R-114 装甲列車の戦い(2)
ウルドにグリードの津波が押し寄せて3日目になる。
ウルドに展開した大砲の砲身寿命は既に尽きているようだ。それでも装薬を減らして南に砲弾を送り込んでいる。
近接した戦だから砲弾の飛距離はあまり気にならないようだな。短砲身砲が3km以内を、長砲身砲が5km付近を攻撃しているようだ。
その外側を飛行船とイオンクラフトが爆撃している。
「あまり良い状態とは言えませんね」
「だが、数を減らしつつあることは確かだ。ウルドに敵を引きつけて、この間に運河工事を進めるという当初の計画は今でも続いている。少し予想とは違っていたが、大きな計画修正は必要ないと姉貴は考えているようだ」
現在のグリードの数は3千万といったところだから、半減したと言っても過言ではないが、相変わらずの数字だからな。
ユングの行った2度にわたる殺虫剤攻撃で現在は南西の巣穴から出て来るグリードが皆無だ。東海岸伝いに北上して来るグリードは新たな群れなんだろうが、進軍する数は1日に1万に満たない数だ。いずれは殺虫剤かナパーム弾に寄ってさらに数を減らすんじゃないかな。
「進軍して来る数は微々たるものですが、南西部の巣穴は壊滅したんでしょうか?」
「たぶん無理だろう。生き残ったグリードは必ずいるはずだ。そのグリードが数を増すまでには何とかヨルムンガンドを完成したいところなんだけどね」
装甲列車の改装と補給でスクルド砦まで移動しているから俺達はちょっとした休憩が取れる。姉貴の方はそうもいかないだろうが、ベルダンディから1個中隊の増援を得たようだ。少しは守備兵に休息を与えられるんじゃないかな。
「今度は砲車が4両になります。機関銃も数丁増加しましたから、かなり使えると思いますよ」
「基本は今まで通りだ。機関銃はデッキの上の陣に2丁、貨物車と機関車に1丁ずつ割り振ってくれ。ステンの予備は貰って置いたか?」
「20丁、頂きました。砲車と機関車に割り振っています。それと、集束爆裂球をディーさんに渡しましたが?」
「それで良い。デッキと上の陣には通常の爆裂球をたっぷり渡しといてくれ」
改装で機関車の前にも排土板を設けることにした。これで機関車が動く限り戻れなくなることは無いだろう。
全ての改装が終わったところで、俺達はウルドに向かって出発する。
時速60kmで進んでも、ウルドまでは1日は掛かりそうだ。指揮所でタバコを楽しみながら、仮想スクリーンで状況を確認する。
「ほう、ウルドにおもしろいのが集まってるな」
「何ですか、この群は?」
ウルドの東の防壁は大西洋に張り出した堤防にもなっている。海上に6m程の高さで聳える台形の断面を持った構造だ。将来的には定期船の運航をサーシャちゃんが考えていたらしい。そのためにウルド付近は南に大きく運河が開いた格好だ。船を意識してるだけあって水深もあるんだろう。
その外洋側に巨大な海獣が集まっている。たぶんオルカ辺りの進化した姿なんだろうな。全長50mはありそうだ。
運河の中にもかなりの数が入り込んでいるのはグリードを捕食するためだろう。
グリードの作る橋が当初よりも西にたくさん作られている。
これだと、主戦場が南壁になりそうな感じだ。
「イオンクラフトが活発に動いてますね。北に向かうグリードの牽制でしょうか?」
「たぶんそんなところじゃないか。北のルートとしてはミーミルの西を通る事が予想されるけど、防衛陣地は作ったみたいだね。武装が散弾銃のようだから、エイダスからやって来た連中じゃないかな」
民兵と言う事で雇ったのだろうか? 数は数百はいるようだし、ミーミルにはカルートを駆る兵士が1個中隊駐屯しているから、あれで十分なはずだな。旧式の大砲まで並べているぞ。前装式だがブドウ弾を放てるなら十分に役立つはずだ。
「西はスクルドまで完成したようです。このままウルドの工事区間に連結できれば良いのですが」
「工事区間が数百km残ってるからね。今年いっぱいは掛かるかも知れないな。だけどサーシャちゃん達の工事はウルドから西に300km以上伸ばしてるからグリードが陸地を抜けて北大陸に来ることは殆ど無いだろう」
そのための装甲列車だからな。武装も強化した事だし、少しはグリードを引きつけられるかも知れないぞ。砲車にも5丁ずつステンを配備できたからな。
ゆっくり兵士を休ませながら、東に向かって装甲列車を進める。
目標到達1時間前に兵士達を配備に着かせ、俺達も最後尾の屋根の上にある陣地に向かった。
「少し強化したのかい?」
「三方に鉄板を張って頂きました。それに後ろ方向に床も広げてますから、グレネードランチャーの発射も余裕ができますよ」
嬉しそうな顔をしてマカーニさんが教えてくれた。後ろにやって来られると問題だが、ディーを置いておけば安心できそうだな。
「少し突っ込みたい。予備のマガジンを箱で運んできてくれ。それと爆裂球もだ」
「下のトリスにも伝えておきます」
傍にいた兵士に指示を出して貨車から弾薬箱を運んで来た。
30連マガジンが50個入った木箱を4つも運んで来たぞ。グレネード兵の周囲を囲んでいる土嚢の影に箱を置いて、中身を配っている。ベルトに3本も挟んでいるようだ。
俺達も、腰のバッグから予備のマガジンを取り出してベルトに挟む。
「こっちの準備は終わりました。そろそろですね」
「ああ、相変わらず派手に砲弾を放ってるな」
ウルドの城壁はいまだ見えないけど、砲撃音が遠雷のように聞こえてくる。
少し右に視線を移すと砂嵐のように空が霞んでいた。
「後部の鉄板を立てて!」
マカーニさんの指示でディーの後ろの方で何やら作業が始まった。1.5mほどの高さで鉄板の壁ができる。壁の上部にはさらに1m程の格子が作られている。左右の鉄板の壁と簡単な金具で接続されたようだ。
「これで屋根の上に乗って来ても直ぐには攻撃されません。後方攻撃はグレネード兵と私が担当します」
マカーニさんの武装はMP-6だから、ステンよりは使い良いのかも知れない。それにリボルバー拳銃が8丁なら十分かな?
「俺とディーもいるからね。そろそろ現れたようだぞ!」
ウインチェスターの乾いた音が聞こえ始めた。
群がっていなければ、デッキのトリス達はウインチェスターを使っている。命中率が良い銃だし、ネコ族が長く使っている銃だからな。古いような気もするけど、使う銃弾は357マグナム弾よりも威力がある。100m以内なら確実にグリードの表皮を貫通するだけの性能があるのだ。
今の内に一服を楽しんでおこう。
俺がタバコに火を点けるのを見て、何人かがパイプを咥えだす。
少しずつ銃撃音が連続するようになってくると、12門の短砲身砲が砲弾を放ち始める。
次弾発射までに10秒以上か、ウルド近くまで砲弾を持たせるつもりのようだ。少しずつ装甲列車の速度が遅くなる。かなり近くなったと言う事か?
「ウルドまで15kmです。現在の速度は時速30km。さらに速度低下中です」
「ありがとう。俺達もそろそろのようだ。列車の上を注意してくれ。強化爆裂球は左を狙ってくれれば良い。右は俺が投げる」
自分に【アクセル】を掛ける。この状態なら爆裂球を50m以上投げられる。ディーなら100mは軽いけど、それは仕方がないな。
グレネード弾を箱で持ち込んでいるからグレネード兵が左右にグレネードを放ち始めた。マカーニさん達も半数に銃撃を命じている。
「ウルドまで10km。装甲列車の速度が増しています。現在時速20kmさらに上昇中」
デッキの前に付けた斜めの排土板にグリードが次々に跳ね飛ばされている。まだ機関銃は使わないようだな。ステンで切り抜けているようだ。
「ウルドまで5km。装甲列車が速度を落としてます。砲撃は停止。砲弾が尽きた模様です」
さて、いよいよだぞ。遠くにウルドの南壁が見える。さかんに小さな光が見えるのは銃の発砲炎だろう。
グレネード兵が半数爆裂球を握っている。グレネードよりも効果的だからだろう。
ゆっくりと装甲列車が速度を落とし、やがて停止した。途端にわらわらとグリードが装甲列車に殺到して来る。
「狙うな。ばら撒け!」
俺の大声が聞えたかどうかは分らないけど、装甲列車の銃眼から銃撃が開始された。
ガタンっという感触が足元から伝わってくる。ゆっくりとだが装甲列車が西に向かって動き出した。
「グレネードは後で良い。爆裂球の方が効果があるぞ!」
列車の速度が上がるにつれ、追ってくるグリードのン群の中で爆裂球が炸裂する。やがて速度が上がると、グリードは遥か彼方に消えて行った。
「レムリア様から通信です。弾薬残量を確認しています」
ディーの言葉にマカーニさんが直ぐに調べ始めた。デッキのトリスさんにも声を掛けているぞ。
「4割ほど残っているようです。やるんですか?」
「たぶんね。ディー、レムリアさんに連絡だ。『反復攻撃可能。ただし、直ぐに最速で離脱する事』以上だ」
「爆裂球を配って頂戴! それと貨車に予備のマガジンがあったら貰って来て。拳銃を持ってる者は装てんされてる事を確認するのよ!」
マカーニさんの指示で兵士達が動き始める。装甲列車がゆっくりと速度を落とし、再び東に向かって速度を上げる。
「ウルドまで20km。現在時速40kmで走行中!」
「さて、俺達も準備だ。まだマガジンはあるんだろう?」
「3個あります。強化爆裂球は残り3個です」
ディーの射撃は正確だからな。俺も3個残っているが、これが無くなるとM29を久しぶりに使う事になりそうだ。