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R-102 水門を開け


「知ってたわよ。でも油断はしないでね」

「アリの習性だな。群の通った跡を追うんだ。フェロモンの道ができてるんだろうけど、それが途絶えた時には新たな道を探るべく先行部隊が四方に散って獲物を探すんだ」


 やはり姉貴達は知っていたようだ。

 何の指示も無かったところを見ると、予想の範囲で、しかも俺達のいるウルドにあまり影響がないと言う事なんだろう。


「やはり、サンドワームの営巣地で前進が止まったことが問題と言う事か?」

「本来なら放射状に先遣隊が出るんだが、目の前のサンドワームを取り囲むように移動しているな。それでも、数十kmの距離を置いて移動してるんだから、サンドワームは脅威と認識しているんだろう」


 後で南に下がった連中が一度に北上することが問題なように思えるが、ユングの話ではあまり心配はしないで良さそうだ。

 どうやら、巣穴から出たグリードは軍隊アリの性質を強く帯びるらしい。


「あまり深刻にならない方が良いぞ。向かってくるグリードが半減してると思えば良い。もっともサンドワームが全滅するとどうなるか分からないが、それまでにはヨルムンガンドが完成しているはずだ」

「そうだな。おかげでウルドから西に向かう連中を数十km程で食い止めることができる。防衛線に兵士を取られたけど、運河掘削は少しずつ進んでいる」


 見張り台の下にある小部屋で姉貴やユング達と話あったが、問題はないと言い切ってくれたのが嬉しかった。

 もっとも、その前に群れの分割を教えて欲しかったけどね。


「ミズキ達がサンドワームの営巣地に群れを誘導したのは、それを狙ったと言う事か?」

「たぶんね。姉貴としても確証がその時には持てなかったから教えてくれなかったんだろう。南に向かったグリード達は何を見付けるんだろうな」


 南に広がる熱帯雨林はまだユング達のナパーム弾の洗礼を受けていない。

 どんな生物が潜んでいるか分からないけど、全てグリード達が狩りつくしてしまうのだろう。

 俺達の知らない生物だってたくさんいるんだろうな。


 ウルドとグリードの戦闘が一か月も過ぎると、運河の南には20万を超すグリードが集まっている。

 まだ運河に落ちる者はいても、運河を渡ろうとする者はいないようだ。運河の南岸はかなりの高さにグリードの亡き骸が積み上がっているから、そこかしこで運河にころころと転がり落ちている。

 それを狙うサメの群れがかなりいるようだ。たまにカニが亡き骸の下の方を引き抜いて行く。そんな時には水飛沫を上げて亡き骸が運河に滑り落ちるから、たちまちサメ達が群がってむさぼっているようだ。


「サメ共も頑張っておるのう。ヨルムンガンドの名物になりそうじゃ」

「将来はカニとサメのぬいぐるみを売る手もあるのう。早めに商標を登録しておくが良い」


 見張り台でのんびりとお茶を飲みながら、アルトさんとキャルミラさんがそんな話をしながら笑っている。

 100年もしたらそんな話になるんだろうな。この砦だって、民間人が大勢訪れることになるかも知れない。

 これだけの距離を持つ運河工事は人類史上初めて何じゃないか? キャルミラさんの考えに何となく納得してしまうな。


「マスター、これを見てください。少しずつ西に向かう群れの数が増えています」

「何だと!」


 ディーの見つめる上空からの画像には運河に沿って西に細長く伸びるグリードの群れが映し出されている。

 俺の目にはさほど以前と変わらないようにも思えるのだが……。


「2割ほど増えています。装甲列車とイオンクラフトによって80km程度で阻止されていますが、それでも西に当初よりも30km程伸びていることは確かです」

「工事の先端部分は5千M(750km)以上も先じゃ。直ぐにどうということは無い」

「とはいえ、伸びていくのは何とかせねばなるまい。短距離砲の散布界を少し西に向けてはどうじゃ?」


 たぶんそれだけでは足りないだろう。20門の短距離砲が放つ砲弾は1時間に240発。1日で倒せる数は5千に届くかどうかだからな。

 ここはスクルドと一緒で、夜間限定の爆撃を行ってみるか。


 翌日から、装甲列車に大砲を1門追加して西のグリードを叩くとともに、キャルミラさんと魔導士の有志が夜間爆裂球と【メルト】の雨を群れの西にたっぷりと落すことにした。

 アルトさんも機関銃を担当すると言って出掛けたけど、砲撃の指揮はどうするんだろう?

 

「やはり、ウルドの南にグリードが集結し過ぎてるって事なんだろうな」

「それもありますが、東と北は海ですから……、グリードの侵攻は西に向かわざるを得ないと思いますが?」


 そうなると、一気に西を目指しかねないな。少し、準備をしておいた方が良いのかもしれない。

 準備自体はそれ程難しいものではない。原油のタルを荒地に埋設して、南北数km東西200m程の火の海を作れば少しの間阻止できそうだ。

 原油の樽が足りないけれど、現状ならば準備時間は十分に取ることもできる。

 連合王国に原油のタルを送るように通信を入れて、飛行船の到着を待つことにした。


「地雷原を作るのじゃな? おもしろそうじゃ。我等に任せれば良い」

 原油が届いたら、そんな事を言ってアルトさん達が戦闘工兵を2個小隊連れて出掛けて行った。

 装甲列車にイオンクラフトを積んで行ったから、グリードの先遣隊と遭遇してもそれなりに倒せそうだが……。

 中庭の砲列の指揮者とイオンクラフト部隊の指揮者がいなくなってしまった。

 一旦、指揮所に戻って各部隊長に指示を与えることになってしまったが、的確に補佐できる人物は中々見つからないんだよな。

 しばらくはここで仮想スクリーンを眺めることになりそうだ。


 サンドワームの営巣地から、海岸伝いに南に下るグリードの群れは、500kmも進んだところでジャングルの中に消えていく。

 ジャングルの中にはいくつかの流れがあるらしいから、危険な生物も生息しているに違いない。それらを食い尽くしながらさらに南に下るのだろうか? それとも、自分達の巣穴に再び戻るのだろうか……。

 そう言えば、アリの寿命ってどれ位なんだろう? 女王アリは長生きらしいが、働きアリなら3年は持たないんじゃないか?

 となると、南に下がったグリード達はジャングルを放浪して寿命を終えることになるのかもしれない。

 俺としてはその方がありがたい。南に集結して一気に北に進軍されたらたまった物じゃない。


「南岸のグリードは30万以下で推移しています。群が広がりましたが、砲撃と爆撃で数が一定に保たれているようです」

「ヨルムンガンドの幅がこの辺りは広いからね。数十kmも西に行けば50m程に狭くなるようだが、サーシャちゃん達の先見のおかげかな」


「じゃが、更に西に向かえば運河の幅は100Dほどじゃ。先を急ぎ過ぎたようにも思えるのう」

「全てが完成したら、300D程に自然に広がるらしいよ。問題はそれまでの時間だよな」


 どう考えても2年後の完成となるんだろうな。その後少しずつ南岸が削られて行くらしい。運河の水深が浅くならないように浚渫を行う事になるのだが、飛行船の浚渫装置で十分なのだろうか?


「次の水門を開いた方が良さそうじゃ。それで2000M(300km)まで海水を入れられる。工事現場はその2倍以上先じゃから邪魔にはなるまい」


 仮想スクリーンの画像には開かれた水門が2つ見える。ウルドから西に50kmと100kmの距離だ。

 グリードの先遣隊は、まだ100kmに達してはいないが超えるのは時間の問題だろう。


「明日開いてくれ。そうなると水深が心配になるな。ディー、第3水門までの運河の深さを明日の夕刻に確認してくれないか」


 ディーが頷いたことを確認して夜の状況確認を終了する。

 ワインを飲みながらタバコを楽しむが、目だけは仮想スクリーンをジッと見つめる。

 まだ何かありそうな気がするが、予感だけで行動するのは危険な気がする。

 ユングに俺の危惧だけを伝えておけばいいだろう。


 翌日。第3水門までを開放する。この後にあるのは水門ではなく堤防だから爆破することになりそうだ。

 それでも、3つの水門があったからグリードの西進に合わせて運河に海水を入れられることも確かだ。サーシャちゃんには感謝しきれないな。


「マスター、運河の水深ですが、第2水門付近で水深3m。第3水門付近で水深2mです。第4水門と呼べる堤付近では水深1m程度になってます。これは水流で砂が西に運ばれたのが原因だと推定します」

「となると、早めに浚渫しとかないとダメだな。ウルドの浚渫用飛行船を第二水門から先に移動してくれ」


 港付近なら5mあるんだが、内陸部に行くに従って水深が浅くなるようでは早めに対応を取ることも必要だ。

 現在工事中の運河部分も、何カ所か深い穴を掘っておく必要があるだろう。それで砂の堆積を阻止できるならしめたものなんだが……。


 姉貴達が工事を進めている運河を見ると、内陸部に沿ってかなり深く掘り進めている場所も見受けられる。

 すでに300kmもの距離に海水を満たしているから、その結果を見ての事なんだろう。早めに教えて欲しかったな。


 サーシャちゃん達は、俺達が作ったスクルドの運河の横幅を広げているようだ。

 部分的には横幅を倍近くの200D(60m)程にしている。これも砂の堆積対策なんだろう。深く掘るか、広げるかの選択だからな。

 その上で、南の湖みたいな水量調整用の湖を更に広げているようだ。

 砂の堆積予防と言う事で作ったのだが、あれで十分では無かったと言う事なんだろうか?

 いずれにせよ、バジュラをブルドーザー代わりに使ってるから、かなり早いペースで工事を進めている。

 北側の堤には戦闘工兵達が石を敷き詰めているようだ。簡易的なローマセメントで補強すれば長期間俺達を守ってくれるに違いない。


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