表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/157

R-105 サンドワーム全滅


 300万を超えるグリードが一斉にサンドワームの営巣地に突入している。

 迎え撃つサンドワームでさえも1万を超えてはいるのだろう。だが、多勢に無勢の戦はすでに終わりが見えている。

 南西からのグリードの増援は1日で数万を超えるが、サンドワームの孵化は精々が数十というところだろう。それに孵化して間もないサンドワームは体長が数十cmだ。そもそも戦に加わることさえできないからな。


「それでも10日以上は掛かりそうじゃな」

「イオンクラフトで叩いてはおるが、こうなるとあまり意味を持たんぞ」


 指揮所に戻って日々を過ごしていた俺達だったが、ユングからの異変の知らせを受けて、朝から仮想スクリーンに見入ったままだ。

 アルトさんの言葉通り10日後にはウルドの戦が一変する可能性も出て来た。

 今まではそれ程苦もなくグリードを退けてきたが、いよいよ本格的な戦になりそうだな。

 ユングの話では、更に大陸南部にまでグリードの巣穴が広がっているらしい。

 益々、ウルドまでの道のりの途中でグリードを叩く必要性が高まってきたようにも思える。


「2か月後にはベルダンディとスクルド間の運河がかんせいするらしい。ベルダンディの戦闘工兵の一部をウルドに移動できるのではないか?」

「姉貴も、運河が繋がったら2個中隊を移動すると言っていました。とはいえ、ベルダンディはグリードの巣穴攻撃の最前線ですからね」


 どちらかというと、鉄道線路の完成を待っているんじゃないかな。それによってスクルドの兵力とベルダンディの兵力を融通し合う事が出来る。

 1個大隊の移動が1日半程度で可能になるのだ。それに装甲列車と列車砲は大きな威力を持つ事になるだろう。


「砲列も当初より増えておる。スクルドでさえどうにかしたのじゃ。ウルドであればそれ程困難とも思えん」

「問題は弾薬じゃ。現状での弾薬は5会戦分。スクルド並みの戦であれば3日も持たんぞ」

「とはいえ、現状での輸送ではそれ程増やせんじゃろう。切り崩すことになるであろうが果たして……」


 飛行船での弾薬輸送は一度に10tが良いところだ。砦の維持にも色々と資材が必要だから全て弾薬という訳にもいかないのが問題なんだよな。


・・・ ◇ ・・・


 サンドワーム達は20日以上頑張ってくれたようだ。

 1つの種が滅びたと言う事になるんだろうな。北大陸の中央部にも営巣地があると聞いたけれど、南のサンドワームとは少し違いもあるのだろう。

 一度滅びた世界で新たに生じた種はどれだけあるのだろうか? すでにどれだけの種が滅んで行ったのだろうか……。


「いよいよじゃな。サンドワームの営巣地に集合しておる数は2百万を超えておる。今までの進行方向は北と南にほぼ半数であったが……」

「最悪を想定すればいい。2百万がここに向かってくると考えていれば、後れを取ることは無い」


 口ではそう言ったけど、そんなに簡単な話ではない。

 この砦を守る連中は2個大隊に満たないからな。軍属の連中を含めてどうにか2個大隊というところか。1500人で2百万に対することになる。


「早期に爆撃を行うべきじゃろうな。爆裂球が2千個程送られておる。【メルト】と爆裂球で早めに数を減らすべきであろう」


 キャルミラさんの言う事はもっともなんだけど、生憎とイオンクラフトの航続距離がぎりぎりに近い。移動を開始してからの攻撃になってしまいそうだ。


「ウルドにも小型の飛行船があるぞ。現在は資材移動に使ってはいるが、あれを使っても良いのではないか?」


 そう言えば、ウルドの飛行船は大型と小型が1隻ずつだ。

 爆撃用に使っていた小型飛行船までもが、現在は資材輸送に使われてはいるのだが……。一度、爆撃を行っておくか。50kg爆弾が60個と搭載量が少ないが、ナパーム弾を30個程積み込んで残りは爆裂球を大量に落とせばそれなりに効果が出るだろう。


「強化爆裂球を100個程作ってくれ。それと、ナパーム弾を30個程落とせば良いだろう」

「なら、最初は我等が攻撃して来ようぞ。ウルドへ進軍するグリードの数が減るやも知れん」


 俺が頷くと、キャルミラさんを連れてアルトさんが指揮所を出て行った。

 明日には爆撃が行われるんだろうな。その結果を見て次の策を考えれば良い。更に小型の飛行船があればありがたいが、姉貴はこれ以上増やすことは考えて行ないようだ。

 待てよ……。ヨルムンガンドに堆積した砂泥を浚っている飛行船があったな。あれを使えば定期的な爆撃も可能じゃないか?

 堆積した砂泥の除去も大事だが、ウルドへグリードが大規模に進軍し始めたら、そんな事をやっている時間が取れそうもないだろう。


 仮想スクリーンに浚渫用飛行船の仕様を投影すると、10人近い乗船も可能だし、荷物も1t以上搭載可能なようだ。

 ゴンドラ後部の大型ハッチを開ければ、爆裂球の投下ぐらいは十分に出来る。地上50m程を巡行しながら攻撃すれば良いな。

 

 従兵を呼んで、明日の飛行船爆撃に浚渫用飛行船を同行させるよう、アルトさんに伝えて貰う。

 乗員の手配と爆裂球の改造もアルトさんに任せておけば良い。これで200個を超える強化爆裂球を落せるはずだ。


「とりあえずはそんなところかな?」

「私も、数発ならレールガンを撃てますが……」


 レールガンの水平射撃なら2km程グリードの身体を貫通していくだろう。左右1.5m程は衝撃波で切り刻まれそうだ。1激で数百を葬れるならやってみるべきだろう。


「明日の爆撃に同行してくれ。だけど群れにあまり近付かないようにな」

「了解です」


 嬉しそうな表情を見せてくれる。ひょっとして退屈してたのかな?

 となると、俺は何でストレスを発散すれば良いんだろう……、考えてしまうな。


 翌日はアルトさん達の爆撃の様子を指揮所に大きく仮想スクリーンを開いて眺めることにした。

 飛行船は最高速度でも時速200kmを超える事が出来ないから、爆撃開始は数時間ほど後になるだろう。

 今は200万匹を超えるグリードの群れが見えるだけだ。


 アリに対してトラウマを持つんじゃないかな? タグだってこれほどひどい戦にはならなかった。アルトさんを連れてt愚の巣穴に潜ったのがつい昨日のように脳裏に浮かぶ。グリードも女王アリを潰すのが一番だと思うのだが、あの数ではどうしようも無さそうだ。


 従兵が運んできてくれたコーヒーのカップを受け取って、タバコに火を点ける。

 別の仮想スクリーンを立ち上げて、2隻の飛行船の現在位置を確認してみると、いまだに半分にも達していない。やはり爆撃は午後の遅い時間になりそうだな。


 暇にまかせて、恒星船をバビロンの記憶槽で検索してみる。

 ユング任せという訳にもいかないだろうし、ユングの話を理解する上でもある程度勉強しておく必要もあるだろう。


 やはりある程度の概念は持っていたみたいだな。

 それにしても大きい。直径1kmで全長が5km近い代物だ。動力は核融合エンジンらしいが、宇宙空間から水素を取り入れてそれを使うらしい。

 理論的には光速の1割程度まで速度を上げられるらしいが、一番近い恒星でも数光年あると言う事だから、そこに到達するだけで数十年以上掛かるって事になる。


 それで問題になるのがユングの言う閉鎖空間の維持と言う事なんだろう。毎日水をコップ1杯失うだけでも、数トンの水が数十年では失われることになる。

 無駄を許容しろとは告げたが、チリも積もればの典型的な例になりそうだ。

 尚且つ、この恒星船の乗員は100人程度でしかない。


 種を維持するには10万人以上と言っていたから、これでは1千隻の恒星船を作ることになってしまう。作るだけでいったい何百年掛かるんだろう……。


 たぶん、ユングが考えている恒星船は、この形を踏襲するんだろうな。

 計算をするまでもなく呆然としたに違いない。

 となると、既存にこだわらずにと言う事になるのだが、恒星船に絶対に必要な物とは何なんだろう。

 先ずは、乗員を予定数の10倍に考えて、それに必要な資源を考えて行こう……。


 従兵が簡単な昼食を運んでくれた。

 どうやら昼を過ぎたらしい。俺のところに運んで来たという事は、全ての兵士に昼食が渡ったと言う事だ。12時というよりも13時を過ぎているのだが、これは仕方がないことだ。


 直ぐに食べ終えると、新しいコーヒーを飲みながら仮想スクリーンでアルトさん達の現在地を確認する。どうやら三分の二を超えているようだ。時計を確認して経過時間を逆算すると……、2時間後には始まりそうだな。


 それまで、ヨルムンガンドの様子を見て来よう。

 ジッと、仮想スクリーンで想像も出来ない資材のリストを見続けていたから、頭が重くなっている。

 俺の当座の役目はウルドを守ることでもあるのだ。

 先ずは、リアルの状況確認を行いながら、頭の中をすっきりさせねばなるまい。


 従兵に、ウルド城壁の回廊を歩いて来ると告げて、指揮所を出る。

 南の城壁まで真っ直ぐに中庭を横切ると、2段に並んだ短距離砲が砲声を上げ始めた。

 ヨルムンガンドの南には数十万のグリードが集まっているから、適当に撃っても当たるだろうが、砲兵はまじめなネコ族の連中だから散布界を地図上で動かしながら、最大の効果を上げられるように努力してるに違いない。


 砲列を大きく迂回して、城壁の回廊に上る階段を目指す。

 1個中隊が城壁の上に張り付いているはずだ。12時間交代で3個中隊がローテーションを行っているのだが、2百万を超えるグリードが押し寄せたら、全てを張り付かせねばなるまい。

 城壁の向こうにグリード達が亡き骸を足場にしないとも限らないから、集束爆裂球も作っておかねばならないな。

 スクルドの日々が段々と脳裏に浮かんで来る。

 また、あのいつ果てるともない戦が始まろうとしているのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ