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R-010 調査の準備


 アルトさんが主催するハンター養成所には、連合王国の旧王国を版図から15人ずつ集まったようだが、一ヶ月を過ぎたところで残ったのは60人だったらしい。

 「協調性の無い者は要らぬ!」と言ってたけど、アルトさん本人に協調性があるとは思えないんだよな。

 「体力が大事じゃ!」とか言って、北の森の入口まで毎日マラソンをさせている。最初は脱落者続出でディー達が荷車で回収していたけれど、二月も経ったこの頃では脱落者の発生は稀になってきた。若い連中だから直ぐに見合った筋肉が発達するんだろう。将来が楽しみだぞ。

 武器は、散弾銃と少し前の単発ライフル。それに45口径のリボルバーを教えているらしい。刀剣の技は教えずに簡単な片手剣での護身術を教えて終わりにするそうだ。

 「今時、グライザムに槍や剣で挑む者はおるまい」なんて言ってたけど、時代の変遷なんだろうな。昔が懐かしく思うぞ。

 夜は、ディーとラミィが座学を教えているらしいが、ハンターに座学って必要なのか? かなり疑問だが、これは姉貴も了承しているみたいだ。


 遊びに来たユングに、大陸の末裔の話をしたところ、彼等も気付いていたらしい。

 「援助してやったからなぁ。だが、よくも生き延びたものだ」と感想を漏らしていた。

 とは言え、課題は残っている。彼等の話す言語は英語だということだ。俺達で話し合えるのは更に先になるだろう。


 「かれらの版図だからな。一応、話を通しに行ってくるよ。武器は発達していないだろうから、フリントロック銃を100丁も持って行けば十分だろう。それは俺とフラウで対処する。俺達の拠点ともかなり離れているから、早々に両者が接触することはないだろう。だが、将来を考えれば村作りが本格化する前に互いを引き合わせる必要があるだろうな」

 

 ユングのことだから簡易な翻訳装置でも作るんじゃないかな。

 意思疎通は互いの交流の原点だから、その辺りはしっかり考えてくれるだろう。

 

 「ところで、キャルミラさんとはまだ話せないのか?」

 「そうなんだ。アルトさんが間に入って通訳してくれるんだが、直接はまだ無理だな。明人の言う、気を使って直接意思を伝え合うようなことまでは分かったんだが、生憎と俺には気を感じる器官が存在しない。物理科学現象では無さそうだ。それならなんとでもなるんだけどな」


 キャルミラさんとユング達が一緒に行動しなければ問題は無さそうだな。だが、それだとキャルミラさんの行動が制限されそうだ。

 

 「確か、手を失った人間でもパソコンを操作出来たんじゃないか?」

 「ああ、目の動きや腕を動かす神経電位を検出して動かすのは俺達の時代にも実用化されていたぞ」


 「脳波で動かせるものはなかったのか?」

 「試作品はあったらしい……。キャルミラさんにキーボードを使わせるのか?」

 

 俺が頷くのを見て感心している。

 

 「十分に可能だ。それなら俺達と会話が出来るな。早速フラウと相談だ」


 俺にコーヒーのお礼を言うと、リオン湖の水面を走って帰ったぞ。全く器用な体になったもんだな。

 ユングを岸辺で見送って家に戻ろうとした時、林の小道を姉貴がディーを連れて帰ってきた。

 

 「あら、ユングが来てたんだ」

 「コーヒーが飲めるからな。ユングのところは紅茶らしい」


 ユング達にちょっとした嗜好の違いがあるのがおもしろいな。

 水分さえ補給していれば永遠に動けるのだが、やはり味は大事らしい。そういえば、ディーもコーヒーよりは紅茶だよな。オートマタには紅茶が合うんだろうか?


 「同じコーヒーでも、アキトはお砂糖たっぷりでユングはブラックなのよね」


 そんなことを言って笑ってる。

 まあ、人様々だから、文句を言われる筋合いはないんだけど、姉貴だって粉末ミルクをたっぷり入れて飲んでることを忘れてるのかな?

 

 部屋に入って、テーブルに着くと、改めてディーがお茶を入れてくれる。

 紅茶ではなく緑茶なんだが、これも中々だな。

 テーバイ地方の茶畑はかなり規模が大きくなってきたようだ。まだまだ値段は従来のお茶の葉と比べ物にならないが少しずつ流通が行われ始めた。


 「ユングが大陸の連中と交渉すると言ってたぞ。歪除去の頃に会ってたみたいだな。土産はフリントロック銃が100丁になるらしい」

 「火薬の知識があったみたいね。少しは援助したんでしょうけど、よくも生き残ることが出来たと感心するわ。それだけ知性もあるんでしょうね」


 そんなことを言いながら端末を操作して仮想スクリーンを展開する。

 彼等が住んでいるのはかなり山奥になるな。畑の規模も小さなものだ。だが、俺達が反攻作戦を成功させれば彼等も平地に降りてくるだろう。互いが将来的にも争わずにすむ手立てをどうするかも問題だよな。


 「大陸が大きいんだから、私達が拠点を作る場所から南を貰う事にするわ。昔の北米大陸の四分の三が彼等の領土になれば、億単位での暮らしも出来るはずよ」

  

 場所的にはロスアラモス以北って事になるのかな。だけど、それでは北米で生き残ってる人達を追い出すことにならないか?

 

 「この辺りに住んでるんでしょう。彼等から100km下がった場所を東西に結んだ線を境にすればいいわ。その南北1kmを干渉地帯にしてどちらも領土権を持たなければ争いは起こらないでしょう。簡単な土塁を作っても良さそうね」


 「それだと、ロスアラモスが彼等の土地に入ってしまうぞ」

 「使えそうな物は持ち出して埋めればいいわ。未だに核爆弾があるんでしょう?」

 

 ユングの話ではプルトニウム系の爆弾があるそうだ。だが、半減期が比較的短かいから今では核分裂を起こさせるのが困難だ言ってたな。プルトニウムは危険な物質だ。使えないように地下に埋設しておくのが一番だろうな。


 「調査はユング達なら問題ないでしょう。バビロンやユグドラシルで作れるものはいらないし……」

 

 それに、大型の物は彼等にも持ち出せないだろうな。ディーにも手伝ってもらえば200kg程度なら何とかなりそうだけどね。

 

 「先行調査隊はどんな編成にするの?」

 「私達とユング達は確定よ。戦闘工兵部隊の下士官が5人、それに屯田兵の下士官が5人。後は、飛行船のクルーが6人というところかしら。総勢24人だけど、私達を降ろして三月後に迎えに来るはずよ」


 食料は、念の為に1か月分は余分に用意しといたほうが良いだろうな。武器はユング達に任せるしか無さそうだが、AK47だけで大丈夫なのか心配になってきたぞ。

                 ・

                 ・

                 ・


 2隻目の飛行船の完成は年を越してしまった。

 どうやら、同時並行して3隻目を作っていたらしい。1隻目の先行試作型で色々と改造する箇所が多かったのもあるのだろう。

 季節は春なのだが、リオン湖の氷は融け始めたばかりだ。雪も山麓を白く覆っているが、早々と芽吹く薬草を求めて、ハンター達が集まり出している。


 アルトさんが指導しているハンター達は、あれから脱落者も出さずに頑張っているようだ。だいぶ体付きもたくましくなっているように思える。

 

 「そろそろ、訓練場所を移動せねばなるまい。とはいえ、まだまだヒヨッコだから、大森林地帯に行くのは気が進まんのう……」

 「小型の獣を狩るんだったら、テーバイ地方辺りがいいんじゃないか? 果樹園に被害が出ているって、新年の会合の時に話が出たぞ」


 「それじゃ! あの辺りなら死人は出まい。リザル族のハンターとカルートを駆るハンターがおれば、十分に狩りの指導もできるじゃろう」

 

 椅子から飛び上がるように席を立つと、外に飛び出して行った。

 その様子を唖然とした表情で姉貴と俺が見送って溜息を付く。まあ、アルトさんだからねぇ……。

 

 「あの様子だと、指導員として残りそうだけど?」

 「助手をちゃんと見つけているところを見ると同行するわよ。そろそろ出発の知らせが来るはずなんだけど」

 

 「俺達の準備はできてるの?」

 「ディーが完了してると言ってたわ。後は、ユングの指示待ちってとこかな」

 

 戦闘工兵と屯田兵の方は人員の選定が終ってるんだろうか? 三ヶ月程の期間を使って調べまわらねばならないが、ガルパスも何匹か乗せていく必要があるだろうな。

 

 数日が過ぎた頃、アルトさんが訓練していたハンター達がテーバイ州に向かって旅立って行った。

 ジャブローからアクトラス山脈に広がる広大な荒地を舞台に、果樹園を荒らす獣を狩ることになる。以前の遊牧民達がそんな果樹園の経営に参加しているようだ。

 今ではカルートを駆る戦士は正規兵の一部になっている。そんな戦士達が新米ハンターを鍛えてくれるそうだけど、落伍者が出無い事を祈るばかりだ。

 まあ、半年も鍛えてもらえれば、大森林地帯に出掛けても犠牲者は出さずに済むんじゃないかな。


 玄関の扉が開いて、アルトさんとディーが入って来た。

 テーブルの何時もの席に座ると、姉貴が渡したお茶のカップを受取り美味しそうに飲んでいる。


 「出掛けたのじゃ。引率が4人いるから、道には迷わんじゃろう。徒歩の旅じゃから、10日は掛かるじゃろうな」

 

 以前ならガルパスで昼夜を駆け抜け2日も掛からずに行けたんだよな。そんなガルパスも寿命がある。200年以上の寿命はあるようだが、アルトさんのアルタイルは4代目だ。俺はバジュラを亡くした後はガルパスに乗っていない。

 

 「これで、心置きなく出掛けられるぞ。ユングからの連絡はまだなのか?」

 「そろそろだとは思うんだけど、まだ連絡は来ていないわ。アルトさんの準備はできてるの?」


 「全て揃っておる。我にはAK47は無理じゃと、これを貰ったぞ」


 腰のバッグから魔法の袋を取出して、中をごそごそと探している。大型の魔法の袋は収納能力が大きいから、用途別に色別した袋を用意しておくと便利なんだけどね。

 探していたアルトさんの表情が笑顔に変わる。どうやら探し出したようだ。


 「これじゃ! 射程は500D(150m)程じゃと言っておったが、どうにか連射ができるぞ」


 テーブルの上に取出した得物は、MP-5よりも小型に見える。

 

 「MP-7と言って、我の持つ拳銃よりも貫通力はあるそうじゃ。キャルミラとお揃いなのじゃ」


 近接戦闘ならAK47を凌ぐんじゃないか?

 また、レアなものをユングも作ったものだ。だけど、体重が少ないアルトさんやキャルミラさんはAK47の連射時の反動は受けきれないようだからな。姉貴も物欲しそうな目見ているぞ。

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