R-116 敵の敵は味方とは限らない
装甲列車での突撃を繰り返す日々が20日を過ぎると、さすがにグリードの数が減ってきたことが仮想スクリーンの画像でも分かるようになってきた。
それでもどうにか2千万を下回ったぐらいだから、半減しただけに過ぎない。以前として数の暴力は有効に働いている。
「北への流れは、どうにかミーミル付近で食い止められておりますね」
「途中で複座のイオンクラフトに狩られているからだろうな。ミーミルに1個小隊が準備出来たことが幸いしてるんだと思うよ」
当初の予定の倍の数だ16機で運用されているけど、ウルドのイオンクラフトの襲撃を逃れて来ても、その後を引き続いてミーミルから攻撃されたのではたまったものではない。その後をカルート兵達に側面攻撃を受けるのだ。
ミーミルの西に作った防衛線にたどり着けるのはごくわずかって事になる。
あれなら、エイダス島からやって来た連中を主体にした民兵でも十分に対処できる。
先込め式の2連散弾銃では、どうなるのかと心配していたのだが……。
「当初から比べて、兵達も襲撃に慣れたようです。ですが、大分グリードの拡散が起きていますね」
「その為に屋根にイオンクラフトを乗せたんじゃないかな? 仮想スクリーンで状況を見て対応できる。拡散してもウルドから200M(30km)圏内でとどまっているからね」
「少しずつ広がっているようにも思えます。集積所に2個分隊と2機の複座イオンクラフトを強請ってみましたが……」
「今は無理かも知れないぞ。ウルドがあの状態だからね」
運河を渡った後でのグリードの拡散はかなり問題ではある。だが、それに対する部隊を捻出できるとすれば、連合王国からになりそうだな。
改めて、テーバイの東にある堤防を眺めてみた。
相変わらずの激戦だが、少し悪魔軍の数が減ったようにも思える。すでにこの大陸からの増援は無いんだから、ユーラシアに渡った軍全だけのはずだ。少しずつ先が見えてきたのかも知れない。
「5分後に砲撃が始まります」
「時間か。それでは行ってくる。イオンクラフトの運用は任せたよ」
指揮所を出て、装甲列車の屋根に作った陣地に向かう。イオンクラフトも良いけど、俺はやはり現亜ℬの人間だな。
最後尾の貨車に着く砲撃音が聞こえてきた。現状では南への砲撃だ。適当に撃ってもグリードの群れの中に着弾する。
陣地に着くとすでに防壁に身を寄せて待機している状態だった。
昼間でもまだウルドの姿は見えない。砲撃を始めたと言う事は20kmを切っている筈なんだが……。
反転する際は、知らせを受けて全員が壁に身を寄せる。一番無防備になるけど、装甲列車のあちこちに付けた爆裂球投射機が放つ爆裂球の炸裂でグリードの接近をどうにか阻止できる。
東に動き始めたところで、再び銃撃が始まった。
1回の突入で倒せるグリードの数はおよそ3千。何度か突入を繰り返して俺達を乗せた装甲列車は西に移動して弾薬を補給する。
「ご苦労さまでした。先ほどウルドから通信が入りました。ウルドへの出頭を要請しています」
「何だろう? 今のところ問題があるとは思えないんだが……」
「集積所でユング殿が待っていると言う事です」
「後は任せるけど、無理はしないでくれよ。反復攻撃をしている限り、グリードは北に向かう数が制限される」
集積所に着いて直ぐに、ディーと一緒にユングの飛行船に乗り換える。
ウルドまでは20分も掛からないだろうが、ラミィがコーヒーカップを渡してくれる。飛行船の高度と速度を落として、ディー達がグリードの群れに強化爆裂球を投げ落とすのを見ながらの一服だ。
ユングにも出頭指示が来たらしい。やはり理由が分らないと嘆いていた。
「まさか、たまには顔を見たいなんて言う事じゃないだろうな?」
「それはないだろう。だけど、ウルドは善戦しているし、俺も悩んでいるところなんだよな」
ウルド近くで急速に飛行船が上昇した。上空3千m付近で砦に接近して、そこから降下が始まる。
まるでエレベーターに乗っている気分だ。
飛行船の離着陸場に下りたところで、広場を横切って指揮所に向かう。
いつの間にか50門近くに大砲が増えているぞ。一斉に放つ砲撃は迫力があるな。
館の2階に上がってかつて知ったる指揮所の扉を開くと、どうやら全員が揃っているようだ。
「やっと来たね。現状は見た通りよ。まぁまぁ頑張ってるわ」
姉貴の言葉を聞きながら大きなテーブルに座る。ここにいるのはアテーナイ様にミーアちゃん達、それとアルトさんにキャルミラさんだ。
「これを見てくれない? どうやらあと少しよ」
姉貴の指差した仮想スクリーンにはウルド周辺を上空から写した画像だ。
「後続が途絶えた……と言う事か? それなら我等を集めなくても良いであろうに」
サーシャちゃんにとっては決定事項だから今更と言う事なんだろうな。
「ここを拡大するわね」
姉貴がもう1つ仮想スクリーンを展開するとその画像を拡大した。
「どうやら、グリードの天敵が現れたわ」
「ちょっと待ってくれ。それって確か……」
「巨大バリアント。レイガル族の半数を葬って、ノーランド侵攻のきっかけを作った生物と同じだと思うわ」
巣穴からチラリと姿を見せたようだな。バビロン辺りに頼んでずっと監視していたのかも知れない。
「確かにグリードには脅威だろうな。俺達も遭遇したが何とかなったんだよな」
ユングの言葉にフラウも頷いている。ラミィはそのままの姿勢だから、ユング達が歩いて大陸を渡ったころの話だろう。
「倒せるの? 私達も頑張ったんだけどダメだったわよ」
「あのコアを破壊すれば良い。俺達の銃はレールガンだったから意外と簡単だったぞ。最初はしつこく追い掛けてきたんだけどね」
となると、倒せると言う事になるんだろうな。問題はユングのレールガン並みの運動エネルギー弾を放つことができるかどうかになる。
「対戦車砲って事?」
「そこまで必要かは分からないな。長距離砲で上手く命中させれば案外倒せるんじゃないか? ラティではどうかな……。最低でも40mm以上の高速弾が欲しいところだ」
確かボフォースは北欧の企業だったはずだ。ユグドラシルの電脳にその設計データーが残っているかもしれないな。
「となると……」
「ユグドラシルになるな。それは俺が対応するよ。出来ればイオンクラフトに搭載したい。1個分隊を3つの砦に用意すればこの問題は解決だ」
俺の思いと同じって事か。後はユングに任せておこう。
「となると、問題はこっちかな?」
南大陸の南端付近を拡大する。そこにあったのは小さなピラミッドだ。
「おいおい、ククルカンは俺が破壊したぞ。それにグリードのおかげでシャイタンは全滅してるはずだ」
さらに画像が拡大される。そこにいたのはシャイタンに良く似た姿だが、背中に何かあるぞ。
少し見ていると、背中の何かが左右に広がった。
「翼だと?」
「シャイタンとは少し異なる種族のようね。それに、空間の歪はかなり小さいの。新たな種族を呼び込むとは思えないけど、この連中も遺伝子改造ができるみたいなの」
新たな仮想スクリーンが出現した。そこに現れたのは静止画像だな。ぼやけてはいるけど、グリードと争う何ものかの姿が映し出された。
「タロスと名を付けたわ。身長5mの巨人よ」
装備しているヨロイや兜それがギリシャ時代を思わせるからなんだろう。だけど武器は棍棒だった。
「1個大隊程の規模を持っているわ。
「けっこうあちこち動いてたんだけどな。今まで見付けられなかったのが不思議に思えるぞ」
「あちこちの森を焼いてるでしょう。それで、この連中を見付けることができたのよ」
確かにユング達は森を焼いていた。しばらく停止していたから草原が広がっているようだ。一段落したら、また始めるんだろうな。
「ユングが試験的に南部にもナパーム弾を投下したでしょう? でもグリードの動きが無かったからその後は見捨てていたんでしょうね。私は別の観点から南を調べてたんだけど、結果的にこの集団を見付けたのよ」
現状の勢力はシャイタンに似た形態が約1000人。巨人が700程度と言う事だ。
暮らしているのが、南海岸のリアス海岸地帯だから、グリードの侵攻にも何とか耐えられるんだろう。
「どうにか暮らしてるなら問題は無いと思うけど?」
「ええ、彼等が防衛に徹しているだけだったならね。さっきのタロスの数だけど、10日で2倍になったのよ。この意味がわかる?」
「地下にタロス生産工場があると言う事になるな。しかも、ヨロイや兜は金属製だ。金属を作り出して整形できるだけの技術もあると言う事になる。タロスだけなら対処は容易だけど、グリードのような怪物を作り出されたらたまったものじゃない」
姉貴が俺達を集めたのは、こっちが原因だろう。
だが、今現在でどう対処すれば良いかを結論付けるのは早すぎるような気もするな。
「姉さんは結論を急ぎ過ぎるよ。種族を維持するには1万人は必要だろう? 現状でこの連中がこの世界に定着するのはかなり難しいと思うんだけど」
「地球古来の種ならね。だけど他の世界ではどうかしら」
それには誰も答えられない。
確かに姉貴の危惧は考えられるものだった。
「とりあえずは現状維持で良いんじゃないか? 40mm砲はユグドラシルと調整してみるよ。大陸南部に脅威が2つあったとしても、これで少しは対応が出来るだろう。それに目下のところはウルドを取り巻くグリード達だ」
依然として2千万近い数だからな。
早めに減らさないと色々と支障が出てきそうだぞ。