表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/157

R-109 ウルドに集結


 今日だけで、どれだけ数を減らせるかが重要になりそうだな。

 通信兵が無線機を並べた木箱の隅に、小さく仮想スクリーンを展開して通信兵に全体の状況を見て貰う事にする。


「この右上の数字がグリードの数だ。1桁が千だから、今の総数は500万を超えている。この数字に注意してくれ。少しずつでも減れば良いが、増えるようなら教えて欲しい。数字を見るのは10分後とでいいぞ!」

 通信機には簡単な時計が付いているから、それを見比べればいいだろう。


 AK47を肩に担いだまま、コーヒーを飲む。砂糖をあまり入れていないようだから、苦みが強い。それでも頭が段々とはっきりして来るのが分かる。

 飲み終えたカップを従兵に渡したところで、擁壁に肘をつき双眼鏡でグリードの状況を眺める。


 かなり興奮しているようで、顎をガチガチと鳴らしているようだ。

 全体を制御できるわけでもないのに、いつもよりも積極的に行動しているようにも思える。

 港の方に目を向けると、大型の盾に身を寄せて、ハンター達が狙いを定めている。カニがいつもより多いとアルトさんが言ってたから、カニを相手に防戦をしているに違いない。


「西から数発撃ってきましょうか?」

「そうだな。あまり接近はするなよ。あれだけいるとなると、1発で数百は倒せそうだ」


 ディーが、見張り台からダイブするように地上に降りて西に向かって行く。すでに日が昇っているから、ディーの攻撃は数発以上行けそうだ。

 イオンクラフトによる攻撃は、ディーの攻撃が終わってからでも十分だろう。

 

 タバコを取りだして状況を見守りながら楽しんでいると、通信兵が後ろから大声を上げる。

「ユング殿から緊急連絡。グリードがあふれ出したと伝えて来てます!」

 

 急いで仮想スクリーンを開いて南方のジャングル地帯を眺める。

 まるで赤黒い津波のように見える。10km程北に進むと、北東に向きを変えるのは何時もの事だ。だが、今までとは横幅が違い過ぎる。10倍以上あるんじゃないか? あれがここまで来たら、1日で数十万単位で群れが膨らみそうだ。


「ベルダンディから美月殿がやって来るそうです。スクルドからはサーシャ様達がすでにこちらに向かってます」

「ディーを呼び寄せてくれ。現状に変化が無ければイオンクラフトの攻撃は中断だ。アルトさんとキャルミラさんも呼んでほしいな。1時間後に指揮所に集合だ」


 姉貴も危機的と見ているのかな? サーシャちゃん達はおもしろそうだと言う事だろうが、ユングもここに寄るかもしれないな。

 従兵と通信兵を引き連れて指揮所に移動する。早く行かないと、アルトさん達は駆け足でやって来そうだからな。


 砦の北側にある指揮所の扉を開けると、案の定、アルトさん達がすでにテーブルに着いている。仮想スクリーンを壁一面に拡大して状況を眺めていた。


「遅かったのう……。これは、ちょっと問題じゃな。ミズキがどんな作戦を立てるか楽しみじゃ」

「森が溢れたとユングが言ってたよ。正しく、そんな眺めだな」

「戦は数じゃと、誰かが言っておったぞ。あの数の前には、我等の兵器等役に立つとは思えぬ」


 グリードに驚いて、いつものように俺に対する文句は出ないようだ。確かにとんでもない数だけど、グリード自体は、アルトさんの持っているM57の38口径弾でも十分に倒せるんだよな。

 俺達の銃で問題があるのは、連射できない事と長時間の射撃ができない事それに、銃弾に限りあることなんだが……。


「小型飛行船が弾薬をミーミルから運んでいるようです。ウルド到着は2時間後を予定!」

「了解した。ミーミルの在庫を全て運ぶつもりだろう。砦の倉庫と合わせて常に弾薬量を管理できるようにしておいてくれ」


 何よりの知らせだ。先ずは銃弾だからね。

 それよりも、ウルドの南に集結しているグリードが3倍以上になったらどんな戦になるんだろう?

 ヨルムンガンドで食い止めることは不可能だ。ウルドを取り巻くとなると、今からそれに対応できるようにしておかねばならないだろう。使えそうなのは、装甲列車になりそうだ。そのまま西に動かせば可動式の塀としても使えるのだが、装甲部分は大砲を積んだ貨車と指揮用の貨車、それに弾薬運搬車だけだからな。

 

 お茶の用意を従兵に頼むと、姉貴達の到着をタバコを楽しみながら待つことにした。

 俺の能力を超えるような状況なら、素直に姉貴に任せといた方が安心できる。

 通路に足音が聞えたと思ったら、扉が乱暴に開いて嬢ちゃんずがやって来た。


「凄い数じゃのう。こっちの方がおもしろそうじゃ!」

 サーシャちゃんの言葉に、ミーアちゃんとリムちゃんが頷いている。背中にMP-5を背負ってるから、このままどこにでも行けそうな感じだな。


「遅くなりました。11檄を放ったところで帰還しました」


 ディーが従兵にお茶を出すように耳打ちしている。嬢ちゃんずは、すでにテーブルに座ってるんだが、何も言わないところをみると姉貴の到着を待っているのだろう。

 扉が開くたびに皆の視線が移動する。今度はアルトさんとキャルミラさんだった。


「サーシャ達もやって来たのじゃな。バジュラの働きどころじゃぞ!」

「それは、こっちにやって来る時に少し数を減らしてきたのじゃ。だが、さすがにグリードじゃな。あれほどの攻撃では目立った変化はない」


 あの荷電粒子砲を放ちながらやって来たのか? ディーのレールガンがオモチャに見える兵器なんだが、それでも目立った変化が無いということは、空いた穴を直ぐに他のグリードが塞いでしまったと言う事に他ならない。


 お茶を飲みながら待っていると、また扉が開いた。今度はユング達だ。爆撃を終えて最大船速で飛行船を飛ばして来たんだろう。


「おもしろくなってきたな。だが、美月さんは逃げろとは言ってないんだろう?」

「ベルダンディから移動している。もうすぐ着くとは思うんだが」

「一応、腹案を持ってきた。だが、採用されるかどうか……」

「DDTだろう? 俺も最初に考えたのはそれだ」


 ユングが苦笑いをしながらタバコに火を点けた。

 確かに一案なんだが、後々を考えるとね……。製造を依頼してもバビロンが難色を示しそうだ。


「ダメなら、気化爆弾に大型集束爆弾ぐらいだな。とはいえ直ぐに作れるものでもない。短時間で一番効果があるのがDDTなんだよな」

「そのDDTとはなんじゃ?」

「強力な殺虫剤なんだが、多用すると虫以外にも害が及ぶ。毒ガスと同じような代物だ」


 毒は知っているけど、ガス状の毒を出す獣や魔物はいなかったからな。嬢ちゃんずが知らないのも無理はないんだが、俺の言葉に考え込んでるぞ。

 3人でぼそぼそ話している中に、アルトさんまでが入って行く。早く姉貴が来ないと、変な作戦を提案しそうな雰囲気が濃厚だ。


 数本目のタバコに火を点けようとした時、指揮所の扉が開いてようやく姉貴達がやって来た。御后様とラミィまでも一緒だ。


「お待たせ。だいぶ増えたよね。でも、これが最大ってわけじゃないんだよね」

 俺達を落ち着かせるどころか、更に困惑を増してどうするんだ?

 俺の気持ちが分らないのか、笑みを浮かべて隣の席に腰を下ろした。


「どうするのじゃ? まだヨルムンガンドの工事は終わっておらぬ。このままではウルドを蹂躙されるのは目に見えておる。ウルド陥落の後には西に移動して北大陸に一気に広がるじゃろう」


 俺達の思いを代表するようにアルトさんが姉貴に問いかける。

 10人以上の目が集まっても姉貴はどこ吹く風だ。笑みを絶やさずに大きく広げた仮想スクリーンを眺めている。


「烏合の衆なら問題が無いんだけど、ある程度意思を持っていると見るべきでしょうね。その意思が示すのはウルドなのかウルドの北なのか……」

「相手は大きなアリだよ。意思があるとは思えないけどな」

「たぶんフェロモンを媒体とした集合意思なんでしょうね。でも、その意思は食を求めているだけのようにも思えるわ」


 個の意思ではなく、全体として意思を持つのか? それも空腹を満たす要求だけに向けられていると?


「そんな風に思えるの。となれば、誘導は可能なんでしょうけど……」

 途中で言葉を閉ざす。その先は、俺でも分かる。どこに誘導するかと言う事だ。そもそも誘導先として選んだのがウルドだからな。


「消極的じゃな。やはり大量殺戮を考えねばなるまい。ユング達はDDTを提唱しようとしておるぞ」

「それは、私も考えたわ。バビロンも現状を見て、やむなしとの結論を出してくれた。でも完成するには3日掛かるし、生産量も5tと言う事で妥協させられたわ。これはユングに任せることになるけど良いかしら? 攻撃目標は、この辺りになるけど……」

「ジャングルの北西部だな。5tは少ないように思えるが、無いよりはましだ。残留するから長期にわたって効果が期待できるのも良い」


「後は任せたぞ!」と言って、今度はラミィも連れて行く。

 ユングは後続の遮断を請け負ったと考えるべきだな。今から出掛けて行けば、1週間後には戻ってくるはずだ。目の前の状況にはあまり意味をなさないが、長期化した場合には十分に役立つ作戦だ。


「ウルドの守りは今のままで十分でしょう。問題は西側で運河を渡るグリードだけど、これは装甲列車で対処しましょう。前後に起動車を付ければ、10両を間に入れて走れるでしょう。弾薬車両を複線に走らせれば長期に渡って攻撃を加えられるわ。これはアキトにお願い。ディーと頑張って頂戴」


 現在の装甲列車の指揮官はレムリアさんだったな。一度、ウルドに戻るようにディーに連絡を頼んだ。

 どうやら、戻ってくる途中らしい。3時間も掛からずにウルドに戻れるとディーが教えてくれた。


「次にアルトさんだけど、2個中隊を率いてこの辺りに待機して欲しいの……」

「抜けるグリードの殲滅じゃな。良かろう。何か注意することはあるのか?」

「AK47ではなく、リボルバーを使ってちょうだい。AK47は魔法の袋に入れておけば良いわ」

「接近戦というわけじゃな。亀兵隊の本領じゃ。任せるが良い」


 そう言って指揮所を出て行ったけど、待機している中隊を使うのかな?

 

「キャルミラさんは、これまで通りイオンクラフトの指揮を頼みます。アルトさん達が離れた場所で野営をしますから、補給の方もよろしくお願いします」

「小型飛行船を1隻使うぞ。イオンクラフトでは荷を運べぬ。アキトの方の補給も任せるが良い」


 タバコを咥えたままでそんな事を言うから、ファンタジーな光景に映るな。

 さて、残ったのは姉貴と御后様になる。


「私と御后様でウルドを死守します。ベルダンディとスクルド間の運河はもう少しで完成するわ。後はスクルドから東だけど、運河工事は継続して行います」


 俺達がこっちでグリードを引きつけておけば、工事は安心して行えると言う事だろう。そのためにもグリードの西進だけは防がねばならない。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ