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R-137 避難者の仕事は?


「食事は大食堂で、下水処理場と浄水場はコロニー単位……」

 姉貴がぶつぶつと呟きながらディーと一緒に仮想スクリーンのチェックリストを確認している。

 昔と比べてだいぶ項目が少なくなってきたのはそれだけ対応が進んだということになるんだろうな。


 すでに魔族大戦から500年の年月が過ぎた。

 姉貴の大計画はいよいよ佳境に入ってきたところなんだろう。このところ嬢ちゃんずが別荘に寄り付かないのは、完成したレジャー施設に航宙船で氷や真水を運んでいるためだろう。

 同じ設備を月の表と裏に作ったらしいが、1つの施設に使用する水の量が20万tとはとんでもない施設だ。補給水の貯槽3つが併設され、その貯水量は1つの貯槽が1千tということだ。

 最大5mの波を作れるプールは大きさだけで200m四方もある。

 重力が六分の一の世界でサーフィンはできるのだろうか? まぁ、できなくともおもしろいことにはなりそうだけどね。


 どうにか核パルスエンジンを設置し終えるまでに、ユング達は30年の年月をかけた。ほとんど同じ年月を使ってカラメル族が重力場航行装置を設置し終える。今は、コロニーの基部に低出力の重力場発生装置を設置している。

 完成すれば居住区域を地上の重力と同等にできるとのことだ。

 大型核融合装置も数台ずつ分散設置しているし、地下にもいくつか非常用の動力炉を設置したようだ。

 核分裂を使わずに全て核融合を使うのは燃料の保存と廃棄物を考えてのことだろう。

 ユグドラシルの重水素分離装置はフル稼働中らしい。現在増設中らしいから、姉貴の望む量が手に入るのはそれほど先にはならないだろう。


「娯楽施設まで作るとは思わなかったけど、これでだいたい終えた感じね」

「そうでもないよ。結局は箱作りだ。寝るための布団もないし、食器も無い。少しは持ち込みをするだろうけど、それを期待するよりもその荷物の分だけ人を送りたい」


 俺の言葉にディーと顔を見合わせている。亀兵隊達は魔法の袋で大量の荷物を運んでいるけど、一般人はそんな便利な物を持っているとは考えにくい。

 エクソダス時に航宙船に持ち込む荷物は手荷物に限定したいところだ。なるべく空荷が望ましい。

 となれば、コロニーの家族単位の部屋にある程度の生活必需品を揃えておく必要があるだろう。


「盲点だったわ。生活必需品とは何かを考える必要がありそうね」

「仲間内はハンター経験者ばかりだ。ここは民間人にリストを作って貰うのが一番だと思うんだけど?」

「なら……、ギルドの娘さんに頼んだら?」


 一応ハンター繋がりなところがあるけど、確かに一般人ではあるな。

 となると、会社にも行ってみるか? 手工業と精密工業を行っているから同じように月でも会社を続けることができるかもしれない。

 何もせずに暮らすよりは、少しでも働いた方が月での暮らしに変化を起こせるんじゃないかな?

 

 待てよ。ということは月に避難した人類すべての仕事を考える必要も出てくるんじゃないか?

 ここで暮らしていた時と同じ仕事ができるとは限らない。コロニーを維持するためにどんな仕事がどれぐらいの人数で行う必要があるかを考えるのも俺達の仕事になりそうだ。


「出掛けてくるけど、もう一つ考えなくちゃならないことがあるよ。月での仕事の斡旋だ。人口構成を考えて無理が出ない仕事を作らなくちゃ人類が衰退しかねないよ」


 ガーン! という姉貴の頭の中の音が俺にも聞こえてきたように思える。

 姉貴の悪いところが出た感じだな。作ればそれに皆が従うと思っているところがあるんだよね。

 これで、どれだけ俺が苦労してきたか……。


「人口調査の中に職業の記載があったはずだわ!」

 ディーと相談しながら、姉貴が別の仮想スクリーンを立ち上げ始めた。後は問題ない。一旦始めれば、姉貴の洞察力は群を抜くからね。

 かなり詳細なコロニーを維持するための職業と人員のリストが作られるはずだ。それでも全てを網羅することはできないだろう。

 そこはオートマタとサイボーグ達に依頼することになるんだろうな。


 一か月ほど過ぎたところで、コロニーで生活するための最低限の装備がリスト化出来た。

 頼んだのが女性達ということもあって男性の感性では見落としがちな小物まで入っている。

 姉貴が問題が無いことを確認したところで、調達を行うことになったが衣服にはサイズがあるし、大人と子供の違いもある。

 人口ピラミッドで大まかな数をつかみ、正規分布で体形の違いを反映させることになったが、予備を2割ほど作ることになったようだ。

 寝具や衣類は圧縮して小さくし、食器類は最低限にとどめ、食堂に数を置くことで対処する。それでも消耗はあるだろうから、月に工場を作ることになってしまった。その原料も生産コロニーで賄えるものとしたから、炭素繊維が多様化されて使われるんじゃないかな。食器は金属製になってしまいそうだ。磁器や陶器については博物館に展示することになるんだろうな。

 

 博物館は作るみたいだけど、図書館は諦めたらしい。科学技術の進展で一般化したタブレット端末を使って電子図書館を作る計画のようだ。

 少しずつ携帯電話も普及している。スマホに変わるのは時間の問題かもしれない。

 

 今のところはサイバー犯罪は起こっていないようだ。

 サイバー空間を使った犯罪は広域化することもあり、テロリストとして処断するらしい。学生のいたずらという理由は成り立たないらしいから、軽くても10年以上の重労働、被害が連合王国の軍に及べば、終身にわたる重労働となる。

 ヨルムンガンドの堆積した砂を運ぶ日々が続くというから、かなり過酷なものだな。

 月の通信システムと、制御システムの周波数帯域は完全に分離しているから、意図的でなければ介入することは困難だ。

 もし、介入するような者が現れればコロニーからの追放になるだろう。簡易宇宙服でゴミと一緒に射出するとサーシャちゃんが言っていたから、酸素が尽きるまでの10分間を自分の行為に対して悔やむことになるんだろうな。


「これで完了ね。アキトは欲しいものがある?」

「……そうだねぇ。甘いものと、ワインにタバコは欲しいとこだね」

「ユングが喫煙室を作ったから、タバコはそこで楽しめるわ。小さな公園になってるわよ。ベンチに腰を下ろしてコーヒーを飲みながら楽しめばいいでしょう。お酒は……、食堂というわけにはいかないでしょうね。喫煙者も多そうだし……。甘味所は居住区の各フロアに用意してるわよ」


 自分達の嗜好で作ってるような気がするな。

 まぁ、ワインが飲めるならドワーフ達も文句は無いだろう。居住区での楽しみも少しはあっても良いのかもしれない。だけど、タバコだけは指定区域以外では御法度になりそうだな。


 翌年の年初の会合では、いつもの年と同様にそれぞれの仕事の再確認を行う。

 少し変わったのはユング達だ。

 カラメル族の航宙タトルーンと、重力場推進を可能にしたイオンクラフト機を使って、小惑星の破壊訓練を行うらしい。

 直径が数十mであればバジュラの荷粒子砲で破壊できるそうだが、数百m規模になるとそうはいかないようだ。


「一応、シミュレーションはやってみたが、実際にも確認しないといけないからな。最初だから小さいのを選ぶよ」

「我も同行するぞ! バジュラの砲撃で、どれぐらいの隕石が破壊できるかを、一度は確認せねばなるまい」


 サーシャちゃんがそんな事を言うから、アルトさんとキャルミラさんが俺達に顔を向ける。行きたいってことなんだろうな。


「確かに重要な確認事項だわ。ところで、ダイモスは動くんでしょう?」

「あぁ、動くぞ。……あれをつかうのか? 確かに、荷粒子砲も装備はしてるんだが……」


 まだ試していないようだ。ユングとしてはのんびりと整備をして実戦配備を考えてたんだろうな。


「ダイモスなら俺達も行けるんだろう? 関係者なら興味があるだろうし、その限界点が、すなわち月を使ったエクソダスになるはずだ」

「そうだな。確かに明人の言う通りだろう。準備もあるから一カ月後に出発するぞ」


 ダイモスなら、バジュラも搭載できるはずだ。この場にいる全員が出掛けられそうだ。他には……、そろそろ連合王国に俺達の本来の目的を告げる時期なんじゃないのか。

 うすうすは気付いているかも知れないけど、明確にはまだ伝えていないはずだ。


 数日後に開かれた連合王国の重鎮を交えた年頭の会合は、姉貴のエクソダス計画の発表で他の議題なんか誰も気付かないほどだった。

 今では連合王国のTV局も会合の内容をリアルに中継する時代になっている。

 連合王国内はもちろん、アメリカ大陸で開拓を行っている人達までもがエクソダス計画なるものを知ることになったのだ。


「それでは、ミズキ殿達は魔族大戦時代から計画を進めていたということですか?」

「長期的な計画ですから、途中で頓挫しないように私達が主導して行いました。計画にはバビロンとユグドラシル、それにカラメル族が参加してくれましたが、月のコロニー作りには戦闘工兵を長期的に訓練目的で参加させていただいたことに感謝いたします」


 500年以上にわたって作り続けていたということに、ほとんどの人達が呆然として聞いているのが分かる。

 人類を絶滅から防ぐのは地上での災厄であれば、それほど深刻にならずに済むのだろうが、まったく別の天体となれば話が異なってくると誰もがこの日に知ったことになるんだろうな。


「それにしてもこの地上に住む人々全てをですか……」

「その時に至っては遅いのです。カラメル族の航宙船に便乗も考えましたが、便乗できる人間は数十人程度です。それでは数代にわたる航海期間に耐えられません」


「どれ位、月で我等は過ごさねばならないのですか?」

「百世代は考えてください。星の海はそれほど互いの住む地がまばらなのです」


 その日は、夕暮れ近くまで姉貴が質問に答えていた。

 最後に、連合王国の放送局が特番を組むということで納得したらしいが、どんな人がやってくるんだろう?

 翌日は、エクソダス計画への今後の支援について議論が始まる。少しは予算が増えるんだろうか?

 ほとんど終わっている計画だけど、まだまだ足りないものだってあるんだろうな。


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