


 「俺から、1つあるんだが……。エイダス島のパラム王国軍についてだ。あの島にはイオンクラフトが30機ある。パラム王国総指揮官の話では20機を反攻作戦に派遣してくれるそうだ。連合王国の西の堤防は30機程のイオンクラフトで守っているが、大陸西岸まで敵を殲滅すればこの部隊の半数は東に移動することになるだろう。出来れば

東に移動する半数とパラム王国からのイオンクラフト、合わせて30機を隠匿拠点に送れないか?」


 「既に計画済みです。早くにパラム王国から申し出てくれて助かりました」

 

 ガラネスが即答してくれた。なら、移民計画についても話を聞いているだろう。

 タバコに火を点けて、関係者の顔を眺める。

 大作戦に滅入っている者はいないようだ。少しは期待できそうだな。

                  ・

                  ・

                  ・


 狩猟期にはネウサナトラム特区に屋台が集まってくる。それを目当てに連合王国中から人々が集まってくるからかなり賑やかだ。

 かつては俺達も屋台を出して楽しんだものだが、今ではそれも途絶えている。代わりに王族達が屋台を出しているのは相変わらずだ。庶民とのふれあいの場を持つことはいい事だと思うな。

 集まったハンターは今では数十人の規模に小さくなっている。それでも、野生の獣は珍重されるようで、獲物を買取る市場は昔のような賑わいだ。


 個の賑わいの中で、連合王国の重鎮が集まり、年初での計画のフォローが行われるのだが、今回の最大の目玉は、反攻計画ラグナロクの工程説明だ。

 来年度の資材調達と兵員の動員計画にも直結するし、大規模な予算も手立てしなければならない。

 

 事前に打ち合わせた内容を基に、ガラネスが説明を行い。質問には姉貴が対応していた。大幅な動員を行わないことで王族達はホッとしているようだ。予算的には連合王国自体にかなり余裕があるようで、ラグナロクの4段階の攻勢に要する予算もすんなり通っている。というか、その5割増しを付けてくれたぞ。

 それは、爆弾製造に回してもらおう。どうやら、姉貴達の計画には多量の爆弾が消費されるみたいだ。

 

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