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R-101 グリードの動き


 砲撃が停止してから10分後に再び砲撃が再開された。

 今度は長時間の砲撃を考えて長距離砲と短距離砲の半分ずつが間を置いて発射されている。

 すでに先遣隊のグリードは対岸に到達しているから、南の石塀に展開した戦闘工兵達が盛んに銃撃を浴びせている。


「砲撃で2千程を倒しましたが、次々に後続がやって来ます」

「スクルドと同じだな。しばらくはヨルムンガンドで阻止できるだろうが、倒した亡き骸で橋ができても困るぞ」


 すでに数百のグリードが運河に浮かんでいるんだが、引き潮に乗って東に流されていく。明日にはカニやサメが寄って来るんじゃないかな。


「イオンクラフトが発進しました。グリードの後続を叩くようです」

「今のところはだいじょうぶだろう。俺達の出番はまだ先になりそうだね」


 グリードの群れはウルドの南岸に幅3km程の広さで集まっているようだ。続々と、後続が合流しているようだが、今のところは問題ない。

 戦闘工兵が昼食を運んできてくれた。簡単なクロパンサンドにお茶の食事だが、戦闘が長引く事を考えれば、きちんと取った方が良いに決まってる。


 仮想スクリーンで状況を確認する。

 ウルドの南に集まっているが、アルトさん達の砲撃でそれ程数が増えてはいないようだ。推定数は10万に達していない。

 短距離砲の砲弾は榴散弾を混ぜているようで、グリードの群れの直上で炸裂する砲弾がかなりある。

 炸裂弾より効果があるんだが、75mm砲弾だからな。効力範囲が小さいのが問題だ。

 150mm砲辺りなら100体以上をなぎ倒せるんじゃないか。


「西へ移動する部隊はイオンクラフトが遮断していますが、数十km程度の西への広がりは諦める外ありませんね」

「100km以上にならなければ十分だ。800km先は工事区間だからな。万が一にもそちらにグリードが移動すると皆からブーイングだぞ」


 サーシャちゃんから、くどくどと嫌味を言われそうな気がするな。

 もっとも、200kmも西に向かえば、ユングやミーアちゃんが参戦して来そうな気がするけどね。


「とりあえずは現状維持で十分だ。問題は兵站だな。ミーミルの中継点を使って北の港から物資の輸送を継続しなければならない。しばらくは港は使えないな」


 ヨルムンガンドの運河にはかなりの数のサメが遊よくしている。一部のサメは南岸に上がってグリードを捕食しているが、反対にグリードに捕まっているサメもいるな。

 サメの数は分らないけど、運河に無数に背びれが見えるから、千匹近くはいるんじゃないか? そして海底にはカニがいるはずだ。

 

 断続的な砲撃が続いていたけど、いつしか夕暮れが始まり、段々と周囲が暗くなる。

 ヨルムンガンドの南岸には、短距離方が定期的に火炎弾を打ち込んでいるからグリードの姿がうごめいているのが見える。

 ウルドの護岸にもいくつかの光球が浮かんでいるが、これは運河を渡ってくるグリードを発見するためのようだ。


 深夜になったところで、見張り台に戦闘工兵を残して下の階に下りて仮想スクリーンで様子を眺める。


「サンドワームとの戦いは平行線のようですね。溢れた群れが北上しているようですから、今のところは増援の数が少ないようです」


 ディーが教えてくれたけど、慰めにはならないな。すでに南岸には10万を超える数が集まっているようだ。


「フラウ様から連絡です。東に向かう群れに爆弾を投下して行くとの事です」

「ありがとうと伝えてくれないか」


 ユング達も頑張ってるな。地球にやさしい殺虫剤は効果があまり無かったし、炭酸ガスもイマイチだったな。やはり地道に爆弾を落とすことにしたのかもしれない。

 東に向かう群れの間引きをすれば、結果的にウルドにやって来るグリードの群れが減ることも確かだ。どれ位落すのかを仮想スクリーンで眺めると、炎が帯状に東西に伸びている。火炎弾を落したようだな。かなりの数を間引きできたに違いない。


「ここにおったか。夜間は散布界を広めにとって、昼の半分のペースで砲撃をするぞ。やはり砲弾の数が問題になるのう」

「爆弾もじゃ。西に50km程進んだグリードもおる」


 アルトさん達が見張り台の下にある部屋にやって来た。

 木箱の周りに毛布を敷いているだけなんだが、このまま寝られるからな。テーブルセットよりも便利に使える。


「ヨルムンガンドを渡ろうとするグリードはあまりいないようだ。運河に落ちると直ぐにサメの餌食になってるよ」

「敵の敵は味方とも言うのう。10日もすれば太ったサメを見ることになるであろう」


 不意に頭の中にフグのような形になったサメが浮かんで来たので、頭を振って片隅に追いやる。いくらなんでもねぇ……。


「まだサンドワームが頑張ってくれているからこれで済んでるんだろうが、推定生息数が少し減っているようだ。5割を切るようなら別な手を考えなければならない」

「それはミズキ達の考える事じゃ。我等はここでグリードを迎え撃てばよい」


 それもそうなんだが、姉貴は行動に移すまではあまり俺達に自分の考えを教えてくれないからな。


「と言う事であれば、尚更のこと弾薬輸送を考えねばなるまいぞ」

「1回の飛行船で運べる弾薬量は、スクルドでは2日分だったが、ここでは5日分にはなるはずだ。それに備蓄した量も半端じゃないんじゃない。ミーミルに船が着ければ良いんだけどね」


 あそこは大西洋に張り出した半島だからな小さな入り江でもあれば良かったんだが、現状ではどうしようもない。

 連合王国本国からの飛行船と、北の港からの飛行船の中継点の機能で満足する外に無いようだ。


「すでに大陸の北方兵力をヨルムンガンドの3つの砦に移動しておる。これ以上の兵力増強は連合王国本国としても難しいところじゃろう。東の堤防は依然として戦闘が続いておるらしいが、東回りに進む軍勢はすでに途絶えておる。次の代には名見えて減るであろうが、今はどうしようも無いはずじゃ」


 銃弾の備蓄はあるから、砲弾と爆弾の不足分を兵力で稼ごうという考えだな。

 昔であれば、ハンターを傭兵にして1個中隊は何とか出来たんだろうが、今のハンターはあまり狩りをしなくなっているからな。

 要求すれば送り込んでくるだろうが、精々1個中隊規模だろうし、新兵になるのであれば問題も多いだろう。

 

「ハンターを傭兵とする考えをお持ちですか?」

「あぁ、今それを考えてたんだが……、連合王国のハンターは今では薬草を取るハンターが多いんだ。狩りのできるハンターをこちらに呼んだら、向こうも困るだろうと……」


「エイダス島のハンターは今でも魔石狩りをしてますよ。グリード相手なら、黒でなくとも十分です」


 思わず声の主を見てしまった。

 笑顔を俺に向けるレムリアさんの顔がそこにある。


「エイダスのハンターなら都合が良い。中々の連中だが、彼等はパーティで動いておる。組織として動くことに問題があるやも知れん」

「レムルがそれを解決しておるぞ。上位ハンターのパーティの下に下位のパーティを設けることで、敵軍に当たっておった。じゃが、エイダス島の魔石は今でも多くの需要がある。あまりハンターを動員することも出来ぬであろう」


 そんな方法でネコ族を守ったのか……。あいつも苦労したんだな。

 それでも、経験豊富な連中が来てくれるのはありがたい話だ。レムリアさんの話では、2個小隊規模ならと言う事だが、港の警備と夜間の見張りを交替して貰えるだけでもありがたい。


 エイダス島のハンターは10日後にウルドに到着した。変則的な編成だが、青レベルのハンターを中心として10パーティ。それを統べるハンター2組は黒レベルだ。

 俺のところには黒レベルのパーティのリーダー2人が挨拶に来てくれたが、カインドとゾンネルと名乗っていた。2人とも壮年の男だが、昔のセリウスさんを思い出す容姿をしている。

 

「受け持ちは港の警備と夜間の見張りになる。グリードを見たとは思うが、数が問題だ。攻めて来たら、直ぐに知らせてほしい。港はカニが出てくる。散弾は効かないぞ。場合によってはラティを使ってくれ。大型のライフルだが、かつてエイダスにも供与したことがあるから話には聞いたことがあると思う」

「ラティの話は聞いている。俺達でさえ2発が限度という銃らしいが、撃ち方は教えて貰えるのだろうか?」


 そう言えば、ディーがネコ族のハンターでは3発が限度だと言ってたな。

 それでも、備えあればと言う事で、ディーに教えるように伝えておいた。

 これで、港の警備をしていた連中を南の壁に着かせることができる。


 昼は南の壁から銃撃と砲撃を行い、夜間は長距離砲で群れの奥を狙う。装甲列車は今のところは砲撃オンリーだ。ウルドから数km西に離れた場所を拠点にしたようだ。

 貨車は工事現場に資材を送るとともに、イオンクラフト用の弾薬を200km程離れた小さな無人の監視所に運んでいる。

 未だに群れは西にそれ程広がってはいないが、いつ動き出すか分からないからね。


「だいぶ増えてはおるが……」

「20万には達していない。やはり榴散弾は効果がある」

「分からんのは、集まっただけじゃと言う事じゃ。西に向かうでもない」


 仮想スクリーンを眺めながら呟いたアルトさんの言葉が気になるな。

 要するに、次の行動がグリードには分らないと言う事なんだろうか?

 スクルドにグリードがやって来たのは悪魔達の後を追ってきたのだろう。ここには誘導して来たようなものだからな。

 だが、誘導した方向はサンドワームの営巣地であって、そこで両者の戦いが今でも続いている。

 そうなると、北に向かう理由が分らないぞ。

 もう一度、サンドワームとの戦いの場を仮想スクリーンを新たに開いて見てみる。少し視点を広げて100km四方を眺めると、……少し理由が分ってきたぞ。


「奴らは、移動する方向を見失ってるんじゃないか? サンドワームの営巣地を遠巻きにしながら南北に進んでいる」

「何じゃと! と言う事は、こちらには半分しかやって来ないということか?」


 俺が見ていた仮想スクリーンを覗きこんで来た。アルトさんの頭が邪魔で良く見えなくなってしまったから、仮想スクリーンを壁いっぱいに拡大する。

 南にはずっと荒地が続いているはずだ。死への旅を続けることになるんだろうか……。とりあえず、姉貴に知らせておく必要があるな。


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