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R-014 大陸中央部の覇者

 この地に降り立って10日ほど過ぎると、本部にはログハウスが建てられ、その中に指揮所が作られた。

 飛行船が昨日到着して新たに戦闘工兵1分隊とイオンクラフトが1機増える。

 最終的には戦闘工兵を1個小隊にしたいようだ。イオンクラフトは荷台が大きな輸送タイプのようだが、積載量は200kgだとユングが言っていた。それでも、1班5人人を迅速に移動できるのなら十分だろう。

 

 指揮所の大きなテーブルに主だった連中が集まって、次の作業の打合せを行う。

 ユング達の調査結果と拠点の候補地が主な議題だ。


 「重力異常のある地点を調べたが、すべて瓦礫だ。俺達が使えるものはない。その外にも調査したい場所があるけど、距離が遠い。とりあえずは過去の遺物調査は終了だな」

 

 残念そうにユングが話している。フラウ達も残念そうだ。仲間を増やせると思っていたのかな?

 

 「だが、途中でおもしろいものを見たぞ」


 端末を操作してスクリーンを壁に展開する。

 そこに上空から写された荒地の広がる平原が広がった。たぶん200mほどの高度から見た光景なんだろうな。滑るように荒地を進んでいるのが分かる。

 突然、無数の穴が荒地に開いている場所に出た。


 「直径は約20D(6m)前後だ。周囲が少し盛り上がってるだろう。もうチョット待ってろよ……。ほら、奴がこの穴の主だ」


 穴から出てきたのは、タグだった。連合王国に生息するタグという体長2mほどのアリにそっくりだ。違うところは……。


 「大きすぎるぞ。タグの2倍はありそうじゃ!」

 「そう、かなり大きい。だが、これが悪魔軍が大陸の中央を進まない理由の一つじゃないかな。このコロニーの推定個体数は約2万を超える。棍棒や粗悪な剣や槍では少し手に余る。10万程度ならば簡単に全滅してしまうだろう」


 俺達はしばし唖然として、巨大なタグの姿を眺めていた。

 問題は、俺達と敵対した場合に対応が取れるかどうかだ。


 「倒せるの?」姉貴の短かい質問がたぶん全員の思うところだろう。


 「これを見てくれ。数匹倒して確認を取っている。AK47を10発ほど連射して頭を潰せば簡単に倒せる。2、3発では目を狙撃しない限り無理だ。MP7でも数発目に打ち込めば倒せるぞ」


 簡単に言ってるけど、かなり難しそうだ。AK47を連射すると銃口が跳ね上がるんだよな。弾幕を張って倒すことになりそうだぞ。


 「ラティは持ってきてるのか?」

 「分隊に1つの割で支給されていますから、2丁は持っています」

 

 俺の質問に戦闘工兵の分隊長が答えてくれた。少し装備が不足してるな。AK47は悪魔との戦では有効だろうが、この大陸の獣を倒すにはいささか不足してる。

 具申しようと姉貴を見ると目が合った。同じことを考えてるってことか?


 「少し早いですけど、75mm砲を運びましょう。短砲身なら屯田兵の人達も使えるのよね?」

 「一応、訓練を受けています。榴散弾が欲しいですね」


 先行部隊の安全のために、数門は欲しいな。

 ユングも特に付け足すことはないようだ。


 「ラティも増強すべきでしょう。有効射程は3M(450m)を超えます。相手が大型であれば、極めて有効です」

 「分かってる。合わせて運ばせる。どうやら、2隻目が運行試験を始めたらしい。次の便は2隻で来るから、それなりに荷物が運べそうだ」


 屯田兵の女性がテーブルにお茶を運んでくれた。

 この辺で一服そて、次は拠点の話になるな。銀のタバコケースを取出して1本引抜きジッポーで火を点ける。

 数人がパイプやタバコを取出して一服を始めた。


 「次は拠点の話ね。屯田兵が良い場所を見つけてくれたんだけど……」


 姉貴が端末を操作して2つの仮想スクリーンを展開する。片方は画像で、もう一つは地図になっている。


 「来る前にある程度周辺状況を確認していたんだけど、あらかじめ選んだ場所よりも少し南に下った場所がいいみたい」


 姉貴達が見つけてきた場所は、南北に続く山脈から東に張り出した尾根の一つだ。

 尾根と言っても末端付近はなだらかな起伏の続く丘のようになっている。そんな起伏の一つを拠点と決めたようだ。

 中継点と決めた丘の南北には川があるから、それだけで敵軍の足を緩められるだろう。水源の近くは理想的だな。

 問題があるとすれば林が点在しているから、農業を始めるには開墾が大変だと思う。


 「農業が出来ますよ。土質は理想的です!」

 「大まかな中継点の配置図を作って、少しでも早くガルツの種を植えねばなりません。ガルパスの食料を自給できる体制にしませんと……、攻勢開始時には数千のガルパスが集まりますからね」

 

 ガルパスは草食性だが、意外と好き嫌いが多い。一番喜んで食べるのが、キャベツに似た野菜のガルツなのだ。


 「拠点までの距離は南南西に140kmほどだから、イオンクラフトでここからどうにか1往復が可能だわ。ユング達には航続距離の増加をお願いしたいわね」

 「2割ていどなら、水素吸着体を納めている容器を変更する必要もないが、500km以上を望むなら燃料タンクの配置場所から設計変更する必要があるぞ。2割で何とかしてくれ。それ以上なら2ヶ月ぐらい待ってほしいな」


 そんなユングの答えに姉貴が頷く。たぶん余計な改造もするんだろうけどね。

 

 「次の便で、更に屯田兵と戦闘工兵がやってきます。拠点と本部に分けて作業を進めようと思いますが……」

 「そうね。だけど、まだまだ資材が不足してるのよ。後、10日程待って欲しいわ。その間は、森を伐採して建設資材を集めて頂戴。ユング達は燃料製造装置を何とかして欲しいわ」

 

 この本部を資材倉庫代わりに使って拠点を作るつもりのようだ。

 だとしたら、相当量の木材を使うぞ。それにイオンクラフトでの運送を考えると燃料問題の解決は急務だろう。あまり先行して拠点の開発をしても、イオンクラフトの燃料がないのでは話の外だ。

 今は、拠点の場所を確定したことで良しとすればいい。それによって、何が必要かが具体的になる。

 ディーとフラウ達がいないところをみると、他の天幕の中で作業を開始しているに違いない。姉貴が無駄に時間を過ごす訳がないからな。

 

 仮想スクリーンで見るかぎり、緩やかな起伏のようだ。隣の地図の等高線の間隔もかなり広い。畑作には向いているが、基地としてはどうだろうか?

 

 「俺達は地下から材料を運んでくる。最初に作るのは小型の奴だから、全体重量は5tを越えまい。明人達で倉庫を作ってくれ。大きさは教室より大きいぐらいで十分だ」

 

 分かるようで分からない大きさだな。


 「間口、奥ゆきが12m。高さは3mで良いか? 天井板はないから部分的には高さ5mにはなるだろうけど」

 「十分だ。壁は適当に塞いでも良いぞ。水素を扱うからな」


 あまり塞ぐなと言うことだな。ならば丸太で仕上げても十分だろう。屋根だけは雨漏りしないようにすればいい。雪が降るだろうから、その辺りも気をつけなければなるまい。

 

 「屯田兵の分隊に周辺監視をお願いできれば、我ら戦闘工兵2個分隊が倉庫作りを行います」

 「この部屋での画像監視と、周辺の巡回ですね。了解です」

 

 「我らも巡視の手伝いじゃ。ガルパスを1匹借りるぞ!」

 

 アルトさんの場合はその方がストレスが溜まらないだろうな。たぶんキャルミラさんも一緒のはずだ。姉貴は、ディー達の計画書を確認するつもりだろうから、これで全員の分担が決まった。

                         

 戦闘工兵には力自慢の連中が多い。今回派遣された連中もそれに違わず、太い丸太を森から運んできている。

 イオンクラフトは燃料の関係で使えないのがいたいな。敵が攻めてきたときの用心に待機させてある。やはり、燃料製造装置の組立ては急務になるぞ。

 

 数日かけて材木を切り出し、戦闘工兵達がログハウス風の倉庫を作っている。

 板は。フラウがレーザーで材木を一定の横幅で切り取ってくれた。少し焦げてるけど上空から見れば迷彩になるかも知れないとユングが呟いている。

 ほとんどの板は屋根材だから、それでもいいのかもしれないけどね。

 

 一ヶ月も経たない内に、倉庫が出来上がる。

 その中にユング達が地下から運び出した材料で水素製造装置を組み立てている。ユグドラシルの提供してくれた大型のイオンクラフトは小型の核融合炉を使うから、併せてトリチウムの抽出も行うみたいだ。

 

 「素朴な疑問なんだけど、この装置の動力源はどうするんだ?」

 「あれさ。防壁にもなるし、丁度いいだろう!」


 俺の疑問にユングが戦闘工兵の並べている黒い盾を指差した。大型の木製盾を止めたんだなと思っていたんだが……。


 「南側に並べた盾は表面に光電子パネルを付けてある。60枚並べるから、あれだけで25kWは発電できるぞ。精製量は少なくとも時間があるからな。十分に使える」

 

 仮設だからそんなもので良いと聞こえるな。

 指揮所から300mは離れているから、安全上に問題はないのだろう。それでも指揮所の倉庫側には石壁を作るようだ。フラウが切り出した石を何個も運んでいる。

 

 「地下の資材でもう1セットは作れそうだけど、これは南の拠点で組み立てる。この場所を倉庫代わりにして、中継点作りの資材を運ばせるつもりだ」

 

 中継点は、連合王国の西側を攻める連中を追い出してからだからな。時間はたっぷりあるという事だ。その間にこの本部を使って中継点の下地作りをするということだろう。

 

 2ヶ月ほどが過ぎて、本部の構成員は戦闘工兵が2個小隊、屯田兵が2個分隊にまで膨らんだ。

 水源が近くにないのが問題だ。水タンクは更に増えて3基になっているから飛行船を一ヶ月単位で運航すれば良いだろう。

 

 「これで、3年も経てばたっぷりと燃料が手に入るぞ。その頃には、拠点の地下施設もある程度完成するだろう」

 「問題は輸送だな。ユングが使っているような大型があれば良いんだが……」


 指揮所であるログハウスの外に作られた粗末なベンチに、ユングと腰を下ろして話をする。焚火があるから何かと人が集まる場所だ。

 

 「そうだな……。資材搬送の大型は必要だろうな。建築資材も運べるし、何と言っても作業人員を迅速に送ることができる。ユグドラシルに強請ってみるか」

 「ダメなら自動車になるけど、道がないのが問題だ」


道が作られると折角の隠蔽が無駄になってしまう。道筋を辿れば直ぐに、本部と拠点の存在がばれるだろう。

 戦闘工兵1個小隊が拠点に向かって工事を始めたらしいから、早く資材の運搬方法の解決策を見つけてやらねばなるまい。最悪はもっと小さな飛行船の製作なんだろうが、それなりに大きくなるんだろうな。


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