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R-119 テーブルマウンテンに行こう


 グリードの総数が300万を切ったのは津波のように押し寄せてから2か月を過ぎたころだった。

 すでに北に移動するグリードはほとんどいない。

 千単位のグリードがたまに北上するようだが、複座イオンクラフトにて容易に壊滅している。

 ミーミルの位置まで北上するグリードは皆無だ。相変わらずウルドの周囲はグリードの群れの中にあるのだが、奥行きは今では3kmにも満たない。

 

「残り一か月というところかしら。運河の掘削も順調だから、今年中には終わりそうね」

「だけど後始末が大変だ。運河には肉食の大型クジラがいるから助かってるけどね」

 

 全長100m近いクジラなんだからとんでもない奴だ。ウルドの周辺の運河の深さは15m程あるから悠々と泳いでくるんだが、このクジラがどかない限り港は使えないんじゃないかな。


「それも運河掘削用の飛行船で、地道に海に投棄することで何とかなるわ。装甲列車がボロボロになってしまったけど、将来は列車砲だから廃棄しても問題ないし、ユングが写して来た独立峰は前方監視所として十分に使えそうよ。これは工兵の出番になるわね」


 そう言って姉貴が俺にウインクした。

 まさか、俺に作れと言うんじゃないだろうな?


「ユングと調整して監視所を作ってくれない? 私からの要望は1つだけ。危険な状況になったら、3時間で撤退ができる事。ウルドからこの独立峰まで飛行船で2時間は掛からないわ。飛行船の離着陸場を作れば何とかなるわよ」

「攻撃用では無く偵察用で良いんだね。となれば、イオンクラフトを1個小隊待機させたいところだ」

「それは出来てからで良いでしょう? 当座は複座機を2機でお願い。工事開始は1か月後。その頃には先頭工兵に余力ができるわ」


 とんでもない話だな。

 とはいえ、将来を見据えればヨルムンガンドに脅威が及ばない内に、色々と対策を建てられる拠点としても使えそうだ。

 姉貴の手元にある独立峰の写真を眺める。典型的なテーブルマウンテンのようだ。頂上にはそれ程起伏が無いし、周囲は殆ど垂直の崖と言っても過言ではない。

 地上からでは頂上にたどり着く事さえ不可能にも見える。崖の高さはどう見たって500mを超えている感じだ。

 頂上は東西に伸びた楕円形にも見えるが、短径でさえ1kmはありそうだ。

 整地して兵舎を建てれば十分かもしれないな。周囲に監視兵の転落防止用として、簡単な石垣を組めば十分だろう。

 材料の運搬が問題だが、グリード爆撃用の大型飛行船を専用で使わせてもらうか……。

 ディーに工事図面と概略肯定、それに資材のリストを作って貰おう。


「ディーを借りるよ。戦闘工兵は中隊規模で欲しい。資材運搬に飛行船が1隻、それと防衛用に複座イオンクラフトが欲しいな」

「それ位なら調整できるわ。それじゃ、頼んだわよ」


 頷く以外に逃がして貰えないみたいだ。

 相変わらずの性格だけど、今更変わるものでもないだろう。

                ・

                ・

                ・

 姉貴の言った通り、1か月が経過するとウルドを取り巻くグリードの数が激減した。すでに50万を下回っているし、後続のグリードは皆無だ。

 大型飛行船1隻を浚渫用に改造して、グリードの死骸を海に投げ込んでいる。ユングがクジラの餌付けを始めたのか? と聞いて来たけど、確かにそんな感じもするな。


「それじゃあ、出掛けて来るよ。アルトさんとキャルミラさんも連れって良いのかい?」

「本人達が行きたがってるからね。たぶん直ぐに飽きると思うから、そしたらキャルミラさんと戻ってくれば良いわ。ユングがすでに資材を運んだらしいけど、その辺りも確認してね」


 確かに確認する必要がありそうだ。自分の趣味に走るところがあるからな。ラミィは常識的なんだけど、フラウはユングに協力的だ。


 翌日、アルトさん達を連れて南にイオンクラフトを飛ばす。

 このイオンクラフトは多目的な用途に使えるから、たっぷりと焚き木と水や食料を積んでいる。このまま帰って来れるように、イオンクラフトの燃料カートリッジまでつんであるようだ。

 テーブルマウンテン型の独立峰はウルドから南南西500km程の所にある。

 もう1つ西に同じような独立峰があれば良いのだが、世の中はそれ程うまく行かないようだ。イオンクラフトの爆装を止めて、燃料搭載量を増やすことになりそうだな。それで、広範囲に偵察が行えるだろう。


「あれじゃな、なるほど平らに見える」


 2時間程飛行して、ようやく目的地が見えてきた。これも超磁力兵器による造山運動で出来たのだろうか? 見る限り平らに見えるぞ。

 だけど近付くにつれ、小さな凹凸があるのが見えてきた。あれを平らにするには戦闘工兵と言えども手間が掛かりそうだな。

 上空に達したところで、100m程の高度を保って頂上を一巡りする。


「凸凹だけではなく、尖ったところもあるぞ! 遠くからなら平らなのじゃが、近くで見るとかなり問題のある土地じゃ」

「あれは叩けば壊れるんじゃないかな。それにしてもすさまじい風景だね」


 融けた飴を引き延ばしたような鋭いガラス質の突起が、あちこちに突き出ている。こんな場所に陣を築けっていうのか? かなり問題だと思うな。


「あれが、ユング様の置いた資材でしょうか?」


 ディーの指差した先には、木箱がピラミッドのように積み上げられていた。どう見ても100個以上はありそうだ。木箱だって1辺が1m位あるぞ。いったい何を持ってきたんだろう?

 ピラミッドの周辺部だけは鏡のように土地が滑らかだ。あいつも律儀なところがあるから、集積場は自分達で上手く土地をならしたんだろう。

 キャルミラさんがそんな平地の一角にイオンクラフトを着陸させた。

 すぐにアルトさんが飛び降りて周囲を偵察に出掛けたが、見渡す限り何も無い場所に見える。

 ほぼ平らな山頂だから、どこまでも続く平地に見えなくもない。山裾が見えるかと思ったけど、この場所からでは無理だ。

 どこまで走っていくんだろうとアルトさんを見ていたが、直ぐに帰ってきたぞ。なんかガッカリしているような雰囲気だな。


「少し先に行くとトゲトゲの大地じゃ。獣避けには良かろうが、陣を作るには問題じゃな」

「造成が得意な戦闘工兵がやって来る。だけど、この場所も問題だぞ」

 

 まるで表面を研いだように滑らかだ。どんな造成方法を使ったかは分からないけど、これで雨でも降ったりしたらアルトさんが転びまくるんだろうな。

 そんな事を考えながら、荷台から荷物を下してイオンクラフトの機体を壁に使ってテントを張った。大型だから10人は寝られるだろう。

 ディーは携帯用のコンロで炭を熾してお茶用の用意を始めた。

 しばらくは、ここで後続のやって来るのを待つことになりそうだ。


 翌日。通信機がユング達と戦闘工兵が向かっていることを教えてくれた。どうやら、飛行船2隻でやって来るらしい。ウルドの防衛に目途が付いたって事だろう。

 北東の方角を見ていると、飛行船が小さな点になって現われた。どんどん大きくなって俺達の直ぐ傍に着陸したんだが、自重があるんだろうか? プロペラが止まっても、動かないな。飛行船は風に弱いと聞いたけど、ユングの作った飛行船は少し違うようだ。


 飛行船のキャビンの後部ハッチが開いてユング達が下りてきた。

 どうやら、工作機械も運んで来たようだ。カタカタとキャタピラの音を立ててブルドーザーモドキが顔を出した。


「どうだ? これなら簡単に整地できるぞ」

「エンジンはどうなってるんだ?」

「装甲列車と同じさ。小型化したんだ。かなり減速歯車を使ってるから、スピードは出ないぞ」

 まったく、オタクなんだから困ったもんだ。

「ありがとう、助かるよ」

「だろう? 2台持ってきたぞ。夕方には戦闘工兵もやって来るはずだ」


 とりあえず、ユングを携帯コンロの傍に案内してコーヒーをご馳走する。

 簡単なベンチに腰を下ろして、久しぶりに一緒にタバコを楽しむ。


「ところで、この場所もあのブルドーザーモドキで整地したのか?」

「いや、レーザーで平らにしたんだ。この岩山は玄武岩だ。一度大型の放射兵器で山頂部をカットされたみたいだ。整地されていない場所はガラス質の突起が出てるから、気を付けるんだぞ」

 そんな事を言いながらコーヒーに口を付ける。

 そうなると、この場所に陣を設けるのはかなり面倒なことになりそうだ。玄武岩は固い事では定評があるからね。


「そう腐るな。ブロックの切り出しは俺とフラウがやるさ。3日はここに滞在するからな」

「陣の設計図はあるって事か?」

「まあな。こんな形だ」


 傍に置いておいた端末を使って仮想スクリーンを展開する。

 東西1500m、南北800mの長方形に高さ1.5mの石壁を作って陣にするのか。石壁の中は安全と言う事になるんだろうな。

 東西南北に高さ10mの監視建屋を作り、そのほかは地下に作るらしい。飛行船や、イオンクラフトの発着場の地下が丸々基地化するって事か。考え方が突飛だが、この場所には四季もあるようだから地下の方が過ごしやすいかもしれないな。


「地下空間を広く取って入り口の防備をきちんとすればグリードの大群だって気にならないはずだ。とはいえ、地上に出ることを禁止するなよ。俺達はグリードやタグじゃないんだからな」

「あぁ、そうするさ。ところで他の生物は見つかったのか?」

「いや、上空からの監視だからな。今のところは見つからないが、まだまだ危険な奴は潜んでるような気がする。この陣の工事中の警備は明人達が頼りだ」


 夕方近くになって、戦闘工兵達がやって来る。

 さすがにガルパスは持って来なかったようだが、トラ族主体の戦闘工兵ならかなりの速度で陣を作ってくれるに違いない。


 そんな中、俺達の所にトコトコとやってきたのは、エイルーさんじゃないか! 大隊長のはずなんだが、おもしろそうだからこっちに来たんじゃないかな? 容姿もそうだけどその行動も昔のミケランさんそっくりだ。


「ここが指揮所かにゃ? 明日にもう少しマシなのを作ってあげるにゃ。それで……」

 直ぐに明日以降の建設計画の打ち合わせをユングと始める。

 どうやら、ちゃんと仕事をしてくれそうだけど少し不安になって来たのは俺の悪い癖なんだろうな。


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