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R-134 人員輸送用航宙船に必要な物

 魔族との戦は魔族大戦と今では呼ばれている。

 そんな戦を終えてすでに50年が経過した。エイルーさんもエイダス島の故郷の墓地で安らかに眠っているはずだ。

 あの大戦を記憶している人間も少なくなってきた。まだ生存している元亀兵隊達も孫達に戦の様子を懐かしそうに話しているんじゃないかな?

 記録画像の編集も進んでいるから、今でもたまに上映会を行っているようだ。

 西の堤防を爆破して進む亀兵隊の勇士を見て感動しないものは無い。


 毎年のように皆が別荘に集まって今年の予定を話し合う。

 ユング達やバビロンとユグドラシルの神官、それにカラメル族の長老が一同に会するから、計画の全体像とその進捗状況が分かる良い機会でもある。


「まだまだ未知の獣がおるぞ。あと10年は世界を回る必要があるじゃろう」

 すでに当初の目的は完全に見失ってるけど、結果を残してくれるから姉貴は苦笑いでアルトさんを見ている。アテーナイ様は困った様子だが、実の子供だからねぇ……。


「それも面白そうじゃな? 我等もプラットホームなるものをラグランジュポイントに運んでおる。アルト姉様を助けるのも我等の仕事に思えるぞ!」

 サーシャちゃんの言葉に嬢ちゃんずの連中が頷いているな。


「そうね。早いところ片付けた方が良さそうだわ。もう1つ調査隊を作ることで大学と調整すれば良いでしょう」

 

 そんなことをしたら互いに競争して狩をするんじゃないか?

 種の採取なんてどっかに飛んで行きそうな感じだな。


「明人の方は?」

「ユングと調整しながら、プラットホームを1つ作ったところだ。バビロンの科学衛星の機能も持っているから、出番が来るまでは地球に近接する小惑星の観測もできる。天文台の連中も、微小天体の軌道計算に役立つと言っていたよ。プラットホームの管理を任せようかと思ってるぐらいだ」


「それも良いわね。天文台の観測機材は順番待ちでしょう。プラットホームの維持管理を行ってくれる条件で10人ぐらいは常駐できるんじゃない?」


 大学で天文学を志す者達も多いと聞いている。彼らの仕事場を提供する感じになるのかな? 広範囲に微小天体の軌道を監視するシステムの構築も彼らに任せるべきかもしれない。


「それで、養魚と牧畜はどうなっておるのじゃ?」

「地上で閉鎖空間の施設を作って試験を始めているわ。海の生物は遠い目標になりそうだけど、諦めてはいないわよ」


 サーシャちゃんの質問に姉貴が答えてるけど、先の長い話だな。月と地球のプラットホームを結ぶ航宙船が2隻、地上と静止軌道のプラットホームを結ぶ航宙船は3隻完成した。

 飛行船と比べ10倍近い人や荷物を運べるから、日常的な運用は大陸間を結ぶ交通手段として使っている。もっとも、使っている動力や技術が問題なので、操縦は連合王国の空軍に任せて、維持管理はエイダス島に設けた離着陸場でカラメル族とバビロンのオートマタ達が行っている。

 少しずつネコ族の連中が関与しているようだから、定期点検を任せられるんじゃないかな。

 

「それにしても、総人口は予想したよりも多かったのう」

「そうなんです。脱出日数を想定しましたから、総人口に合わせて航宙船を造り続けることになるでしょうね」


 すでに2回の人口調査を行っている。職業や収入についての情報も手に入れたようだから、連合王国の治世にも反映できるのだろう。

 だけど、俺達の知りたかった数字が初めて明確になったことは確かだ。

 総人口は2千680万人。5年間の人口上昇は200万人程度だった。この数字は俺達の人口調査に賛成してくれた国での数値だから、さらに旧アフリカ大陸沿岸沿いにある王国の数字は入っていない。

 科学衛星からの撮影した民家の数でおおよその推定値をバビロンが出してくれたけど、その数は300万人程度とのことだ。

 現状では3千万が対象となると考えれば良いが、この数がどんどん増えていくんだろうな。


「あまり深刻にならんことじゃな。現状でその国で暮らせる人間の数は農業生産高に依存することも確かじゃ」

「そうでもないぞ。西の大陸では入植者が開拓を続けておる。小規模じゃが灌漑用の水路も戦闘工兵達が作っておるからのう」


 アテーナイ様の楽観論にサーシャちゃんが水を差している。だけどそれを含めての人口上昇だ。継続すればこのまま右上がりに増えるのか、それとも頭打ちになるのかが見えてくるだろう。

 暮らしが豊かになると出生率が下がると地理の先生が言ってたからね。原因についても話してたけど、それは今では思い出せないな。


「1隻の航宙船を100日間運用しても、運び出せる人数は120万人。さらに航宙船を増やさねばなるまい。大型化と増船も考えねばなるまいぞ」

「ユグドラシルの地に大型のドッグを建造しています。大陸間の輸送に使うのであれば5隻もあれば現状では十分でしょう。それ以外の航宙船はユグドラシルのドッグに保管することで維持管理を行う計画です」


「将来は、さらにドッグを増やした方が良さそうじゃ。万が一にもその場所で事故があれば計画は潰えてしまうからのう……」


 危険分散ということだな。その時には辛い決断を迫られることになるのだろうが、人類が滅ぶことは無い。

 姉貴の考えは理想的ではあるが、実現するためにはかなり問題があることも確かだ。

 とはいえ、現時点で選民を前提とした計画では連合王国の協力を得ることはできないだろう。

 無謀ではあるが、それに向かって進むしか方法がなさそうだな。


「最後に月に駐屯している戦闘工兵達の要望があります。酒とタバコを楽しみたいと言っているんですが……」

 ミーアちゃんが小さな声で話してくれた。

 亀兵隊達も、ミーアちゃんならということで要望を伝えたんだろう。サーシャちゃんやアテーナイ様なら、『我慢せぃ!』の一言で終わりになってしまいそうだ。


「それは俺が何とかしよう。コロニーの中に何か所かの喫煙室を作れば良いだろう。俺の航宙船の空気清浄システムが使えそうだ。酒は数日おきにカップ1杯で良さそうだ。それも運んでおくよ」


 ユングが答えてくれたんで助かるな。

 俺にとっても嬉しい限りだ。連合王国の成人男子の喫煙率はかなり高いからな。これについては、もう少し考えておかねばなるまい。

                  ・

                  ・

                  ・

 コーヒーや紅茶、果てはワインまで持ち出して俺達の会合が終わる。明日からまたバラバラに現場の対応に追われることになるんだろう。

 バビロンは長らく眠っていた設備さえも再起動させているようだ。施設の維持を地下の熱源に依存していたようだけど、今では核融合炉の再起動まで行っている。

 数万人のコロニーを維持させるだけの生産設備を持っているとはいえ、大規模な航通船の建造を一気に行うことは困難のようでブ、ロック化された部品を地下の大型ドッグで組み立てている。

 ユグドラシルも過去の事故で閉鎖した区画の再建に努力しているようだ。

 バビロンから借り受けたオートマタとサイボーグ達が努力していると聞いたけど、出来れば施設管理に特化したロボットを作って貰いたいところなんだよな。

 航宙船が100隻ちかく保管されると普段の維持管理がかなり重要になってしまいそうだ。


 翌日。家の連中が元気に別荘を飛び出していったけど、サーシャちゃん達はバジュラで大学に行くんだろうか? あまり考えないでおこう。余計に心配になってくる。

 急に静かになったリビングで姉貴とディーを交えてのんびりとお茶を頂く。

 俺の方の仕事は、あっちこっちに任せてあるからとりあえずのんびりできそうだ。


「そうそう、アキトに考えてほしい事があるのよ。航宙船の燃料と酸素の準備も必要だわ。水と携帯食料に付いては目途が立ってるから、残りは燃料と酸素になるわね。純粋な酸素よりは空気が良いんだけど……」

「月のコロニーまで到着するまでの酸素ってこと?」

「それこそピストン輸送だから、カートリッジ式にしないと間に合わないわ。1人が月のコロニーに行くまでの必要酸素量はバビロンが教えてくれるわよ。それに見合った酸素タンクと航宙船への積み込み方法ね」


 とはいっても、すでに航宙船には液体酸素のタンクが積まれているぞ。ということは、それらのタンクの標準化と中身を確保しておけってことだな。カートリッジ式に簡単に脱着することが出来れば、1日の輸送回数を増やすことにも繋がるってことか。


「あまり問題は無いんじゃないかな。良いよ、考えてみる」


 直ぐに端末を使って仮想スクリーンを開く。

 月に向かう航宙船と静止軌道のプラットホームに向かう航宙船ともに、酸素タンクは同じものが使われている。生命維持装置への接続はコネクタを使っているから、交換するという考えは設計当初からあるみたいだ。

 船体への取り付けは、アングル内のバネで押さえつける構造だから、アングルを外せば容易に脱着できるということになるんだろう……。


 ん? ……これは問題だぞ!

 アングル構造体の重量は2つの酸素タンクを押さえつける形で船体の左右に合計4か所に設置されている。1つのアングルの重さはおよそ1t。酸素タンクの大きさは直径1mだが、これも重さが1t近くある。

 気体ではなく液体状態で積込むようだ。3重の真空容器らしいが、これで安定して運べるんだろうか?

 設計の検証はバビロンにお任せだから、俺達がとやかく言うことではないが、液体酸素の貯蔵と重量物のハンドリングが最大の課題になる。

 無重力の状態で取り付けを行うことを考えないといけないだろう。となれば静止軌道上のプラットホームでは宇宙服を着て無重力下での作業が定常化することになる。

 その回数たるや、1日の延べ作業回数だけで100回は軽く超えそうだ。

 そんな特殊な作業環境下で確実に作業を行える保全要員を早期に育成しなければなるまい。

 地上、静止軌道。月の静止軌道と月面……、どれぐらいの人数になるんだろう?

 深いため息を吐きながらコーヒーを飲んだ。

 

「姉さん。新たな軍の組織を作っても良いかな?」

「えぇ! 魔族戦争は終わったのよ。どちらかと言えば軍縮の流れになっているわ」


 やはり驚いているようだ。

 だけど将来的なエクソダスを円滑に行うためには早期に全体の運用システムの構築を図ることも考えなければなるまい。


「そういうことね。確かに軍の組織を利用しない手はないわね。でも、出番が早々にあるとは限らないから緊急援助を主目的にしたらどうかしら?」


 それなら連合王国軍の一部隊を充てる理由にもなりそうだ。現状で1個大隊を借り受けているからね。さらに増員を望むのも問題があるってことだろうな。


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