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R-141 テロの可能性


 公開討論会の開催で、連合王国それと同盟を結ぶ王国の世論がかなり変わってきたようだ。

 ある意味、姉貴の策略の匂いもするけど、俺達のエクソダス計画に協力的になってきている。これが一時的なのか、それとも永続するのかが問題ではあるけどね。


「おもしろそうな事をやっていたのじゃな」

「おもしろいと言えば、おもしろいけど……。協力団体が出てきていることも確かだ。治安部隊と協力して航宙船の離着陸場の運営を管理して貰えそうだよ」


 アルトさん達は、種の採取から動物の遺伝子採取に仕事を変えたみたいだが、はっきり言って狩以外の何物でもない。

 ユグドラシルから派遣された5人のサイボーグと一緒になって、イオンクラフトで大陸中を飛び回っている。

 

「それで、アルトさん達の仕事は順調なのかい?」

「中々捗らんが、少しずつ種類が増えておる。系統の調査も併せて行っておるが、これはユグドラシルの連中の仕事じゃ」


 有用動物の胚については一通り採取して液体窒素に封入したらしい。最低でも10個以上と言っていたから、長期保管で全てがダメになる可能性は低そうだ。

 胚を集められなかった動物については遺伝子情報を細胞組織や血液で保存するんだろう。


 そうなると、今度は鉱物標本なんかも必要になるってことかな? さすがにそれはアルトさんはやってくれそうもないような気がする。


「それにしても、政治団体や慈善団体がかなり再編されたわね」

「あんなことを言うからだよ……」


 必要でないと思うのであれば、協力して頂かなくとも結構。その対価はあなた達の団体にお支払いします。構成員について航宙船搭乗は拒否します。現時点の構成員の家族を祖とする子々孫々に至るまでを対象としますから、ご安心ください。

 そこまで言うのか? と思ったぐらいだが、姉貴は相当怒ってたみたいだな。

 現状を見て弱者支援を憂うるなら姉貴も同情しただろうが、慈善事業の権益をむさぼる団体だったようだ。

 何のために何を作るかでさえ、姉貴の質問に答えられなかったぐらいだからな。

 エクソダス計画で作りあげたコロニー運営の権益を、自分達に誘導しようと考えてるのが見え見えだった。


「おかげで、当初非協力的だった団体までもが、賛意を示してくれてはいるんだが……」

「表立って、反対せねば問題なかろう。だが、そうなると……」


 アルトさんまで危惧するとなると、厄介な話になってくるな。


「エイダス島の対テロ部隊を動かすことになりそうじゃ。我等に任せればよい。アキトはこのまま住民の避難計画を進めれば良かろう」


 キャルミラさんの言葉は、ユングが昔作ったカウンターテロの部隊ってことか? 正規兵や治安維持部隊だけではどうしても防げないと言っていたんだよな。

 

「おもしろそうじゃな。我等の仕事にも丁度良さそうじゃ。サーシャ達も誘ってやらねば後で文句を言いだしかねん」

 

 キャルミラさんと笑顔で頷きながら別荘を去って行ったけど、残された俺達は互いに顔を見合わせてため息を吐く。


「キャルミラさんだけなら、襲ってくる相手を闇で葬るんでしょうけど……」

「サーシャちゃん達が加わると、カウンターにならないよな。こっちから襲い掛かりそうだ。それも計画段階でね」


 まったく、昔も今も変わらないからな。

 ある意味、姉貴よりも過激なところがあるし、その実行部隊の指揮を執るのが沈着冷静なミーアちゃんで、事前準備はリムちゃんが整えてくれるだろうからね。

 一言、ユングにも伝えるべきだろうか?

 簡単なメモをメールで送れば、少しはバックアップしてくれるだろう。


 それから10日程経ったころ、ユングから返事がやって来た。

 どうやら自宅に帰っているらしいので、様子を見に出掛けることにした。姉貴は何やら難しい図面を仮想スクリーンに拡大してディーと相談しているようだから、そのままにしておこう。


 別荘を出て、林の中の石畳を抜けて通りに出る。

 村とはいえ通りは2車線が作られ左右に歩道まで作られているのだ。小さな電気自動車がたまに通るけど、乗用車というよりは軽トラックみたいな構造だ。

 200㎏程の荷が積めて2人乗りだから、結構普及しているように見える。姉貴も欲しがってたけど、事故でも起こされたら大変だからね。イオンクラフトで我慢してもらおう。


 東に向かって通りを進むと左手は昔通りの林が続いている。右手の家は、ログハウスから石造りの2階建てが増えてきたな。たまに3階作りまで建てられるようになってきた。

 東門の広場は一回り大きくなったが今では石塀は建っていない。広場を取り囲むようにお店が並び、若い男女が行き来していた。

 広場から北に延びる通りに足を進めると、高級な別荘が直ぐに見えてくる。旧王族の直系が住む別荘だけど、夏や狩猟期の祭りには貸し出すこともあるらしい。

 別荘の並びを通り過ぎ、小さな林を抜けると、場違いな2つの建築物が現れる。

 ドームを建物の屋根に乗せた天文台と、その前にさらに大きなドーム型構造の建物が湖に張り出して作られている。ドームの前の石畳の庭はきれいに掃除されてるけど、ユング達がいないときには誰がやってるんだろうな?


 ユングの家の耐圧隔壁の扉の傍にあるチャイムを押して来客を告げると、直ぐにラミィが現れて俺を案内してくれた。

 暖炉の前にあるソファーセットは、何代目になるんだろう?

 さらに、ソファーを増やしているのは昔から比べて、来客の数が多くなっているんだろうな。


「こっちだ! まぁ、座ってくれよ」

「なんだ、ミーアちゃん達も来てたのか」


 どうやら、ユングの自宅をカウンターテロ組織の総本部にしたようだ。


「まったく、おもしろいことをしたもんだ。おかげで久しぶりにみんなで騒げそうだ」

「【出来ちゃった騒動】依頼じゃな。できれば定期的に騒動を計画してほしいぞ」


 ユングとサーシャちゃんは機嫌が良い。少し離れて、困った連中だと言いたげな目をしながらアテーナイ様がパイプを咥えているけど、表情はサーシャちゃんと変わりがない。一緒になって騒ぐつもりだな。


「ミーアちゃん達は?」

「エイダス島に行っておる。まだ帰って来ぬのは、希望者をふるいにかけておるのじゃろう。ネコ族の英雄と始祖じゃからのう」

「フラウとリムは、世界中を一回りしてくるそうだ。とりあえず情報を集めないとな。マイクロセンサーをばら撒いてるはずだ」


 やることが大げさ過ぎないか? カウンターテロは情報収集が大事だとは聞いたことがあるけど、そこまでやるのか?


「アキト達が潰した団体の数は7つじゃ。上手い具合に全て連合王国の版図に入っておるが、そのシンパがどこまで拡散しておるかが分からん。動きを調査する必要のある人物だけでも数千人を超えるぞ」

「団体への資金の流れは9割方減っておる。既に看板は下ろしたようじゃが、集会の頻度が上がっておるのじゃ」


 テロを行う動きがあるということになるな。あの場で姉貴に謝れば済むことだったのに、プライドと利権に伴う金に目が眩んでるってことか?


「まぁ、俺達に任せておけ。アキトは他にもやることがあるんだろう? そっちに専念してくれてだいじょうぶだ」

 カップが足りないのか、俺に渡してくれたのはシェラカップに入ったコーヒーだった。

 ありがたく頂いて、タバコに火を点ける。


「プラットホームの偽装はだいじょうぶなのか? 全体計画がリンクしているから遅れると姉貴が文句を言い出すぞ」

「あっちはオートマタに任せてあるし、マールさんだっているからね。マールさんも危険分子は早めに始末するべきだと言っていたぞ」


 バビロンの管理とも繋がる話なんだろう。閉鎖空間で危険な思想を持った連中がいるのでは、コロニー全体の運命を左右しかねない。

 コロニー管理に影響を与えることは、殺人以上の罪として扱われたんだろう。月のコロニーでも同じような刑罰が行われるんだろうか?

 行政と司法についても十分に議論する必要がありそうだぞ。


 とりあえず、よろしく頼むとユング達に伝えて別荘に変えることにしたけど、やり過ぎないか心配になってくるな。アテーナイ様の良識に頼ることになりそうだけど、アテーナイ様も過激なところがあるから余計に心配になって来た。


 別荘に戻ってみると、どうやら来客のようだ。

 軽く頭を下げて姉貴の隣に座ると、王都の治安部隊のバリアスさんだ。隣の女性は副官ということになるんだろうか。


「バリアスさんが、私達を攻撃しようとする動きがあると言ってるの」

「そうなんです。できれば部下に警護させようと思っているのですが、ミズキ様は必要ないと言われまして……」


 そういうことか。ある意味、今でも連合王国の治世にコメントを付けられる立場にいる。テロの対象としては十分ということになるんだろうな。俺達がいなければコロニー全体の利権を分けることも可能だと思っているのかもしれない。


「ありがたいお言葉ですが、俺も必要性は感じません。敵意を持ってやってくるならばこの別荘にたどり着くことさえ不可能でしょう。とはいえ、すでに表面上の動きが出ているということですか?」


 俺の言葉にバリアスさんの隣にいた女性が小さく頷いた。


「連合王国では武器の所持を禁止しておりません。現在でも多数の武器屋が存在しますが、銃と弾丸の販売については身分証明書の確認が必要です……」


 そんな前置きで教えてくれたのは、武器問屋と武器屋の販売数が大きくかい離し始めたということらしい。

 闇で武器が売られているということになるんだろうな。


「ウインチェスターとリボルバーが主ですけど、一騒動起こすには十分な数です」

「1千丁を超えている。動乱では済まなくなるし、その狼煙は……」

「私達への襲撃ということですね。そうなると、連携した方が良いのかしら?」


 姉貴が俺に顔を向けた。

「ユングとサーシャちゃんが動いてるよ。既にアルトさん達がエイダス島で精鋭を集めてるみたいだ。リムちゃん達はセンサーをばら撒いてる。アテーナイ様が後ろについてるけど、どこかで大きな爆発でも起こしそうな感じだな」


 俺の言葉を聞いて、姉貴は笑顔のままだったから、想定範囲ということなんだろう。でも、バリアスさん達は口をあんぐりと開けている。


「エイダスのカウンターテロは、王国軍そのものですよ! 良く動いてくれましたね」

「いろいろとあるんです。たぶん1個分隊は連れ帰るでしょうけど、バリアスさん達も動くということですか?」


「もちろんです。モスレム市の治安を預かる身ですからね」

「でしたら、俺の仲間を2人派遣したいんですが。2人ともハンターレベルは銀4つ。獣相手に得たレベルですよ」


「我等の仕事も狩に近いものがありますね。それだけの実力があれば十分ですが、どなたを?」

「小柄な娘が2人です。絶対に見た目で判断しないでください。戦闘工兵数人を1人で相手に出来ますからね」


 姉貴も俺の意図に気が付いたらしく、笑顔でバリアスさんに頷いている。

 ちょっと困った表情をしていたけれど、部下の数が少ないということも心配だったんだろう。少し間を置いて頷いてくれたから、アルトさんの退屈凌ぎに丁度良い。


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