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R-012 西の大陸の本部

 山麓の一部が平坦な荒地となっている。その荒地の大きさは、直径が1km以上にも見えるな。

 所々に雑木の群生が列を作っている。これが、ロスアラモスの廃墟なんだろう。


 そんな荒地の一角に、100m四方に渡って切り開かれた場所がある。直ぐ近くには崖があるんだが、その崖には不自然な正方形の洞窟の口が見える。

 

 飛行船がゆっくりと地表に近付いていく。地表から100m程の高さになった所で、一旦降下を止めると、ユングとフラウ、それにディーが船倉の開口部から地表に飛び降りた。

 素早く、周囲を偵察しているみたいだ。

 数分して下の3人が合流すると俺達に向かって手を振っている。

 それを合図に飛行船は更に地表へと近付いて行く。


 地表10m付近で飛行船が停止すると、一旦、船倉を閉じた。

 今度は船を船倉の開口部に移動してウインチのワイヤーを取付ける。どうやら、船をエレベーター代わりに使うみたいだ。

 最初に俺達が乗り込む。空いた席には戦闘工兵のトラ族の男女が乗り込んできた。

 10秒程で地表に船が停止すると急いで船から下りる。

 船が上昇して、次の連中を降ろすための準備が始まったようだ。


 「ここがロスアラモスの廃墟だ。あれが地下施設への入口だが、中は窒素雰囲気だから明人には無理だぞ」

 

 ユングがやって来て、俺達に岸壁のような場所に作られた入口を指差して説明してくれた。

 一辺が4m程に切られた正方形の入口だ。奥までその大きさで通路が続いているらしい。

 

 「今、フラウが状況を調査している。1階部分なら避難場所に使えそうだが、酸素濃度が問題だ」

 「それまでは、この辺りに天幕を張るのか?」

 

 「そうなるな。しばらく滞在することになるし、その後の先行搬送もここが使えればかなり楽になる。まあ、資材を全て降ろしてから手分けして作業を進めようぜ」

 

 木箱を沢山積んだ船が飛行船から降りてくる。

 色々と積み込んできたようだ。ヶ月敵地で過ごすんだから確かに物資の量は増えるだろうな。先行してユング達が運んだのはイオンクラフトだけではないんだろうが、他に何を持って来たんだろう。


 「ユング殿、荷物降ろしを終了しました!」

 「よし。ラミィ、飛行船に連絡だ。『次の荷役に掛かれ』と連絡してくれ!」


 上空に浮かんでいた飛行船がゆっくりと高度を上げて行くと、東に向かって飛行を開始した。


 「10日後にやって来るはずだ。さて、俺達も行動を開始するか」

 「そうだな。一応、予定表はあるんだろう?」

 

 俺の言葉ににやりと唇だけで笑いかける。

 荷物を並べ終えた兵隊達が俺達を囲むように集まってきた。

 

 戦闘工兵はトラ族が主体だし、屯田兵は人間族が半分で後はばらばらだな。

 それぞれ壮年の男が指揮を取っているようだ。


 「出発前にこれからの作業を話しているが、再度伝えておく。俺達の任務は中継点の品定めと、過去の遺物の調査、それにこの地での農業を始めるための課題を見つける為だ。それは、明日以降に始めるとして、先ずは俺達のキャンプ地を整備する。

 戦闘工兵は木材の伐採だ。周囲1M(150m)を柵で囲め。屯田兵は天幕を作って盾を並べろ。その間の周囲の警戒は俺達が行う。質問はあるか? ……作業始め!」


 20人の兵士が4つの班に分かれて作業を始めた。良く訓練された兵士達だ。キビキビと荷を解いて資材や工具を持ち出している。


 「アルトさんはキャルミラさんと周辺の監視をしてくれ。ユング、ガルパスは3匹輸送してきたんだよな?」

 「ああ、たぶん荷物の影にいるはずだ。戦闘工兵装備だが、監視なら十分だろう」


 直ぐにアルトさん達がユングの指差した山積みの荷物の向こうに走って行った。

 アルタイルならかなりの無茶もできるだろうけど、一般のガルパスもそれなりにアルトさん達なら乗りこなせるはずだ。

 もっとも、周辺監視が必要かどうかは別の問題だな。ユングやディー達なら周辺1km範囲内の生物の動きをこの場で監視できるからな。

 どちらかというと、小言を言われたくないのと、アルトさん達の気晴らしを兼ねているんじゃないのか?


 「で、どうなんだ?」

 「小さな獣はいるが、危険な奴はいないぞ。かつてもそうだったからな。俺達は焚き木を集めなければ」

 

 姉貴とラミィさんを残して、俺達は焚き木を厚めに出掛ける。戦闘工兵達が運んできた木で、沢山の焚き木が出来るだろうから、とりあえず今夜を過ごす焚き木を集めればいいだろう。


 荒地に規則正しく並んでいる小さな雑木林を廻って抱えられるだけ焚き木を集めて帰ってくると、天幕が6張り並んでいた。その周囲を大型の盾を連結した塀が囲っている。

 岸壁に作られた地下への入口からさほど離れていない場所に左右に3張りずつ天幕が張られて、左右の間隔は20m程離れている。その真ん中に、石を並べて焚火の炉が作られている。


 持ってきた焚き木を使って早速焚火を作ると、屯田兵の装備をまとった女性兵士が棒を3本使ってポットを吊り下げた。

 2ℓ程のポットだから皆で飲むには足りないんじゃないか? と思っていたら、焚火の横にもう1つポットを準備している。湧いたら交換するみたいだ。


 さて、と周囲を眺めて次の仕事を探していると、今度は2人の屯田兵がベンチを抱えてやってきた。


 「座っていてください。我等が周囲を監視しますから」

 

 そう言って、ベンチを焚火の周りに並べてくれる。4つあるから、分隊長もこの焚火に呼べるな。


 「あら、帰ってきたんだ。この天幕が指揮所になるわ」


 姉貴がラミィさんと、焚火の直ぐ横の天幕から出てきた。

 手に持っているのは、タブレットなのか?


 焚火のそばに並べたベンチに座ると、盤面を指で撫でている。ユングがバビロンに作らせたのか?


 「とりあえず周囲に問題はないようね。ユングには水を確保して欲しいわ。確か大型の水筒を作ったのよね」

 「ああ、ジェリ缶を10個持ってきた。まだ、4缶残っているが……、確かに2日分ってところか。後で行ってくる」


 ジェリ缶なら20ℓは入るはずだ。ユングの言葉を考えると、10個で5日分ってことになるな。もう少しあっても良さそうだぞ。

 皆でお茶を飲んでいると、岩穴の奥からフラウが戻ってきた。

 ベンチに腰を下ろして俺達の前に仮想スクリーンを展開して内部の状況を簡単に報告してくれる。


 「地上階の酸素濃度は21%で正常範囲です。地下1階が床上1mで10%。地下2階では1%未満。地下3階以降は全て窒素雰囲気です。各階の保管資材と経年劣化の状況はファイルにしてまとめてあります」


 「で、出来そうか?」

 「可能です。一部の触媒や吸収体はバビロンから運ばねばなりませんが……」


 「美月さん、燃料電池の水素は何とかなりそうだ。中継点確保にあわせてここで製作できる。問題は水を大量に使用することだが、近くの沢から運べばいい」

 

 近くと言っても、かなり離れているはずだ。たぶんその為にイオンクラフトを先に運んでいたんだろう。

 となると、大型の水タンクも欲しくなるな。㎥単位で貯水槽を持っていれば何かと心強い。

 

 「ユング。燃料製造を始める前に貯水槽を先に作れないか? 人が増えればそれなりに水が必要だ」

 「わかってるさ。明日にでも材料を組合わせて作るつもりだ。上手い具合に1㎥のステンレス製タンクが複数見つかった。その内の1個で作ればいいだろう」

 

 野外生活を送るのは久しぶりな気がする。

 焚火を囲んで皆でお茶を飲みながら昔を思い出す。焚火の周囲を眺めれば、そこに嬢ちゃんず達がお茶をのみながら談笑していないのが不思議な感じだな。

 

 チャカチャカとガルパスの爪の音が聞こえてきた。アルトさん達が帰って来たようだ。

 爪音が遠ざかり、アルトさんが俺達の前に姿を現わした。隣のキャルミラさんの手には1匹の鹿に似た獣が下げられている。ユングは近くに大きな獣はいないと言っていたが、こんな獣はいるんだな。


 「とりあえず、兵士達に3匹預けてきた。小さな村なら食料の自給にそれ程苦労せずに済むじゃろう」

 「それって、食べられるの?」


 姉貴の素朴な質問だ。

 

 「たぶん問題なかろう。ディーに確認してもらえよい」


 そんなことを言ってキャルミラさんがディーに夕飯の材料を引き渡している。

 獲物を受取ったディーは、腹にブスリと指を差し込んだが、あれで調査できるのか?


 「生化学的な毒素はありません。細菌類はアクトラス山脈の獣と同じレベルです。この地特有の細菌の存在も確認できましたが、生体構成は既存の細菌と同じです。加熱処理で対処出来ます」

 

 そんなディーの報告をニコニコしながらアルトさんが聞いている。

 自給体制がある程度維持出来るなら、幾つかの集落を作ってその外周をハンター達に任せようなんて考えてるんだろうな。


 初めての土地で最初の夜を迎えるのは、不安感がつのるせいか、いつになっても緊張が高まる。そんな俺とは対照的に、姉貴やアルトさん達の目は輝いてるな。今回の作戦で少しはストレスが発散できるだろう。


 俺達の囲む焚火に2人の兵士が加わっている。

 戦闘工兵の分隊長であるバリナスはトラ族出身だ。戦闘工兵設立時の体力に優れた亀兵隊という資格はトラ族にぴったりだからな。

 屯田兵の分隊長はドリスという名前なんだけど、どう見ても面倒見の良い農家のおばさんにしか見えないぞ。人間族なんだけど豊かな体形をしているとしか言いようがない。

ちゃんと戦闘ができるのかと心配になったけど、実力は黒レベルのハンター以上というから驚きだ。


 「とりあえず、この場所を拠点として活動します。仮の拠点ですから、名前を付けずに『本部』と呼ぶことにします。

 明日からの作業は、ユング達は重力異常のある地点の調査をお願い。戦闘工兵は本部周辺に監視網を作って頂戴。監視用端末は指揮本部の天幕を使えるようにしてね。屯田兵は地図に示した場所の偵察をお願いするわ。反攻作戦の要になる場所だから周辺部を含めて入念に調査してください。

 移動手段は、屯田兵についてはイオンクラフト。操縦はディーとアルトさんにお願いします。戦闘工兵に同行するのは、キャルミラさん。

 最後に、アキトと戦闘工兵5人で、本部の雑用をして貰います。調査に同行しない屯田兵が数人出るでしょうから、本部周辺の監視をお願いします」


 ユングが先行持込をした機体は2機だ。1機は支援用に確保しておくつもりのようだ。

 ユング達の調査はあまり期待はできないが、それでも埋まっているものが何かを調べておくのは大事だろう。ABC兵器だとしたら、早めに処置したいところだ。

 戦闘工兵の連中は、カブトムシ型の監視装置を周辺に設置するんだろう。

 屯田兵達の仕事は重要だな。最初の町が作られる場所だ。周辺の利便性と地質についても調査することになるだろう。

 俺は、水タンクを設置することになりそうだな。

 早めに作らないと、色々と不都合が出てきそうだ。


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