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R-135 居住コロニー建設の終わりが見えてきた


 魔族大戦が終了して100年が経過した。

 戦勝式典が盛大に行われたが、あの戦いを経験した兵士達の参加者は、エルフ族とドワーフ族に限られたのも頷ける話だ。

 高齢を理由に俺達は姉貴のメッセージを託しただけだけど、第1戦で戦ってくれたネコ族やトラ族の兵士のほとんどがこの世を去ったようだ。

 歴史に埋もれてしまうのだろうが、俺達人類がこの世界を掛けて戦ったことを忘れてはなるまい。

 一時期は6個大隊以上作られた連合王国軍は4個大隊にまで規模を縮小している。連合王国以外の王国がある以上軍をなくすことはできないが、連合王国に攻め入るような規模の軍が他の王国にないことも確かだ。


 4個大隊はすべて亀兵隊だから、機動力は他の王国軍に比べることもできないだろう。何事が起きても先手を取ることは可能だと思う。

 そんなことだから、俺達の計画に1個大隊を派遣することができるし、緊急援助部隊の創設の反対もなかったんだろう。戦闘工兵1個大隊がその任に当たっている。


「人類絶滅規模の小惑星衝突の監視は、月とラグランジュポイント、それに静止軌道上のプラットフォームの連中が観測してるし、情報処理は月のオートマタとマールさんが担当してくれてる。直径200m以上の天体であれば100日以上前に発見できそうだよ」

「これでどうにか形にはなったわね。後は規模を大きくするだけだけど、コロニーの方はかなり問題が出ているわ」


 農業コロニーの一つで病害が発生したらしい。農学部の連中が急きょ月に向かって原因を調査中とのことだが、閉鎖空間での農業はかなり微妙なところもあるのだろう。

 アルマゲドンを切り抜けたコロニーのいくつかが滅んだのは、それが原因かもしれない。

 現時点でなら、いくらでも対応が取れるからな。きちんと病害を未然に防ぐ手段までも構築してほしいものだ。


「非常食と農業コロニーの数にリンクしそうだね。病害が出ない工夫はもちろんだけど、万が一の場合の対応策も考えなくちゃならない」

「広がりを押さえて、コロニー内を熱で処理しようと思ってるけど、再び生産が始まるまでの予備的なコロニーも大事になるわ」


 10億人の食料を賄うためにどれだけの予備率を確保するか……。それも重要な選択になるだろう。

 2割位と想定はしているのだが、場合によっては短期間に農業コロニーとして使える空間を確保しておくことでも良いような気もするな。

 これは、農業コロニーの生産高がどれ位かを見極めてからでも良いだろう。今は種々の条件下で作物を作っている最中だ。


「淡水での養魚は上手く行ってるようだ。他の魚類も養殖しようと頑張ってるみたいだよ」

「養魚池が浄化にも役立つとは思わなかったわ。水草の繁茂した池にあれほどの能力があるとはね」

「蛍が育てられるとは俺も思わなかったな。トンボやバッタまでいるんだもの。遊歩道を作ってあるから、ちょっとした公園に見えるよ」


 月面の地下3千mに作られた養魚場は、円盤状の密閉タンクを繋いだものだ。中心に直径300m高さ20mのタンクを置き、その周囲に直径100m高さ15mのタンクを4つ配置している。

 当初の計画よりも大きくなってしまったが、魚の回遊特性を考えてこのような作りに変えることになった。

 現在行っている海水養魚場はさらに大きくなるんじゃないかな?


「基本的に食料生産量でコロニーの数が決まるんだけど、必ず予備は作ってるんでしょうね?」

「1つは確実だ。さらにもう1つ作れるだけの空間を確保している。それに養魚や畜産用のコロニーが1つとは思えないからね」


 何が原因で飼っている魚や獣が大量死するとも限らない。一応、胚を確保してはいるのだが、それを使うことがないようにしたいものだ。


「今年中に静止衛星軌道のプラットホームが3基になるし、月の方も3基になる。ラグランジュポイントにある小惑星の改造は継続しているけどね。終了しても、その場に置いておくよ」


 あまり静止衛星軌道に乗せておくのも問題だろう。

 たまに加速させなければならないから、燃料消費の問題もある。


「燃料と酸素の備蓄も増えているし、場合によっては生産も可能だ。月に運んだ氷は100万tを越えてるぞ」

「まだまだ運んでほしいわ。飲料水、燃料、酸素の供給源として無くてはならない品よ」


 航宙船の船倉に200tは積めるから、始めたころに比べれば蓄積量は加速している。

 50万t規模で10か所を目標に氷を貯蔵し、最後に1000万tの氷を貯蔵できる大型の氷室を作って終わりにしようとユングと話を付けているのだが……。


「海水はどうするの? 海水魚の養殖も考えてはいるんだろう?」

「海水って凍るのかしら?」

 

 確かに疑問だな。長期的な海水の保存という点では、大学の研究テーマにもなりそうだ。養殖を手掛けているカイラム村の研究者と大学の研究者の両者で考えて貰おうかな。

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 魔族大戦を終えてから300年が経過すると、月のコロニー収容人員が3000万人を超える規模になった。

 地上で暮らす人類の総数は3千万人を超えている。

 もう少しで両者が釣り合いそうだ。その後は人口増加に合わせてコロニーを増やすことになるのだが、人口増加が鈍化しているのが気になるところだ。

 姉貴が当初予想していた数にまで増えないんじゃないかな。


 月での生産活動は順調に推移している。何度かコロニー内の土壌を加熱殺菌する事態もあったが、生産量が大きく変動することは無い。やはり生産コロニーの数を多くしたことが幸いしているのだろう。

 生産した食料は、半数を非常食品として加工し、残りを地上に戻して販売している。

 おかげで連合王国内の農作物の単価が下落した時もあったが、より高価な換金作物の生産に農家の人達が移してくれたので、大騒ぎになることも無かったようだ。

 利益の半分を農業団体に寄付していることも少しは役立ったに違いない。

 余剰の非常食については、他の王国への食糧援助や入植地で開拓に勤しむ人達への援助品として使っている。


 姉貴のとんでもない大計画もそろそろ先が見えてきたな。

 そんなことを考えている時だった。ユングが珍しく俺達の別荘を訪ねてきた。


「カラメル族の重力場航行をダイモスで試してみた。確かに推力に問題はあるが、フラウは改造が可能だと言っている。推力が低くても連続した加速ができるから超長距離を飛ぶ星間船には必要だが、加速が得られないのが問題だ……」


 そんな枕詞で話してくれたのが、核パルスエンジンの利用についてだ。

 重水素の入った小さなカプセルを20か所から照射した大出力レーザーで核融合を起こし、発生した高速粒子を電磁石で1方向に放出するという、聞いただけで眉に唾を付けたいシステムだ。


「そんなことが出来るの?」

「まぁ、出来なければ外に方法を探すけど、何とかなりそうにも思えるんだよな。バビロンとカラメル族も協力してくれると言ってるしね」


 フラウの電脳にはそのエンジンの概略が収まっているんだろうな。SFでしか聞いたことが無いようなエンジンだ。


「可能であれば、ぎりぎりまで地上から月に人間を送り出せるし、新たな俺達の世界を見つけるのが1世代は早まるんじゃないか」

「月のコロニーの見通しが立ったから、ユングがそれに取り掛かってもだいじょうぶよ。月に作るんでしょうけど、どのあたりを考えてるの? あちこちにコロニーを作ってるから、住んでる人に影響が出ない場所だと良いんだけど」


「一応、月の赤道になるな。赤道付近に3か所と両極に1つずつの5か所だ。半径300kmは欲しいから、上手く調整してくれよ」


 そう言ってユング達は帰って行ったけど、エンジンを設けるだろうということで、ユングの言った場所はとりあえず空き地になっている。300kmと言っていたけど500kmは考えた方が良いのかもしれないな。


「まぁ、エンジンはユング達に任せるしかなさそうだ。後は行政府と全体の制御をする場所も決めなくちゃならないし、1つでは不安でもあるな」

「中枢は複数個所に分散させた方が良いことは確かよ。何か月かおきに交代して制御することも考えられるわ」


 ある程度は月の進路を制御するシステムも考えたいところだ。腹案はユングも持っているだろうけど、俺達も考えておいて損は無い。


 ところで、脱出するのは良いけれど、どこに向かうのだろう?

 一番大事なことなんじゃないかな。

 俺達の時代にも、太陽系に近い惑星を持つ恒星までの距離が求められていたことだ。バビロンやユグドラシルの記憶槽ならその手の情報は大いに違いない。

 早速、仮想スクリーンを開いて情報を探ってみた。


 結構たくさんあるな。この中で太陽よりも若く、主系列に連なる恒星は……、クジラ座のτ(タウ)ぐらいになってしまう。距離は12光年という遠距離だ。月で世代交代を繰り返しながらたどり着ける場所なんだろうか……。

 

「クジラ座の恒星ね。確かに狙い目だけど、他にもたくさんあるわよ。もう少し距離を伸ばして20光年を考えてるんだけどね」

「いったいどれ位掛かるんだろう?」

「およそ千年を考えてるわ。1年に7日光を進むのはカラメル族の技術なら何とかなると思ってるんだけど……」


 カラメル族の星間船の速度については聞いていなかったけど、あまり世代交代をしないで地球にやって来たことも確かだ。数百年を生きる連中だから俺達よりも星を超えるのが容易なんだろうけどね。


「ある意味、運任せにはなるわ。一旦、地球を離れて再び帰ることもできそうだし、太陽系そのものを脱出するのは、かなり先の話になるわよ」


 その時は何時かと聞いたら数十億年後だと即答してくれた。

 太陽の寿命が尽きた時は確かにそうなるんだろうな。それは確実にやってくるけど、その前にカラメル族を襲ったように、他の天体から地球規模の遊星がぶつかることだってあり得ると力説してくれた。


 50億年という途方もない期間を考えれば何度かそんな事態が生じるのかも知れないけど、そこまで考えるのかと思ってしまうのも確かだ。

 だが、寿命を持たない俺達が正気を保っていられるのは、姉貴のこんな計画のおかげかもしれない。

 何もせずに、怠惰な生活を続けていたら……。それは生きていると言えるのだろうか? それに何百年、何千年にわたってそんな生活に耐えられるものではない。



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