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R-104 恒星船は大きくなる


 赤道に近い場所だから年中暑いのが問題ではある。季節感に乏しいのでいつの間にか戦が数年以上経過しているのに気が付かなかった。

 俺達は昔通りの身体でいるし、寿命という枠が存在しないのだから、経過時間をあまり気にしなくなっていたのかも知れない。

 それでも、一緒にやって来た亀兵隊達同士で結婚したり子供ができたりしているのを見ると、少し羨ましくも思える時がある。


 アルトさん達が、一時期サメがいなくなったと騒いでいたけど、数か月を過ぎたころに再び波間に背びれが見えるようになってきた。

 やはり集団的な種の行動なんだろう。

 おかげで、グリード達の集団で作る筏を攻撃してくれるから、かなり助かっていることも事実だ。敵の敵は味方とはこういう事なんだろうな。


「アキト、南に向かう群れがだいぶ少なくなっておるぞ。どちらかというと、サンドワームの営巣地を大きく取り囲むように行動しておる」


 仮想スクリーンの画像には、高い位置で俯瞰した画像が映し出されていた。

 直径100km近い営巣地を囲める数だけでも凄いと言わざるを得ないようだ。確かに取り囲んではいるが、取り囲むグリードの厚みは10m程度だろう。だがそれは総数で数百万匹となるんじゃないか?


「囲んではいるが厚みが無いな。もう少し厚みが出来れば爆撃が効果的なんだろけどね」

「奴ら後続を4分割にしていたようじゃな。南北への先行部隊、サンドワームと戦う部隊、それに営巣地を囲む部隊の4つの流れになるぞ」


 少しずつだが、サンドワーム攻略を行う部隊を増やしたと言う事か? 単なるアリとは思えないぐらいに知恵がある。

 

「そうなると、この取り囲んだ部隊を攻撃すればウルドへの総攻撃時期を遅らせられそうだな。距離が遠いから飛行船部隊になりそうだ」


 飛行船は資材輸送に忙しいけど、少しでも爆撃すれば遅らせることは可能に見える。

 それはユング達に任せれば良い。その内、またやって来るに違いない。


 バタン! と乱暴に見張り台の扉が開くと、通信兵が入ってきた。


「港から連絡です。カニの群れがまたやって来たと言っております!」

「ご苦労。ディー、少し面倒を見てやってくれないか?」

「了解です。行ってきます」


 ディーならば、いざとなればレールガンがあるからな。今は銃身を短くしたラティを使ってるんだが、あれを撃てるのはオートマタ達だけのようだ。トラ族の戦闘工兵達が試したんだが3発がやっとだった。かなりの反動を受けるのだが、ディー達はカービン銃のように使っている。


「このところ毎日じゃな。たまに、堤防にも上がって来ると聞いたぞ」

「ラティを乗せたトロッコを作った方が良いのかも知れませんね。機関銃で倒すのも骨が折れると言っていました」


「おもしろそうじゃな。ドワーフの工房を訪ねて作ってみるぞ。上手く行けば堤防の監視用にも使えそうじゃ」


 アルトさんが腰を上げて部屋を出て行く。

 固定したラティなら自分でも撃てるんじゃないか、と考えてるのが俺にも分かってしまうな。

 とはいえ、任せておけば良いものができるかも知れない。


 タバコに火を点けたところで、従兵にコーヒーを頼む。

 戦況に大きな変化はないが、今でも砲声が定期的に聞こえてくる。

 しばらくはこんな日々が続くのだろう。


・・・ ◇ ・・・


 1か月も過ぎたころに、ユングが姿を現した。

 ユングも退屈な任務をこなしているから、俺の顔でも見て油を売るつもりなんだろう。互いにコーヒーを楽しみながら情報交換を行う。


「南のサンドワームの営巣地の壊滅は時間の問題だろう。適当に爆弾を投下してはいるが、俺の本来の任務はグリードの巣穴周辺のジャングルの破壊だからな」

「かなり頑張ってるようだが、あまり更地が広がらないな。飛行船1隻の限界なんだろう」


「それもある。だが、熱帯雨林の回復力は想像以上だ。枯葉剤の使用は、美月さんが許可してくれそも無いし……」

「となると有効なのはナパーム弾と言う事になるのか?」


 ユングが苦笑いしながら頷いている。

 連合王国が生産する8割のナパーム弾をこちらに送っているらしいのだが、残り2割はテーバイの東に作られた堤防で使われているらしい。


「向こうは悪魔相手だからな。かなり効果的だと聞いたぞ。ナパーム弾を使用し始めてからは堤防の上に上がって来る悪魔は皆無になったらしい」


 案外早く堤防の方は決着が着くかも知れないな。

 すでに、悪魔軍の後続は無いから、東に展開している連中だけになっているはずだ。

 そうなると、堤防を守る軍の規模が縮小していくことも視野に入っているだろう。

 その分、連合王国の国力を伸ばすことが出来るわけだ。


「長い戦だったな。もっとも、根本的なところでは今でも戦が続いているけど……」

「完全に戦が終わるにはまだまだ時間が必要だろうが、数年経てば兵力の半減は可能だろう。終わりが見えて来たってことだな」


 とはいえ、この戦場ではまだまだ終わりが見えてこない。

 たぶん1千年以上続くんじゃないかな? グリードの短期殲滅が不可能であることを考えると、自滅を待つ外に手は無いのだろう。

 俺達は間接的な方法で自滅を早める手立てを考えるまでだ。

 ヨルムンガンドが完成したら、大型飛行船を使ったジャングル焼失に拍車がかかるに違いない。


「ところで、恒星船の概念は何とか出来たのか?」

「それが、中々上手く行かない。フラウの考えでは、閉鎖社会を構築することになるとの事だ。そうなると、食料や水、酸素までもがその中で循環することになる。かなり大きな船になるぞ。今、カラメル族の恒星船の仕様を開示して貰って概念をまとめてはいるんだが……」


 簡単ではないと言う事か……。姉貴が将来を考えるわけだな。かなり複雑なシステムを構築することになるんだろう。


「バビロンとユグドラシルは?」

「協力を約束してくれた。俺の概念が纏まり次第、設計を行ってくれる」


「何が一番問題なんだ?」

「ロスだな……。どうやっても、全てを循環させることはできない。どうしても少しずつ消耗するところがあるんだ。その対策に頭が痛いぞ」


 100%を回収できないと言う事なんだろうか? 入力と出力を等価に出来ないことは分り切った事だと思うけどな。


「ロスは許容すべきじゃないのか? もっとも大きなロスは潰すべきだろうが、100年単位でどれだけのロスなのかを見極めれば、予備を用意することで対処できるとおもうんだけどな」


 俺の言葉にユングが考え込んでる。

 その対応策にも問題があることは確かだ。恒星船で旅する時間だ。それが、予備をどんどん膨らませてく。


「う~ん……。難しくはあるな。だが、その考え方で行くしかないだろう。ところで、明人はどれ位の大きさの恒星船を想像してるんだ?」

「直径3kmぐらいかな?」


 急な問いに俺の想像できる大きさを即答したんだが、俺の答えにユングが笑っている。


「マスター。そんなに笑わなくとも……。マスターも最初は同じ数値でした」

「そうだったな。悪い悪い。やはり俺達は考えが似てるよ。だが、それだと千人も搭乗できないんだ。閉鎖型の環境は極めて収納効率が悪い。最初の計算結果に俺だって驚いたぐらいだからな」


 フラウの指摘で元に戻ったユングの話を聞いて、俺が驚く番だった。

 そんなに乗れないのか! だとしたら、この世界に住む人間を全て乗せるにはいったいどれ位の数が必要になるんだろう……。大きく作る手もあるが、そうなると資材の問題が出てくる。

 姉貴が、長期的だが解決すべき問題だというのはこれだったんだろうか?


「だが時間はたっぷりありそうだ。単調な戦だから俺としては歓迎すべき課題だな。明人も色々と考えてくれよ。ロスを認めるというのはありがたい指摘だ。早速、趣味レーションで確認してみるよ」


 コーヒーの礼を言って、ユング達は南に向かっていった。

 サンドワームの営巣地に集合しているグリードの群れに爆撃をしてからジャングルを焼きに行くんだろう。

 もう3隻飛行船があればかなり捗るんだろうが、大型飛行船は資材の運搬で大忙しだ。

 イオンクラフトの航続距離を伸ばして代替するぐらいしか、方法が無いのかもしれないな。

 とりあえず姉貴の宿題はユングに任せて、俺は目の前の状況を何とかしよう。


 相変わらず、グリード達は小さな筏を作って運河を渡ろうとしている。

 今では監視所から眺められる範囲で、数個の筏を見ることができるようになってきた。

 とはいえサメの活動も活発だから、運河の半分を過ぎまで渡れる筏はわずかだ。その後は南の城壁から放たれる銃弾でカニの餌になる。

 これぐらいなら、何とかなるんだけどな……。


 改めて仮想スクリーンを壁際に投影する。そこにはサンドワームの営巣地を囲むグリードの集団が映し出された。

 日を追って数が増えているように思える。すでに200万を超えているとディーが教えてくれた。

 サンドワームを駆逐したらグリードが向かうのは北か、それとも南になるのだろうか?

 姉貴の超長期的計画も大事なんだろうが、俺にとっては今が大事だ。

 あれから短距離砲と、長距離砲は数を増してはいるのだが、これだけの数を相手にするのはスクルド以来だからな。

 戦闘工兵の主力はスクルドだし、ウルドの戦闘工兵は運河作りに精を出している。サンドワームが駆逐された時がウルドでの運河工事の終着点になるのだろうか?

 残り1か月と考えてはいるのだが、果たしてその時がくるのは何時になるのか。


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