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R-145 病院船は直径1km


 俺が持ち帰った住民移動の課題点は、素早くディーによってユング、バビロンそしてユグドラシルに伝達された。

 姉貴がジッと課題を眺めているのを見て、ディーが入れてくれたコーヒーを飲みながら姉貴の反応を見ているのだが、何も言わずに眺めているのは不気味ですらある。


「ユング様から連絡です。ラミィをマスターの補佐として一時預けるとのことです」

「ユング達はそれなりに忙しそうだから、実働に向かないラミィを寄越してくれたのね。助かる話だわ」


 姉貴がリストをテーブルに置くと、コーヒーのカップを持って一口飲むと俺に顔を向けた。


「正直驚いたわ。確かに問題ではあるわね。大都市がこれで済むとなれば、次は地方都市を考えて頂戴。病院船に付いてはユングに私から依頼するわ。弱者の移動について深く考えなかったことを恥じ入るばかりよ」

「問題は、弱者には必ず健常者も付いていることだ。幼子を親から離すことはできないし、病人には介護者が必要になる」

 タバコに火を点けながらの俺の言葉に、姉貴も頷いている。


「移動途中で息を引き取る患者もいるでしょうね。それも考えないと……」

 

 かなり気落ちしているようだが、全ての人達を月に移動すること自体は呆れ馬手はいないようだな。なら悩んでくれた方が良いだろう。

 姉貴が解決策を出さないということは未だかつて無かったことだ。


「やはり、カプセルでの移送を考えるべきでしょうか? 効率は悪くなりますが課題の解決には丁度良いのではないかと」

「ユングの提案だったけど、確か私が却下したんだったわね。人は荷物ではないと言ったんだけど、その手は使えそうだわ」


 一人が入れるだけの小さなカプセルに入れて、ベルトコンベアで航宙機に乗せようとしていたらしい。確かにユングが考えそうな方法だが、それなら病院にカプセルを用意しておくことで対処できそうな気もするな。イオンクラフトか飛行船で一気に運べそうだ。


「少し見直して貰えるように伝えるしかなさそうね。そうなると、航宙船と病院間の移動方法はかなり容易にはなるんでしょうけど……」

「月コロニーでの受け入れが面倒になります。あらかじめ病院スタッフを準備させることが必要です。カプセル方式での輸送では1回に1500人程度になるでしょう。月との往復日数を勘案すれば精々4回の移動ができるだけです」


 1隻で6000人ということなんだろうか? 少なくとも10万人以上いるんじゃないか? 20隻近く建造しなければならないぞ!


「病院船で直接月に行かなくとも、地上を離れられれば良いんじゃないかしら? もう1つ大型のプラットホームを作りましょう。病人を全て収容してからゆっくりと月に向かえば良いはずよ」


 それだけでちょっとしたコロニーになりそうだな。

 だが、どうやって作る。ラグランジュポイントで作っても直ぐには地球の周回軌道には乗せられないんじゃないか?


 姉貴がバビロンに通信を送っているところを見ると、その辺りの計算を行わせるつもりのようだ。

 

「困っておるようじゃな?」

 突然俺の隣にカラメル族の長老であるレビトさんが現れた。

 カラメル族も単独で自分達の航宙船の修理を行っているのだが、目途が立ったのだろうか?


「お久しぶりです。とんでもなく困っているんですが。解決策があるんでしょうか?」

「うむ。我等の航宙船の修理が、先ほど終了したところじゃ。水中での稼働試験も済んでおるから宇宙に飛び出すには問題はない。

現在、2隻目を建造しておるが並行して小型の航宙船も作っておる。万が一の為と思うとおったが、それを使うこともなさそうじゃ。提供しようと思うが使うてくれるか?」


 願ってもない申し出だけど、ありがたく貰っても良いんだろうか?


「他意は無い。我等も月に軟着陸をしてお前達と共に新たな世界に向かおうと思うておる。強いて言うなら、今の言葉が条件ということになりそうじゃ」


 そう言って、おもしろそうな顔をして姉貴を見ている。

 姉貴も最初は驚いていたけど、考えてみればありがたい話に違いない。同じ地球に住む人達に変わりは無いから、コロニーでの生活も構わないんじゃないだろうか。


「ありがたく頂きたいと思いますがどれ位の大きさなんですか?」

「アキトの単位で言うなら、直径1kmというところじゃ。我等の身長に合わせておるから、階高は4m、でおよそ60階立ての階層構造を持っておる。動力炉と制御部は少し改造する必要があろうが、星の海を渡ることなく近くの惑星にまでなら100万人規模で移動できるぞ」


 カラメル族の航宙船の大きさは直径数kmらしいから、確かに小型にはなるんだろう。それでもかなりの大きさだし、何といっても海中にあるなら近くの海岸に移動するだけで大量の人間を運べそうだ。


「それでは、移動先を後で知らせてくれればよい。かなり中を改造しなければなるまいが、大まかには何もない階層がたくさんあると考えておけば十分じゃ。設計データをミズキの端末に送っておくからよく見てみるとよい」


 そういうと姿を消してしまった。

 ここはありがたく申し出を受けることにするのだろうが、改造は誰に任せるんだ?

 弱者なりの思いやりを持った設備を考えなくちゃならないぞ。


 トントンと扉を叩く音がする。

 ディーが扉を開けると、ラミィが立っていた。どうやら一人で歩いてきたらしい。


「マスターもかなり驚いていたようです。直ぐに私に指示を出したぐらいですから」

「ユング達の方は捗ってるのかな?」

「基本的な解析は終了しましたから、後は私がいなくともだいじょうぶでしょう。それぐらいは出来ないと困ります」


 ディーが持ってきた紅茶をおいしそうに飲みながら話してくれたけど、ユングの能力はラミィから見るとかなり偏っているんだろうな。

 サーシャちゃん達もがんばっているようだ。ユングも出番があることをねがってるんじゃないか?

 

 姉貴が現在の状況を整理しながらラミィに説明している。

 頷いてるから、それなりに納得してるとは思うんだけど、ユング達の間では一番ラミィが人間らしい。昔、子供達相手に勉強を教えていたせいなのかもしれないな。


「状況は理解しました。やはり病院と乳幼児の移動方法がネックになりますね。カラメル族の航宙船はこの状況下では渡りに船と考えるべきです」

「問題はこの船なんだけど……」


 姉貴が早速にも、送られてきた設計データを眺めていたようだ。

 仮想スクリーンに拡大したので、俺達もそれを眺めてみる。確かに大きいな。中心から直径150m程の球体は動力炉なんだろうけど、俺には理解すら出来ない。制御部は4か所にあるみたいだが球体の上部と下部それに円周上の2か所に分散している。


「カラメル族の生命維持の方法と人間のそれが、同じではないようにも思えます。改めて生命維持システムを設置するとして……、利用できる区画は40階層程度になるでしょう。

ベッドではなくカプセルを並べれば、150万人を乗せられます。さらに介添要員と制御要員10万人の月までの移動が可能です」


 かなり具体的な数字が出てきたな。

 自力では動けない人達が150万人であれば、大きな計画の変更にならずに済みそうだ。


「カプセルをバビロンで作って貰う事は可能かな?」

「バイオテクノロジーの発達したユグドラシルが適切と考えます。数個作っていただき、検討してはいかがでしょうか?」


 俺の質問にラミィが答えてくれた。姉貴もちょっと考えてたけど頷いてるところを見るとその選択で問題ないということだろう。


「カプセルを使っても移動時に振動を与えることは好ましくは無いでしょう。となれば、この病院船への搬送には大型のイオンクラフトを使うことになります。飛行船では気象条件に左右されかねません」


 やはりそうなるんだろうな。となればバビロンに依頼できそうだ。

 移送するカプセル数とイオンクラフトの数で勝負することになるな。


「このリストでかなり問題になるのは、移動時のボランティアの数だ。連合王国軍だけではとても足りない。シスター達の団体が協力を申し出てはくれてるが、500人程度だからね。

 使えそうな団体とそこから得られるボランティアの数、それにあらかじめプラットホームや月に置く受け入れのための人員も考えなくちゃならないよ。地上の移動を考えても、そちらにかなりの数がいることが見えてきた」


「となると、月のコロニーの維持管理をしている人達に頼むことになるんだけど、数がまったく足りないと……」

 軍を除隊した人達の再就職先として月のコロニーの維持管理をお願いしてるんだが、規模は2個大隊程度だ。

 地上の移動がかなり大変なことが分かっているから、移動先での混乱も同じように発生すると考えておくのが一番だろう。となれば、少なくとも5個大隊以上の要員を確保しなければ対処できないんじゃないか?


「お役所仕事の代理をするようなものよね。一番最初にお役所の人員を送るのも手かも知れないわ」

「地上と半々になるね。こっちも必要だ」


 俺と姉貴それにラミィで人員の調達に付いて数日間悩んでいると、ディーはバビロンに出掛けたようだ。

 大型のイオンクラフトの製作が終わりそうだと連絡が入ったらしい。帰りにユグドラシルに寄ると言っていたから、病人移送用のカプセルを積んでくるのだろう。


「連合王国のハンターギルドと商人ギルドが協力してくれるそうです。エイダス軍の3個大隊の協力とアメリカ大陸のハンターギルドも協力を申し出てくれました。

その8割が使えるなら、8個大隊規模になります。医師会の協力もあるのですが、離着陸場、プラットホーム等に配置すべきでしょう」

「それを移動に合わせて分配するのね。ちょっと割り振って見てくれない?」


 姉貴のラミィ使いも慣れたものだ。これで俺の担当分に割り振られる数が見えてくるな。


「ところで、アテーナイ様の方はどうなってるの?」

「どうやら纏まりつつあるようよ。4つの神殿を一か所に纏めて総本山にするみたい。各コロニーにはサマルカンドで作った分神殿を公園区画に設けるらしいわ」


「神殿には大型の倉庫も必要になるだろうね。隣に合った住まいは神官の数を考えてもかなりの規模だったよ」

「それも含めて調整しているみたい。あらかじめ月に運べれば良いんでしょうけど、それなりに信仰の対象となる物があるみたい」


 神像みたいなものか? 運ぶのは容易じゃないな。

 神像に納められた宝箱みたいなものなら、月で本体を作っても良いんだろうけどね。


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