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R-112 津波がやって来た


 装甲列車がウルド砦の西10kmまで前進して、南東方向に継続射撃を始めた。30秒に1発だから1時間程で砲弾を撃ち尽くすと、西に向かって集積された砲弾を搭載する。貨車にも砲弾を詰め込んだから、1門あたり200発は撃てるんじゃないかな。

 ディーも射撃を終えて帰ってきた。改めてグリードの数を眺めると2万程度増えている。

 姉貴達も懸命に数を減らしているのだが、続々とやって来るグリードの数がそれだけ多いと言う事になるんだろう。

 仮想スクリーンをもう1枚開いてグリードの数と時間との関係をグラフ化してみると、明らかに攻撃を始める前よりは増え方の傾きが鈍くはなっている。


「きりがありませんね」

「きりはある意味、見えているんだ。ユング達の殺虫剤攻撃でこの部分から後ろが進軍して行ないだろう。こいつ等が今のところは最後になるんだろうけど、ここまでの数を合わせると数千万というところじゃないか」

「概算で7千万です。問題は後続の進軍速度が上がっている事です」


 細い流れがどんどん膨らんでいるのが分る。現状で数百万というところだろう。ウルドに来た時には軽く3千万を超えるだろう。グリードの洪水みたいなものだ。いや、津波と表現すべきかも知れない。


「とはいえ、現状で出来る限りのことをするだけです。なるべくウルドにグリードを釘付けにする事、場合によっては装甲列車を囮にして北への進軍を阻止する事。この2つの使命をこなせば、後はミズキ殿が何とかしてくれるでしょう」


 楽観的な考え方はネコ族固有のものかも知れないな。何となくミケランさんを思い出す考え方だ。

 とはいえ、間違いではない。北に移動させなければ良いのだ。場合によっては囲まれることになるかも知れないけど、装甲列車の移動速度はグリードよりも速いからね。

 

 1時間程東に移動すると、遠くにウルドの石壁が見えて来た。

 仮想スクリーンでグリードの群れの方向と距離を正確に割り出し再び6門の短砲身砲が砲弾を対岸に放っていく。

 

「ウルドからの通信です。『砲撃を継続せよ。砲弾を西の集積所に移動する』以上です」

「了解したと伝えてくれ。やはり可能な限り数を減らす事と、西への移動を食い止める考えらしい」

 

 レムリアさんが大型飛行船による爆撃の様子を食い入るように見ているから、俺が答えておいた。

 さすがに大型飛行船の積載量10tは伊達ではないな。50個ほどのナパーム弾がグリードの進軍ルートを3km程の長さで火炎が包み込む。

 

「ゾッとする光景ですね」

「ああ、殲滅兵器だからね。あまり使いたくは無かったけど、数を減らすためには手段を選べなかったのも事実だ」


 グリードが遺伝子改造を受けて凶暴化しなければ、そのままで暮らせたかも知れない。タグはこちらが攻撃しない限り自らのテリトリーを出ることはないからね。

 だが、シャイタンは遺伝子改造でグリードを凶悪な怪物に変えてしまった。俺達との共存は今では不可能になってしまったようだ。


「もうすぐ、予定地点です。到着次第、砲撃を開始します」

「お願いするわ。観測員を念のために定位置に付かせて頂戴。すでにウルド攻撃は始まっているようなものよ。いつヨルムンガンドを渡ってくるグリードがいないとも限らないわ」


 確かにその危険はあるな。さらにもう1枚の仮想スクリーンを開いて動体反応センサーで周囲を探る。これで見落すことは無いだろう。

 ディーの作ってくれたコーヒーを飲む。あまり睡眠時間が取れないのが問題だな。今の内にレムリアさんと交替で仮眠を取っておくか。


 先にレムリアさんに仮眠を取らせる。数時間は眠らせてあげたいところだ。しばらくは東西に移動しての砲撃だから問題は無いだろう。


「もうすぐ日が暮れます。私が射撃をした時に比べてやはり西に広がっているようです」

「それだけ後続がやってきてるんだろうな。ところで、津波の到来は何時頃になる?」

「35時間後です。一気に2倍以上に群れが膨らむでしょう」


 イオンクラフトが爆撃をしてるんだけど、爆弾の積載量が少ないからな。元々が突出した部隊を潰すための戦術兵器だから仕方がないのかもしれない。現時点では大型飛行船の編隊が欲しいところだ。


「ミズキ様から個別通信が入りました。装甲列車の弾薬補給時にイオンクラフトで西を叩いてくれるそうです」

「その間は長距離砲を使うんだろうが、今でも継続射撃中だ。ウルドの南壁にグリードが取り付くのは津波以前の問題だな」


 俺達の攻撃はおよそ3時間おきに1時間程継続する形だ。もう1両大砲を積んだ車両を連結したいところだが、現状では仕方がない。それでも75mmの榴散弾はそれなり効果がある。

 一斉砲撃で数十m四方を殲滅できるのだが、直ぐにグリードに埋め尽くされてしまう。

 100回近い砲撃で葬れるグリードの数は数千に届くだろう。だが、仮想スクリーンでそれを数字で知ることができない。

 次々と殺到するグリードの数があまりにも多いのだ。

 たまに2桁目の数字が動く時があるのだが、それは大型飛行船による大規模な爆撃が行われた時ぐらいだ。


「津波到達まで10時間を切りました」

「なら、この状態で待機しよう。皆疲れている。数時間の睡眠が必要だ」


 ディーと通信兵の2人を残して、装甲列車をウルドの手前20km付近で停車させた。ディーに見張りを頼んで俺も指揮所の片隅で毛布に包まった。

 次に眠ることができるのはいつなんだろう……。


 がやがやと騒がしい話声で目が覚めた。

 壁の時計を見ると、6時間程寝てしまったようだ。頬を叩きながら起き上がると従兵がコーヒーのカップを渡してくれた。


「状況は?」

「津波到達まで3時間程です。時刻は15時ですから夕暮れ時になりそうです」

「なら、ディー。西からレールガンを放ってくれ。数発は放てるだろう。少しでも減らす事が大事だ」

「了解です」

 直ぐにディーが出て行った。

 なるほど、これで一気に3倍以上に膨れ上がりそうだ。

 ウルドの砲列も砲撃間隔を落している。砲身の冷却を行っているのだろう。


「砲弾は規定数の5割増しで積み込んであります。兵士達の銃弾も2会戦分持たせましたから、これで時間を待ちますか?」

「ウルドの手前10kmで対岸を継続射撃。その後は突っ込んでみるか?」

「射撃開始は?」

「ヨルムンガンドをグリードの群れが越えた時だ。砲撃はレムリアに一任する。俺は後列で指揮を執るよ」

「突っ込む時には連絡をお願いします。それと無理はしないでください。連合王国の重鎮を失う訳にはいきません」


 あれだけ鉄柵で囲まれてるんだから、そう簡単に破られたりすることは無いだろう。

 簡単なサンドイッチを頂いて、車両の後部に向かって歩いて行く。貨車にもたくさんの弾薬箱が積まれている。それを乗り越えながら後ろのデッキに急いだ。

 デッキには分隊長のトリスさんが数人の部下と周囲を警戒していた。ポンと彼の肩を叩いて帰ってきたことを教えとく。


「戻られましたか。前と変わった点は、ステンという銃が4丁増えました。MP-6の簡易版と言う事ですから少しは期待できます」

「屋根はどうなってる?」

「2両の屋根を丸太を並べて連結しましたが、かなり揺れますよ。移動はこの車両の前方の上部ハッチからになります。1個分隊がグレネードランチャーを持って上がっています」

「となると、俺も上にいた方が良いだろうな。ここはトリスに任せる。連続射撃をすれば銃身が過熱するぞ。上手く兵を交替させて凌いでくれ」


 トリスの答礼を受けて、再び貨車の中に戻ると、屋根のハッチを開いて貨車の屋根に上った。なるほどちょっとした陣地が屋根の上にできている。

 丸太を横に並べた簡単な床に、前と左右を丸太3段重ねの壁を作っただけだが、地上から3m以上の高さだから、そう簡単にここまで上ってはこれないだろう。危なくなれば直ぐに貨車に引き揚げさせれば良い。


「アキト殿ではないですか! ここはかなりきけんですよ」

 俺に気が付いて声を掛けてきた分隊長は、ミケランさんに良く似た女性だったが語尾に「にゃ」が付かないんだな。

「下よりもここなら動きやすい。下はトリスに任せたよ。ところで?」

「ここの守備を任されたマカーニです。全員がステンを持ちグレネードランチャーを装備してます」

「弾薬は十分なのかい?」

「グレネード弾を各自10発と30連マガジンが4個を持っています。弾薬箱にはグレネード弾50発にマガジンが30個です」

「爆裂球と俺のマガジンを運んでくれないかい。デッキにあるはずだ」


 直ぐに部下に指示を出して運んできてくれた。

 ここならデッキよりも周囲を見渡せるし、弾丸をばら撒くにも都合が良さそうだ。

 遠くに土煙が見えるのは、ディーが帰還してるのだろう。

 時計を見ると、あれから1時間程過ぎている。津波到着よりも攻撃開始は早まると見ているんだが、そろそろ大きな動きがあるのかな?


 仮想スクリーンを展開してウルド周辺を確認する。

 ヨルムンガンドにグリードが雪崩れ込んでいるようにも見えるな。自ら海中に飛び込んで仲間達の橋になろとしているんだろうか。


「射撃を終了しました。現時点でウルドより西方に10km程膨らんでいます」

「南に向けて射撃をしても十分と言う事か……」

 当然、レムリアさんも知っているだろう。砲撃は5時方向に行う事になりそうだ。

「指揮官から連絡です。5分後に砲撃をかいしするそうです」

「了解だ。デッキの連中にも教えといてくれ。始まるぞ!」


 ポケットから煙草を取り出して火を点けた。

 弾薬箱に腰を下ろすと、爆裂球をポケットに詰め込んでおく。予備のマガジンをベルトに1本差し込んで、背中のAK47を下しておく。ディーはAK47のスリングを肩に掛けて南南東を眺めていた。南の土塁が邪魔で運河もグリードも見えないけれど、ディーの睨む方向に大群が押し寄せてきたんだろう。



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