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R-153 池の傍の別荘


 コロニーの外周通路なんだろうか? 緩やかな曲線を描いて左側に曲がっている。

 途中にいくつかの扉があるが、番号だけが表示されてるから、あまり一般の人が使う部屋ではないのだろう。

 内側は扉があるが、外側の壁にあるのは大きな表示パネルだ。道案内用の看板代わりなんだろうけど、現在地と左右の扉の番号を教えてくれるだけの簡単なものだ。

 それでも、金属プレートで出来た表示パネルは縦横2mはあるんじゃないかな。パネルの下側は通路の床から5cmほどもないものだ。


 そんな表示パネルの1つを前にディーが足を止める。


「ここから向かいます。表示パネルの番号を覚えておいてください」

 ディーの言葉に、パネルの表示を見たけど、『000』と書かれているだけだ。左は500で右が599になる。ひょっとして、ここが原点ってことなんだろうか?


「開けるには端末を使うことになります」

 ディーは端末を使わずにアクセスできるようだ。となると、オートマタのアテーナイ様や嬢ちゃんずも可能なんだろうな。残った俺達は簡単な扉の開け閉めを行うカギを作って貰うことになりそうだ。端末をいつも持ち歩くというのもんねぇ……。


 ディーが少し下がったと同時に、パネルが通路側に浮き上がるようにして左に開いた。奥には通路が続いている。

 

「この奥に、私達の住家に続くリフトがあります」

 そう言って、奥の通路に入って行く。この通路よりも横幅が少し狭い感じがするけど、それでも2mはあるんじゃないかな。


「まるで迷路じゃな。しばらくは遠くに行くことはできぬ」

「たぶん簡単に判別できるはずだよ。ディーも端末で開けられると言ってたから、端末を最初は持って行動することになるんじゃないかな」

「我等の端末では大きすぎるぞ。少なくとも片手で持てる大きさで無ければ不便この上ない」

 

 キャルミラさんが俺に顔を向けて言ってるけど、そんなことはユングやバビロンの連中に伝えるべきなんじゃないかな。

 やがて、通路が行き止まりになる。ディーが俺達の方に向いて動かない。

 ぞろぞろとディーの傍に集まると、いきなり通路に柵が床から延びてきた。


「ここがリフト区画です。このまま上昇します」

「だんだんと理解不能になってきたが、アキトの考えでは無かろうな?」

「俺じゃないよ。たぶんユング達じゃないかな。コロニー造りで退屈だったのかもしれないね」


 天井に穴が開いて、そこに俺達を乗せたリフトが入って行く。井戸の中にいるような感じだけど、天井に明かりが見えるから、それほど長いリフトではなさそうだ。

 やがてリフトが止まったところは四角い箱のような部屋だ。ゆっくりと柵が下がっていくと、ディーが扉を開いた。


「ここじゃったか!」

「確か焚き木小屋だったんだよね」


 俺達が小部屋を出ると、別荘の調度裏手に作った焚き木小屋の前だった。別荘の勝手口が直ぐ傍にある。

 となると、庭の方も気なるな。

 皆で、石畳の庭の方に向かって別荘と林の間の小道を歩いていく。それほどの距離じゃないんだけど、俺達の前に広がった景色は見慣れた風景だった。


 石畳の広い庭の片隅にはテーブルセットがあり、そこには緑の葉を茂らせたユグドラシルがあった。

 石畳の擁壁の下は池の水が手が届くところにある。20mほど先には低い背の広葉樹と針葉樹の林だ。その先は見えないが、確か草原になっていると誰かが言っていたのを思い出した。


「魚もいるわよ。リリックなら良いわね!」

 姉貴が擁壁から顔を出して下の池を覗いている。釣りもできるなら言うことなしだな。

 アクトラス山脈が見えないのが残念ではあるが、ここでの暮らしなら今まで通りに暮らせる気がする。

 俺達だけの贅沢になるけど、それぐらいは許されるんじゃないかな。


 別荘に入ると、何もかもリオン湖のほとりの別荘と同じように作られている。少し違うのは、ロフトに上がる方法が、梯子では無く階段だということだが、勾配がかなり急だから、油断すると落ちてしまいそうだ。


「荷物を部屋に運んでお茶にしましょう!」

「サーシャ達は先に着いているはずなのじゃが? どこに行ったのじゃろう」

「あちこち探検してるんじゃないかな? 夕食には戻ってくるはずよ」


 コロニーに着いた人達も、自分達が暮らす部屋を確認したところで、あちこち出掛けてるのかも知れないな。それとも、すでに働いているんだろうか?

 その辺りの状況も知りたいところだ。


 ロフトに荷物を下ろしたところで、コロニーの他の住人達と同じような服装に着替えることにした。

 ここでの暮らしは季節が無い。農産業を行う区画では温度差を作る必要があるだろうが、居住区は1年中温度を20度に保つということだ。

 チノパン風のズボンにTシャツと綿のジャンパーが標準となるらしい。


「私達は黒なんだよね。コロニーの管理者はグレーだし、農業生産を担当する人達は薄いグリーンらしいわよ。ジャンパーの色で仕事が分かるようにしてあると聞いたわ」

「あまり区別を付けるのも問題だけどね」


 M29のホルスターをベルトに着けて、小さなバッグを付けておく。小型の魔法の袋が入れば十分だ。それだけでナップザック3つ分の収納力があるからね。

 シガレットケースとライターはベルトの小さなポーチに入れておく。

 大型の魔法の袋にはいろんな物が入ってるけど、これはゆっくりと取り出して確認いた方が良いだろう。別荘を去る最後の日にいろいろと詰め込んできたからな。


 リビングに降りると、皆がテーブルの席についている。少しテーブルを大きくしたんだろうか? ミーアちゃん達がやって来ても十分に余裕がありそうだ。

 ディーが暖炉からポットを持ってきて、紅茶ポットにお湯を注ぐ。暖炉の火は……、3D画像みたいだけど、ポットを乗せると赤外線加熱が出来るみたいだ。良くできてるな。


「それで、明日からは何をすればよいのじゃ?」

 ふうふうと息を吹きかけてカップの紅茶を冷ましながら、アルトさんが姉貴に質問している。

 姉貴も猫舌だから、まだ紅茶のカップに手を出してはいないようだ。


「そうね……。明日には、月が動き出すかも知れないわ。核パルスエンジンの起動が上手く行って、地球の引力の呪縛を離れてからが大変なのよ。今の内に休んどけば良いわ」


 地球の引力の呪縛を離れた時、それは俺達が遥かな旅に向かう時でもある。

 地下深く潜ってしまったから、ここからでは故郷を見ることも出来ないが、5日後には地表に出ても見えなくなってしまうのか……。


 ピロロ……と、場にそぐわない電子音がしたかと思うと、仮想スクリーンがテーブルの端に広がった。丁度扉側だな。そこなら皆で眺められる。


「着いたようだな。核パルスエンジン起動まで、8時間というところだ。今のところは順調そのもの。特に異常はない。

そっちに行ってみたいが、今のところは無理だ。こっちはバビロンとユグドラシルそれにカラメルの連中がいるから心配は無用だぞ」

「手伝ってやりたいが、俺達には無理だ。とはいえ、何か困ったら連絡してくれ」

 俺の話に手を振って微笑んでいたけど、ユングの後ろにいる連中は忙しそうだな。


「いよいよだね。ドカ~ン! っと出発するのかと思ったけど、ゆっくりと軌道を変えるらしいよ」

 姉貴は一気に月が加速すると思っていたようだ。

 ユングから聞かされた話では、核パルスエンジンの推力でも月の巨大な質量を動かすのはそれだけでは不可能らしい。

 カラメル族の技術協力で反重力駆動を併用して初めて可能ということだ。

 それでも、現在の地球を回る軌道から脱出するための速度を得るために3日は掛かるということだった。

 5日前から加速すれば、地球から少しは離れることが出来るだろう。その距離がどれ位かは分からないけど、離れるほどに地球への遊星衝突の影響を軽減できることは確かなんだろう。


「しばらくは故郷を見ていられるし、今日の最大のイベントは核パルスエンジンの駆動ってことになるんじゃないかな。たぶん、コロニー内のテレビでも見られると思うよ」

「そうじゃった! テレビがあったのじゃな」


 俺の話を聞いて、アルトさんが暖炉脇の壁に取り付けられたテレビのリモコンを操作して、あちこちチャンネルを変えている。

 この世界のテレビはブラウン管を使うことなくLED画面になってしまったから、タブレット型の薄い形だ。

 壁に絵画を飾るようにして取り付けられている。とはいえ、まだ裕福な家庭だけの物であり、一般庶民には街頭テレビとして広場に設けていたのだが……。


「コロニーでの娯楽の一つとして、居住区域の各家庭に1台テレビを付けたらしいわ。庶民にとっては嬉しいことでしょうね。

でも、本来の目的は情報伝達手段だから、緊急時には、全てのチャンネルを優先して情報を伝えることが出来るらしいわよ。たとえ、テレビを見ていなくても自動的にスイッチが入るらしいわ」

「迷惑な話じゃが、この世界では仕方なかろうな」


 そんなことを言いながら、テレビのスイッチを消している。おもしろいのが無かったようだな。

 今のところは、コロニーでの生活を分かりやすく説明している番組ばかりだ。自分達の行動範囲と禁止事項については何度も説明しているのだろう。

 ちょっとした一人の不注意が、大勢の人間を死に至らしめることもあるのだ。重要な場所には兵士達がいるんだろうけど、それだけで防ぐ事はできないだろう。やはり一人一人が注意することが基本ってことなんだろうな。


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