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R-115 姉貴の宿題


 時速40kmの速度でウルドの壁に向かって装甲列車が走っていく。

 グリードが列車に取り付こうとするが、前面にいる奴はデッキ前に付けた排土板で左手に跳ね飛ばされている。

 やがてゆっくりと速度が落ちていくのが分る。いよいよってやつかな?


「テェー! 列車に近づけるな」

 マカーニさんの甲高い声と同時に周囲に銃弾が撒き散らされる。

 俺の前にいる8人は前と左右に爆裂球を投げ始めた。

 それでも、後から後から湧いて出るようにやってくるグリードに列車が囲まれ始めた時、ゆっくりと西に向かって動き出した。


 屋根に上がって来るグリードを俺とディーデ狙撃する。直ぐにグレネード兵3人がウインチェスターで俺達の援護に加わってくれた。自転車並みの速度になって来ると、屋根まで上がって来るグリードの数がっ単に減って来る。

 ウインチェスターを構える3人に後を任せて、ディーと一緒に爆裂球を投げ始めた。

 西に動き出して10分も経たない内に、ステンの射撃音が途絶えてしまった。まだまだグリードは俺達を追ってくるし、速度もグリードの方がやや速いようだ。取りつこうとするグリードを銃剣や拳銃を使っている。

 最後のマガジンを装てんして、横にいるグリードの群れを薙ぎ払うと、拳銃を取り出す。

 ディーの方は長剣を構えて後ろの擁壁を越えたところで屋根に上って来るグリードを1体ずつ始末している。


「まだまだウインチェスターの銃弾はあるでしょう。あと少し頑張って!」

 マカーニさんが部下を鼓舞しながら拳銃で射撃を続けているが、あれって、38口径の通常弾じゃないのか?

 それでも至近距離なら痛撃を与えることができるようだ。


 時間にして10分は無かったんやないかな。それでも俺達には数時間の死闘をしてきたように感じる疲れが残る。

 装甲列車は時速60km以上の速度で西に向かっている。すでに追いすがるグリードはどこにもいない。


「点呼をしてレムリアさんに報告だ。それが終わったら休んで良いよ」

「そうですね。点呼は大事です」

 直ぐに部下に指示を出しているけど、少なくともこの陣地には負傷者は出ていない。デッキの連中が問題だな。


 下から上がってきたマカーニさんによると、数人の負傷者が出たらしい。重傷ではないらしいが、イオンクラフトで運ぶ手配が出来ているとの事だ。

 水筒からコーヒーをカップに注いで渡してくれた。どうやら貨車の中で冷やしていたみたいだな。

 ありがたく頂いてタバコに火を点ける。

 コーヒーを陣にいた連中に分け終えたところで、マカーニさんがコーヒーカップを持って俺の近くにあった木箱に腰を下ろした。


「どうにかでした。やはり、ステンのマガジンをもっと持たせる事にします。下の貨車には余裕がたっぷりあるんですから」

「グレネード弾よりも、爆裂球の方が効果的かもしれないな。北側の貨車の連中に持たせて、ここは爆裂球で行こう」


 陣の後ろに付けた鉄板も役に立った。グリードの群れに押し入った場合にはやはり屋根に上られてしまう。出来れば後ろに2人のステンを持った兵士を付けたいところだ。

 1時間も掛からずに集積所に着くと、キャルミラさんが操縦するイオンクラフトが待っていた。怪我人を乗せて、交代要員が新たに乗り込んでくる。

 ステンが更に10丁増えたようだ。

 砲弾が積み込まれ、簡単な食事が用意される。

 次は夜襲になるが、グリードは昼夜関係なく襲ってくるからな。

 食事を終えたところで装甲列車を降りて、列車の状況を一回りして確認してみた。


 かなりの傷が車体に付いている。一部の貨車の外壁となる鉄板に穴が空いているのはグリードの顎の力によるものだろう。

 デッキの鉄柵もヤスリを掛けたように無数の傷がある。このまま何度も攻撃した場合には、破られる恐れもありそうだな。


「かなり酷い状況だよ」

「外を見てきたんですか? ですが、反復攻撃は止めることができません」


 レムリアさんが見ていた仮想スクリーンを見て、その理由が分った。

 前にも倍してグリードがウルドを囲んでいる。一部は北側にも移動しているし、部分的には東壁でも戦闘が行われているようだ。


「先ほどウルド南方に大規模なナパーム弾による攻撃が行われました。運河を越えてウルドを囲むグリードの数はおよそ200万。運河の南には依然として3千万を超すグリードが群れています」

「やるだけウルドへの圧力が減るなら、やらねばならないな。集積所の弾薬は十分なのか?」

「補給に問題はありません。マガジンが足りなくなっていますが、銃弾はたっぷりあります。向こうに付く間にマガジンに詰め込んでください。それと、装甲列車を完全停止させずに、車輪を逆転させます。敵と相対する時間を減らせますが、落ちないように気を付けてください」


 要するに、急ブレーキをかけると言う事なんだろうな。ベルトにロープでも付けるように指示しておけばいいのかな?

 弾薬の積載が終わったのか、装甲列車が再び東に向かって進み始めた。指揮所を後にしてゆっくりと屋根の上に作った陣地に向かって歩いて行く。

                ・

                ・

                ・

 装甲列車による反復攻撃を数日繰り返したところで36時間の休憩を取る。

 機関車の保守とかなり痛んだ貨車や鉄柵の応急修理を行うためだ。

 特に仕事が無いから、指揮所で仮想スクリーンを眺めることになるのだが、ディーは単独で東に向かい、レールガンでグリードの群れに水平射撃を行っているようだ。日中なら10射以上行っても問題が無いらしい。


「よう、頑張ってるな」

 そんな声を出して入って来たのはユングとラミィだった。

「フラウも一緒じゃなかったのか?」

「フラウは小型イオンクラフトで東に向かったよ。 確かレムリアだったな。初めて会うが、明人の友人だ」


 小さな指揮所だが数人が座れるテーブルがある。椅子が対面式にベンチシートだから、俺の隣にユング達が座った。


「ユング様でしたか。エイダス建国に助力して頂いたと聞いております」

「気にするな。レムスと俺達は昔近くに住んでいたんだ。近所同士なら助け合うのは当たり前だ」

 

 そんな事を言うからレムリアさんが恐縮してるぞ。まぁ、それだけユングはエイダスの建国時期に係わっていたことは確かなようだ。義侠心が強いからな。どこまで協力できるかを俺や姉貴に色々と聞いていたからな。

 

「それで、ユング様はコーヒーをアキト様に届けるのが目的ではないと思いますが?」

 レムリアさんの問いにユングが笑い出す。隣のラミィは表情を変えないのは、まだまだこの種の会話になれていないんだろう。


「機関銃とマガジンを届けるついでに、明人に小型のイオンクラフトを持ってきた。燃料は集積所に置いといたが2人乗りだ。指揮所の屋根に固定脚で乗ることができる。武装はあまり無いぞ。小型ナパーム弾が2個に標準型機関銃が2丁だ。マガジンはドラム型を使う。120発だから地上掃射が可能だ」

「ミーミル用というわけか」

「2個小隊を作った。運用はネコ族の連中だけどね」


 地上の陣地は既に作っていたようだが、空軍も用意していたのか。

 数は8機でもそこそこの武装だ。個別撃破を想定したんだろうが、2人乗りというのが微妙だな。


「仕様書を送っておいたからちゃんと読んでおくんだぞ。それと、グレネード仕様の焼夷弾を1箱用意しといた。照明弾代わりだなネコ族でも夜間の戦は明かりがあった方が良いだろう」

「ありがたく使わせてもらうよ。それでスクルドとウルドはどうなんだ?」

「スクルドの方は特に問題も無い。順調に運河工事を進めているが、何といっても規模が規模だ。ウルドの工事区間まで伸ばすにはまだ時間が掛かる。問題はウルドの方だが、美月さんがいるからな。御后様の働きは明人3人分と言っても良いぞ」


 相変わらずか……。他にユングが何も言わないところをみるとそれなりに耐えていると言う事になるんだろう。


「ところで、明人は美月さんの宿題を忘れてはいないだろうな?」

「ユングなら分かるだろうが、それに対応するのは俺という奴か? 頭の片隅には置いてあるよ。だが、この状況だからな」

「それも分るが、後々困らないようにたまに考えてくれよ。俺の方はラミィに一任してたんだが、ラミィが1つの仮設を出した。それをお前に伝えるのが本来の目的だ」


 相変わらず趣味の世界を優先してるな。とは言っても、ユングを助ける2人は優秀だ。いったい、ラミィの仮説は何なんだろう?


「私達、それに美月さん達の特殊性は御存じのはず。それを踏まえて過去の歴史を地球規模でバビロンと検討をしてきました。その結果は、大量絶滅の対処であると考えられます」


 思わずユングの顔を見る。俺の反応をおもしろそうな表情で見ていたが、ポケットからラッキーストライクを取り出して火を点けた。俺にも箱を向けてくれたから1本頂いて火を点けると、天井のハッチを開ける。


「知ってると思うんだけどな。この地球では過去に何度も生物の大半が一度に絶滅した歴史がある。恐竜だってそれで滅んだんだぞ。アルマゲドンだって人間が起こしたことだが一度地上からほとんどの生物が死滅したはずだ」

「それは理解してるが、姉貴がそんな心配をする方に驚いてる」


「確かに大きな問題だ。だが、それを回避するための方策となれば少しは見えて来るんじゃないか? 俺の方も考えるけど、実行担当の明人も考えといてくれよ」


 俺って実行担当なのか? ユングはたぶんラミィに丸投げするつもりだな。

 何か、俺だけ貧乏くじを引いた気がするんだが……。


「ある意味、このグリード対策も美月さんにとっては計画の一部なんじゃないかな? グリードが地上に溢れたら、最後に残っているのは種の絶滅だ」

「たまに姉貴が遠い存在に思えるよ」

「それでも、明人の姉であり恋人でもある。俺にとっては贅沢な悩みだと思うぞ。昔なら羨ましかったんだろうが、今では俺を理解してくれる2人がいるからな」

「愛想をつかされないようにしろよ」


 俺の言葉で互いに笑いが起こる。


「まあ、努力はするさ。ところでレムリアは装甲列車に欲しいものはあるのか? 可能な範囲で対処するぞ」

「特にありません。今回設置した爆裂球投射機で装甲列車の改造は終わりにしたいですね。ところで、列車砲の方は?」

「工廟で制作中だ。レムリアとサーシャちゃんの提示した仕様がまるで違ってるからな。気動車を大型化して両方引いて行けるようにするつもりだ」


 早い話が調整できなかったんじゃないのか?

 たぶんファイルで基本仕様は俺にも転送されているだろう。一度見といた方が良いな。

 



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