表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/157

R-113 装甲列車の戦い


 30秒間隔で短砲身砲が運河の南に榴散弾を放つ。

 たまに焼夷弾が放たれるのは上空からの目標補正を容易にするためだろう。

 俺達は、ジッと出番を待つだけになる。

 すでにグレネードランチャーにはグレネードが装てんされているし、各自のポケットが異様に膨らんでいるのは予備を全て分け合ったためだろう。

 ネコ族の兵士達は、パイプを咥えたりお茶を飲んだりして、貴重な休憩を過ごしている。

 砲撃が始まってすでに30分を過ぎている。砲弾の半分が消費されるのもあとわずかだな。


「ゆっくりと前進させると言っています」

「3km程東に進むんだろう。少しでも被害を拡大させる考えだな」

 

 昼間には遠くに見えていたウルドの城壁は今では全く見えないが、砲列の放つ閃光でおおよその位置が分る。


「だいぶ賑やかだね」

「砲弾を性能限界近くで放っています。1時間で300発というところでしょう」

 実際には砲弾の補給が必要だから、10分程度のインターバルになるだろうな。それでも、普段の倍近い数を放っているのが分る。


「空軍の動きも活発なのか?」

「大型飛行船で南方20km程のところにナパーム弾を落しているようです。イオンクラフトは出番を待っているようですね」

「たぶん俺達の砲撃を終えてからと思ってるんだろうな。数機を順次投入すれば砲撃と同様の効果を期待できるからね」


 すでに津波は到達しているはずだ。ウルド南岸はさぞかし壮絶な防衛線を始めてるんだろうな。

 プラズマ光球が東からこちらに進んで来た。かなり手前で消失したけど、迫力があるな。あれを使ったとなと、ウルドの南の石塀の上は激戦になってるんじゃないか?

 あそこにはアテーナイ様がいるから少しは安心できるんだけど、それでも数が半端じゃないからなぁ……。


 砲弾を全て撃ち尽くすと、装甲列車の速度が上がった。

 ウルドに5km程接近すると、すでにグリードがウルドの西の壁に取り付いているのが見える。

 線路の上にいるグリードを排土板で弾き飛ばして接近しながら周囲にグレネード弾を撒き散らした。

 後部デッキから放たれる銃弾や装甲列車の貨車の狭間から放たれる銃弾で、今のところは装甲列車に近付くグリードはいない。


「銃弾はまだあるのか?」

「現在予備を使用中。各自2マガジン2個程度です」

「ディー、レムリアさんに連絡。西に移動して弾薬を補給する」


 ゆっくりと装甲列車が動き出した。追ってくるグリードに爆裂球を投げ、接近して来たグリードは銃で確実に倒す。段々と速度が上がりグリードの群れが遠ざかって行った。


「人員点呼を急げ、各部の損傷を確認せよ!」

 貨車の下から指示が飛ぶ。周囲を見渡したがけが人はいないようだな。

 とりあえず、最初の攻撃は成功したと言って良いだろう。


 1時間程西に向かって集積所に到着すると、急いで弾薬の積み込みが行われる。簡単な食事がその間に作られているようだから、東に向かいながら食事ができそうだ。

 俺達の乗っている屋根の足場に丸太が次々と乗せられる。どうやら、足場を広げるようだ。

 ディーも手伝っているから頑丈なものが出来上がるんだろうな。


「もう1個分隊を乗せることになりました。貨車の予備要員を乗せるそうですが、指揮は私が行います」

「さっきと同じようにすれば十分だ。新しい連中の装備は?」

「2人がステンで残りがウインチェスターです。ウインチェスターを持つ者にグレネードランチャーを持たせて、継続射撃が可能なようにグレネードをたっぷりと用意してます」

「なら、ステン部隊を3方に張り付けて、真ん中でグレネードランチャーを使えばいい。ステンの有効射程は300D(90m)、グレネードランチャーは2M(300m)以上飛ぶからね」

「了解です。この辺りに彼等をおきましょう。弾薬箱近くですから丁度良いです。それと、ウインチェスターは下に置いて来なさい。拳銃で十分でしょう。弾は一箱ずつ持っていれば十分です」

 45口径の拳銃弾は、一箱20発入りだったな。ポシェットのような弾倉に12発入っているはずだから、それで対応して貰おう。


「ウルド手前6kmから南方を砲撃しながら進むそうです。ウルド西方に展開するグリードの厚さは約3km程度です」

「砲撃終了前には遭遇しそうだな。砲撃を開始したら警戒態勢を取る。それまでは休息して構わん」

「了解しました。下にも知らせます」


 ディーの報告に少しは安心する。まだそれほどの厚さになっていないようだ。運河を渡るグリードの数を、姉貴達はある程度制御していると言う事になる。

 数千万のグリードが運河の向こうにいるのに渡って来るのが精々10万程度というのはおかしくないか?

 

「砲撃が開始されました!」

 ディーの言葉に、思考の海から我に返った。それは後でも良い。今は1匹でもグリードを減らす事だからな。


「良いか、パイプは自由。酒も構わん。だが銃弾を前に飛ばせ!」

「「ウオォォ!!」」


 ノリの良い連中だな。早速パイプを咥えてる奴までいるぞ。1時間にも満たない戦いだ。とりあえず俺も準備するか。

 AK47のセーフティを外して初弾をチャンバーに入れる。それが合図となったのか、あちこちでステンのセーフティが解除されていく音が聞こえて来た。

 12人が装甲列車の屋根に作った足場の擁壁に取り付いて、中心に8人がグレネードランチャーを持って座っている。膝撃ちをするようだな。

 その後ろに俺とディーは立った。

 ゆっくりと装甲列車が前進を始める。

 

 ちらほらとグリードが線路際に現れた。そんなグリードを狙撃しているのはデッキの連中だ。ウインチェスターでの狙撃は中々のものだな。

 左右のデッキで待機している連中は10人以上にはなるんだろうが、名人ぞろいのようだ。

 

「砲弾の消費が8割を超えています。ウルドまでまだ4.5kmありますよ」

「それだけ西に広がったと言う事だろうな。姉貴達もあん馬ってはいるようだけどね」


 一瞬、東の方向が明るくなった。直ぐに光が消えたところをみると、姉貴の【メルダム】というところだろう。【メルト】がいっぱいという姉貴の独自の魔法は使わなかったようだ。

 続いて、荷電粒子の球体が土塁の南側を通過して行った。サーシャちゃん達も頑張ってるな。


「津波は既に到達している。装甲列車が後退する際にウルドの西壁付近に気化爆弾を放ってくれないか?」

「了解しました。少しは数を減らせるでしょう。……あと数発で砲撃が終わります」

「速度が上がるぞ。いよいよ俺達の出番だ。予備のマガジンをベルトに差し込んでおけ!」


 俺の言葉が終わらない内に、装甲列車の速度が上がっていく。同時に線路際のグリードの密度も上がってくる。

 数分後には周囲全てがグリードになったが、装甲列車からの銃撃で装甲列車にたどり着くものはいても屋根にまで到達するものはいないようだ。

 ネコ族の兵士達がステンを左右に振りながら銃弾をばら撒いている。

 その中で、グレネードランチャーを持った8人が辺りにグレネードを放っているから、周囲至る所からグレネード弾の炸裂音が聞こえてくる。

 俺とディーで投げる爆裂球もかなりの成果を出しているようだ。近くを俺が遠くをディーが担当してるけど、ディーの投げる爆裂球は強化型だから威力も高い。


「マガジン残り2個です!」

「ディー、後退を連絡してくれ!」


 直ぐに西に向かって装甲列車が動きだした。

 ディーが片腕を伸ばすと腕が千切れるようにして何かが飛んでいく。直ぐに紅蓮の炎が周辺に広がった。

 あれだけでもかなりの威力なんだが、一か月に1回だけだからな。使いどころが難しい兵器だ。


 ステンの銃弾を撃ち尽くしたのか、俺達を追ってくるグリードに浴びせかける銃弾はウインチェスターによる単発的な攻撃だ。

 ディーが下に下りて行くと、デッキから斜め後方にレールガンを放っている。

 ウルドから10km程離れるとすでに俺達を追うグリードはいなくなった。ほっと一息ついたところで、点呼を取って怪我人がいないかを確認する。


「どうにか凌ぎましたね。私達の攻撃はどれほど成果を上げたんでしょうか?」

「5千以上1万未満と言いうところだろう。何度も反復攻撃を加えて倒す数を増やさねばならない。後退するときは爆裂球が良いな。1人3個ほど持たせて欲しい」

「了解です。下のデッキの連中にも持たせておきます」


 俺達以外にも爆裂球を使った者がいたんだが、あれはたまたま持っていたのを投げたんだろうな。爆裂球では線路を破壊できないからもっと多用しても良いのかも知れない。


 3時間おきに装甲列車の攻撃が行われる。そのたびごとにグリードと遭遇する位置が西に伸びているのが分る。

 このままだといずれ2時間沖の攻撃に変化しそうな感じだな。

 装甲列車の砲列は常に運河の南を砲撃している。線路から北は、爆撃を終えたイオンクラフトが地上を機銃で掃射しているだけのようだ。

 姉貴達はウルドの状況を伝えて来ないけど、かなり厳しい状態であることは確かだな。

 仮想スクリーンで見る限り、たびたびバジュラの荷電粒子砲で壁に取り付いたバジュラを薙ぎ払っているのが見える。

 通常なら落城してもおかしくない状況だけど、飛行船による補給と爆撃が功をなしているようだ。

 アテーナイ様も存分に戦闘を楽しんでいるんじゃないかな? それで満足してくれるなら俺としてもありがたいんだけどね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ