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R-151 月は直ぐに動かないらしい


 災厄の日まで残すところ30日となった時、避難民の脱出は90%を超すことが出来た。既に避難が完了した地方については、軍がイオンクラフトで残った者がいないかを確認している。

 すでに航宙機の故障は半数を超えている。ピストン輸送の弊害なんだろうな。地球の静止軌道までの輸送と、月のプラットホームまでの輸送では、前者の方がはR化に故障が多い。脱出速度を得るための加速が問題なんだろうか?

 新たな惑星を見つけた時には、ゆっくりと移民を行いたいものだ。


「病院船の出発予定まで残り5日です。既に収容は完了していますが、まだ出発させないんでしょうか?」

「動けないで寝込んでいる人がいないとも限らないわ。もう少し待ってもらいましょう」


「5日以降の病人は真直ぐ向かわせるのじゃな?」

「10日後に3隻の余裕が出るわ。その船で、重水素タンクと一緒に運びます」

「そういえば、だいぶいろいろと運んでおるようじゃ」


 人の住まなくなった区域を回って食料等の残りを兵士がイオンクラフトで集めている。王都を出る時に一か所に集めて貰ったんだが、テント村での食事に使用するにはいささか多すぎたようだ。

 人を避難させるのが第一優先だが、人の避難が終わっても災厄までの余裕日数があるなら、月に運ぶのもやぶさかではない。むしろ送った方が良いんじゃないかな。それだけ月コロニーの保存食料を使わずに済むからね。


「食料は直ぐに作れないからね。とはいえ、すでに新たな住人達がコロニーの生産区域で種まきをしてるんじゃないかな?」

「時間が掛かるからのう……。それでも、月には季節がない。年に数回取り入れられるのではないのか?」


 アルトさんに首を振って無理だと答えておく。

 二毛作は聞いた事があるけど、三毛作ってできるのかな? あまり耕作したら地力が衰えそうな気がするぞ。


「水耕栽培なら、年中収穫できるけど、食べられるまでに育てるのは地上も月も変わらないわ。地上に残された食料を少しでも送ればそれだけ余裕ができるはずよ」


 災厄の日まで残り20日を過ぎたところで、地球に暮らしていた人類を全て月のコロニーに移動することが出来た。

 地上に残っているのは2個中隊ほどの兵士だけだ。

 現在、輸送を終えた航宙機に食料と重水素タンク、それに液体空気入れたボンベを積込んで月に送り出している最中だ。


 別荘のリビングに残っているのは俺達だけで、あれほどいた兵士やボランティアの人達はすでにこの地を発っている。

 

「コーヒーが入りましたよ!」

 リムちゃんの声に俺達は機材の片付けを一時中断して、コーヒーのカップが並んだテーブルに集まった。


「どうにか移し終えたな。だいぶ余裕があるからもう少し運び出せそうだ」

「災厄の星は、まだ肉眼で見ることが出来ないそうよ。5日前なら明け方に見えると言ってたわ」


「明るいだけの星らしい。月のように形が見えると思ってたんだけどね」

「ぶつかるところは見えるのじゃろう?」

「ユングがミュールの外部テレビカメラで中継するって言ってたわ。災厄が発生しないに越したことはないけど、天文台の観測結果でも衝突は確実ってことらしいのよね」


 この期に及んで、災厄が来ないとも言えないんじゃないかな?

 その時は、コロニーの隠れ家から暫らく出ないで暮らさなければなるまい。200年ぐらいすれば忘れてくれるかもね。


「ところで、ミズキよ。ぎりぎりまで地上の産物を月に送るのは良いが、月は直ぐに離れることが出来るのか? この地を割るような災厄であるならば、なるべく離れておくに限るが……」

 

 アテーナイ様の問いに、皆が姉貴の顔を見るのは仕方がないだろう。俺も思わずどんな答えなのかを知りたくて姉貴に注目したのだが……。

 自信を持って答える姉貴ではなく、両手で口を押えた姉貴がそこにいた。


「考えてなかったわ! 急いで確認します」

 直ぐに通信機に飛んで行ったから、フラウに確認するつもりだな。

 少し長く話していたから、ちょっと気になるな。

 皆が姉貴の後ろ姿をじっと見つめているぞ。俺とアテーナイ様は一服を始めた。今更どうなるものでもない。

 まだ20日近くあるし、地上に残っている兵士達も直ぐに脱出できる場所にいるからな。


 どうにか、納得したような表情をして姉貴が返って来た。

 びしっと俺達を指さして口を開く。

「月の核パルスエンジンを使うのは災厄3日前で十分らしいわ。万が一があるから5日前と連絡しておいた。私達も10日も経たずに移動するわよ」


「相変わらずじゃな。じゃが、余裕を持つことは良いことじゃ。リム、兵士達に災厄10日前にはこの地を離れるように伝えるのじゃ。静止軌道のプラットホームの資材も月に送らねばなるまい」

「最後は我等じゃな。オートマタが1個分隊残っておる。最後の荷を積んでアキト達を真直ぐ月に運んでくれるじゃろう」


 サーシャちゃん達はバジュラを動かすんだろうな。増設した燃料タンクにはたっぷりと重水素を蓄えているはずだ。

 このコーヒーカップも持って行こうか。向こうでの食器は全てアルミらしいからね。台所で適当に見繕っていこう。この地で作られた品だから、新たな惑星の博物館に寄贈しても良さそうだ。


 残った者がいないかを最終的に確認できたのは、災厄の日の11日前だった。

 兵士達が航宙機で旅発つのを見送って、最後の確認をする。俺達だってあまり遅いと月の移動に取り残されかねない。

 何といっても、核パルスエンジンで初期の加速を行うとユングが言ってたからね。あれって悪く言えば水爆を連続的に炸裂させるってことなんだろうから、その前には月の地下に作ったコロニーに避難したいところだ。

 

「とりあえず、全て済んだかな? リストでは抜けは無いと思うんだけど」

「すでに、月に人々を送っておるし、そこで生活ができることは確認済みじゃ。忘れ物はあまり気にせずにおればよい。でないといつまでも迷うことになるぞ」


 姉貴の呟きにアテーナイ様がさとしているけど、俺もそう思うな。これで十分だと考えれば良い。まだまだ欲しいものはあるんだろうけど、時間が迫っていることも確かだ。


「となれば、我等は一足先に向かうぞ。足が速いゆえ、連合王国の都市を一回り回ってくる。それでミズキの心配もなくなるじゃろう」

「お願いするわ。何もないとは思うんだけどね」


 サーシャちゃんの申し出に姉貴がお願いしてるけど、具体的ではないんだよな。まぁ、念には念をということなんだろうけどね。

 アテーナイ様も一緒になって、嬢ちゃんずがリビングを出て行った。


「キャルミラさんとアルトさん。姉貴と俺が小型のイオンクラフトで良いんだろう。操縦はディーがいるから安心だ。かなり荷があるけど、ユングの指定した離着陸場で良いのかな?」

「かなり頑丈に作った離着陸場らしいわよ。3つあると言ってたけど、ハブコロニーに近い場所を指定しているわ」


 程度の良い航宙機を何機か残すらしい。バジュラやカラメル族のタトルーンもあるから、ある意味偵察用に使うのかもしれない。

 新たな惑星が見つかった場合の移民船は再度組み立てる予定だ。とはいえ、構造部材等は再使用できるのかもしれない。その辺りのリサイクルも考えてはいるのだろう。

 

「私達も、明日には出発するわ。サーシャちゃん達が都市を一回り見てくれるなら、その結果を待ってからでも良いでしょう?」

「小型の航宙機で月コロニーまでの到着時間は5日程掛かります。核パルスエンジン駆動まで2日の裕度がありますから、十分に間に合います」


 ディーの報告では、何事も無ければという言葉が抜けてるんじゃないか?

 まぁ、ここまで来たらある意味覚悟を決めるべきだろうな。今更ってやつだ。


 ディーの入れてくれたコーヒーを飲みながら、タバコに火を点ける。良くも、人類の地球脱出を成功させたものだ。

 バビロンとユグドラシル、それにカラメル族がいなければ不可能な事だったに違いない。災厄の訪れによって、地球という惑星は残るかも知れないけど、地球の生物は絶滅してしまうのだろう。

 もしかして、微生物が生き残って再び地球を緑の大地に変えるんだろうか?

 だが、それにはかなりの時間が掛かるだろう。何億年も経てば再び新たな生態系が生まれるのかもしれないけどね。


「バビロンのシミュレーションを見たんだけど、地球の再生は不可能みたい。粉々になって地球軌道に幾多の小惑星が出来るらしいわ」

「再びくっ付く事は無いの?」

「太陽系外からの遊星らしいわ。速度が尋常じゃないの。地球にめり込むか2つになるぐらいなら、何とか生物の発生もあり得るらしいけどね」


 地球の終わりってことか……。地球の終焉は太陽の巨星化によってのみ込まれるらしいと聞いたことがあるけど、粉々とは思わなかったな。


 人のいなくなった都市を仮想スクリーンで眺めながら時を過ごす。

 夕食を終えてのんびりしていると、姉貴の所にミーアちゃんから連絡が届いたらしい。やはり、人影はどこにも無かったとのことだ。

 これで、姉貴の心配は無くなったということになりそうだ。


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