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R-110 装甲列車で西に向かう


 装甲列車の到着を待って砦の西門にディーと2人で待っていたのだが、新たな車両がいつの間にか線路に並んでいた。どうやら、複線を使って同時に2つの車列を組むことにしたようだ。俺も同じ事を考えていたんだよね。

 これで列車の短砲身砲は見掛け上2倍の12門になる。貨車は外側を分厚い板で覆っているようだ。内側は3mm程度の鉄板だから少しは耐えられるだろう。貨車が3両に砲車が3両を引く機関車はダラシッドによく似た形をしているのだが、強度を増すために外装は5mmの鉄板だから十分グリードの牙に耐えられるだろう。

 運転席は鉄板で1cm程のスリットが数個空いているだけになっている。貨車の接続部は何本もの鉄棒を溶接してあるから、相互の鉄棒が絡んで檻のようになっている。あれなら、人や荷物の移動も容易だろう。


「指揮官殿。もうすぐ戻ってきます。荷を積み込めば直ぐに出発できますよ」

「積めるだけ積んどけよ。それと食料と水は忘れずにな」


 ネコ族の男はレムリアの部下なんだろう。俺の言葉に綺麗な答礼をすると足早に去って行った。


「そう言えば、装甲列車には何人乗るんだ?」

「各車両に2個分隊ですから、3個小隊ですね。機関車の直ぐ後ろの貨物車が指揮車両のようです」

「ネコ族だとなると、ウインチェスターって事になるな。使うのは357マグナム弾より少し強力だとはいえ、有効射程は100mというところだろう。機関銃は?」

「各車両に2丁と聞いています。一応、班長にはMP-5が行き渡ったようです」


 1個小隊には班長が5人いる。15丁は連射ができると言う事になる。だが、ウインチェスターの弾よりも威力は少ないからあまり期待はできないか……。


「分隊ごとにグレネードランチャーも支給されていますから、それなりに対処は出来るでしょう。人が走る程度の速さで常に移動を繰り返せばグリードに取り囲まれる心配もさほどないのではないでしょうか?」

「一撃離脱ってことだな。たぶんそれしか無さそうだ」

 

 大砲でこちらに注意を向けさせ、後退しながら葬ることになるんだろう。そうなると線路の死骸の除去も考えなくちゃならない。


「ディー、こんな形に鉄板を加工できないか? 出きれば、レムリアさんが戻ったら直ぐに設置したい」

「鉄板を車両後尾に斜めに取り付けるんですね。直ぐに準備します」


 ラッセル車の変形だな。除雪じゃなくて、除死骸なのが風情が無い話だ。

 ネコ族の兵士達が次々と弾薬箱や食料を積み込んでいる。燃料は木炭らしい。食堂車はどこにあるんだろう?

 やがて、西門が開かれて装甲列車が入ってきた。

 ディーがラッセル板を取り付ける間に、レムリアさんと簡単な打ち合わせを行う。


「先頭の貨車が指揮所兼用です。そこで打ち合わせましょう」

「この列車は初めて乗るよ。出来れば仕様も教えて欲しい」


 レムリアさんの話では2時間の休憩で出発するらしい。今度は複線を2線とも使うから、両方の装甲列車を横に繋ぐ連結器も装着するらしい。

 面倒そうな話だが、2時間で出来るんだから、すでにその案は設計時点で考えられていたのだろう。

 貨車に小さなハシゴで乗り込むと、貨車の中は結構広そうだ。広軌基準でレール幅を決めていたのが幸いしたようだな。1両の長さは70D(21m)、横幅は12D(3.6m)もある。通路が外側(南側)についているのは、通路に銃眼が開いているからだろう。内側(北側)には窓もあるのだが、太い鉄の格子が網のようになっていた。これならグリードに破壊されることは無さそうだ。とは言っても、奥行きがあまりなさそうなんだが……。


「この奥が指揮所です。各車両の分隊長と連絡が取れますよ」


 外側の車両の長さと、内側の長さが合わなかったのはそのためだな。

 レムリアさんの後に付いて指揮所に入ると奥行きが5m程の部屋だった。1.5m四方のテーブルと、奥に無線機や電話機の組み込まれた戸棚があった。戸棚から50cm程テーブルが引き出されて2人の通信兵が座っていた。


「ここで指揮を執ってください。私が補助をします」

「どちらかというと、レムリアさんにそのまま指揮を任せたいな。俺は全体を見ていたい。装甲列車での戦闘はレムリアさんの方が慣れてるだろう?」


 俺の言葉に苦笑いを見せたところで、小さく頷いてくれた。

 これで俺はフリーって事になる。やはり戦闘現場に近いところで相手の動きを見ているべきだろう。


「最後尾までは各車両を通って行けば良いのかな?」

「そうです。ここで私達の戦いを見て欲しかったのですが……」

「俺とディーは最後尾のデッキに行くよ。俺達の銃は君達よりも強力だ」

「後部デッキには機関銃を2丁ずつ固定化しているんですが、アキト殿が指揮してくれるなら安心です。分隊長のトリスを使ってください。連絡をしておきます」


 お茶をご馳走になったところで、ディーに後部デッキを担当することを連絡しておく。ついでに爆裂球も用意して貰う事にした。後退しながら落して行くのもおもしろそうだ。

 扉がノックされ、1人の若い男が入ってきた。

 どうやら、彼がトリスらしい。10人の部下を率いる分隊長だ。

 彼の案内で列車を後部に移動していく。


 指揮車両の直ぐ後ろが砲車だ。75mm短砲身砲の砲塔が3個屋根に突き出している。両側の壁際には砲弾がずらりと積み上げられていた。一応固定されているようだから、内部で暴発は無さそうだな。

 その後ろは貨車と言う事だが、車両の半分が食堂車だ。残り半分は食料庫なんだろうな。その後ろ2両が外側(南側)に銃眼を持つ貨車だ。車両の内側(北側)は窓を隠すぐらいに弾薬箱が積まれている。

 最後尾の貨車の後ろはデッキが作られている。本来は景色を楽しむためなんだろうけど、今は親指よりも太い鉄棒が周囲を囲んでいるから檻の中にいるような感じがするな。鉄棒の隙間から機関銃の銃身が顔を出しているが、左右30度も振れないんじゃないか?

 やはり2つのデッキに4丁の機関銃と4丁のMP-5。残りの兵士はウインチェスターということだからなぁ……。


 デッキの扉近くにあるベンチに腰を下ろして出発の時を待つ。

 急に扉が開いてディーがデッキに入ってきた。魔法の袋を取り出すと、AK47のマガジンが入った木箱を2つ、ベンチの下に置く。

 その後に爆裂球が入った帆布性のショルダーバックを車両側の壁に付いていたランプ用のフックに引っ掛けた。


「マガジンが40個。爆裂球は50個です」

「少なくなればキャルミラさんに運んで貰おう。とりあえず、ディーもここで対応してくれ。装甲列車の指揮はレムリアさんに任せた」

「了解です。ラッセル板の装着は終了です。これで突撃しても良さそうですね」


 その手があったか……。まぁ、作戦の一つとして考えておこう。

 トリスに断って、タバコに火を点ける。そろそろ装甲列車が出発しそうだ。


 携帯灰皿に吸殻を投げ込もうとした時、トリスの部下が装甲列車の出発を告げにやって来た。

 直ぐにガタン! と車両が揺れるとゆっくりとした動きで装甲列車が動き出した。

 何となく嬉しくなってしまう。

 列車のデッキで旅を楽しむ感じがするからだろうか……。


 ゆっくりと速度が上がる。とは言っても左右も車両の速度が合わないと脱線しそうだから、いまだに人が走った方が早いぐらいに感じてしまう。

 城門を過ぎると、西の門がゆっくりと閉じていくのが見える。あの扉を再びくぐるのは、かなり先になりそうだ。


「グリードの群れはどんな感じだ?」

「続々とやって来てます。先ほどまでバジュラが西に移動しようとするグリードを攻撃していました」

 俺達が出発する時間を稼いでくれたと言う事かな? 後で色々と言われそうだな。

「爆撃は?」

「50km先をイオンクラフト部隊が、その先を小型飛行船で行っています。弾種はナパーム弾を使ったようです」


 やはり数を減らすことが第一と言う事か。ユング達がっ早いところ殺虫剤を撒いてくれれば良いのだが。

 周囲の状況は仮想スクリーンで確認しなくともディーが状況を教えてくれる。今のところはヨルムンガンドの渡河に成功した個体はいないようだ。

 目の前に大きな砦があるから、グリードの渡河が砦を目指して行われているからなんだろうな。

 さらに個体数が増加した時には西側でも渡河が行われるはずだ。俺達はそんなグリードの相手をすることになる。


 2時間が過ぎると、ウルドの砦が見えなくなる。

 すでにウルドから西に30km程離れたらしい。ウルドの105mm砲の最大飛距離を離れていれば問題は無いだろう。段々と装甲列車の速度が遅くなった。

 この辺りで、待機すると言う事になるんだろうな。


「レムリア殿がコーヒーが出来たと言っております」

 デッキの扉が開かれトリスが教えてくれた。デッキの直ぐ後ろには通信室があるのが良い感じだ。

 後をディーに任せてコーヒーを頂こう。貨車に入ると前列に向かって歩き出した。

 各車両の兵士達ものんびりとお茶やコーヒーを楽しんでいる。列車内が暑いのか天井のハッチが開いていた。この辺りは平原だけど東風が吹いているから車内に熱がこもることは無いらしい。



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