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R-100 砲撃開始


 グリード来襲の知らせは、直ぐに北の港とミーミルに伝えられた。

 物資の流れがミーミル経由になるから、飛行船が2隻北に向かって行く。全く余分な事になってしまったな。

 ウルドの港が使えないと色々と不都合になるのだが、人命には代えられない。

 

 指揮所の壁に仮想スクリーンを大きく広げてウルドを左端に置いて西に500km南北に200kmの地図を描かせる。

 それを斜めに見るような位置で、コーヒーを飲みながら小さな仮想スクリーンを手元に広げてグリードの姿を眺める。


「どうやら東岸沿いに北上しておるな。明日にはウルドの監視台で姿を見ることが出来よう」

「群れの西寄りを爆撃しておる。スクルドに向かう群れが無いことが救いじゃ」


 アルトさんの言葉にキャルミラさんが言葉を繋ぐ。

 2人とも飲んでいるのはお茶なんだけど、キャルミラさんは小さな手でタバコをつまんでいる。

 すっかりニコチン中毒になってしまったようだ。病気になることは無いんだろうか? ちょっと気になるな。


「少なくとも爆弾はたっぷりあるし、銃弾も十分じゃ。今朝から2度出撃して群れを攻撃しておるぞ。明日は長距離砲が使われるであろうから、我等は西から攻撃を加えるつもりじゃ」

「長距離砲は我に任せて貰ってよいのじゃな?」


 キャルミラさんにイオンクラフトの爆撃隊を任せて、アルトさんに長距離砲を任せるのは事前の打ち合わせ通りだ。


「お願いするよ。短距離砲も指揮してくれるとありがたいんだけど」

「まぁ、飛距離が長いか短いかの差じゃ。大して変わらんじゃろう。了解じゃ」


「亀兵隊2個中隊の指揮は俺になるけど、装甲列車の指揮は?」

「エイダスのレムリアをミーミルから呼べば良かろう。パラム王国からやって来ておるのじゃからな」


 レムリアさんなら問題は無さそうだ。荷台だけの貨車も引いて行けば円盤機の機動中継基地としても使えるだろう。

 直ぐに、連絡を取ると2つ返事で了解してくれた。あっさりと了承してくれたのが意外だけど、ミーミルは中継基地だから面白味に欠けるということなんだろうな。


 戦闘工兵達は引き続きヨルムンガンドの工事を行っている。工事はウルドの砦の防衛が出来る内は続けるつもりだ。

 残った亀兵隊は強襲部隊になるが、ガルパスを下りて2個中隊がウルドの城壁に展開している。側面は必要ないから、3個小隊を砦の中に、3個小隊はヨルムンガンドの北に作った堤防のの上に配置する。

堤防の南側面は石を張ってあるから、崩される心配もないし、高さも5mはある。60度の角度でヨルムンガンドの水面下にまで達しているのも心強いところだ。


「各中隊の1個小隊は予備兵力として砦内で休息させる。2事に交替で休憩させればいいだろう」


 俺の言葉に中隊長のエルマーとサンディが頷いてくれた。副官に通信機を持たせているから、俺が砦内を動く場合でも連絡は付けられるはずだ。


「早ければ明後日には姿を現す。明日中に配置に着いてくれ。港は柵で囲んでラティを持たせといてくれよ。場合によっては肉食のカニが出てくるかもしれん」

「ミーミルではカニが敵を掃除してくれたと聞きました。現れるでしょうか?」

「たぶんね。サメもいたんだが、港の水面は満潮でも1mはあるから、カニだけを考えれば良いんじゃないかな」


 グリードの数が数だからカニにあまり期待はできないだろう。今回は俺達にとっても敵になりかねない。


「補給は軍属の連中が請け負ってくれた。通信チャンネル30番で補給所と交信できるぞ」

「00はアキト殿で良いんですよね。第1中隊が10、第2が20は今まで通りです」


 通信機のチャンネル割り振りを再度確認する。イオンクラフト部隊は100番だし、砲兵隊は200番を使う。


 俺の直援はディーと3人の若い戦闘工兵に2人の通信兵だ。夜は指揮所に帰って来るとしても、昼間は良く見える場所が良いだろう。

 ウルドの砦の地図を眺めて、南西角の見張り台を拠点に決める。

 港も見えるし、砦内と西に続く堤防の眺めも十分だ。


 翌日、指揮所で朝食を終えると、それぞれの部隊に向かう事になった。

 ディー達を引き連れて、南西の見張り台に向かい空き箱と椅子を用意して貰う。AK-47を背負ってマガジンを6個持てばとりあえずは事足りる。戦闘工兵が弾薬箱を2つ運んでいるし、爆裂球も20個入りの大箱を運んで来たようだ。

 見張り台の広さは6m四方はあるし、擁壁の高さも1.2mはあるからここから落ちるようなことはあるまい。

 適当に弾薬箱を並べて地図を広げ、飛ばないように石で4隅を押さえておく。

 仮想スクリーンを使う事もできるが、常に地図を見られるようにしておくことも大切だ。


 監視用の望遠鏡を組み立てて、戦闘工兵が南をにらむ。3人とも小型の双眼鏡は持っているようだが、大型があれば色々と助かることもある。


「たぶん昼過ぎだと思うな。それまではゆっくりしていてもだいじょうぶだ。この下は、誰もいないのか?」

「一応、我々の待機所として空けてあります。南に丸窓が2つですから、攻撃するならここが最適です」


 二十歳を過ぎたぐらいの亀兵隊の男が監視用望遠鏡から目を離して、俺に振り返りながら答えてくれた。


「各部隊との通信確認しました。1台を受信専用にしてあります」

「ありがとう。通信兵ではあるが、ここまで上がって来るようなら、武器を取ってくれ。カービン銃なんだろうが弾薬はたっぷりと用意しといてくれよ」


 俺の言葉に頷くと、傍らの炭を使った小さなコンロお茶のポットを温め始めた。食事は軍属が運んでくれるだろうけど、いつでもお茶が飲めるのはありがたい話だ。


 昼近くに、3人のお嬢さんがカゴに入れた黒パンサンドを運んできてくれた。ポットにもたっぷりと水を補給してくれたから、しばらくは持ちそうだな。

 亀兵隊達だって大型水筒を持参しているはずだから、夜になったらコーヒーをご馳走してあげよう。


「南に土煙!」

 短いがその声は大きく張りがある。緊張してはいないようだ。

 双眼鏡を取り出して南を眺めると、確かに地平線の一角で土煙が上がっている。


「来たな。100M(15km)で長距離砲が使われるはずだ。アルトさんとキャルミラさんに、やって来たと伝えてくれ!」


 俺達の役目は、ヨルムンガンドの工事を邪魔されないようにするため、この地にグリードを留めることにある。

 奴らは共食いをするから、最初の砲撃で数百を倒すことができればこの地に留まって俺達と戦闘状態になってくれるかもしれない。さもなければ、キャルミラさんとレムリアさんに期待することになる。そうなればウルド側からの運河工事が停滞してしまいそうだ。


 後ろに下がって木箱に座りながら端末を木箱に乗せて仮想スクリーンを開く。

 科学衛星からの望遠レンズで捕えられたグリードの画像が映し出され、右上にウルドまでの距離が表示される。

 すでに20kmを切っているようだ。アルトさん達も同じ画像を見ているはずだが、果たして砲撃距離をどれ位に取っているんだろう。

 ウルドの中庭にはずらりと長距離砲と短距離砲が並んでいる。長距離砲だけで12門だが、短距離砲は20門ある。飛距離の違いがありすぎるのも問題だな。


「長距離砲の射程圏内に入りました。発砲はまだのようです」

「短距離砲の最大射程に合わせるのかな? まぁ、それはアルトさん次第だ」


 改めて砲列を眺めると、前列に短距離砲、その50m程後方に長距離砲を並べている。砲弾を台車で運んでいるのが見えるけど、すでに数十発分は運んでいるはずだ。散布界を広く取って万遍なく砲弾を降らせるつもりなのだろうか?


「キャルミラさんの方は準備出来てるんだろうか?」

「発着場でイオンクラフト12機を待機させているようです。レムリア様は朝早くにウルドを出発されました」


 装甲列車は6門の75mm砲と2個小隊の兵員を乗車させている。その後ろに貨車を3台曳いて出掛けたらしい。貨車の荷物はイオンクラフト用の爆弾と言ったところだろう。ちょっとした移動要塞になる。


 仮想スクリーンに表示されたグリードとの距離はすでに10kmを下回っている。

 やはり短距離砲の射程圏内まで引き込むつもりのようだな。


「東から南西までグリードの群れで一杯です。どう見てもウルドの南壁の長さの数倍はありますよ」

「とはいっても、ヨルムンガンドの対岸までの距離は2M(300m)以上あるんだ。それに、水中には俺達の味方もいるぞ」


「カニとサメでしたね。北の中継点の話は聞きました。たまに港でカニを見ることはありましたが、そんなに凶悪なんですか?」

「それなりだな。血に酔って港に上がってくるかもしれないから、1個小隊を待機させている」


 戦闘工兵達もまだ余裕が感じられる。士気はそれなりに高そうだ。

 スクルドでの戦闘に比べれば、ここでのグリード戦は容易いのかもしれないな。


「距離、6kmを切りました。10分足らずで短距離砲の射程圏内です!」


 ディーの言葉に、チラリと中庭の砲列を眺めると、すでに発射体制に入っている。練度は高そうに見える。アルトさんは……、港傍に作った囲いに中で仮想スクリーンを数人の隊長達と一緒に眺めているようだ。

 やはり、十分に引き寄せて……、なんて考えているんだろう。


「距離、4.5km……」

 ディーの呟きに双眼鏡を手に、擁壁傍で南を睨む。

 3kmとディーが告げた時、ウルド内が砲声で包まれた。


 全部で32門の大砲が次々と砲弾を南に放って行く。砲声で耳の機能がマヒしてしまいそうだ。

 俺達は、身振り手振りで意思を交わし合いながら南に広がる爆炎を眺めることになった。


 10分程経ったところで砲声が停止する。砲身を冷やすようだ。10分程度は耳を襲う暴力から解放されることになったが、その間を利用して耳を布で覆い始めたのは俺だけではないようだ。


「グリードの先行部隊は対岸から1km程に接近しています」

「ウルドの南面部隊に連絡『対岸への発砲は、各部隊の判断に任せる』以上だ」


 俺達の使うAK60の射程距離はおよそ500mだから対岸のグリードを射程に収めることができる。グレネードが400m前後なのがちょっと問題かな。対岸は石で覆っていないから、グレネード弾の最大射程で撃てばかろうじて届くというところだ。

 ネコ族の人達や通信兵の持つウインチェスターは、射程が150mほどだから接近戦ということになる。しばらくは砲兵と通信兵として頑張って貰おう。



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