R-117 災厄から逃れた生物
「アキトはここで頑張ってくれないかな? 装甲列車はレムリアさんでもだいじょうだと思うわ。集積所に守備兵も送ったし、複座イオンクラフトも集積所に4機送れるわ」
「北にダイブ広がってるからね。落穂拾いはキチンとしなければ面倒だ。姉貴からレムリアさんに連絡しといてくれよ。それで俺は?」
「北西にある見張り所をお願いするわ。南には御后様がいるけど、北西は混成部隊だから指揮者が欲しいの」
テーブルの上の部隊配置図をみると、亀兵隊と歩兵にエイダスからの派遣部隊がいるようだ。予備兵力だから中隊規模に達していないのも原因だろう。
「俺でいいのかな?」
「アキトなら統制が取れると思うわ。連携が思わしくないからすでに1個小隊以上の損害を出してるの」
それなら早めに手を打たねばなるまい。
指揮がバラバラだったら連携何て出来ないだろうからね。
すでに皆は自分の役目に付いているようだから、ディーと一緒に指揮所を出る。
途中の集積所に寄って、AK47のマガジンと爆裂球をたっぷりと受け取った。ついでに入荷したてのパイプ用のタバコの包みを土産に頂いた。
北西角の見張り台は、砦の外壁である石壁に作られた15m四方の広場の置くに作られた5m四方の高さ3m程の小屋みたいだ。中は2m程のテーブルセットと弾薬箱が積み上げられている。
その屋上は1.5mほどの擁壁に囲まれた見張り台だ。
小屋に入ると数人の男女が俺を待っていた。
「ミズキ殿からアキト殿がこちらの指揮を行うと聞いて我等お待ちしておりました。我等の守備範囲は、この見張台から北の壁になります。亀兵隊は強襲部隊が2個小隊。歩兵が2個小隊にエイダス派遣軍が1個小隊になります。残念ながら欠員が全体で1個小隊程になってしまいました」
「グリードの数が数だ。俺が来ても余り役に立つとは思えないけど、一応、指揮を取らせて貰う。ところで、武装は?」
亀兵隊はAK47を使うらしい。歩兵は旧来のボルトアクションライフルだが、1個分隊に2丁のステンが配布されたようだ。エイダス派遣部隊は相変わらずのウインチェスターを使ってるようだな。
「この見張り台をエイダス派遣部隊だけで対応する。歩兵はグレネードランチャーを装備しているな? 亀兵隊の持っているグレネードランチャーも全て歩兵にあずけてくれ。問題は武装なんだが……、ディー、集積所にあるステンを分けて貰えるか交渉だ。ついでにリボルバーがあればそれも欲しいな」
直ぐにディーが見張り台から飛び降りて集積所に走って行った。
予備が少しはあるだろう。いくらグリードの数が少ないとはいえ、ここから眺めていても何匹か壁の上に作った回廊に上がって来てるぞ。
しばらくして、ディーが帰って来ると、魔法の袋から武器を取り出してテーブルに並べ始めた。
ステンが15丁もあったのか。リボルバーも20丁近くあるぞ。
「グレネードランチャーを持った兵には護身用にリボルバーを渡してくれ。残った兵士にステンを分けるんだが分隊に3丁は渡せるだろう。エイダス部隊はリボルバーも持っているはずだ。俺とディーが広場にいるからグリードが上がって来たら直ぐに後ろに下がってくれ」
AK47とボルトアクションライフルで1M(150m)付近を狙い、300D(90m)付近をステンで狙う。
グレネードが尽きたらしばらくは爆裂球で対処すれば良い。
「グリードの表皮は銃で容易に貫通できる。もし対応できそうになければ早めに連絡してくれ、俺かディーが救援に向かう」
各隊長が小屋を出ると、通信兵が2人残った。背中にボルトアクションのライフルを背負っていたから、リボルバーを渡して置いた。銃弾も一掴み渡したから、小屋の窓から援護位はしてくれるだろう。
外に出るとエイダス軍が広場の擁壁に付いてさかんに銃弾を発射している。
直ぐに隊長を呼び止めて、爆裂球を準備させた。
「5人程引き抜いて、爆裂球を投げさせるんだ。銃弾よりも効果があるぞ。俺達もしばらくは爆裂球を投げることに徹するからな」
元々何とか守り切っていた北壁だ。
俺が来なくとも、ステンを正規兵に渡してあげれば良かったのかも知れない。だけど、分隊に2、3丁だからな。かなり苦しい戦いは引き続くのだろう。
集束爆裂球を常に数個作っておき、死骸が積み重なって上に伸びて来たところを、ディーがまとめて吹き飛ばしてくれる。
今までのように石塀の上の通路にグリードが姿を現さなくなった、と正規兵の隊長が教えてくれた。
翌日。双眼鏡で周囲を眺めると、確かに北に向かうグリードの群れがある。
イオンクラフトが盛んにナパーム弾を落しているようだが、流れが止まることは無いだろう。
あの流れは、ミーミル周辺に展開する部隊に攻撃されてやがて途絶えるのだ。
それだけでも1日に2万は超えるんじゃないか?
「どうじゃ? がんばっておるか」
「アルトさんじゃないか。良いのかい、こんなところにやってきて?」
「今ではウルドの石塀を越えるグリードも稀じゃ。2個中隊を半減して南と北に配備することにしたぞ。亀兵隊じゃから装備はAK47じゃ。少しは兵を休ませるが良い」
直ぐに隊長達を呼び寄せて、1個小隊ずつ10時間の休憩を取らせることにした。
短時間の休みで我慢していたから、皆感謝していたな。
「アルトさんが部隊を縮小させると言う事は、かなりグリードの数が減ったと言う事なのかな?」
「現在の総数は1500万程度です。津波当日から比べれば三分の一に減ったと言えるでしょう」
「前は地面が見えんかったからのう。この頃は少し見えるようになってきた。サーシャ達も1日3回、バジュラの大きな火炎弾をグリードに放っておる。あれだけで10回分の一斉砲撃に匹敵するであろうぞ。まったくとんでもないものを持ってきたものじゃ」
そうは言っても、バジュラがいなければと思うと背筋が寒くなる。
まったく先を良く読んでいてくれたものだ。
「ユング達はユグドラシルに向かったんだろうな?」
「いや、ナパーム弾をたっぷり積んで南に向かったぞ。通信機でミズキの宿題をユグドラシルと図るつもりじゃろう。南が気になると我に言っておった」
「姉貴の危惧が他にもないかと思ったかな? それほど生命は万能じゃないと思うんだけどな」
「2匹いれば3匹いるはずとミズキがよく言っておったな。我も少し気にはなるのじゃ」
予知能力のよの字も無いアルトさんの言葉だが、長年の経験から裏打ちされた言葉かもしれない。
だが、かつてユングが南米の気になる生物で上げたのは軍隊アリだった。目の前のグリードがそれに当たるんだろう。となれば、他の世界から来た生物となるんだろうか?
大きな次元断層は既にないが、小さなひび割れはいまだにあちこちに点在している。当初、魔法が消えるかと思っていたが上位魔法が使える回数が限られるぐらいだったのも気になるところだ。
「とりあえず、そっちはユングに任せておこう。俺達はこのグリードを何とかしなくちゃならないからね」
「まぁ、それが一番じゃな。ミズキもきちんと役目を決めておるようじゃ」
増援が来たから少しは楽になったかな。
2日も過ぎると、疲労した表情に少し赤みが帯びてきた。やはり交代要員は必要だったんだろう。
「ウルドを取り巻くグリードの数が1千万を下回りました」
ディーが俺達にその数字を告げたのは津波のようなグリードの群れがウルドを襲ってから1か月も過ぎてからだった。
仮想スクリーンに映し出される数字は確かに1千万を下回って、千体単位で数が少しずつ減ってきている。
ようやく終わりが見えてきたな。
ミーミルの複座イオンクラフトをこの頃見る機会が無い。北に向かったグリードを少しずつ数を減らしているのだろう。
ミーミルの少し北で展開している阻止部隊も少しは役だったに違いない。
スクルド砦の東ではヨルムンガンドの運河工事が夜昼通して行われているらしいから、案外早く大運河が完成するかも知れないぞ。
数日が過ぎたところで、姉貴から召集があった。
仮想スクリーンで見る限り変化があったようには思えないから、全く別の用件なんだろう。
俺が指揮所に入った時にはすでに全員が揃っているようだ。ユングまでテーブルに座ってコーヒーを飲んでいる。
姉貴の横に座ったところで、姉貴が話を始めた。
「ユング達の調査は簡易だけど、南米大陸を全てサーベイしているわ。前にグリードの敵対生物として2種類を上げたけど、もう何種類かいるみたいね」
「これが、その生物だ。基本は水棲生物だから陸上には出てこないだろう」
仮想スクリーンに映し出されたものは、ウナギなのか? どうやってし止めたのか分からないけど、地上に横たわった姿はユング達と比較すると10m以上ありそうだ。胴はドラム缶並みだな。あれだとかば焼きは何人分できるんだろう?
「5千人分だ。食べたいのか?」
「いや、そうじゃないけど……」
「マスター、マスターだって最初に行ったのは、あれで何人分だ? でしたよ」
まったく、考えることは同じと言う事か。
姉貴がジッと見ているのはきっと同じ思いに違いない。
「食べたい気もするけど、発電能力が1万ボルトを超えているようではねぇ。今度ネウサナトラムに帰った時に探してみましょう。次はこれになるわ」
新たな画像は、単なる岩に見えるんだけど……。
「直径10mはある。巨大なヤドカリだな。岩に穴を開けるんだが、どうやら強酸を尻尾付近から出すことができるらしい」
次の画像には、岩から引きずり出されたヤドカリが映っていた。まるで怪物そのものだ。全長だけで6mを越えてるぞ。
南米の南端付近はあまりナパーム弾を投下していなかったから広大なジャングルが広がっている。
グリードが南に向かっても、引き返してくるものがほとんどいないのはこいつらのせいなのかもしれないな。