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R-107 運河の南の大群


 夕暮れが終わって周囲が暗くなる。

 ヨルムンガンドの運河の南はイオンクラフト部隊が投下した焼夷弾で空が赤く染まっている。

 そんな炎がここからでも見えるようだからかなり接近して来たに違いない。


「南岸まで15kmというところでしょうか? イオンクラフト部隊は東の海上に抜けて後方より砦に到達する模様です」

「そろそろアルトさん達の砲撃が始まりそうだな。今夜は上弦の月だから、月が傾いて来たら照明球を出すように南の城壁に展開している小隊長に伝えてくれ」


 照明球はある程度任意の場所に移動できるのだが、それでも50m程度前方に移動できるだけだ。城壁沿いに10個も運河の上に並べれば、渡って来るグリードの狙撃には不自由しないだろう。


 短くなったタバコを携帯灰皿に入れて、改めて1本を口に咥える。手元のAK47には30連マガジンが入っているし、装備ベルトの弾薬ポーチには4個の予備がある。ディーも似たような装備だ。戦闘用ブーメランまで背負っているのは白兵戦用と言う事になるんだろうな。


 不意に、砲撃が始まった。

 長砲身の長距離砲から始まったようだ。1時間に12発。20門の砲身から105mm砲弾が飛び出していくのだ。

 

「群れは2km程の幅ですね。散布界を広く取って砲撃しているようです」

「問題は短距離砲の方だ。75mmの榴散弾だから近場を刈り取ることになるんだろうが、相手が相手だからな」


 短距離砲は1時間当たり15から20発を発射できる。それだけ弾薬消費が激しいが威力はある。20門に増設された短距離砲がウルドの守りの要になるんだろうな。


 甲高い砲声が加わった。

 いよいよ短距離砲までも使われたとなると南岸に群がるグリードの群れに合流したと言う事になるんだろう。


「南岸のグリード数がどんどん増えて行きます。現在80万……、90万に達しました」


 心なし南岸が動いて見える。

 それだけ増えたと言う事になるんだろうな。


「西には向かっていないのか?」

「現段階では動きはありません。ウルド南岸の群れがどんどん膨らんでいます。すでに100万を超えました」


「イオンクラフト部隊に出撃準備を指示。使用爆弾は焼夷弾のみ。以上だ!」

 

 後ろに待機している通信兵に怒鳴るように伝えると、見張り台の擁壁に両手を付いて南岸を眺める。

 やはり夜は動きが見えないな。

 

「ディー、運河を渡るような行動が見られたら教えてくれ。運河を照明球で照らす」

「了解です。……あれだけ叩かれても動きませんね。何かを待ってるんでしょうか?」


 それほど知恵があるとも思えない。

 単純に何かを待ってるんじゃないかな。それは……、まさか群れが膨らむのを待ってるのか?

 数百万のグリードが一斉に運河を越えようとしたら阻止することは不可能だろうな。

 運河を越えてウルドを囲んでくれれば良いのだが、北上するような事が起これば、討伐部隊を新たに編成しなければならない。

 どうにかヨルムンガンドの北側に俺達派遣軍が展開している状況だから、討伐隊となるべき部隊は無いのが現状だ。


「ユング様から連絡です。『北上するグリードを爆撃する。頑張れよ!』との事です」

「礼を伝えてくれ。1t以上はばら撒いてくれたに違いない。ユング達の任務はウルドに向かうグリードへの爆撃と南のジャングルを焼く事だから、本来の任務の範囲内なんだろうが、近い場所の爆撃なら俺達への脅威が少しは減るからな」


 実際には、時間の問題なんだろう。直ぐに影響が出るかどうかの違いになるはずだ。


「南の壁から連絡です。『南岸をグレネードで攻撃する』以上です」

「3発撃って様子を見るように伝えてくれ。到達距離がぎりぎりだからね」


 俺の言葉が終わらない内に、城壁からの攻撃が始まった。

 50丁を越えるグレネード弾が放たれると、南岸を少し超えた辺りで着弾の炎が上がるのが良く見える。

 精々、岸から50m程の場所だからどんな具合かが良く見えないな。

 少なからぬ損害は与えたんだろうが、ディーが何も言っていないところを見ると数百にも満たない数って事になるんだろう。


 2時間程の砲撃が続くと、長距離砲の砲声がぴたりと止んだ。

 砲身冷却と、砲弾の運び込みを急いでいるに違いない。となると、次の砲撃が始まったところで今度は短距離砲が砲撃を一時停止することになりそうだ。

 時間は21時を回ったところだから、次の長距離砲が止まった時に爆撃を始めることになりそうだな。

              ・

              ・

              ・


 23時に砲撃が止まる。

 イオンクラフト部隊とキャルミラさんが出撃してグリードにたっぷりと爆弾を落としているようだ。

 イオンクラフト下部に設けた4丁の機関銃で地上掃射を行ってくる手筈だが、1丁当たり30連のマガジン4つ分だ。それ程倒せるものでもないだろうが、やらないよりはマシって事だろうな。

 上空からの画像はグリードが熱を持たないことから、あまりはっきりしない画像が届いている。

 推定したグリードの群れの大きさと数はどんどんと大きくなっていく。砲撃と爆撃が行われないならばいったいどれ位になっていたんだろう。

 一斉に侵攻されたらスクルド砦並みの激戦になりそうだ。


 翌日は、砲声で目が覚めた。時計を見ると7時を回っているから、だいぶ寝ていた感じだな。

 見張り台に上って、南を眺める。

 ツアイスの双眼鏡が運河越しに捕えたグリードの群れは、俺の良く知るグリードだ。

 群れの奥は見通せないけど、どこまでも赤黒く群れが広がっているのが見える。

 数分間隔で砲弾が群れの中で炸裂する。榴散弾がグリードの頭上で炸裂しているのも見て取れた。

 見張り台で簡単な食事を取っていると、ディーが帰って来た。

 アルトさん達の状況を見て来たんだろう。

 食事を終えて、コーヒーを飲み始めたところでディーの報告が始まった。


「ヨルムンガンドの南岸に集結したグリードは400万を超えています。砲撃は1時間継続で1時間中断。10門ずつに分けて攻撃を継続中。イオンクラフト部隊は4機を残して午前、午後に爆撃を行う予定です。深夜の爆撃は爆弾を使わずに爆裂球を使用するそうです」


 スクルドと同じ感じだな。

 大きな違いはウルドの南にある向こう岸まで300mを超える運河があるか否かだ。だが、この運河の存在は良いようで問題もある。

 グリードが運河沿いに西に向かう事は何としても避けたいんだが、こればっかりはなるようにしかならないだろうな。

 

「運河を渡ろうとするグリードは少ないのか?」

「合流前よりは2割ほど増えていますが、大きく変わってはいません」


 それが問題だな。

 出来れば運河を大群で渡って来て欲しいものだ。海上を渡る速度は極めて遅いから、小銃で狙い撃ちが出来るんだが……。


「それで、最終的にはどれ位に膨れそうなんだ?」

「サンドワームの営巣地に集結した部隊がこちらに来ることから、現時点より300万は増えそうです。爆撃と砲撃は継続していますから、夕暮れまでに増える総数は100万程度と推定します」


 ピークは数日と言う事なんだろうな。

 その間に西進を行わないようにすれば良いだろう。ここにはグリードの餌が無い。じっとしていれば飢えて共食いを始めるに違いない。俺達の任務は可能な限りウルドの南にグリードを留める事になる。

 

 タバコに火を点けて仮想スクリーンを開く。

 グリードの群れが南岸の20kmを埋め尽くしているように思える。散開している部分もあるが、ある程度の群れが幾つか集まっているようにも見える。

 ちょっとした仲間意識の有無が群れを集め、散らすのだろうか? その奥行きは精々10kmだ。短距離砲の榴散弾の良い獲物なんだろうが、大きな広がりの中で炸裂する砲弾は頼りなく見える。


 やはり爆弾を使う事で何とかしたいものだ。

 小型飛行船が西から爆弾を落としているようだが、西への阻止目的だからあまり効果は期待できそうにないな。

 装甲列車も盛んに砲弾を放っているようだ。とはいえ短砲身の105mm砲6門ではね。せめて10門を越えて砲撃を行いたいところだ。

 それでも、ウルドから20km程西に向かったところからグリードの西端を叩いてくれる。

 継続的な砲撃が西への進軍を躊躇させているのだとしたら、装甲列車の意味合いは大きなものになる。


「昨日よりも運河を渡るグリードの数が増えています」

 見張りが俺に振りかえることなく見たままの様子を伝えてくれる。


「昨日の2倍程でしょか? やはり北進を選んだようです」

「まあ、あれぐらいならグレネード弾の良い的になりそうだな。攻撃は各小隊長に判断を任せる。先ずは運河を越えさせない事、次に石壁に取り付かせない事だ」


 通信兵が忙しく電鍵を叩いている音が聞こえてくる。

 見張り台の後ろの擁壁に彼らのウインチェスターが立て掛けてあった。ネコ族だからAK47は射撃時の反動を押さえられないらしい。それでも、彼等の銃の腕は優秀だからいざとなれば頼りにさせて貰おう。


 俺がにこりと笑ったのを見て、若い通信兵がキョトンとした表情になっている。

 見張り台の連中にコーヒーを配るように従兵に伝えて、皆でコーヒーを飲みながら、南岸のうごめくグリードを眺めることにした。


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