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R-121 俺達の戦は終わったようだ


 ウルドで俺達を待っていた仕事は、グリードの死体を廃棄することだった。

 すでに動き回るグリードはどこにもいないがウルド周辺5kmほどの範囲には一面にグリードを敷き詰めたように死体が重なっている。

 東の海岸付近までイオンクラフトで引きずっていき、小さなブルドーザーもどきで渚に移動する。

 たくさんのカニが渚付近にいるから、ブルドーザーの運転席を装甲板で覆っているのでまるで戦車のように見えてしまう。

 サーシャちゃんがあのブルドーザーを戦車に改造するのは時間の問題だろうな。


「まったく先が見えんのう。とりあえずは安心して工事を進められるのじゃろうが、今年中にネウサナトラムに戻れるのか怪しいものじゃ」

「何とかなるわよ。あのクジラも協力してくれてるしね。どうにか今年の暮れには作戦完了の報告を行えそうだわ」


 指揮所で夕食を終えると、皆でお茶を頂く。と言っても、お茶とコーヒーに分かれてしまうのはいつものことだ。

 コーヒーは俺とユングにアテーナイ様の3人だけなのが寂しいけどね。


「俺は一足先に帰っても良いだろうか? グリードの死体の処理はブルドーザーで何とかなるだろう?」

「そうね。構わないわよ。でも、遠くに行かないで連絡が取れる状態でいて頂戴ね」


 ユング達は、あの計画を始めるつもりのようだ。姉貴が許可を出したのもそれを知ってのことだろう。

 付いていきたい気もするけど、俺は生憎と生身だからな。ユング達は気密という概念すら持たないものを作るかもしれない。

 まぁ、長い目で見ればいつかは連れて行って貰えるだろう。それまでのんびりと待てば良い。


「ヨルムンガンドの運河と堤は年末までに完成しそうですが、鉄道はしばらくかかりますよ」

「それは、3つの砦を束ねる指揮官にお任せするつもりです。レムリアさんが適任だと思うんですが」

「確かにこの戦役の功労者じゃ。他の砦なら連合王国の総指揮官に任命してもらえば良いじゃろう」

 

 意外と戻るのは早いかもしれないな。

 姉貴が今回のラグナロク作戦の終了を宣言すれば、それで全てが終わりそうな気がするんだが、問題はそれをどこで行うかということになりそうだな。

 

「一度連合王国に戻ることになりそうだわ。ガラネス総指揮官と打ち合わせたいの」

「我が同行しよう。かつての王族達とも意見を交わすことになりそうじゃ」


 アテーナイ様が一緒なら、安心できるな。

 そうなると、俺達は……。グリードの後始末ということになりそうだ。まだまだ続きそうなんだよな。


 翌日、姉貴はアテーナイ様と一緒にユング達の飛行船で東に旅立った。

 残った俺達は気の滅入る作業を続けなければならない。サーシャちゃん達はクジラを餌付けできないかと頑張ってるようだけど、どうなるかが楽しみだ。

 でも、せっかく餌付けできたとしても、グリードの死体がなくなったらそれで終わりのような気もするけどね。

 

 あまりの数の多さに、ついにはヨルムンガンドの南側のグリードを放置することにした。ヨルムンガンドを渡ったグリードだけでも数百万の数になる。それだけでもかなりの時間を要するだろうが、海に投棄するだけでなく、大きな穴を掘って焼いて埋設することまで始めたようだ。

 何とか姉貴が帰ってくる前には砦から見える範囲だけでもと頑張ってはみるものの蟷螂の斧とはこういうことを言うのかもしれないな。

 

 ヨルムンガンド工事は最終段階に入ったようだ。

 スクルドの南に作った調整池も再度掘りなおしているから、開通後の砂の堆積を少しは緩和できるかもしれないけど、大西洋と太平洋の海面が同一でないとユングが言っていたから果たして運河の流れがどうなるかが楽しみではある。

 

 何とかアルトさんをなだめながら一か月ほどウルド周辺の掃除をしていると、姉貴が帰ってきた。

 お土産は鯛焼きだけど、しばらく食べてないからアルトさん達の目が輝いてるし、サーシャちゃん達は「何年振りかのう」なんて喜んでいる。

 もしゃもしゃと鯛焼きを食べながら姉貴の報告を聞いたんだけど……。


「一月半ばの、連合王国初年度会議で終了を宣言することにしたわ。残務はかなりあるけど、それは連合王国軍に任せられるでしょう」

「大丈夫なの? まだまだって感じがするけど」

「ヨルムンガンドの閘門を開くのは来月にはできそうよ。それにヨルムンガンド北の3つの砦と、南のフギン砦があれば、再びグリードが現れても簡単には北米大陸に進めないわ。すでに作戦開始よりも5年が経過してるのよ」


 あれから5年か……。長いような、短いような。


「テーバイの東をどうするのじゃ?」

「すでに部隊を縮小しつつあります。しばらくは正規軍を1個大隊規模で展開する必要があるでしょうけど、ラグナロク終了宣言を行う頃には2個中隊もあれば十分でしょう。カルート兵とテーバイの州兵だけでも3個中隊規模ですから」


 長い魔族との戦もこれで終わると思うと感無量だな。

 ようやくネウサナトラムの別荘でのんびり暮らせそうだ。


「中々面白い戦じゃったな。これからは退屈せぬかと考えてしまうのう」

「お兄ちゃん達と一緒なら、おもしろそうですよ。先ずは、黒リックを釣らないと……」

「亀兵隊を指導するんじゃないんですか?」


 サーシャちゃん達の会話を心配そうに聞いていたリムちゃんが問いただしている。


「今更じゃろう。我等は種を撒いた。十分に育っておるし、指揮官も中々おもしろい人物揃いじゃ」

「強いてあげるなら、空陸を組み合わせた機動戦ですが、これはエイダスのミーア隊長とエイルーさんが協力すれば何とかなるでしょう。すでに過去の人物である私達がいつまでも表にいるのも問題です」

「ミーアの言う通りじゃな。我も同じ思いじゃ。ネウサナトラムでしばらくは穏やかな暮らしを楽しもうぞ。それに、婿殿と一緒なら、退屈せずに済みそうじゃからのう」


 俺が戦を呼んでいるわけじゃないよな? 何となく不幸の元凶のような言い方だけどね。


「これで、千年の禍根が消えたわ。でも、次はどうなるかわからないわよ。どんなことがあっても、私達はこの世界の人達を守らなければならないわ」


 姉貴の言葉に皆が頷いてるけど、俺には次は俺達の手に余るんじゃないかと思っていることも確かだ。

 カラメル族の危惧するミサイルインパクト。姉貴の危惧するのはさらに大きなインパクトだ。何もなくとも太陽の終焉もある。それはかなり先の話だろうけど、確実に訪れることも確かなんだよな。

 ユングがかつての人類の足跡を訪ねようとしているけど、地球脱出計画ともいうべきエクソダス計画はかなり入念に計画せねばならない。

 この世界だけで人類を終わりにしたくないのは、皆の共通意見だろう。とはいえ、現状でそれが起きれば、誰も生き残れないことは確かだろうな。


「でも、あまりのんびりしてるわけにもいかないの。私達がこの世界を守ろうとしても、おのずと限界があることは確かよ。そのための計画を始めるつもりだけど、皆にも協力して貰うからね」

「また、大戦ではあるまいな。グリードの災厄が去ればしばしの平和が訪れる。再び我らの前に現れる脅威とは何なのだ? 知っているなら早めに対処するのが本来ではないのか?」


 姉貴にサーシャちゃんが噛みついてるけど、それも大事なことだ。危機の原因が分かっていればある程度の対策はできる。カラメル族が直径1kmのミサイルインパクトに限定しているのはそういうことだろう。だが、それの何百倍も大きな隕石が落ちてくるとすれば、水爆をいくら打ち込んでも無駄に違いない。

 助かるにはこの地を去る以外に方法が無いのだ。


「ネウサナトラムの別荘で詳しく話すことにするわ。ユングが少し先行調査を行うと言ってるけど、あまり期待はできないんじゃないかな」

「ふむ、ここで話すのははばかれるか……。後で教えてくれるならそれで良いぞ」


 数日後、レムリアさんとエイルー大隊長それにミーア隊長を呼んで連合王国のガラネス総指揮官の指示を伝える。

 これで、レムリアさん達エイダスの民も連合王国に組み込まれたようなものだ。

 姉貴がヨルムンガンド北岸の砦の指揮をレムリアさんに引き渡したところで、ワインで乾杯をする。


「かなり指揮下の者達が多くなりますが、任せてください。補給は今まで通り連合王国に依存してよろしいのですね」

「ウルド砦にレイドルさん達兵站部隊を残しておきます。連合王国の兵站と密接に接続されていますから、心配はないと思いますよ。うまく機能しない場合は私に連絡すれば何とかします」


 防衛というよりは、適性生物の監視に近い。平常はヨルムンガンドの補修になるはずだ。潮の流れでかなりの砂が移動するに違いない。大型飛行船に浚渫用のバケットを付けてはいるが、2隻で対応できるかが問題だな。

 3人に改めて頭を下げると、俺達は飛行船に乗ってウルドの砦を後にする。


 連合王国の西にあるアトレイム地方には俺達の別荘がある。

 土の修道院が千年以上も維持してくれたありがたい別荘だ。今でも建築当時と同じ形で維持されているのは、修道院の修理に合わせて別荘の修理が同じように行われ続けたためだろう。

 別荘の北に広がる草原に飛行船が高度を落としていくと、別荘のテラスにイオンクラフトが着地しているのが見えた。


「すぐに、ネウサナトラムに向かうんじゃな?」

「一応、一晩はここで泊まることになりそうだ。今から飛び立ったらネウサナトラムに着くのは真夜中だからね」


 飛行船を下りて別荘に歩いていくと、別荘の門に数人の男女が俺達を待っていた。

 修道院の神官と修道女それに隣町の町長だろう。出迎えなんかいらないと念を押していたんだけどな。


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